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獣化

だいぶ遅くなりました。すみません。

「よし、これで大丈夫ね」

転移石で不法入国したプチラビットの身分証をギルドで作り、カードに紐を通して千夏はプチラビットの首へとかける。

現在カガーンは国として機能していないので、出入国検査はほとんど行われていない。

それでも帰りにはエッセルバッハを経由するため入国するために身分証が必要となる。

プチラビットはどちらかというと獣人という姿をしているので、問題なくギルドの審査を通った。


千夏達はまだしばらくネバーランドに帰ることができない。

プチラビット一匹だけで帰すわけもいかず、しばらくの間は行動を共にすることに決まった。

ついでにトンコツショウユのパーティ登録をするとシルフィンが念のためにプチラビットに質問をする。


(回復魔法が使えるのはエキドナのときに見たから判っとるが、他に何かできるんか?)

幻獣であるプチラビットは妖精が見えるようで、空にふよふよと浮いているシルフィンを見上げる。

「お掃除と、ご飯作りとお裁縫ができるよっ。ラビは女の子だもん」

きゃふんと笑いながらプチラビットーいやラビは答える。


家事全般が苦手な千夏はラビの答えをスルーし、エドが入れたお茶をずずっと音を立ててすする。

セレナも家事はあまり得意ではないので、聞きようによっては家事が出来ないと女の子じゃないと言わたように感じ、どよんとテーブルに顔を伏せる。

シルフィンはテーブルにつっ伏しているセレナをしょうがないやっちゃなとちろりと見下ろす。


(まぁ飯を作れるってのはいいことや。だがおいらが聞きたいのは戦闘に関係することや。明日からはしばらく魔物退治にいくんやからな)

「ラビが使えるのは基本光魔法なの。怪我とか病気なら治せるよ。それと獣化すれば体術で戦うこともできるのぉ」

「獣化?」

聞きなれない言葉にアルフォンスが目を輝かせる。


「うん。幻獣は獣化することで戦闘特化型になることができるんだよぉ。みんなが見たエキドナは戦闘特化型の姿なのぉ。普段は人と同じくらいのサイズなんだよ」

「ということは、プチラビットもエキドナみたいに獣化するとあのサイズになるの?」

リルが小さなプチラビットをしげしげと見つめて尋ねる。


「大きくなるけど、エキドナ程大きくはならないよ」

えへへとプチラビットは得意そうに笑う。

(まぁどうにもならんときはそれで頼むわ)

シルフィンの言葉にラビはこくんと頷く。


「話は終わったか?」

ずっと待ちぼうけを食らっていたギルド長は執務室で書きあがった今回の報告書の紙の束をトントンと机の上でそろえながら尋ねる。「うん、一通り終わった。待たせてごめんね」

千夏は座っているソファから背後を振り返って答える。


「お前らのギルドランクアップ試験なんだが、結局今日実技が出来なかったしな。明日ついて行こうと思うんだが。武器壊れてないんだろう?明日で大丈夫だよな?」

ギルド長の質問にセレナはこくんと頷く。

装甲の厚いストーンゴーレムは以前も戦ったが、妖精剣はびくともしなかった。


明日の約束を交わしギルドを出る。

(まだ日も高いし、今日狩りにいかんのなら訓練や)

