遺跡
「まだか?」
大神官はイライラしながら、配下の魔術師に尋ねる。
「もう少しお待ちください」
何度目かわからぬ同じ問答を繰り返されていたが、生真面目に魔術師は同じ答えを返す。
ここはカガーン南西にあるひっそりとした森の中にある古い遺跡だ。
地上部は何者かに破壊されたのか、建物としての機能を失い苔むした岩がゴロゴロと散乱している。
その岩岩に隠されるように地下へと延びる通路がある。
暗い地下を照らすのは数本の蝋燭のみ。ゆらゆらとわずかばかりの明かりが揺れ、焦燥感にかられた大神官の顔を照らす。
数日前、魔物が攻め込んできたという第一報を受けた大神官は神兵をただちに聖都の前に展開させた。
だが30分も経たないうちに魔物達に追い込まれいった。
このままでは聖都は陥落する。
そう考えた大神官はわずかばかりの腹心を連れ教会の抜け道を通り、聖都を抜け出してきたのだ。
聖都に置き去りにしてきた民のことなど彼は全く気にしていなかった。
ただ、ただ自分の都を襲ってきた魔物が憎かった。
この遺跡の地下は特殊な結界で閉じられていた。地下へと延びる岩壁の通路の先は一見行き止まりにしか見えない。
結界を解くことによってのみ地下室への道が開かれる。ここに仕掛けられた結界を古文書に記された通りの方法で解くことができ、彼らは昨日やっと地下室へと足を踏み入れた。
地下室は狭く部屋の中心に台座が置かれており、その台座には30センチ程の漆黒の水晶が置かれている。その水晶を中心に何重にも折り重なった魔法陣が浮かび、魔術師が古びた書物をひとつひとつ確認しながら、魔法陣を解除していく。
「……本当に封印を解いてもいいのでしょうか?」
大神官とは対照的にでっぷりとした体をゆっくりと動かし、額から噴き出る汗を布で拭いながら学院長が尋ねる。
彼は聖都にある神官及び神兵養成学院の責任者だった。
「まだそんなことを言うのか。神兵たちは敗れたのだぞ。他に聖都を取り戻す手段などないではないか。大体お前の教育がなっとらんから、こういう事態になったのではないか?」
コツンと杖をつき、ギロリと大神官は学院長を振り返り睨み付ける。
「――申し訳ありません」
更に吹き出てきた汗を拭い学院長が丸い体をさらに丸めて大神官に向かって謝る。
「学院長。古文書の通りであれば、数万の味方を手に入れることができるのですよ? 何を不安に思う必要があるのです」
小心者の学院長を嘲笑うかのように同じく控えていた神殿長が口元を吊り上げる。
神殿長と学院長は大きな派閥の2大巨頭であり、最大のライバルであった。問題の古文書を見つけてきたのは神殿長であり、彼は自分が提案した案がすんなりと通ったことに満足していた。
学院長はそもそもこの案を持ってきたのが神殿長であるということだけでも却下したいところだが、大神官がすっかり乗り気になっている。下手に否定的な意見をいうと彼の機嫌が悪くなるのだ。
そもそも神殿長のいう通りに問題がなければ今のこの状況を打破する大きな鍵となりうるが、だとしたらなぜそれだけのものを過去の大神官がそれを封印したのか。それがどうしても学院長は気になった。
「心配事ですかな?」
神殿長は黙り込んだ学院長を目を細め見下ろす。
「なぜ過去の大神官はこれを封印したのでしょうか? これだけの兵器があれば、ハマールやエッセルバッハにでさえ勝てるでしょう。神殿長はお分かりになっているのですか?」
大神官に聞こえない程度の小さな声で学院長は神殿長に尋ねる。
「たぶんうまく制御できなかったのでしょう。古文書によるとかれこれ500年ほど前の出来事です。その頃といまとでは魔法技術が雲泥の差ですからな。従束や従魔などの拘束魔法ですらなかった時代です。制御不能なため強固な封印をせざるえなかったのでしょう。魔法の歴史については私より学院長のほうがお詳しい。余計なことを言いましたかな」
神殿長はさりげなく胸を張り、ちらりと学院長を眺める。勝ち誇ったようなその視線を受け、学院長はぐっと黙り込む。
神殿長は学院長の歪めた顔をみて満足そうに微笑む。
「無駄話をしている間に、そろそろ全ての封印がとけるようです」
長年結界と封印術式によって守られていた漆黒の水晶がピシリと音をたて小さなヒビが浮かび上がる。
水晶が完全に砕け散った時に、ここに封印されていたモノが蘇る。
「大神官様、従魔魔法のご準備をお願いします」
神殿長は恭しく大神官に向かって頭を下げる。
「分かっておる」
大神官は枯れ木のような細い両腕を振り上げ、従魔などを縛り上げる従魔魔法の詠唱を始める。
アレが復活した瞬間に拘束を成功させなければならないのだ。
ひび割れた水晶からはゆらゆらと黒い靄が吹きだし始める。
「次で最後です」
魔術師は大神官に向け言葉を発すると真剣な表情で最後の魔法陣をいじり始める。
ビシビシビシッ。
魔法陣が崩れ去ったと同時に水晶に無数のヒビが入り、ついに水晶は砕け散った。
黒い靄は水晶の真上にすぅっと集まり一塊になる。徐々に靄は輪郭を作り上げていく。
