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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
はじめての街
17/247

領主様(?)からお呼ばれされました

 おなかがすいたタマに起こされ、千夏は朝食をとったあとタマをつれて門へと向かっていた。山賊退治から二日後である。


 いつものように門をくぐり、タマを放し冒険者カードを兵士に見せて、さっさと宿に帰ろうとした千夏を顔見知りの兵士が呼びとめる。


「チナツ、ちょっと待ってくれ。山賊退治の報酬がでるので、領主様の館にいってくれないか」

「今から?」


 千夏はこれから帰ってもう一眠りしようとおもっていたのだ。

(領主様って早起きなの?もっとぐうたらしてるのかと思ってた)


「いや、昼頃でいい。セレナにもそう連絡がいってるはずだ。あと、必ずあの従魔もつれて行ってくれ」

「タマを?なんで?」

「珍しい従魔をみたいそうだ」

 とりあえずわかったとうなづくと千夏は宿にもどっていった。いくら千夏でもさすがに今日の約束くらいは忘れないだろう。


(領主様に会うなら一応身ぎれいにしておいたほうがいいか)

 しばらくベットでごろごろした後、千夏は公衆浴場でひとっ風呂浴びることにした。


 お風呂の中で体をぐっと伸ばす。

そういえば着ていく服があったっけなと持っている服を思い出す。


(まぁ冒険者にドレスとか上等な服なんて誰も求めないよね……。

となると冒険者の正装といえば、ふつうは冒険用装備だよね。お金なかったから、装備なんにも買ってないんだよね。でも最近タマが稼いでくれているからなにか買えるかも?)


 千夏は十分温まってからお風呂からあがり冒険ギルドにいってから武器屋に向かうことにする。

武器屋は冒険者ギルドの隣にある。店にはいるとむすっとしたドワーフの親父がじろりと千夏を見る。


「なんか用かい?お嬢ちゃん」

「金貨10枚くらいで買える装備が欲しいんだけどある?」

 親父は防具が置いてある場所にいくと一番手前の胸当てを差し出す。


「うちの一番安い防具だ。これで金貨6枚だな。こっちにあるライトアーマーが金貨10枚だ。

お前さん武器もなんももっちゃいねぇが冒険者か?初心者なら胸当てと弟子が作った一番安い剣で金貨10枚が妥当だろう。

まぁ剣は頑丈なところしか取り柄がねぇがな」

 ふんっと鼻をならして親父は千夏を値踏みする。


(あー、お客をお客と思ってないこの態度。

近所のラーメン屋のおやじに態度がそっくりだわ。あそこのとんこつ醤油味のラーメンおいしかったなぁ。

そういえばこっちにラーメンはあるのかな。今度ウォルに聞いてみよう)

 千夏はぼんやりとラーメンに思いを馳せる。


 黙り込んでいた千夏が不機嫌になったと勘違いした親父がさらにいう。

「なんでぃ、不満なのかい?俺が鍛えた剣は最低でも金貨8枚はするぜ。また金貯めてからきな」


 前回きたときは金貨2枚で買えるものがないかと聞いたあと、千夏は無言の親父に店から放りだされた。

 どうやら覚えていたらしい。


「とりあえず、その胸当てを買うよ。ちなみに杖はいくらするの?」

「魔法使いか。ふんっ。一番安い杖で銀貨6枚だ。多少詠唱速度が速くなる程度のもんだがな」


 うーんと千夏は悩む。

(無詠唱になるなら欲しいけど、ちょっとだけ早いだけなら今はいいかな…。

今の詠唱速度にそれほど不満はないし。どちらかというと何回も連続で唱えるのが面倒なんだよね)


 千夏は金貨6枚を払い鉄の胸あてを買う。

親父はその場で胸当てを千夏につけさせ、隙間がないかを確認した。

「ほかのサイズの胸当てを持ってくる。ちょっくらそこで待ってろ」


 そういって工房のほうに入っていった。

 しばらくして親父が持ってきた胸当てはぴったりと千夏の体にあった。


(売ると決めたらきちんと仕事する。職人なんだなぁ…)

 千夏は親父の仕事に満足していて店を後にした。


 そのあと千夏はウォルのところにいき、ラーメンがあるかを確認した。

「ラーメンってなんだ?」

「んと、丼にお汁と麺が入ってる食べ物かな?あと具が入ってるの」

「ああ、それなら知ってるぜ。そこの道を1つ目の角を左に曲がったところの食堂でみたことがある」


 さっそく向かってみた食堂にあったのはスープパスタだった。

(これはこれでおいしいけど……)

