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スキルを取ろう

「とりあえずなりたい自分を想像して決めたらどうでしょうか?」

なかなか先に進まない千夏に男は声をかける。


「スキルなしでも問題ないですよ。あくまで特典ですから」

「それは嫌!くれるものは何でも貰う!そうだ、美味しいご飯がいつも食べれるスキルとかは?」

 千夏はテーブルに両手をついて男のほうに身を乗り出す。


「希少な食材を見つけるスキルですか?」

「それだと探しにいかなきゃいけないじゃない。面倒……」

「無から有にものを作り出すのは出来ないですよ。神ではないのですから」

 残念と呟き、再び千夏はソファーに身を埋める。


「じゃあ、貯めれるスキルってのは?」

「貯めるとは?」

「食い貯めとか寝貯めとかできるの。多く寝たり食べたりしたものを有効に使うだけだから、無ではないでしょ?」


「食い貯め……ですか……?」

(多少便利ではあるが何か意味があるのだろうか?)

 男は首を傾げる。正直あまり聞いたことがないスキルだ。


「自分自身の力ですから、無ではないですが。ちょっと判定しづらいですね。ちなみに何得ですか?」

「なんでわかんないかなぁ。いくらでも食べれてかつ満腹感が続くって幸せじゃなくて?」

 千夏が残念そうに男を見る。


(なんでそんな目で見るんだ。君のほうこそ残念すぎるよ……)

 男は再度小さく溜息を吐く。

「私にはちょっと……とりあえず、神様に聞いてみましょう」

 男は胸ポケットから小型の携帯電話を取り出し、登録されている番号をコールする。


(神様って……電話かけれるんだ……番号何番だろう?)

 じぃっと携帯を千夏は見つめるが、男の手に隠れて番号など見えやしない。しばらくコール音が鳴り響く。


『もしもし!誰だ勝手に着メロ変えたやつは!』

 ようやく出た神様らしき男の大きな声が携帯から飛び出した。


「普通の着信音だと出てくれないから、オシャレ魔女ミソラのOPに魂管理官が変えたんですよ」

 オシャレ魔女ミソラ……小学生向けのアニメである。


(なんか神様きもい……)

 千夏の頭のなかで代表的なオタク像が浮かびあがる。自分も十分引きこもりなのにオタクとは違うと思っているところが図々しい。


 男は千夏の提案したスキルの経緯を神様と話し込む。

『食いだめかぁ。そういえば人間にはできないな。ぐうたらするにはいいスキルだな。』

(あんたいつもぐうたらしてるじゃないですか)

 男は思わず突っ込みたくなった。


『いいんじゃね、貯めるスキル。そんじゃあとよろしく。』

 アニメの続きを見るべく、あまり興味ないことをさっさと終わらせようとして神は電話を切った。

(なんていういい加減な……まぁ、佐藤千夏嬢なら大した力にならないだろう)

 男はちらりとぽっちゃりした千夏をみて頷く。


 実はこのスキルかなりシャレにならないものであったが、千夏のぐうたら加減を見て神様も担当官もそのことに気が付かなかった。


「許可がでましたので、貯めることができるスキルの付与を認めます。以上で説明を終わります。この後すぐに転生を始めますが何かご質問はありますか?」

「はい!」

 千夏はすかさず手をあげた。

「はい……どうぞ……」

 うんざりしたように男は千夏を促す。定型的な言葉として質問がないかと尋ねたが彼女の場合、何を言い出すかわからない。


「そのスキルで思いっきり、例えば一週間分とか食べたらその分太るのかな?一か月分食べたらどのくらいな体積になるんだろうか……」

 最後のほうは独り言である。


「神様も同じスキルをお持ちですが、外見的にはかわってないので大丈夫だと思います。多分……」

「多分か……最初はまぁ様子見かなぁ。太らないならかなりラッキーだなぁ。あ、ちなみに転生した姿って今の姿なの?ぽっちゃりデフォ??」

 それはそれで嫌だなぁと千夏は呟く。


「いえ、佐藤千夏様の体は異世界にあわせた形で新しく作ってあります。細かい設定については別途転生窓口でお聞きください」

 講堂に出るドアと逆側についているドアのほうを指示して男は答える。


 どうやらさっさと出て行って欲しいらしい。

 無言の男の圧力を感じ、一応空気が読める千夏は「どうもでした」と一声かけてからとなりのドアのほうに歩いていく。

 ドアを開けると長い廊下があり、目の前に簡単な案内図があった。死神省案内と書かれており、その案内図から転生窓口を探す。廊下を左にいって2個目の角を曲がったところにあるらしい。

(どこかのオフィスビルみたいだなぁ……)

 きょろきょろしながら転生窓口に向かう。


(うわ、銀行のロビーみたいだわ)

 着いた転生窓口は大変混んでいた。横に並んだ4つの受付カウンターに綺麗な窓口嬢がずらりと並び、それぞれの横に電子掲示板で番号が表示されている。


 ロビーの入り口に案内の腕章をつけたお姉さんが千夏に気がつき、すぐに近寄って来る。もちろんさきほど講堂の案内をしてくれた女性とは別人(?)だ。


「佐藤千夏様ですね、こちら転生窓口の整理券とご記入用紙になります。こちらの用紙に必要事項をご記入の上、番号が表示された窓口へご提示お願いします」

 横にある用紙記載用台へと案内しながら、案内係の人が説明をしてくれた。


 転生台帳と書かれた用紙には千夏の名前や生前の年、住所等の情報が記載されている。そしてスキル欄には『貯める』という文字が記載されていた。


 紙を記載する台には記入例があり大変わかりやすくなっている。黒いボールペンを台から取り出すととりあえず記入をはじめる。


 記入箇所は以下の通りである。

 ・種族(人間、獣人、エルフ、ドワーフの4択)

 ※外見がかわるだけで各種族の特徴的なステータス強化点については今回の転生ありません。(特殊スキル付与のため)


 ・性別(もちろん2択)

 ・体型(身長体重それぞれにに大・中・小のざっくばらんな選択のみ)


 それだけだ。ゲームでアバターを作るようにいろいろ細かい設定はないようだ。

 なお年齢は死亡時の年齢となるそうで、髪、瞳や肌の色はその異世界で一番多い色になるらしい。


 ぽっちゃりだった千夏は普通が一番ということで、人間・女・身長と体重ともに中を選択。普通だと流通している服とか種類多くて安いくていい。あのスキルが本当にいくら食べても太らないのであれば今後ダイエットする必要がなくなる。


 千夏の脳裏に過去失敗しまくったダイエット体験が浮かんでは消えた。あの辛い日々が今後一切死ぬまでないという解放感がこみあげてくる。


 用紙に記入し、順番待ちのため椅子に腰かけた千夏はひとり不気味にニマニマと笑い続ける。


 そして自分の番がくると窓口に行き用紙を渡す。窓口嬢が記入漏れがないことを確認した後、転生台帳を受付横にあるボックスに入れる。そのボックスに用紙をいれたとたんに、音もなく用紙が消え去った。


「手続きはすべて完了しました。左手の奥の青い扉があります。あちらに入っていただくと転生が完了いたします。よい人生を!」

 にっこりと受付嬢が営業スマイルを浮かべたのを見届け、千夏はなんの躊躇もなく青い扉に向かって歩き出した。


誤記を修正しました。

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