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要石の影響

順調に船旅が進んで早二日目。

暇を持て余したアルフォンスとセレナ、魔物三兄弟と那留それと風竜親子が船員が甲板にいないことを確認した後、海の中にドボンドボンと飛び込んでいく。


リリィからもらった腕輪のおかげで陸の上と同様に海の中で狩りを行えるのだ。船から引き離されれば、竜の背にのって追い駆ければいい。風竜親子の分は船に居残った千夏とリルそしてエドの腕輪を貸し出している。


初めて海の中に潜ったウイニーはくりくりとした大きな瞳で不思議そうにキョロキョロと周りを見渡す。

南国特有の色鮮やかな魚の群れがウイニーの前を通り過ぎていく。

「ニュー!」

ウイニーは小さな翼を動かし、その魚の群れを追い駆けていく。それに負けじとコムギは駆け出し、魚の群れに最初に飛び込んでいく。気をまとったコムギの前足の爪で何匹かの魚を捕えると、コムギはウイニーを振り返る。


「ニュー」

お手本を見せてもらったウイニーは小さな鉤爪で数匹の魚を仕留めると、嬉しそうにそれを口にくわえコムギに向かって一声鳴く。

「クー」

よくできましたとコムギはウイニーを褒めてから、自分が獲った獲物に齧りつく。少し前のタマと同様にいままで一番下だったコムギは自分より小さなウイニーに対して率先して狩り方を教えてお兄ちゃん気分を味わっている。サイズ的にはウイニーもコムギも同じくらいの大きさだ。タマや他の竜たちと同じ狩り方では獲物を仕留めることは出来ない。


タマ達はというとウイニーとコムギがのんびりと狩りが出来るように付近にいる攻撃的なイビルシャークや鋭い切れ味の背びれをもつオオカマウオを中心に次々と大物を仕留めていく。あらかた危険な魚たちを片づけた後にタマが気で探索し、マグロの群れを発見する。ウイニーも皆に習ってマグロに躍りかかってみたものの、巨体に弾き飛ばされてコロコロと海中を転がっていく。何度も転がったウイニーはやがて真っ直ぐぶつかると弾き飛ばされることを理解する。


「クー!」

コムギは転がったウイニーに向かって一声鳴くと、少し小ぶりのマグロに向かって走り出した。ウイニーもその後を追い駆けるとコムギと一緒に一匹のマグロに食らいつき爪を使って攻撃を始めた。

「よくやった」

「頑張ったでしゅ」

やっとのことでマグロを倒した二匹をレオンとタマが褒めると、嬉しそうにブンブンとコムギが尻尾を大きく振る。ウイニーもコムギを真似て自分の尻尾をブンブンと振り回す。


「さぁて、さっさと食って船を追い駆けようぜ」

ちびっこたちを微笑ましげに眺めた那留は自分が仕留めたマグロに豪快にかぶりつく。アルフォンスとセレナは生のまま魚を食べないので、自分達が仕留めたマグロをウイニーに引き渡すと海底へと潜っていく。竜達の食事はダイナミックなので見学は遠慮したい。


「貝でも拾ってチナツ達のお土産にするの」

セレナは岩陰や海藻の間に埋もれている貝をせっせと探し始める。

(おい、何か光ってる)

ピカピカと赤い点滅を繰り返すセレナの指輪に気が付いたシルフィンが声をかける。

「それ、何のマジックアイテムだ?」

アルフォンスも興味を持ったのかセレナに近寄ってきた。セレナもしげしげと点滅する自分の指輪を見つめる。


指に嵌めたっきりすっかり忘れていたがこれはBランクにランクアップしたときにギルドから渡された指輪だった。現在位置から一定の距離内にあるギルドから緊急クエストが発行されたときにそれを示すためのもので、Bランク以上の冒険者は至急近くの冒険者ギルドに向かう義務があるそうだ。


