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エキドナ

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

《煉獄の双剣》はゴーレムの群れに飛び込むと、青白い炎を発する双剣で次々とゴーレムの関節部分を切り裂いていく。走り抜けながら装甲が固いゴーレムをたった一振りで動けない状態に追い込んでいく。


「すごいの!」

《煉獄の双剣》がこじ開けた道をひたすら走ってついていくセレナが目を輝かせる。

これがドラゴンをも一人で倒すと言われるSランクの実力か。

自分が同じことが出来ないということが悔しくもあるが、あまりの実力の差にただ圧倒される。


千夏はというとセレナ達のスピードに合わせて走るだけで精一杯で周りをみている余裕はない。

プチラビットは千夏のすぐ後ろを小走りについてくる。その紅い瞳にはまっすぐに正面のエキドナが映し出されていた。


『カエリタイ……ユルセナイ……』

エキドナの悲しくも怒りに滲んだ声が聞こえてくる。

プチラビットの瞳にはエキドナを包む黒い深い闇が見える。


凄まじい勢いで正面のゴーレムを切り裂き、《煉獄の双剣》が迫り来るのをエキドナは冷然と見下ろす。その手は素早く動き次から次へとゴーレムを量産していく。


「ちっ」

《煉獄の双剣》は舌を短く鳴らすと駆け抜けながらも呪文を詠唱しはじめる。

(大技くるで!)

《煉獄の双剣》の膨れ上がる魔力にシルフィンが叫ぶ。


「『紅蓮の炎(ブレイズ)』!」

彼の前方20メートル程の半円形に紅蓮の炎が渦を巻き火柱を上げる。

以前千夏が王都でカトレアから教わった火の上級魔法だ。しかも後ろからついてくる千夏達に影響を及ぼさないようにしっかりと発動範囲を限定している。千夏には出来ない芸当だ。


ストーンゴーレム達は燃え盛る炎に包まれ形を保てずにボロボロと崩れていく。

エキドナも迫りくる炎にわずかばかり後退する。

「今だ、前に行け!」

ゴーレムの生成が止まったのを見逃さずに《煉獄の双剣》が叫ぶ。


エキドナはこの炎のすぐ先にいる。

未だに炎が多少くすぶっている中をアルフォンスとセレナが突っ込んでいく。

千夏とレオンは急いで水膜の魔法を走りながら全員にかける。


『……ニンゲン』

エキドナは駆け寄ってきたアルフォンスに鋭く腕を振り下ろす。

剣とエキドナの爪が交差し、ガキンと重く低い音を立てる。


「尾先を攻撃して!封印石を取り出すの!」

千夏の声にセレナは背後に回り込もうとするが、エキドナが大きく口を開け強酸を口から吐き出してくる。

「うっ!」

セレナは身を捻り、真横へ飛んでかろうじて酸の攻撃をよける。


正面から突っ込んでいったアルフォンスにエキドナが再び腕を振るう。

リルがすぐにアルフォンスに向けて物理結界を展開する。

エキドナの一撃は物理結界に阻まれるが、逆の手をすかさずアルフォンスに振り下ろす。

エキドナの攻撃を待っていたアルフォンスは剣を頭上に掲げ、爪攻撃を弾き飛ばす。


エキドナを出来るだけ傷つけずに注意を引くということは容易ではない。大振りに突っ込んでは鋭いエキドナの一撃をギリギリにかわし続けなければいけない。

今度はセレナが剣を大きく振りながらエキドナに向かって突っ込んでいく。

普段鍛錬で一緒に剣を振るい続けた二人が息の合ったタイミングで交互にエキドナに攻撃を仕掛けていく。


(アルフォンスとセレナが注意を引き付ける。その間になんとか後ろに回り込むんや!)

タマとレオンがそしてコムギが左右に分かれてエキドナの背後に向かって走り始める。

千夏は蠢く蛇の尾に向かって「フリーズ」の魔法を連発する。

しかし幻獣は魔法抵抗高いのか一瞬氷漬けとなるが、すぐにパキンと氷が打ち破られる。それでも動きを止められるのであればと千夏は魔法を連発する。


エキドナはストーンゴーレムを召喚していることを考えれば土属性の幻獣だ。

火魔法は効くが水や風などはあまり効きが悪い。かといって火魔法を使えば傷つけてしまうだろう。


『ニンゲン……ユルサナイ!』

エキドナは暗い怨念が籠った瞳で交互に突進してくるアルフォンス達を見下ろす。


エキドナの上半身はアルフォンスとセレナが下半身は辛うじて千夏が抑え、タマ達は周囲に群がるゴーレム達をなぎ倒しながらエキドナの背後に向かう。

他のゴーレムで死角になっていたのか、レオンの隣を走るコムギが横から出てきたゴーレムの一撃を受け、後方に吹っ飛ぶ。


「コムギッ!」

千夏の背中に冷たい汗が流れる。

コムギは何度かバウンドするとぐったりと横倒しに倒れる。慌ててコムギにリルとレオンそして千夏が回復魔法を同時にかける。

「コムギを殴ったでしゅね!」

タマはコムギが倒れたのを見た瞬間に竜へと戻り、襲い掛かってくるゴーレムに次々と体当たりをかける。


よろよろとコムギは起き上がるとタマが作り出した隙間を縫って猛然とエキドナに向かって走り出す。

物理攻撃が効きにくいゴーレムを相手にコムギが戦うのは不利だ。千夏としては後ろに下がっていて欲しいところだが、コムギは戦うことを選んだ。

爛々と金色の瞳を輝かせコムギはエキドナの尾に噛みつく。


エキドナは不愉快そうに眉をしかめると尾を左右に大きく振る。齧りついたコムギがブンブンと左右に大きく振られる。コムギは必死に尾に爪をくいこませ体を固定しながらエキドナの気を貪る。


