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冒険者ギルドにて

船は多少洞窟の岩に当たって傷ついていたが、航行が可能であった。

随分と寄り道をしたが、3隻の船は無事にカガーンの最南端であるオールソンの港町へとたどり着く。


「無事で何よりです」

直前までセイレーン討伐の準備を進めていたマイヤーが船から降りて来た千夏達を見つけて声をかける。

ハマールから耐幻覚用マジックアイテムが届き、いざ出発というところでクロームから待ったがかかったのだ。「セイレーンは勇者達に任せる」と。


「レオンとタマのおかげ。耐性のスキルなんて持っていないから今回はまずかったわ」

千夏はぽりぽりと頭を掻いて苦笑する。

「お疲れでしょう? 宿を取っておきました。一度休まれてから緊急対策本部に顔を出していただけると助かります。マックス、チナツ殿を宿までご案内しろ」

マイヤーの後ろでびしっと背筋を伸ばし立っていた小隊長は「はっ!」と短く敬礼して答えると少し緊張をしながら千夏達を宿へと案内する。


「あいにくとまともな宿はあまりありません。申し訳ないですがここでよろしいでしょうか?」

小隊長が案内をしてくれた宿はつい最近までマイヤーが使っていたこの街で一番いい宿で、建物自体はあまり大きくないが頑丈な石で建てられており、隙間から風が入り込んだりしないこざっぱりとした宿だった。


千夏はあまり宿のランクは気にしていない。宿で気になる点は2つだけだ。ご飯がおいしいことと、コムギを泊められるかどうかだ。コムギが一緒に泊まれない場合は天幕で生活するつもりだった。


だがそれも杞憂で済んだ。ハマールの皇太子宮でのごたごたに遭遇していたマイヤーが事前に宿屋の主と交渉してくれていたので、すんなりとコムギを部屋へ連れて入ることが出来た。


荷物は全てアイテムボックスに入っているため宿で広げる必要もなく、船で十分に休養していたので冒険者ギルドに出かけて到着報告を行うことにする。

到着報告の必要がないアルフォンスは先に対策本部へと出かけ、エドはこの街の食糧事情を確認するためギルドに入れないコムギと一緒に市場へと向かった。残りのメンバで宿からすぐ近くにあった冒険者ギルドへと千夏達は足をのばす。


「うぁ、後でくればよかった。失敗したなぁ」

ギルドの扉を開けると千夏達と同時に船でついた大勢の冒険者たちでギルド内はごった返している。

千夏達と同様に到着報告する者、早速情報を集める者等、窓口はもとより掲示板のほうにも人が溢れかえっていた。


「あそこでお茶飲んで落ち着くのを待とうか」

千夏はギルド内の食堂を指さす。食堂のほうもいささか混んでいたが、まだ空席はある。

先に身軽なタマがチョロチョロと走り、空席を確保する。同じく空席を狙っていた冒険者がタッチの差で間に合わず、ちっと短く舌打ちをした。


「おい、坊主。ここは子供の遊び場じゃないんだぞ。別のところに行けよ」

タマにとっては聞きなれた罵倒だったので、完全にスルーして席がとれたことを千夏達に手を振って合図していた。


完全に無視された大柄な剣士の冒険者が更にタマに向かって文句を言おうと口を開けると、近くの冒険者がそれを押しとどめる。

「止めとけ。小さくても立派な冒険者だ。あの子に俺は助けてもらったんだからな」

「あの坊主にか? はっ。お前相当ランクが低いんじゃないか?」

止められた剣士は小柄な相手を見下しふんっと鼻で笑う。


止めた男は先程この街についたばかりなので薄汚いマントを着たままだった。肌は浅黒く南国諸島特有の黒髪の持ち主で少し細めのたれ目が特徴的な男だ。

身長は不満気に文句をいっている冒険者より20センチも低く、横幅もひょろりと細長い。


「ランクを言われると痛いなぁ。幻覚耐性魔法をとらなかったことを失敗したと反省しているよ。ところでこの街で転写魔法は受けられるのかな? せっかくだから幻覚耐性魔法を取っておきたいところだね」

小柄な冒険者はへらへらと笑う。細い目が更に細くなる。


セイレーンの話題は今この街では有名だ。

目の前のへらへらと笑う男がどのくらいの強さなのか計り知れないが、今回はAランクの冒険者もセイレーンに惑わされたはずだ。その件を大声で馬鹿にして多くの敵を作る程の勇気を剣士は持っていなかったようだ。ちっとまた舌打ちをしてその場から離れていった。


「あの……タマを庇ってくれてありがとう」

千夏は小柄な細めの男に向かって軽く頭を下げお礼を言う。

「いやいや、これくらいのこと。こちらこそ助けてもらってお礼も言えてなかったし。ありがとうな」

男はタマに向かってにんまりと笑いかける。


タマがこくんと頷くと、男は「じゃあな!」と手を振って窓口のほうへと去って行った。

その男の後ろ姿をじっとレオンが見つめ、ぽつりと呟いた。

「人にしては魔力が多いな。チナツ程ではないが。あの男強い」


「うん。隙がなかったの」

レオンのつぶやきにセレナも同意する。

彼は背中には2本の長剣を背負っており、剣士のようだった。同じ剣士として出来れば一度手合せをしてもらいたいとセレナは思っていた。


千夏はというとすでに食堂のメニューに釘づけになっており、どれを頼もうかと頭を悩ませていた。

いつもなら全部頼むところだが、出掛けにエドに「この街は現在物資の流通が悪いはずだから、暴飲暴食を避けるように」と釘を差されていたからだった。


「ところで、今回冒険者ランク上げたほうがいいの?」

ずっとランクアップするようにとギルドに言われ続けて、そのまま放置し続けていた問題をセレナは先程の男たちのやり取りで思い出したようだ。


最近はBランクの魔物なら一人で倒せるようになってきた。ランクアップしても問題ないとセレナは判断したようだ。


「そうだねぇ、今回の魔物討伐はギルド主催みたいだから、必然とランクで行けるところが決まりそうだよね。リルとレオンはEランクだっけ?パーティの平均ランクが受注可能ランクだった気がするから、そうなるとDランクになっちゃうよね」

