表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
227/247

要石奪還

『チナツ、いつになったら要石が見つかるの?』

トルクの王都に来て二日目。リリィは全く進展していない要石探しの状況を聞きに海からやってきた。土地感がないということで、マハドの領主とトルクの王家に探索をお願いしていたが、状況は芳しくない。


水の街マハドは増築に増築を重ねた街である。街の中に海水が流れ込み、建物と建物の間に小さな水路がいくつも出来上がる。増築する際に海の下の建物同士を結合させ、上に乗っている建物を安定させる手法で街が作られていった。そのせいで海の中は複雑に入り組んだ多重構造の迷路のような地下空洞が作られていく。いつしかこの地下には後ろ暗い者たちが集い、地下街を作り出した。要石探しが難航しているのはこの地下部分が複雑なせいでもあった。


アルメリアの占いでマハドの地下道の南西に要石があると告げられていたが、占いでは具体的な場所まで掴むことが出来ないようで、連日その辺りをうようよと兵士達が探索しているが成果が出ていない。

今までセラという有能な相談者がいたので、いつものようにすぐに判るかと思っていたのだが、どうやら勝手が違うらしい。


『それなら地下道を水没して探したほうが早いわ』

リリィがぽつりと物騒な提案をしてくる。

「それだと地下にいる人溺れちゃうんじゃないかな」

「そうなの。地下に窃盗団以外の人がいたらその人も死んじゃうの」

リルとセレナはリリィの提案に顔を青くして答える。早いは早いけど、被害が大きすぎるとさすがに千夏もその提案には反対だ。


(ならアンジーに頼んだほうがええ)

「そのほうが無難だな」

シルフィンの意見にレオンも同意する。

「じゃあ、そういうことでちゃっちゃと探しに行きますか」

千夏はテーブルから立ち上がるとパーティメンバの他竜4匹を連れてマハドに転移した。


マハドに到着すると千夏達は南西のほうにある地下へ続く入口を降り、狭い地下通路の中に降り立つ。入口から入ってくるわずかばかりの光で近くにいる仲間達の顔が辛うじて判るくらいに薄暗い。歩き回るには不便なので光魔法の初歩である明かりの魔法をいくつかリルが打ち上げる。


アイテムボックスから翡翠の指輪を取り出すと千夏は早速アンジーを呼び出す。

『あら、リリィもいるのね。お久しぶり』

アンジーは千夏の肩にちょこんと乗っているリリィに向かって挨拶をする。

『お久しぶり、アンジー』

リリィはアンジーに挨拶を済ませると、簡単に要石を探していることを伝える。アンジーは要石の特徴を細かくリリィから聞き出すと、念のために千夏に確認してから彼女の魔力をぐんぐんと吸い出し眷族の風の妖精を集め始めた。


月光草を探してもらった時のように集まった妖精たちは地下道の中を驀進していく。

『要石は長い時間をかけて水の妖精たちが力を分け与えた石。妖精の力が宿っているからたぶん判ると思うけど』

じっと風の妖精たちが伝えて来るあらゆる洞窟内の情報を黙って確認しているアンジーをリリィは期待を込めた眼差しで見上げる。


「水の妖精王だけでなく、風の妖精王も使役するのか。驚いたな」

一緒についてきた風竜がうむむと低く唸りながら千夏を見下ろす。

「別にアンジーは私の僕でもなんでもないわ。お友達かな。いろいろ手伝ってくれているだけだよ」

アンジーの好意で召喚の指輪を渡してもらったのだ。使役しているなどと調子に乗ったらアンジーにさっくりと指輪を取り上げられかねない。


千夏はそう答えながらも急激に大量に魔力を吸い出され体がだんだんとだるくなっていく体をよろりとよろめかせる。そんな千夏に気が付かないセレナは「最初からアンジーにお願いしていたらすぐに帰れたの。気が付かなかったの」と素直に感想を述べる。


「そりゃそうだが、馬鹿にならない魔力を消費してるだろ、これ」

那留は千夏からアンジーへ流れていく膨大な魔力に目を瞠り、よろけた千夏に肩を貸す。セレナは魔力をあまり持っていないので判らないだろうが、おいそれと簡単に使うレベルの魔法ではない。特級魔法4発分以上の魔力がアンジーへと供給されている。よく魔力切れで倒れないものだと那留は感心する。


『――見つけたわ。こっちよついて来て』

キラキラと羽から光を放ちながらアンジーが地下道の中を進んでいく。

アンジーの話ではここから15キロほど進んだ先に40人ほどの男たちがうろついている場所に要石があるそうだ。


(便利は便利だけど、これは戦闘が控えているときに使うものじゃないわね)

千夏は那留に背負われてその後をついていく。前回妖精の力を使った探索をしたのはタマのために月光草を探したときだった。あの時は必死だったので、あまり疲労は感じなかったから気が付かなかった。


