SS 賭け事
生きています。
本編も書いたのですがちょっと暗かったので短めの話をいれました。
連投します。
南国諸島とフローレンシア大陸を結ぶ中継点のこの島は賭け事の神マウの信仰が深い島だった。何事を決めるのにも賭け事が適応される。
「はぁ?何て言った?」
本日一泊するために船を降りて来た千夏は街に入るなり呼び止められた。相手はこの島の役人らしい。
「ですから、入島料金を決めるためにくじを引いてください。空くじもありますよ!」
5色がついた紐を手にもった役人がにっこりと笑う。空くじを引けばタダ。一番高い料金がひとり金貨1枚だという。いままで街に入るときに王都ですら銀貨1枚が最高だった。
「金貨1枚は高いの……」
セレナもその値段を聞いてあんぐりと口を大きく開ける。金貨一枚あればパーティ全員で3食飲み食いしてもお釣りが出る。従魔分もとられるので、総勢12名。ひとり金貨1枚だったとしたら金貨12枚にもなる。
(ご飯どれだけ食べれるのよ……)
千夏はぶつぶつと金貨12枚で豪遊できるかを呟き始めた。
「ささ。引いてください。引かねばいつまでも街に入れませんよ」
ずいっと役人が紐を持つ手を前に差し出す。
「決まりなら仕方ないだろう。では俺が引こう」
アルフォンスがすっと紅の紐を役人の手から引く。
「銀5?」
紐の一番先にかかれていた文字をアルフォンスは読み上げる。
「はい。2番目に高い金額ひいていただきましたー。ありがとうございます。一人銀貨5枚ですね」
嬉しそうに役人が手を叩く。
「……そういえば、アルフォンス様は昔からくじ運が悪かったですね」
「もっと早く言ってよ!」
ぽつりと漏らしたエドの一言に千夏が叫ぶ。
結局渋々一人銀貨5枚を払い街に入る。千夏達が街に入ってきたのを待ち伏せていたのか、3人の若者がずらりと行く手を遮る。
「今度はなんだ……」
レオンが行く手を遮る若者たちをじろりと眺める。
「今夜はこの街でお泊りですか?」
代表して一人の若者が尋ねて来る。
「ええ。そのつもりです」
「この街には3軒宿屋があります。僕達がその店の代表です。さぁ、宿を選んでください!」
エドの答えに代表して答えた若者がにっこりと微笑む。
「選べって言われても、どんな宿なのよ?中くらいのところでいいんだけど」
ぶすっと膨れて千夏が答える。
「高級旅館から雑魚寝専用の宿まで3ランクあります。僕らの中から一人選んでください!」
「……」
「では俺が選ぼうか?」
黙り込んだ千夏の代わりにまたもやアルフォンスがすっと前に出て来る。慌ててセレナがその肩をぐいっと引き戻す。
「服装から判断……出来ない。なんで同じ服着てるんでしょうかね」
ランスロットが3人を観察して溜息をつく。
「宿屋共通になっていますから。宿代は一泊銀貨1枚から金貨2枚までの幅がありますよ。あ、宿はここで決めてもらわないと泊まれませんので、あしからず」
得意そうに若者の一人が答える。
「もう船に戻ろうよ……」
げんなりした千夏がぼやく。
「入島代にいくら取られたと思っているんですか。上陸前にこの島名物料理を食べるって意気込んでいませんでしたっけ?」
エドにそう言われて千夏は立ち直る。そう。ここまで来たからには食べておかないと一生食べれないかもしれない。
くんくんと3人の匂いを嗅いでいたコムギが、左にいる一人の足を前足でパタパタと叩く。
「このひとがいいでしゅか?」
タマがコムギを抱きかかえて尋ねる。
「クゥー!」
コムギはぱたぱたと尻尾を振りながらピンとひげを伸ばして鳴く。
「僕でいいですか?」
左の若者が自分を指さして尋ねるので、千夏は頷く。こうなったら野生の感だ。
「当たりですー。おひとり様銀貨3枚の宿屋です。この中では真ん中ですね。では皆さん行きましょう」
若者はパチパチと手を叩いてから、元気よく全員を連れて宿屋へと向かっていく。
「凄いでしゅ」
タマに褒められたコムギは得意そうに尻尾を振る。
「俺もあいつだと思っていたぞ」
アルフォンスがうんうんと頷きながらその後をついてくる。もれなく全員にスルーされるがへこたれるようなアルフォンスではない。
街の露店街を歩いて宿屋に向かうが、どこの露店でも料金が提示されていない。
まさかどの店で買うにも賭け事をするのだろうかとリルはだんだんと不安になってきた。この島では瑪瑙と呼ばれる宝石で細工したアクセサリーが有名だと聞いていた。千夏のプレゼント用にひとつ買っておきたいと思っていたのだが……。
連れてこられた宿屋はよくある普通の宿屋で少し部屋が狭いが、たった一日だけだし問題はない。それにコムギ達も中に入れても良いとのことだったので、千夏は満足する。
夕飯までだらりと部屋でのんびりすることに決めた千夏を残してリルは元気いっぱいのタマ達を連れて瑪瑙を探しに出かける。アルフォンスとセレナはいつもの鍛錬にいそしむらしい。
人に教えてもらってアクセサリー屋を見つけたが、いざ買おうとしたときに複数の商品をずらりとカウンターに並べられる。
「さて本物はどれじゃ?」
店主の老婆がにやりと笑うのを見たとき、リルはくらりとめまいがした。誰が好き好んでまがい物など買うものか……。
「値段は一律銀貨5枚。当たりもあれば、ごみのようなものもあるわい。己が運命を決めるのじゃ!」
意地悪そうな笑みを浮かべる老婆をよそにタマとレオンはしげしげと商品を眺めている。
「綺麗でしゅね。ちーちゃんにプレゼントでしゅか?」
「まぁね……」
「だったら千夏に似合うものを選べばいいだろう」
それはそうなんだけど、偽物が似合うとかだったから悲しすぎるではないかとリルは思う。
「これがいいと思うでしゅ」
タマは蒼い蝶の形をしたアクセサリーを掴む。胸元を飾るブローチのようだ。レオンは碧色の小さな珠が3つ並んだ髪留めを手に取ってみている。
結局リルはタマがおすすめした蝶のブローチを買うことにした。蒼は千夏のイメージだったからだ。
「これかい?これでいいんだね?」
何度も老婆に念を押されたのがリルはこくんと頷く。何が本物で何が偽物なのか全然判らないのだからこれでいいのだ。
「はぁ、初めてだよ。これを手に取った奴は。普通は瑪瑙というと碧か赤を選ぶからね」
「えっ……じゃあ外れ?」
「大当たりだよ。もってけ泥棒!銀貨5枚で売ってやらぁ!」
本来は金貨2枚するアクセサリーを紙で包みながらやけっぱちのように老婆はリルに手渡す。
「リル。よかったでしゅね」
タマが嬉しそうに笑う。
「うん。ありがとう、タマ」
タマが指しのベた小さな手をとりリルはにっこりと笑った。
その頃千夏は宿屋で夕飯を選ぶための賭けを選ばされていた。
「大当たりはこの島名物の鮫のスープ付船盛だよ。外れは猫まんま。さぁ、2択です。どっちの珠を選びますか?」
「はぁぁぁぁぁぁ?! 素直に名物食べさせてよ!」
その日の夕食がどうなるのかは千夏の運次第だった。
こんな島嫌ですね…。
評価とご感想ありがとうございます。