(緊急クエストか。まさかトルク方面じゃないやろうな。戻るのは面倒や)

「確か指輪についているこの光っている石を一度押すと緊急クエストを発行しているギルドの方向が判るっていってたの」

「とりあえずチナツ達と合流してから確認しよう。海の中で方向が示されても全くわからないしな。ところでその緊急クエストを受けないとどうなるんだ?」

アルフォンスの質問にセレナは必死に説明された内容を思い出すため、頭に手を当てる。


「緊急クエストを受けていないと確かギルドランクダウンだった気がするの」

ランクBになってから街の到着報告はギルドカードだけではなく指輪もチェックされている。指輪の受信履歴とカードに記されたクエストが照らしあわされ、緊急クエストを受けていないと発覚した場合は正確には冒険者ランクが1ランクダウンになり罰金として金貨200枚を徴収される。その分Bランク以上の特典は大きくギルド直営店の宿屋はタダで泊まれるし、宿屋以外の店は半額で買い物ができるのだ。


しばらくしてから食事が終わったと遠話でレオンが伝えて来たので、竜達のいる場所へとセレナとアルフォンスは引き返す。

「飛ばすぜ」

コムギとウイニーを二人は抱き上げて那留の背に飛び乗ると、竜達が一斉に海の中を船に向かって飛んでいく。腕輪のおかげで一切水圧がかからないので、そのスピードは40キロを超える。真っ直ぐに飛んでいく竜達の進行方向にいた魚たちが次々と竜に弾き飛ばされていく。

(ある意味蹂躙やな)

その様子を見ていたシルフィンが苦笑した。





「緊急クエスト?何それ、面倒くさい」

風竜から腕輪を返してもらった千夏はセレナの話を聞いて眉をしかめる。千夏が過去参加した緊急クエストは3つ。ミジクの魔物来襲、王都の魔族来襲そしてハマールのダンジョンでの誘拐事件だ。緊急クエストといっても難易度は状況によって異なる。共通しているのは緊急性が高いという点のみだ。


「チナツはギルドからもらった指輪はどうしてるの?」

ピカピカと点滅する自分の指輪を確認しながらセレナが問う。

「アイテムボックスに放り込んだままかな」

ごそごそとアイテムボックスを漁るとセレナと同じ形の指輪を千夏は取り出す。セレナの指輪と同様に小さな石が赤い点滅を繰り返している。


とりあえず場所の確認をしたほうがいいとアルフォンスからせかされて、千夏達は甲板へと昇っていく。甲板に出たところでセレナが恐る恐る指輪の石を軽く触れると紅い光がレーザーのようにとある一点にむかって直線を映し出す。以前エドがアルフォンスが誘拐されたときに使った魔法と原理は同じようで、人ではなく緊急クエストを発行したギルドに向かって光の筋が放たれる。


「とりあえず船が向かっている先のようですね」

エドは光を確認すると甲板を歩いていた船員の一人を捕まえてこの先について質問する。船員の話によるとあと1日で最初の寄港地である島に辿り着くそうだ。竜に乗って行けばすぐにでもその島まで辿り着くことは可能であるが、それでは悪目立ち過ぎる。緊急クエストで殺気立っているギルドに竜が襲ってきたと勘違いさせれば更なるパニック状態を引き起こすだろう。


「とにかく明日ね。島に着いたら確認しよう」

千夏がそう判断を下すと、アルフォンスとセレナは明日に備えて剣の手入れを始める。千夏はリルと一緒に海の中の出来事を楽しそうに話すタマの話をお茶を飲みながらゆっくりと聞く。

