閑話 200話SS ある雪の日の遊び方 前編
昨夜から降り続けた雪がフルール村全体を覆い、辺り一面がすっぽりと雪に埋まる。
あまりの寒さにタマとコムギと団子のようにくっついて千夏は丸まって寝ていた。
ごそりと起きだしたタマに気が付きコムギはぶるぶると身を震わせる。
「おはようでしゅ、コムギ」
「クゥー!」
タマがベットから抜け出してきたコムギに声をかける。コムギも尻尾をブンブンと振って元気よくタマに挨拶を返す。
「さ、さむっ……」
千夏はもぞもぞと布団を自分のまわりにかき集め、みの虫のように布団ごと体を包み込む。
再び寝入ってしまった千夏を見届けた後、いつものようにタマは朝の狩りのために部屋を出ていく。
起きてしまったコムギは退屈なので、タマの後をついていく。
「……?! 開かないでしゅ」
タマは外へと続く扉を開けようとするが、扉は降り積もった雪に塞がれたようで簡単には開きそうもない。
力を入れるとミシミシと木の扉が歪む。
「おはよう。タマ、コムギ」
レオンがやや遅れて玄関へとやって来る。
「レオン兄、おはようでしゅ。扉が開かないでしゅ」
「クゥー!」
タマとコムギと朝の挨拶を終えた後、レオンは近くの窓から外に顔を出す。
雪は窓の少し下まで降り積もっており、積雪は1メートル近くもあった。
「雪か……」
水竜でもあるレオンは魔法で雪を生み出すことが可能であるため、雪そのものの存在は知っていた。
だが自然に降り積もった一面の銀世界を見るのは生まれて初めてだった。
木や家の屋根に帽子をかぶっているかのように雪が降り積もり、地面に積もった雪は上ったばかりの朝日に照らされキラキラと光っている。たった一晩のうちに様変わりしたフルール村の幻想的な世界にレオンはパチパチと目を瞬かせる。
もちろん生まれて少ししか経っていないタマとコムギにとっても初めての雪景色だった。
タマは椅子を居間から持ち込み、椅子によじ登ると飛びついてきたコムギを抱き上げて窓の景色を眩しそうに眺めている。
「真っ白でしゅ」
「クゥー?」
コムギは以前千夏の誕生日に自ら捏ね上げたメレンゲを思い出したようだ。身を乗り出してくんくんと窓の外の匂いを嗅ぐ。
レオンはしばらく銀世界を鑑賞した後、窓からそのまま外へと飛び降りる。ずっぽりと体の半分程が雪に埋もれる。
続いてタマとコムギも窓から飛び出してくるが2匹はぼこりと完全に雪の中に埋もれてしまった。
ジタバタとタマとコムギは雪の中でもがくが、雪の中から這い出ることが出来ない。
「水温!」
レオンはタマとコムギを中心に氷の中の水分を加熱して雪を溶かしていく。
溶けだした雪の中からタマとコムギの姿が現れる。
2匹は溶けた雪水で全身びっしょりと濡れており、レオンはすぐに2匹の表面の水分を飛ばす。
「苦しかったでしゅ」
ふぅと大きく息を吐くタマをみてレオンは苦笑する。
「タマは竜に戻れば雪の中から抜け出せたぞ」
「あ、そうでしゅね」
タマは竜に戻ると降り積もった雪の中にざぶざぶと足を突っ込んでいく。ぎゅっぎゅっと踏みしめる感触と音が面白いのか、タマは繰り返し雪の上を楽しげに歩く。
「さくさくするでしゅ」
ペタペタとタマの足跡が新雪の上に刻み込まれていく。
そんなタマをコムギはうらやましそうに見上げる。
自分も雪で遊びたいが雪に突っ込んでいくとまた生き埋めとなってしまう。
「クゥ……」
コムギは少しつまらなさそうに手前の雪を前足でカリカリと軽く触る。
「タマ、狩りの時間よ!」
2匹の光竜が雪の上を何度も往復しているタマの元へと飛んでやって来る。
タロスとフィーアだ。
「行ってくるでしゅ」
タマはコムギに向かって一声かけると、翼を羽ばたかせ空へと登っていく。
コムギはレオンとタマを見送ると、することがなくなったのでぴょんと大きくジャンプし、窓を潜り抜け家の中へと戻った。
「しかしよく積もったわね。これだと雪かきが大変じゃない」
千夏は暖かいスープをすすりながら窓の外の雪景色を眺める。
今日は雪が凄いので城まで食べにいかず、千夏は屋敷で朝食をとる。
窓の外ではすでに朝食を食べ終えたセレナとアルフォンスがスコップで一心不乱に雪かきをしている。今日の修行は雪かきに変更になったようだ。
「この屋敷はアルフォンス様とセレナさんがいますから大丈夫でしょうが、村人達のほうが気になりますね。魔法で雪を溶かしてしまったほうが早いのではないでしょうか?」
エドは窓の外の主の働く姿を眺め、彼らが積み上げていく雪溜りをみて辟易する。
「消しちゃうのでしゅか?」