『……リタイ、……カエリタイ……』
暗い女のうめき声が聞こえてくる。
いつしか黒い靄が晴れ、そこには上半身は人の美しい女性の姿、下半身が巨大な蛇の一匹の獣の姿が現れた。
「命ある限り主の命に従え、従魔契約!」
大神官はその姿を確認すると獣に向かって呪文を放つ。
獣は先ほどまで譫言のように呟いていた口を閉じ、じっと大神官を暗い瞳で見下ろす。
「動きが止まりましたな。効いたようです。大神官様、おめでとうございます」
神殿長はほっと胸をなで下ろし、大神官に向かって恭しく頭を下げる。
「一万の兵とはどこにおるのですか?」
水晶から現れたのはこの獣一匹だけ。詳しい話を聞かされていない学院長が怪訝そうに神殿長に尋ねる。
「この魔物は大量のゴーレムを召喚できるのだよ。さぁ大神官様、ご命令を!」
意気揚々と神殿長が朗らかな声で大神官に向かって声をかける。
いよいよ聖都奪還だ。無事聖都を取り戻せば、次の大神官候補は自分になるはずだ。
「うむ。蛇女、カガーン聖都に行き魔物を倒すのだ!」
大神官は外へと続く道を示し、獣に向かって命令をする。
だが獣はじっとこちら暗い瞳で見つめてだけで動かない。
「従魔魔法が効いていないのか?」
大神官は不審そうに魔術師に尋ねる。
魔術師は持っていた古文書に何か書かれていないかと、ペラペラと頁をめくりながらざっとななめ読みしていく。
「行動を封じる結界がまだあったようです。これのせいかもしれません」
魔術師は最後の封印を解くために、古文書に書かれている呪文を唱え始める。
水晶が置かれていた台座から巨大な魔法陣が起動され、獣を取り囲みぐるぐると一回転した後、ぱぁっと光がはじけるように消えた。
動けるようになった獣は両手を軽く持ち上げる。洞窟内の岩がボコボコと隆起し、ストーンゴーレムが生成されていく。
「ほら、凄いだろう?」
神殿長は自慢そうに起き上がってくるストーンゴーレムを見上げる。
『ワレ ヲ シバリツケル ニンゲン ニ ワザワイ アレ!』
獣の瞳は暗い怨恨の炎が揺らめき、ゴーレム達に命令を下す。
ゴレーム達は一斉に大神官達を包囲すると、巨大なこぶしを振り下ろす。
とっさに魔術師が物理結界を張り、何とかゴーレムの一撃を食い止める。
「ど、どういうことだ!」
大神官が神殿長に向かって怒鳴りつける。神殿長はぽかんと口を開けたまま襲いかかてくるゴーレムを見上げている。
「言い争っている場合ではありません。逃げないと殺されます!」
魔術師が必死に何重もの防御壁を張るが片っ端からゴーレムに破壊されていく。
獣はすでに大神官達に興味をなくしたようで、ずるずると光が指す出口へと這っていく。
『……カエリタイ』
封印されていた水晶が粉々に砕けた頃。
ネバーランドの魔女の城で元気に働いていたプチラビット達がぴたりと立ち止まり、ピクピクと一斉に西のほうへ耳を向ける。
「「「「みゅ!」」」」
プチラビット達はこくんと小首を傾げる。
「エキドナ?」
「エキドナだよ」
「だよね?」
食堂に点在していたプチラビット達は一か所に素早く集まる。
「悲しい」
「つらい、苦しいよ」
「「「帰りたい」」」
ぽろりとプチラビットは一粒涙をこぼす。
「どうしたんだい?」
ぷるぷると震え始めたプチラビット達にルナは優しく声をかける。
「「「「「お父様ぁぁぁ」」」」」
プチラビット達はルナに群がり縋りつく。
十数匹に一気に飛び掛かられたルナはその場でしりもちをつきながらも、しっかりとプチラビットたちを抱きしめる。
ルナは娘たちをなだめ、なんとか彼女達の話を聞き出すことに成功する。
「なるほど。それで場所は判るのかい?」
「判るよ。ご主人様と同じ西にいるの」
ぴょこっと片耳を倒しプチラビットは答える。
「カガーンなら転移石があったね。ご主人様と会ってお願いしてごらん? きっと叶えてくれるよ。全員で行く必要はないよ。誰か一匹でいいからね」
ルナがそう告げると、プチラビットたちはルナの上からどいて円陣を組んでこそこそと相談をし始める。
その日の昼。魔女の城の屋上にある転移石を使って一匹のプチラビットがカガーンへと転移する。
小さなうさぎはオールソンよりおよそ北へ20キロ地点に設置された転移石から飛び出すと、一目散に南へと向かって駆け出した。
ご感想とブックマークありがとうございます。
今回も説明回です。
次話も半分ほど書いているのですが・・・
うーん、癒しが足りない気が・・・
200話ネタを先に持ってこようか悩んでいます。
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始まりは夕食の定食の奪い合いでした。
第1回ニルソン杯(仲裁)
チーム対抗フルール村横断借り物障害物リレー
最後に笑うのは大食い女王か、竜の長老か?!
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とか?(嘘です。癒しとは逆方向だ、これ)
(でも半分くらい本気?)
とりあえずゆっくり考えてみます。




