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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
王都に出かけよう
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お坊ちゃまの初めての冒険(後編)

戦闘シーンで少し残酷な描写があります。

「あれがゴブリンなの」

 セレナは茂みに潜み、洞窟の入り口で暇そうに座り込んでいる二匹のゴブリンを差す。

 ゴブリンというと小汚いイメージを千夏は抱いていたが、よくよくみると二足歩行する大きな豚にしかみえない。

 ゴブリンはそれぞれ手に古びた槍を持っていた。千夏達は森の木々や茂みに隠れこっそりとゴブリンの様子を窺う。


「とりあえず、見張りをできるだけ瞬殺したい。洞窟の中にいるゴブリンに俺たちの侵入に気が付かれたくないからな。遠距離攻撃できるのは俺かチナツか。まずは俺が魔法で……」

「いや!私がする」

 アルフォンスのセリフを遮って千夏が答える。あのひょろひょろファイヤーボルトでは一撃でゴブリンを倒すことはできないだろう。怪我をしたゴブリンが洞窟内にいるゴブリンを呼び寄せるかもしれない。


「いや、しかし……」

 アルフォンスが食い下がる。

「まだゴブリンは洞窟の中にいっぱいいるんだし、ここは後衛の私がやるのが一番早いよ」

「……わかった。任せたぞ、チナツ」

 千夏は頷くと、小声で「ウィンドカッター!」を連続で2回唱える。


 風の刃が見張りのゴブリンにズガガっと襲い掛かり、2体とも真っ二つになってどさりと倒れた。洞窟の中から他のゴブリンが出てくる気配はない。

 3人はしばらく待ってから洞窟の入り口に移動した。千夏はすぐに倒したゴブリンをアイテムボックスに回収する。大事な食材である。


 それぞれ気功術を使い、洞窟内に侵入する。洞窟は3人が横並びで入れる程の大きさで、ゴツゴツした固い岩で出来ている。ところ所苔が生えており、外と比べると若干じめじめした空気が漂っている。先頭はセレナとアルフォンス。後ろに千夏という布陣でゆっくりと進んでいく。

 しばらく歩くと道が二手にわかれていた。

「右のほうの通路の近くになにかいるの」

 セレナがピクピクと耳を動かした。


「よし、右にいくぞ」

 アルフォンスは意気揚々と右に突っ込んでいく。数メートル先に4匹のゴブリンの姿が見える。

「いくぞ!」

 アルフォンスは剣を構えゴブリンの集団に突っ込んでいく。慌ててセレナがそのあとに続く。千夏もゴブリンの集団の真ん中にいるゴブリンを狙いを定めウィンドカッターを放つ。


「グギャァァ!」

 最初に千夏のウィンドカッターによって一匹が切断され倒れる。そこにアルフォンスが突っ込んでいく。

「はぁっ!」

 アルフォンスは手前のゴブリンを斬りつける。左右から無事なゴブリンが同時にアルフォンスへ古びた剣を向ける。


「させないの!」

 セレナがベルトから短剣を抜き、続け様に2匹のゴブリンへと放つ。

「グガッ」

 ゴブリンは体を突き刺した短剣の痛みに一瞬動きが止まる。


 アルフォンスは右からセレナは左からそれぞれのゴブリンを斬り伏せる。

 次の瞬間中央にいた手負いのゴブリンが、目を爛々とさせながら、アルフォンスへ向かう。アルフォンスとセレナは返す刀で中央のゴブリンを斬り上げた。


「なかなかやるじゃないの」

 千夏は倒したゴブリンをアイテムボックスに収納しながら、アルフォンスに声をかける。

「このアルフォンス、ゴブリンごときは敵ではないわ!」

 アルフォンスは自分の胸を叩き、大声で笑う。だがその笑いは続かなかった。

 千夏達の来た道から十数匹のゴブリンが雄叫びを上げて殺到してきたのだ。


 千夏はちらりとアルフォンスを見る。

「じゃあ、あれもいける?」

「さすがに一人では厳しいな」

 一応状況を見る目はあるらしい。アルフォンスはきっぱりと言い切る。


「オッケー、ウィンドカッター!ウィンドカッター!」

 千夏は密集したゴブリンの集団の中央に魔法を放つ。

 風の刃が数匹のゴブリンの腕や腹を切り裂く。半分くらいのゴブリンが沈没する。

 アルフォンスもファイヤーボルトを放つ。しかしほとんど足止めになっていない。


(ちょっとやばいかな……)

 半分倒れたといってもまだかなりの数がいる。

「ウォーターウォール!」

 千夏は距離を詰めてきたゴブリンの前に水の壁を作り、距離を保つ。

「うーん、単体魔法だけだと集団戦は結構きつい……」


 数匹が水の壁を無理やり乗り越えようとして腕を突っ込んでくる。

「せいっ!」

 突き出された腕をアルフォンスとセレナが切り落とす。


 水壁が消え去るとすぐに千夏は魔法を放つ。

「ウィンドカッター!」

 魔法に合わせてセレナとアルフォンスが突撃する。


(何とかいけそうかな)

 千夏がちょっとほっとしたところに鎧姿でバトルアックスを振り上げた他のゴブリンに比べ一回りは大きいゴブリンが通路から現れる。

「グウォォ!」

 ゴブリンリーダーが凄まじい怒号を上げる。


「いやぁぁ、なんか怖い!ウォータウォール!」

 千夏はすぐさまゴブリンリーダーの前に水壁を作る。

 (水壁が消える前になんとか残ってるゴブリンを倒さないとまじでやばいかも!)