タマは窓の外の雪を見てぽつりと残念そうに呟く。
「んー、雪で遊びたい?」
エドがいう通りに雪は大人にとっては邪魔にしかならないが、子供たちには格好の遊び道具になる。
タマはこくんと頷く。
そもそもタマはどうやって雪で遊ぶのかすらまだ判っていないようだ。ここは千夏が教えてやらねばならない。
「そうだね。雪遊びと雪かきを一緒にやっちゃおうか?」
「一緒にですか?」
千夏の提案にエドが首を傾げる。
「うん。フルール村雪まつりってところかな」
千夏はほくほくと笑いながらさっさと食事を終わらせるべく口の中にパンを押し込んだ。
那留たちに頼んで村人全員を村長の家の前に集めると千夏はコホンとひとつ咳払いをして村人達に説明をする。
「今日は雪が凄いので畑仕事はできません。ということで今日はフルール村雪まつりを開催したいと思います」
集まった村人も竜も雪まつりと聞いてもピンとこない。
千夏は近くの雪の上で小さな雪玉を転がして村人達が見守る中、高さ一メートル程の雪だるまを作り上げる。
目には石を入れ、鼻の代わりに人参をさし、木の棒を短くきって両手を作る。
「「「「おおおう」」」」
村人達は感心したように千夏の稚拙な雪だるまを眺める。
「はい。これは雪ダルマという簡単な人形です。それと……」
千夏は手のひらサイズに雪を集めて、拾っておいた葉っぱを2枚耳代わりにさし、赤い木の実を目として埋め込む。
「これは雪うさぎです」
「「「「たしかに」」」」
村人達は可愛らしい雪うさぎをみてこっくりと頷く。
プチラビット達が千夏が作り上げたうさぎを欲しがったので、贈呈することにする。
「このように雪を使って雪像をみんなで作ることにします。これは参考例なので小さいものを作りましたが、できるだけ大きな見ごたえのあるものをみんなで手分けして作りましょう。
たとえば竜の形をした巨大な雪像とか。一番うまくできたチームには何か商品を出します。時間は今から夕方までの間です。みんな楽しんで作りましょう!」
千夏の説明を聞き終わると、なんとなく楽しそうなことだと理解した村人達は何人かでチームを作り始める。
雪像作りは作る過程も楽しいが眺めて見るだけでもなかなか楽しい。雪が溶けるまでこの村を彩ってくれるだろう。
「札幌の雪まつりか。一回やってみたいと思っていたんだ」
那留は張り切って竜に戻ると早速近くの雪をごっそりとかき集め始める。
ぐいぐいとうず高く雪を固めると那留は何を作ろうかと一回考えてから、おおざっぱに爪で雪の形を整え始める。
タマもレオンとコムギと一緒にチームを作る。作る場所はまだ雪が大量に残っている畑を狙ったようで、竜にもどったレオンが一足先に畑の一部へ飛んでいくとぎゅうぎゅうと雪を集め始める。
「コムギ、擬態できるでしゅか?」
魔物のままでは細かい作業は出来ない。タマがコムギに尋ねると、コムギは「クゥー!」と一声鳴きタマの足元に近づくとタマの気を吸い始める。
だいぶ擬態に慣れてきたのかタマの気を半分ほど吸ったところでコムギはタマと同じ姿をとることが出来た。
「コムギ頑張るでしゅよ!」
タマが元気よく手を上げる。コムギもぐっと片手をあげて嬉しそうに笑う。
「ター、コムギ頑張る」
気合を入れた2匹は竜達が雪をかき分けたためにできた空白地帯をつたってレオンの元へとちょこちょこと駆け寄っていく。
プチラビット達も楽しそうに何を作るか輪になってこしょこしょと相談を始める。
ルナは一人そこから抜け出すと千夏の前に立ち、跪くとぐっと千夏を見上げ懇願する。
「ご主人様、優勝の景品として『マスターを一日ご奉仕できる券』を所望します!」
――ナンデスカ、ソレハ。
千夏はくらりとする頭を手で押さえると、短くルナに指示を出す。
「……ルナは雪まつりのフィナーレの宴会用のごちそうを今から準備をすること。それといつものようにお昼ご飯作りもね。ほらみんな疲れておなかペコペコになるしね」
「――私には参加権すらないのですか」
僅かばかり無表情のルナの顔が曇る。
そう言われても全員で雪遊びをしたらお昼ご飯も晩御飯も食べられない。
「……後で肩叩きくらいなら付き合うから」
くっと根負けした千夏がボソッと呟く。
「食事は私にお任せ下さい」
ルナは満足そうに口元を吊り上げ、ほくほくとしながら城へと戻って行く。
何か大切なものを売り渡してしまったような気がしたのは、千夏の気のせいだろうか。
評価とご感想ありがとうございます。
クリスマス近いので悩んだのですが、クリスマスはクリスマスで別にしょうかと。
イマイチ潤い成分不足な感じに