「へぇ。コムギがウイニーに狩りを教えてあげたんだ」

リルはにこにこと胸を張ってタマの話を聞いているコムギに視線を移す。

「そうでしゅ。コムギもお兄ちゃんでしゅね」

「クゥー!」


「あとこれを拾ったでしゅ」

タマはにっこりと笑うと小さな手を広げる。その手の中に大粒の真珠が握られていた。

「大きくて綺麗だね」

千夏がそういうとタマは嬉しそうにこくんと頷く。しばらくタマは真珠を眺めた後いそいそと自分のコレクションを大切にしまっている鞄に真珠をしまい込む。鞄の中にはセラからもらった白金貨やクリスタルなど高価なものから海岸で拾った貝殻やガラスの破片など普段はあまり見向きもされないものが蓄えられている。いっぱい溜まったらそれを並べて寝床を作るのがタマの夢らしい。竜の姿で貝殻などを寝床にしたら粉々に壊れてしまうことを千夏は知っていたが、タマの夢を壊さないように黙っているつもりだ。



次の日の夕方近くに船は最初の寄港地に辿り着く。

早速船を降りた千夏達は冒険者ギルドに向かった。ギルドの中に入ると殆どの人が出払っているようでぽつんと受付嬢がひとりカウンターに座っているだけだった。

「緊急クエストを受信したのですが、もしかして終わった?」

千夏が点滅している指輪を受付嬢に見せながら訪ねると受付嬢はカタンと座っていた椅子を慌てて立ち上がり「こっちに来てください」とギルドの二階へと向かっていく。


「ちょうど今緊急クエストの説明会が始まったばかりなんです。急いでください」

のんびりと後ろに続いていく千夏達を受付嬢はせかし、大きな会議室のドアを開ける。

「――何だ?」

会議室の一番奥で説明を始めていた熊の獣人が突然割り込んできた受付嬢に向かって声をかける。会議室の中にはおよそ200人もの冒険者が集まっており受付嬢の背後にいる千夏達をじっと一斉に見つめている。


「今到着された冒険者を連れてきました」

受付嬢はちらりと後ろの空いている席を見つけると千夏達にそこに座るように指示をする。突き刺さる視線がちょっと痛いなと千夏は大人しく席に座る。

千夏達が席に座ったことを確認した大柄な熊の獣人は咳払いをして話始めた。


「もう一度最初から説明する。この島を拠点としている奴らは知っていると思うが、今回の緊急クエストは海蛇(サーペント)の撃退だ。海蛇(サーペント)はランクAの上位に位置する全長20メートルもある魔物だ。奴は30年前からこの島を含め近海を縄張りにしている。普段は奴は寒流に乗って移動しており、この島付近にある暖流によって近づいて来なかったんだが、海に異変が起きたらしい。

数か月前くらいから漁師の話によると潮の流れが変わり猟場が変わったそうだ。どうも獲れる魚の傾向から寒流がこの島の近くを通っているらしい」


数か月前の海の異変。そう聞いて千夏はリリィの依頼を思い出す。要石が盗まれたことで多少海抜が上がったとは聞いていたが、どうやら海の潮の流れにも影響を出していたようだ。


「そしてついに昨日漁に出た漁師が奴をこの島から50キロ離れた場所で見かけたという情報が入った。奴がこの島に現れるまであまり時間がない。本来は討伐出来るものならしたいところだが、緊急クエストの参加者でAランクの冒険者が1パーティのみというのが現状だ。増援が来るまで撃退を第一とする。

いいか、野郎ども。あいつを倒さないとこの海路は使えなくなる。応援が来るまで死ぬ気で防げ!」

ダンと熊の獣人は一番前のテーブルを叩きながら激を飛ばす。


「「「「「おおう!」」」」」

集まった冒険者たちが自らを奮い立たせるために大声で応える。

「どうやら海蛇を倒さないと船は出航できなさそうですね」

エドが軽く溜息をつく。アルフォンスとセレナは他の冒険者と同様に興奮したように席を立って握りこぶしを上に突き上げている。タマも椅子に乗って元気よく冒険者の真似をする。


「リリィがなんとかしてくれないかなぁ……」

千夏はげんなりとその様子を見つめながらぼやいた。

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