出発
領主館に翌朝集合した千夏たちは2頭だての馬車に乗ってゼンの街を出発した。御者台にエドとセレナ。馬車の中にはアルフォンスと千夏。馬車の屋根の上にタマという配置だ。
セレナは馬の操り方をエドから教えてもらっていた。4人のうち馬車を操ることができるのはエドしかないので予備としてセレナが教わることになった。
といってもセレナはまだジャガイモの呪文がうまくかけられないため、アルフォンスから逃げたというのが正直なところだ。
貴族の馬車だけあって揺れはあまりひどくはない。千夏は心地よい揺れにうとうとと眠り始めた。
アルフォンスは屋根の上にのって知らんぷりをしているタマをエサで呼び寄せようと、干し肉を振り回しながらしきりに「タマ、タマー」と叫んでいる。
「まったく騒音以外何者でもないですね」
エドはアルフォンスの叫び声に対して不快そうに眉をしかめる。
「エドさんはなんでアルフォンス様に文句いえるの?」
セレナが不思議そうに質問する。
「エドで結構です。あと後ろの騒音は様をつけなくてよいのですよ。なぜ私が主人に向かって暴言を吐いているかでしたね?まぁ、主教育の一環です。あのまま領主になられても困りますので。甘やかしすぎはよくありません。
あなたは主人の護衛ですが言いたいことは言って聞かせたほうがあなたのためです。なにせ世間しらずのわがままボンですから」
眼鏡を押し上げながら淡々とエドは答える。
「ん。努力するの」
こくんとセレナが頷く。
「旅は長いのですから、あまり気を張っていてはだめですよ。なんならあの騒音にこの石を投げつけてもいいですよ。いい憂さ晴らしになります。程よく身を乗り出していますから当てやすいですよ」
どこから出したのか拳大の石をエドはセレナに渡そうとする。セレナはぷるぷると首を振って受け取りを拒否した。
「できないの。無理なの」
「そうですか、残念です。私の位置からは当てられませんからね」
本当に主教育のために厳しくしているのだろうか?何かが違うの……とセレナはちょっぴりエドが怖くなった。
「さて、王都には行かれたことはおありですか?」
「ううん、行ったことがないの」
「ゼンの街から王都まで行くまでに、大きな流れでいくとまずはシシールの港町を目指します。そこから船に乗り、パワン海を越えてミジクの街で再び馬車に乗り換えて王都となります。ゼンは辺境ですからね、王都まで20日ばかりかかります。今晩はロア村に泊まることになります」
「ロアの村はいったことあるの」
「では、練習でロアの街まで手綱を預けます。頑張ってください」
エドから手綱を渡された、セレナは(失敗しちゃだめなの。怒られるの怖いの)と必死に手綱を握りしめた。
そろそろお昼というところで馬車を一旦止め、休憩に入ることになった。昼食はエドが作ることになっている。どこから取り出したのかポット、ナベや食材がどんどん馬車の周りに積み上げられる。
「へぇ、エドさんも空間魔法使いなんだ」
千夏はごはんができるまで暇だったので、エドの近くに椅子を寄せて見学していた。
「はい。空間魔法を中級まで取り扱えます。と申しましても私は魔法は空間魔法しか使えませんが。アルフォンス様こちらの薪に火をつけてください」
「うむ。まかせろ」
エドが積み上げた薪に向かってアルフォンスがファイヤーボルトを打ち出す。ひょろひょろーと小さな火が空間を走って薪に火をつける。
「相変わらずな火力でとても調理向きですね」
「うん、そうだろう、そうだろう」
エドはまったく褒めていないがアルフォンスは大いばりである。
「俺は火と土の魔法が使えるのだ。何かあれば言え。手伝ってやるぞ」
千夏とセレナに向けてさわやかにアルフォンスは笑う。
(なんか見たくれは結構いいのにいろいろ残念な子だなぁ……)
千夏は生ぬるい目でアルフォンスを眺める。
「魔法も使えるが俺の本業は剣士だ。セレナと一緒だな。食後に打ち合いをしないか?ずっと馬車で体を動かしていないので疲れるのだ」
セレナが返事に困っているとエドが助言する。
「ぜひ相手をしてあげてください、セレナさん。疲れ果てるまでボロボロに打ちのめしてくだされば午後は静かになります」
「……わかったなの」
エドが作った食事はとてもおいしくアルフォンスと千夏が競っておかわりをする。もちろん千夏が余裕で圧勝できるのだが、食料を食べつくすわけにはいないので自重した。
食後のセレナとアルフォンスの剣の打ち合いだが、予想に反して結構アルフォンスは剣を使えることが判明した。最初は手加減していたセレナが真剣に剣を打ち合う。
しばらく食後の休憩をした後、食事にいっていたタマを千夏が呼び寄せ、一行はロアの村へと馬車を走らせた。
誤記を修正しました。
主人公が動かないので出した主従コンビが目立ちすぎてしまいました。
どうしたものかと悩んでいます。