シルフィンにせかされ、アルフォンスとセレナは街の外で走り込みをするらしい。

「クゥー!」

外へ向かおうとするアルフォンスの足元にコムギが走り寄っていく。

「コムギも一緒にいくと言ってるでしゅ」

タマが通訳する。どうやら今日ゴーレムに吹き飛ばされたのでコムギはもっと強くなりたいらしい。

もっと素早く動けたらゴーレムの一撃を食らわなかったはずだと。


「コムギがいくならタマも行くでしゅ。ちーちゃん、いいでしゅか?」

タマはじっと千夏をつぶらな瞳で見上げる。

「はい。いってらっしゃい」

いちいち許可を取る必要はないのだが、タマらしい。

千夏がタマの頭を撫でるとタマは「頑張るでしゅよ!」と気合をいれてセレナの後に続く。

更にその後を無言でレオンが続く。


鍛錬組と別れ千夏達はぶらぶらと街の中を歩く。

はたから見るとエドは美少女、美幼女、普通の人の3人もの女性を連れて歩いており、冒険者の男どもの一部に背後から怨念たっぷりの視線を注がれる。

彼らはただでさえ今日の戦闘で武器が壊され、心がやさぐれていた。


「ちょっと待ったぁぁぁぁ!そこの兄さん、俺と手合せをしてくれっ!」

やさぐれ組の中から一人の男が立ち上がり、猛然とエドの前に割り込んでいく。

突然現れた男にリルもプチラビットもびくりと体を強張らせ、エドの後ろへそそくさと逃げていく。

千夏もエドもアルフォンスに慣らされているので、わけのわからない突拍子なことをいう男をただ黙って眺める。


「……何故に手合せをしなければいけないのですか?」

エドは冷然と相手に言い返す。

飛び出してきた男は南国諸島から来たらしく、浅黒い肌で身長はエドと同じくらい高い。少し吊りあがった黒い瞳が爛々と輝きエドをぐっと食い入るように見つめている。


「こんなに可愛いおねぇちゃんを侍らせているってことはそれなりに強い奴だろう、あんた。一度手合せを願いたい!」

言っていることはどう考えても言いがかりだ。だが、絡み方がソフトで嫌悪感は抱かない。どちらかというとうざくて関わりあいになりたくないと千夏は思った。

アルフォンスやセレナがいたら嬉々として受けて立つだろうが、エドにはその気はない。


「行きましょうか」

エドが完全に相手の男を無視して進もうとすると、それを見学していた男達が集まり進行方向を遮る。

「いいじゃないか、少しくらい相手にしてやっても」

あまりにも無視された男が哀れで同志たちが立ち上がったのだ。

こうなったら梃子でも動かないだろう。


エドはかちゃりと眼鏡を押し上げると「一回だけですよ?」と男に念を押す。

「そうこなくっちゃ!」

男は嬉しそうにエドの前へ再び回り込む。


「ここは露店街です。邪魔になりますから、別のところに場所を移しましょう」

エドはそういうと露店街を出て、先ほど出てきたギルド前の広場へと移動する。

男達はずらずらとエドの後をついて歩く。武器が出来るまで暇なのだ。暇つぶし代わりに二人の立ち会いを見学するつもりだった。


「何やってるの?」

同じく武器が出来るまで暇をどう潰そうかとキールと途方に暮れていたエルザが集まった男達の中に千夏を見つけて近寄ってくる。

「絡まれただけ。昼までゴーレム討伐であんなに疲れているのによくやるよね」

千夏は辟易しながらどちらが勝つかを賭けはじめる男達を眺める。


「まぁ疲れたことは疲れたけど、昼間はここ酒場開いてないし宿で寝るくらいしかやることないのよね。ところであの人強いの? 戦っているところみたことないんだけど」

エルザはフロックコートの上着を脱ぎ、アイテムボックスへと仕舞い込むエドを見て千夏に尋ねる。


「というかエドに素手で立ち向かうほうがどうかと思うんだけどね」

対戦相手が同じ格闘家ならまだ勝負になるかもしれないが……。しかし珍しく上着を脱ぐなどエドらしくもない。

相手が強そうなのだろうか? 武術を全く分からない千夏は小首を傾げる。


「俺はBランクのレイバンだ。あんたは?」

エドの対戦相手が軽く拳を握りしめて尋ねる。

「ただの執事ですよ。時間がもったいありません。さっさとかかってきてください」

エドはくいくいと白い手袋をはめた左腕を持ち上げ指で男を挑発する。


「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

馬鹿にされたレイバンはエドに向かって拳を振り上げ突っ込んでいく。