「ウィンドカッター!」

「やぁぁぁぁぁ!!」

 はじめて三人の心がひとつになり、必死の形相で手前の動けるゴブリンを狩りまくる。

 水の壁がゆらりと勢いをなくし始めると、ゴブリンリーダーはそのまま水壁を突き破り、突っ込んでくる。


 ガギンッ!

 ゴブリンリーダーが振り上げた斧とアルフォンスの剣がぶつかり合う。アルフォンスは必死の形相で力を入れるが力負けしており、斧がじりじりとアルフォンスの頭に迫る。あまり持ちそうにない。


「タァーッ!」

 セレナが凄まじい勢いでゴブリンリーダーの足を何度も斬りつける。

 足が傷つき踏ん張れなくなったため、ゴブリンリーダーの斧を振るう力が弱まる。アルフォンスは重心を低く保ち、体全体で贖い斧をじりじりと押し返す。


「ウィンドカッター!」

 千夏はゴブリンリーダーの頭部を狙う。

「グガッ!」

 魔法に気が付いたゴブリンリーダーは急いで後ろに跳び下がる。魔法を避けることができたがセレナに痛めつけられた足がうまく動かず、ぐらりとバランスを崩し膝をつく。


 すかさずセレナが斬りこむが、ゴブリンリーダは必死に斧を振り上げセレナの剣を受け止める。

「うぉぉっ!!」

 逆サイドからアルフォンスがゴブリンリーダーの首を狙って斬りこむ。

 勝負がついた一瞬であった。



 ゴブリンリーダーをなんとか倒すとセレナとアルフォンスがそのままその場にうずくまる。あまり動きまわらなかった千夏でさえ、精神的にかなり疲れていた。

「よし、こういうときはさっさと戻って寝る!」

 千夏はそう言うと、その場のゴブリンの遺体をアイテムボックスに収納した。そして座り込む二人の体を左右の手で触り転送魔法を唱えた。




 3人は死んだように眠った後夕飯の時間にエドの叩き起こされる。半分寝ぼけながら夕飯を終えるとアルフォンスの部屋に集合する。

「さて、第一回反省会を開きたいと思います。今回の司会進行は千夏です。パチパチパチ……」

 千夏はひとりパチパチと小さく手を叩く。


「いや、まじで今回つらかったね。ゴブリン数多すぎ」

「狭い場所で数匹に囲まれるはつらいの。引き離して各個撃破ができないの」

 千夏がうんざりした顔でいうとセレナも同意して頷く。


「そもそも敵との技量差分がかなり大きくないと一対多という構図はなりたたん」

 真剣な顔でアルフォンスが意見すると、千夏がぺしっとアルフォンスの頭をはたく。

「あんたがいうな、あんたが。そもそもゴブリンが集団でいるとわかっていて3人で無理やりいったのが間違っている」

「痛いぞ、チナツ!まぁそこは俺に非がある。すまなかった」

 素直にアルフォンスが二人に向かって頭を下げる。


 千夏とセレナはアルフォンスが頭を下げたことにかなり驚いた。貴族がそう簡単に頭を下げると思っていなかったからだ。千夏はアルフォンスのことを少し見直した。


 んんっと千夏は咳払いをすると反省会を継続する。

「では話の続きに戻りますか。とりあえず集団戦の弱点をどうするかですね」

「必殺技が必要だ」

 すかさずアルフォンスが身を乗り出した。

「確かに集団戦向きの剣技を持っていないの」

 セレナも頷く。


 千夏は剣を使ってないので流派や技などまったくわからない。

「剣技って誰か教えてくれるの?」

「そうだな。王都で騎士団に教えてもらおう」

「王都か……。すぐにどうこうできる話じゃないね。じゃあせめて私が範囲魔法を早めに覚える必要があるか。転写可能かどうかわからないけど……」

 範囲魔法は中級魔法である。売っている店も限られており、今いる村では買えない。


「まぁ魔法はシシールの港街で買うしかない」

「そうだね。ほかになにかある人いる?」

 千夏が二人に尋ねたが二人とも特になしいいアイデアはないようだ。


「では、第一回反省会を終わりにします。お疲れさまでした」



誤記を修正しました。

×ウォーターカッター ○ウィンドかカッター

×シシーレ ○シシール

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