武器屋
大変申し訳ありません。投稿時にミスがあったようで、完結済でこの回が投稿されてしまいました。慌てて連載中に修正しました。
教えてくださった方々ありがとうございました。
「へー。海蛇ね」
緊急クエストの説明会が終わった後この街の宿で待機していた那留と風竜一家そしてランスロット達と合流する。多めにお金を払ったのでコムギもウイニーも宿の中に連れ込むことが出来たようだ。二匹は大部屋のベットの上で丸くなって眠っている。海の中ではしゃぎ過ぎたようだった。
「それで急いで港にある戦闘には使わない船をこの島の逆側へ移動させているそうですよ」
那留の気の抜けたような返事にエドが答える。
ランスロットは持参していた魔物図鑑をパラパラとめくり海蛇の情報を拾い上げて読み上げる。
「海蛇ですか。確かに厄介ですね。海蛇は全長20メートルもある巨大な魔物で水魔法を使って攻撃してくるそうです。波を使った《ビックウエーブ》に水槍などです。竜ほどの高い知能はないですが、海の魔物を配下に従えているとも言われています」
「相手が海の魔物なら陸地に上がってこないのではないでしょうか?確かにこの島の周辺に魔物が住み着くとなると中央大陸への航路は閉ざされますが、防衛戦であるならば本隊がくるまで待つのも一つの案かと。却って攻撃などしたら島が襲われるのではないでしょうか?」
パタンと本を閉じたランスロットに専属騎士であるユイールが疑問を投げかける。彼女が言っていることは間違ってはいない。
「ギルドがいうには攻撃をしなくても襲われるそうですよ。なにせこの街は海沿いに作られた街です。多くの人の気配を察知して海蛇が素通りしないと言ってました。それに海の魔物といっても陸に上がれるものが結構いるそうですよ」
ユイールの疑問に更に詳細な説明を聞いてきたエドが答える。
今回の防衛戦は街の破壊を最小限に抑え、上陸してきた魔物を撃退することを第一目標に定められている。街の人々は街から少し離れた場所に避難することになっているが、小さな島といっても何十万人もの人が住んでいるのだ。避難するのも簡単なことではないし、街から離れたときの水や食料の問題もある。明日にでも海蛇がこの島に近づいてくるかもしれない。1日程度では避難できる住民は頑張って全体の一割くらいが限度だろう。大半のものがまだ街から避難できずに襲撃される可能性のほうが高い。
「それで、問題の海蛇はいつごろこっちに辿り着きそうなんだ?」
風竜の質問に気を使って様子を窺ってきたタマが「明日の朝でしゅ」と素直に答える。
「今日の夕飯代わりのついでにみんなで狩ってくるのはどうかしら?」
おっとりと水竜が眠っているウイニーを撫でながら提案する。
「レオンも同じことを言っていたんだけど、エドに却下されたんだ」
リルがちらりとこっそりとコムギを撫でているレオンに視線を向ける。レオンはその視線に気が付くとぱっとコムギから手を離しぷいっと顔を横に背ける。
「こっそりと倒してしまった場合にギルドが海蛇がいなくなったことを確認するまでこの街を出ることが出来ないからです」
海蛇の頭部でも持ち帰れば問題あるまいと抗議したレオンにそれならどうやって倒したかを説明するのが面倒になるとエドが答えた。平均ランクCのパーティが海蛇を倒したといっても誰も信じないだろう。勇者の称号を持ち出せば納得してもらえる可能性が高いが、千夏もアルフォンスもその称号を名乗ることを極力避けたいと思っている。
「ということで基本方針は明日堂々とみんなの前で海蛇を倒します。防衛戦となっていますが、倒せるなら倒してさっさとネバーランドに戻ったほうが得策です。いつ増援が来るのかわからないですからね。竜のみなさんは防衛戦に参加するのであれば、人の姿のまま戦ってください」
千夏達のパーティメンバは防衛線に参加することになっているが、宿に居残った那留達はギルドに強制されることはない。
「また人型縛りか。でも力が拮抗するからそれはそれで面白いな」
喧嘩好きな那留は勿論参加するつもりだ。風竜も一緒に戦うと言いだし、水竜はウイニーの保護を最優先にして手伝えるだけ手伝うと頷いた。ランスロットは足手まといになるので女騎士共々不参加だ。