彼の腕が振り下ろされる前に、鋭いエドの蹴りがレイバンの腹に決まりそのままレイバンは後方へ数メートル吹っ飛ばされる。

見物していた男達を巻き込みレイバンもろとも数人の男達が地面に転がり落ちる。

「まぁこんなもんよね。」

千夏は予想通りの結果に肩を竦める。


「いてぇじゃねえか!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

レイバンと共倒れとなった男達は痛む体を起こすと猛然とエドに向かって突進していく。

エドはいくらか想像通りの展開になったことに軽く右の眉を心持ち上げて、仕方なく正面から突っ込んでくる男達を順番に蹴り飛ばしていく。


面白いくらいに簡単に蹴飛ばされていく冒険者達に見学していた他の冒険者が面白がってエドに向かって突撃を開始し始める。

その中にはキールの姿も交じっている。

エドは重いキールの一撃を体をよじって回避すると、そのまま回し蹴りを頭部に向かって叩き込む。

キールはすぐに両腕でエドの蹴りをガードするが蹴りの衝撃で30センチほど後ろに後退する。蹴りを受けた腕は赤く腫れあがり、ビリビリと痺れる。


キールとエドは同じAランク冒険者であるが、キールが斧で戦わない以上エドも本気を出すことはしない。

第一本気を出して戦ったら、せっかく集まった冒険者に大けがを負わせてしまう。


「執事になめられっぱなしで終われるかぁっ!」

ギルドのまわりにいた冒険者達が一斉にエドに向かって突っ込んでいく。

さすがにあの数は一度にさばけなかったらしく、エドは転移を使ってすっと冒険者達の後ろへと回り込む。

千夏は全く心配をしていなかったが、リルが不安そうに「エド、大丈夫かなぁ」と呟く。


「大丈夫、ラビが加勢するっ!」

リルの呟きにプチラビットは笑顔で答えるとかっと全身からまばゆい光を放つ。

光が消えた後にはエルザと同じ長身のうさみみをつけた美女が立っていた。ピンクの髪は腰まで伸び、紅い瞳が怪しく煌めく。

ひざ上よりも少し短い黒いボディスーツからすらりと伸びた足には白いハイヒール。きゅっとしまったヒップラインには小さなピンクのうさぎの尻尾。両肩をむき出しにしたすらりと伸びた手で軽く拳を握るアダルトうさぎ。

これで鞭でも持たれたらうさぎ女王と呼んでも過言ではないと唖然とその姿を千夏は見上げる。


「―――獣化?」

リルが茫然と自分より背が高くなったプチラビット……いやアダルトうさぎに尋ねる。

「というか、服装それなの?ちょっとそれ嫌かも」

千夏のぽろりと出た本音にプチラビットは困ったように自分の服装を確認する。


「お父様がこれが似合うって……。とりあえず加勢してきます」

プチラビットはそういうとぴょんと軽く10メートル程をひとっ跳びして間合いを詰め、エドに襲いかかろうとした冒険者達を背後からすらりとした綺麗な足で次々と見事に蹴り飛ばす。エドが怪我をさせないように苦心しているのはプチラビットも理解していたので、自分もパワーセーブする。

「……いいかも」

プチラビットに倒された冒険者達はうっとりとプチラビットの勇姿を倒れたまま見学する。


「逃げるよっ!」

千夏はプチラビットの手を引いてエド達とさっさと宿に向かって走り出す。

エドと並んだプチラビットはある意味とても絵になっていた。ドS執事と女王様うさぎ。怖すぎる。


宿に着くと千夏はしばらくの間獣化禁止をプチラビットが言い渡す。

「なんで?ラビ頑張ったのにぃ」

すでに獣化は解かれ、ぷくぷくとした頬がぷぅと膨らんでいる。

「服装がちょっとね……」

千夏は苦笑しながらプチラビットの頬をむにむにと触る。


「そうですね。ハイヒールは黒のほうがよかったかと」

エドがぽつりと呟く。

ぎょっと千夏がエドを振り向く。

「冗談ですよ。形だけのSは興ざめです」

エドは眼鏡をかちゃりと押し上げる。

まぎれもないエドの本音に千夏はただ深いため息をついた。


評価とご感想ありがとうございます。


なかなか書き出しがうまくかけず、気が付いたらこんなことに……。

スランプなのでしょうか(いつもこのレベルかもしれないけど)

たまにはエドの戦闘を書こうかなと思ったのですが、頭がまだまだぶっ飛んでいるようです……。


禁止されちゃいましたがプチラビの獣化の体術はそれなりに強いです。


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