「ちーちゃん、大丈夫でしゅか?」

タマが不安気に那留の背中にいる千夏を見上げる。

「ん。だるいだけだから大丈夫。しばらくしたら治るよ」

「魔力回復剤飲む?」

リルはわたわたと慌てながら自分のポーチから取り出した魔力回復剤を千夏に向かって差し出す。

「今千夏に飲ませてもあんまり効果はないな。勿体ないから使わないほうがいいぞ」

那留は心配そうなリルに向かって優しくそう言い返す。市販の回復薬程度では千夏が使った魔力の1%にも満たない回復量だろう。


「ありがとう。まだ先は長いみたいだからちょっとだけ寝るね」

千夏はそういうと目をつぶって那留の背中で眠りに落ちる。

「病気じゃないし、起きたら元気が出ているはずだからそんなに心配するな」

レオンはぽんぽんと不安そうなタマの頭を軽く叩く。


それから窃盗団へのアジトに向かって全員が黙々と歩く。よくもまぁこんなものを作ったものだと感心するような一見判らない仕掛け扉などを潜り抜け、着々と前進していく。道中で遭遇して有無を言わさず襲ってきた男たちは軽くアルフォンスとセレナが叩きのめして転がしていく。


ようやく窃盗団のアジトに辿り着くと、襲い掛かってくる男たちをアルフォンスとセレナに任せ、タマは戦闘をすり抜けるようにアンジーと一緒に要石が置かれている隠し部屋へと向かう。

ちょろちょろと走り回る幼児に盗賊団は驚いたようだが、それを追いかける暇を与えないようにアルフォンスとセレナそしてエドとコムギが苛烈に攻め込んでいく。


「キラキラでしゅ」

タマはアンジーが指し示した木箱を開けると中に納まっていた薄い水色の輝く石を取り出し手にとる。

『間違いなく、要石だわ』

リリィはタマがつかんでいる石の周りを嬉しそうにひらひらと舞うように飛び回る。

隠し通路には他にもいろいろな貴重な絵画や宝石などが大量に置かれていたが、タマはそれらをそのまま放置して要石だけを掴んで外に出る。すでに戦闘は終わっていたようで、叩きのめされた窃盗団が床に転がりあちこちでうめき声を上げている。


「ちーちゃんは起きたでしゅか?」

あれから3時間ばかり経過している。タマは背伸びして那留の背中の千夏を見上げて尋ねる。千夏はこの戦闘騒ぎでも起きておらず、ぐっすり寝ているようだった。

「一度王宮に戻りましょう」

エドは負傷して呻いている窃盗団を置き去りにして転移を使う。隠し通路は全て開けたまま移動してきたのだから、そのうち付近を捜索する兵士がここを見つけるだろう。窃盗団捕縛まで対応する義務は自分達にはない。


王宮に戻るとアルフォンスが王と対面して、要石を無事手に入れたことを報告している頃。リルとレオンは冒険者ギルドを通してネバーランドのニルソンとエッセルバッハのセラあてにもうじき戻ることを報告する通信を依頼しに向かっていた。

「獣人が多いから居心地はよかったけど、やっぱりネバーランドのほうが落ち着くね。やっと帰れるんだ」

リルは街を歩きながら隣に並んだレオンに声をかける。

「それはネバーランドが僕達の帰るところだからだろう」

真面目くさったようにレオンが答える。


「帰るところ……そうだね。一度父さんと母さんにも見てもらいたいな」

すれ違った中年の狐系獣人を見てリルはほっこりと笑う。

「そうすればいい。リルの父上と母上が来るなら僕が二人を乗せてネバーランドを案内しよう」

「竜がいっぱいいてびっくりしなければいいんだけど」

くすりとリルは花がほころぶように笑う。それをたまたま目撃した露店で小物を売っていた兎系獣人の青年がふらりとリルの前に近寄ってきて「綺麗な毛並のお嬢さん一目ぼれです。お願いします」といってリルの肩を二回叩く。


「――求婚されたぞ?」

固まったリルにレオンがこの国の習わしを思い出してぼそりと呟く。

「……俺、男なんですけど」

「へ?」

相手の青年はリルが言った言葉の意味がよくわからないようだ。

せっかくいい気分だったのに台無しだ。リルはぺこりと相手に頭を下げてスタスタとギルドに向かって足を速める。


「ねぇ、レオン。どうしたら女の子に間違われなくなるかな。いっそ髪をそって坊主にでもする?」

ぼんやりとスキンヘッドにふわふわの大きな耳をつけたリルをレオンは想像するが、ぶるぶると頭を振って否定する。

「それは駄目だ。せっかく綺麗な髪なのに勿体ない。それは暴挙だ」

「でも……」

「絶対駄目だ」

その後散々レオンに反対されたリルは渋々と髪を剃らないことを誓わされた。


評価とご感想ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