メニューから目を離さないまま千夏が答える。


今回は勇者としてではなく、一冒険者として緊急招集に参加することにしたのだ。低ランクのままだとそもそも受注が出来ないかもしれない。マイヤー達のほうに参加すれば問題はないだろうが、そうなると必然的に勇者扱いを受けることになる。出来れば目立ちたくはないというのが、千夏達の要望だった。


「ランクアップ試験が可能か聞いてくるの。チナツ達はここにいるの。ついでに到着報告してくるの」

セレナはそういって席を立つと4人分のギルドカードを受け取り受付窓口の列に並ぶ。


ずらりと列は長いがセレナは待っている間に冒険者たちの装備を興味深げに眺めていた。

多種多様の武器がありそれを眺めているだけでも十分セレナは楽しい。


「あら、セレナ?」

受付から戻ってきた長身の女剣士が列に並んでいたセレナを見つけ声をかける。レゴンで知り合ったエルザだった。

「あ、お久しぶりなの。エルザも来てたの」

セレナは嬉しそうに尻尾をピンと立て、エルザを見上げる。相変わらずぷるんと揺れる豊かな胸が少しだけうらやましかった。


「さっき着いたばかりよ。セイレーン騒動に巻き込まれてしまってね」

少し自嘲気味にエルザは笑い、肩をすくめる。

「お、セレナか。相変わらず小さいな」

のっそりとエルザの後ろから巨熊のようなキールが現れる。


「小さくないの!二人が大きいの!」

セレナがいうようにエルザは周りにいる男たちよりも頭一つ背が高い。それよりも大きなキールとエルザの二人連れはとてもよく目立っていた。


少しだけ二人と話した後、夜に一緒にご飯を食べる約束をして、エルザ達は一足早くギルドを出ていく。今日は狩りに参加せずに港町周辺の地理を確認しに行くそうだ。

無計画なトンコツショウユとはさすがに違う。いままでいざとなったら転移か竜に乗っていたのでおおざっぱな方向だけ確認して、詳しく地形を知らなくても何とかなっていたのだ。


エドが地図を買ってきそうだが、だぶっても問題はないだろう。二人を見習ってセレナも地図を買おうと心に決める。


「はい。お待たせしましたぁ」

少しくたびれた声で受付嬢がセレナに話しかける。やっと順番が回ってきたようだ。

「到着報告とランクアップ試験を受けたいの」

セレナは全員分のギルドカードを受付嬢に手渡し、用件を伝える。


「ランクアップ試験ですか」

素早く到着用のマジックアイテムにギルドカードを差し込みながら、受付嬢はギルドカードの情報を読み取る。

「……確かに。2つの街のギルドでランクアップ試験要って記されています。えっと今立て込んでいるので、一番暇そう……いえ、ギルド長に見てもらいましょう」

受付嬢がごにょごにょと言葉を濁し、カウンターの後ろで事務をしていたギルド職員を呼ぶ。


「こちらです」

ギルド職員に案内されセレナは2階のギルド長の執務室へと通される。相変わらず小心者なセレナはなんとか長と名がつく偉い人には弱い。おろおろと勧められた椅子に腰をかける。


海の街のギルドだからなのか、ギルド長はまっ黒に日に焼けたかなり体格の良い中年の男だった。現役時代はハルバード使いとしてそれなりに名をはせた彼は、セレナから渡されたギルドカードの情報をマジックアイテムにいれてじっと読み取っている。


確かに彼女のパーティが倒してきた魔物を見る限り、CランクやEランクなどというランクでは低すぎるだろう。それ以前に称号の「勇者」という文字を見て一瞬ギルド長は固まる。パーティ名も噂の「トンコツショウユ」となっており、勇者がこの街にくるという話もあったし間違いないだろう。


だが目の前でせわしなく視線を動かしながら緊張しているセレナを見て、何かの間違いではないかとギルド長は首を傾げたくなった。どこからどうみても可愛らしい犬系獣人の女の子である。


「あの、試験受けれるの?」

じっとこちらをみて固まっているギルド長に向かってセレナは尋ねる。出来ればさっさと用件をすませて千夏達のところに戻りたい。


「ああ、すまん。用件は4人のBランクへのアップだったな。Aでなくていいのか?」

「はい。まだAランクは自信がないの」

素直にセレナは頷く。


上級魔族まで倒しておいて自信がないとはいったい……。

思わず突っ込みたくなったが、ぐっとそれをギルド長は抑え込む。


「ではランクアップ試験を行おう。準備がいるので、明日また来てもらってもいいか?」

「分かったの」

セレナはカードを返してもらい、ぺこぺこと頭を下げて部屋を逃げるように出ていった。


「本当に勇者か?」

一人取り残されたギルド長は唖然とそれを見送った。

評価とご感想ありがとうございます。


新キャラに懐かしの二人を出してしまいました。


妄想話で書いていたおでんが食べたくなり、今日はおでんです。

最近寒いのに更に強風と雨で寒いですね。皆さまお体にお気をつけてください。


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