「ちーちゃん、タマは武器が欲しいでしゅ」
以前ティフルダンジョンに安物の鉄の剣を振るって戦ったときは、攻撃があまりにも通らなかったのが歯がゆかったのだろう。タマが珍しく千夏におねだりをする。
リリィから大量にもらった真珠を交換すればそれなりの金額になるだろう。この街に良い武器があるのか判らないが「じゃあ、お店見に行こうか」と千夏はタマの手をとる。千夏には武器の良し悪しが判らないので一緒にセレナにもついてきてもらうことにする。
宿の店主に武器屋の場所を教えてもらい、千夏とタマとセレナは人ごみの中を歩いていく。住民の避難がどうやら始まったようで、荷車を引いて街の外を目指していく者たちが結構いる。
(武器屋さんも避難してなきゃいいんだけど……)
千夏は新しい武器を買ってもらえると嬉しそうににこにこしているタマを見下ろす。だが逃げ出す気はなかったようで、辿り着いた武器屋は普通に店を開けていた。
店に入るとタマはずらりと並ぶ武器をキョロキョロと見回す。
「なかなか品揃えがいいほうなの。ミスリルの剣もあるの」
セレナは店の奥のほうに棚に置かれた剣を手にとりしばらく眺めた後元に戻す。
(タマは武器の取り扱いは慣れてないしな。力任せにぶった切るものがええやろう。できるだけ刃が大きく頑丈なもんがええな)
シルフィンの助言を聞き、千夏はこの店で一番頑丈で刃渡りが大きなものを店主に尋ねる。
「あんたが使うのか?」
猪の獣人である店主が千夏に向かって質問する。
「私じゃなくてこの子が使います」
千夏はタマのライトグリーンの頭を軽くぽんと叩く。
「そんな小さな子が持てるもんなんてうちにはないぞ」
むっつりと不機嫌そうに店主が腕を組んで答える。
「大丈夫よ。この店に置いてある一番重い武器でもタマは持てるもの。信じられない? タマこれ持ってみて」
千夏はキョロキョロと店内を見回し壁に立てかけてあった一番重そうな2メートルはある戦斧を指さす。
「はいでしゅ」
タマはひょいっとそれを掴むと千夏から距離をとってからぶんぶんと横に斧を振り回す。斧が長すぎて縦に振り抜くと武器屋の床を掘ってしまうからだ。
「こいつは驚いた。30キロはあるぞ、その斧は。でも坊主には向いてないな。長すぎる」
タマの力に納得したのか真剣に武器を店主は選び始める。店主が選んだのは刃の幅が30センチもある分厚い剣と先程よりは柄が短いずっしりとした刃を持つ斧だった。
「両方ともミスリル製だ。どうだい?」
店主に勧められてタマは剣を手にとりぶんぶんと振り回す。
(なぁ、あそこに置いてある剣が気になるんやけど)
にゅっと剣から抜け出て来たシルフィンが店の一番端の壁に飾られている黒い鞘に納められた剣を指さす。
「これ?」
「それに触るな!」
セレナがその剣を触ろうとするとすかさず店主が怒鳴り声を上げる。その声に驚いたセレナは剣に伸ばした手を下ろす。
「おいおい、封印のお札がついている剣に触るなんてどこの田舎もんだ」
あきれ顔で店主はセレナをじっとねめつける。
「封印のお札?」
確かになにやら細かい文字がびっしりと書かれた小さな白い紙が黒い剣の鞘を囲むようにぐるりと巻かれている。
「本当に知らないのか?あのお札で剣の力を抑えているんだよ。無闇に触るなよ。お札がはがれたらまた大金払って封じなきゃならん」
「なんかそれだけ聞くと凄そうな剣だけど、売り物じゃないの?」
「使えるやつがいれば売ってやってもいいが、お札がなきゃ普通の人間が触ったら魔力切れで速攻失神する。あれはここから少し離れたところで見つかった古い沈没船に積み込まれていた剣だ。剣といっても刀身はねぇ。持ち主の魔力を吸い出して刀身を作る魔剣だ。上級魔法以上を自由に使える魔法使いか魔族くらいしか使えるやつはいねぇよ。刀身がない魔剣なんて欲しがる物好きもいねぇ。でも滅多に魔剣なんてねえからな。俺が家宝代わりに買い取ったもんだ」
(魔剣か。300年前だったらゴロゴロ作られておったけどな。その頃沈没した船かもな。チナツとタマなら使えるんやないか?)