フリーズの魔法を使っていた千夏はコムギが噛みついたことで魔法を止め、気を練り込んでいく。

エキドナの隣に大型のプレス機を作りあげると千夏はエキドナの尾の上から巨大な平べったい気の塊をぐぐぐと押し込んでいく。プレス機の重圧でエキドナの尾は徐々に地面へと押し付けられていく。


唯一プレス機の重圧を受けていない尾先をコムギが気を纏った鋭い爪で抉る。

『アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』

エキドナは上半身をくねらせ、苦痛の声を上げる。


コムギはエキドナの悲鳴を聞きながらも尾先を抉り続ける。

「エキドナ、我慢して」

プチラビットは苦痛に呻くエキドナを祈るようにじっと見守り続ける。


「クゥ!」

ガリッと爪先に何かが当たるとコムギは顔を突っ込んでそれを口にくわえて取り出す。

プチラビットはコムギが咥えているものが封印石だとわかるとぴょんと飛び跳ねて前線のアルフォンス達と並ぶ。


「エキドナ!もう帰れる!暴れるのはやめて!」

かっとプチラビットから眩い光が放たれる。それは光属性のプチラビットの癒しの光だった。

その光でエキドナの体につけられた無数の切り傷と尾の裂傷がみるみる塞がれていく。


千夏は眩い光の中、気を解放しプレス機を壊す。

エキドナは目を見開き、同族のちいさなうさぎを食い入るように見下ろす。

『……プチラビット?』

「そうだよ!やっと気が付いてくれた」

プチラビットは嬉しそうにぷにぷにとした頬を緩める。


コムギは封印石を咥えたまま千夏の傍に駆け寄ってきた。

体内から取り出すだけではエキドナは幻獣界には帰れない。


「それ壊さないとね」

コムギがころりと地面に置いた封印石を千夏はファイヤーランスで粉々に撃ち砕く。

封印石が砕けた瞬間エキドナを縛り付けていた見えない楔が解き放たれるのをプチラビットは目を輝かせて見守った。


『オオオオオオオオオオオオ!』

エキドナは全身を震わせ歓喜の声を上げる。エキドナの瞳には涙が溢れ、暗い瞳の色が湖水を思わせる深い碧へと変わっていく。


「感激しているところで悪いんだけど、ゴーレム止めて!」

千夏はタマとレオンが相手にしているゴーレムにファイヤーランスを撃ちながらエキドナに向かって叫ぶ。エキドナの封印は解かれたが、戦場ではまだストーンゴーレムが暴れている。


エキドナは千夏を見下ろし、美しい眉を吊り上げる。

「駄目だよ、手を出しちゃ!私のご主人様(マスター)。エキドナの封印を解いてくれたの」

プチラビットが千夏をかばうように前に飛び出しじっとエキドナを見上げる。

千夏の隣ではコムギが臨戦態勢をとり、上半身を屈めエキドナを警戒する。


エキドナは無言のまま千夏から視線を外し、ゴーレム達と人間の戦いを一瞥すると右手を振り上げる。それを合図に戦場にいた全てのストーンゴーレムが一瞬で砂となりかき消えていく。


戦場にいた冒険者、兵士達は敵が突然かき消えたことにぽかんと口を開けたまま固まる。

「……終わったか。さすがに少し疲れたな」

《煉獄の双剣》は両腕に構えていた剣を背中の鞘に納めると、千夏達を振り返る。彼が一人で倒したゴーレムはおよそ1000を軽く超える。


『ヒトノコヨ。レイハイワヌ。ダガ、オマエノコトハ オボエテオク。……500ネン、ナガカッタ』

エキドナはじっと千夏を眺めた後、空を見上げる。

徐々にエキドナの体がキラキラと光り消えていく。


最後の魔物が完全に消えたことで、戦場にいた殆どの人々が崩れるようにどっと地面に崩れ落ちる。

歓声を上げる余裕はなかった。


キールもポーチから取り出した体力回復剤をぐびっと飲み干し、大きな体を屈め地面に座り込んだ。

「初日からBランクの魔物4000近くと戦闘かよ。中央大陸は一体どうなってるんだ」

相方のエルザも刃こぼれした剣を見て溜息をつく。ここにいた殆どの前衛の武器が破損しただろう。鍛冶屋の順番待ちを考えると頭が痛い。


ご主人様(マスター)、みんな。本当にありがとう」

プチラビットは千夏達を見上げて嬉しそうに笑った。




同刻、ネバーランドの魔女の城で成り行きをじっと見守っていたプチラビット達が歓声の声を上げる。

「「「「やったぁ!」」」」

突然お盆を空中へと放り投げたプチラビット達に食事のために集まっていた村人達は目を丸くする。


「どうやらマスター達は上手くやれたようですね。お礼に私の特製マッサージ券10枚セットをお渡ししないと。ああ、早く帰ってきてください。精一杯おもてなししますよ、マスター」

ルナは娘たちの喜ぶ姿を眺めながら、いそいそと手書きのマッサージ券を作り始めた。

評価とご感想ありがとうございます。


ラストまた台無しだーと言われるような終わり方をしています。

なんとか終わりました。シリアスはやっぱりうまく書けないです。

申し訳ありません。

主人公あんまり活躍してない?

次回は200話です。いまだに設定が決まっていません(キリッ

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