シルフィンはふよふよと空中に浮かんで魔剣をじっくりと眺める。使えるといわれても千夏が剣を持っても意味がない。セレナたちのように素早く動けないし、力もないのだ。突撃したら爆死するようなものだ。
だがタマは魔剣に興味を持ったようだ。じっと壁にかけられている魔剣を興味津々で見上げている。
「お札代いくら? もしこの子が使えたら売ってくれる?」
「おいおい本気かよ。魔剣が欲しければマハドかトルクにいったほうがいい。オークションにたまに出品されているぜ。少なくてもこの魔剣よりは取扱いが楽なはずだ」
「明日使いたいんだからそれは無理よ」
きっぱりと千夏が答えると店主は「気絶しても知らねぇぞ!」と渋々壁から黒剣を慎重に取り外す。
「お札の値段は金貨30枚。手数料込で使えず気絶したらしっかり金貨50枚もらうぜ。本来なら白金貨1枚もらってもいいくらいだが、万が一刀身を作り出せたんなら金貨100枚で売ってやらぁ」
ごとりとカウンターの上に店主は黒剣を置く。
「タマ、持ってごらん」
カウンターが少し高めなので千夏はタマを抱き上げる。
「はいでしゅ」
タマは少し興奮しているのか目をキラキラと輝かせて魔剣を手に取る。お札は鞘と剣の柄を結ぶように巻かれているのでタマはそのままお札を剥がさずに勢いよく剣を鞘から抜く。
抜かれた剣は店主が言っていたように柄のみで刀身はついていない。徐々に柄のほうから紅い靄のようなものが流れ出し、やがて刃渡り40センチほどの紅い刀身が現れた。
店主は驚きのあまり声が出ない。
千夏がタマを床に下ろすと、タマはブンブンと剣を振り回す。
「試し切りしたいんだけど」
ツンツンと店主を千夏が突く。はっと気を取り直した店主がまだ少し動揺している体をゆっくりと動かし「こっちだ」といって店の裏庭に連れて行った。
裏庭には試し切り用の大きな鎧が置かれていた。タマはとことこと鎧に近づくとぶんと手に持った剣を振りかぶる。鎧は紙きれのようにすぱっとあっさり両断される。
「ちーちゃん、これ凄いでしゅよ」
タマは凄まじい切れ味に嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。この剣ならば固い鱗を持つ魔物でも簡単に刃を入れることが出来る。
千夏は金貨を店主に100枚払い、ついでに剣をぶら下げられるように皮のベルトを買った。剣を鞘に納めてタマは剣を腰にぶら下げる。
宿に帰るまでの混雑した人ごみを通っていると、火事場泥棒を働こうと不届き者が無防備なタマの腰にさした剣に手を伸ばす。お札がはがれているその剣に触れた火事場泥棒はそのままぱたりと道端で気絶した。
【幻刀の魔剣】
魔力を吸収し、刀身を作り上げる魔剣。魔力で作られた刀身であるため本人が気絶すると刀身が消失する。攻撃力は刀身作成後の持ち主の残魔力値となる。
ご指摘いただいた誤記を修正しました。申し訳ありません。
評価とご感想ありがとうございます。
タマの武器が鉄の剣では可哀想なので寄り道したら海蛇との戦闘まで行けませんでした。魔剣はぽつぽつと流通しています。ダンジョン産物が多いです。アルフォンス達がもらった剣には制約がないですが、魔剣は使う人を選ぶものが多いです。