 千夏は複雑な気分でスープパスタをすする。もちろんおかわりをした。




 スープパスタでおなかがいっぱいになった頃、領主との約束の時間になる。

タマを呼び戻し、この街の一番奥にある領主の屋敷まで千夏は歩いて行った。


「うわぁー、やっぱり大きいなぁ」

 領主の屋敷は頑丈な石作りの二階建てで、スペースが普通のお店10個分はある。


屋敷の門の両側には兵士が二人ずつ立っている。

千夏は名乗ってからギルドカードを門番にみせた。事前に連絡がいっていたようで、千夏の頭に止まっている珍しい従魔をみんながじっと眺めている。


「とりあえずこっちだついてこい」

 案内してくれる兵士の後に続いて千夏は門をくぐる。


門から屋敷までの間は広い石畳がが続いており、馬車がとまれるように玄関前スペースは広くなっている。

石畳の両側には手入れがされた庭があり、初夏の今は色とりどりの花が咲いていた。


 玄関につくと玄関わきにある小さなノッカーを兵士が数回たたく。

中から黒いフロックコートを着た背筋をまっすぐに伸ばした男の人が出てくる。


白銀の髪をビシッと固め、フレームレスのメガネをかけている。白髪ではなくもとからの髪色のようだ。30台前半のきりっとしたなかなかのイケメンである。


「当家へようこそ。こちらへどうぞ」

 執事は優雅な礼をすると、千夏を屋敷の中へ誘導する。

千夏は執事の後に続き、大きなエントランスホールを抜けて赤い絨毯がひかれた長い廊下を歩いていく。



しばらくすると執事は一つの扉の前に立ちどまり、扉をノックする。

「こちらでしばらくお待ちください」

 彼は扉を開け千夏に入るように促す。


中の部屋は十畳くらいの応接室で革貼りの豪華なソファセットが置かれていた。

奥の席にはセレナが緊張した様子で腰かけていた。ほかに人は誰もいない。


千夏はセレナの横に腰かけると、セレナは黒いつぶらな瞳ですがるように千夏をみる。

「チナツ待ってたの。心細かったの」

 よしよしとセレナの頭をなでる。


ついでにさりげなく耳も触る。

(うわぁ、もふもふだ)

 しっとりとした毛並み思わず千夏はにやける。


 執事は千夏にお茶をいれ、冷え切っていたセレナのお茶を新しいものにかえて一礼して部屋を出ていく。

ティーカップに注がれていたのなぜか緑茶だ。

(こっちは紅茶がないのかなぁ……)


 千夏はテーブルの上に来た時からおいてあった焼き菓子に手をのばす。その反動でぐらりと頭上のタマが揺れる。

すぐにタマを頭の上から膝上に移動させ、お菓子を頬張る。


 しばらく待ってみたが誰も現れる気配がない。

(人を呼び出して待ちぼうけさせるとは、やはり貴族。なかなかやるなぁ)


 セレナは緊張のあまり声がでないらしくじっと黙っている。千夏はあまりにも暇すぎてついにうとうと眠りはじめた。


 それから五分くらい後に、千夏たちがいた部屋の扉が勢いよくバンと開かれた。

びくりとセレナは扉のほうをみる。


「ニュー」とタマも扉をみて一声なく。

千夏もその音で目が覚めて、入ってきた人物をぼんやりと眺める。

 スタスタと彼は足早に歩き、向かいのソファにどさりと座り込んだ。



「待たせたな、辺境伯バーナムの息子アルフォンスだ」

 勝気そうな青い瞳にやわらかそうな茶色の髪をしたセレナと同じくらいの少年が自己紹介をする。


 セレナが慌てて席を立ち礼をするので、千夏もそれにあわせる。

「ぼっ、冒険者のセレナなの」

「冒険者の千夏です」

「まぁ座れ」

 少年は2人の挨拶に頷く。千夏とセレナは再びソファに座る。


「父上はお忙しいゆえ、俺が代わりに今回の報酬を渡すことになった。エド、例のものを」

「かしこまりました。こちらでございます。アルフォンス様」


 先ほどの執事が小さな布袋を持ってアルフォンスの目の前の机に置く。アルフォンスはその布袋をずいっと千夏たちの前に押し出す。


「これが今回の謝礼だ。受け取るがいい」

「あ、ありがとうなの」

「ありがとうございます」

 とりあえず布袋は千夏が持つことにする。セレナはまだ緊張でガチガチなのだ。


「ところでその従魔をもっと近くでみさせてくれ」

 彼は千夏のひざでうつぶせで寝ているタマを目を爛々とさせながら見続ける。

「アルフォンス様は従魔マニアなのでございます」

 アルフォンスの後ろにびしっと立っているエドがぼそりという。


 マニアという単語が気になったが、とりあえず膝上にいたタマをつかんで千夏はテーブルの上に載せる。

「ニュー」

「おお!鳴いたぞ。聞いたか!エド」

「はい。鳴きましたね」

 大興奮のアルフォンスに面倒くさそうに答えるエド。


「こんな従魔はみたことがない。なんだこの角は。すごくきれいだ!名は何というのだ?どんな従魔なのだ?」

「名前はタマです。種族はルビードラゴンです」

「ドラゴン!!聞いたか!エド」

「はい。聞いております」


 アルフォンスはがしっとタマを頭上に持ち上げ、ひとり大興奮である。

「おお、これがドラゴンか。すごいぞー。お、幼竜ですらこんなに鋭い鉤爪なのか。なんでも切れそうだな。それにこの瞳!英知あるドラゴンにふさわしい神秘的な瞳だ!」


「お茶のおかわりどうですか?ああなったら長いですから」

 エドは主人を無視して千夏とエレナに尋ねる。

「じゃあ、お茶ください」

 千夏は新しいお茶を入れてもらうことにした。


 エドがお茶を入れている間に何度もアルフォンスが「聞いているのか?エド!」と話かける。

「はい。聞いております」

 エドは適当に答えてお茶を入れ終わると千夏の前に差し出した。


「ニュー?(蹴っていい?)」

 と段々うっとおしくなってきたらしくタマが鳴く。一応貴族なので、千夏は左右に首を振った。


「はいはい、そろそろいい加減にしましょう」

 スコーンとエドはアルフォンスの後頭部をたたく。アルフォンスはうっと軽く呻いた。


「痛いぞ、エド!」

 しれっとした顔でエドは主人を見る。

「後でいくらでも見れるのですから、お先にお二人にご依頼をされたらどうです?」


(いくらでも見られる?依頼?)

 なんのこっちゃと千夏は怪訝そうにエドを見る。

「おお、そうであった」

 アルフォンスはちょっと落ち着いたらしく。ソファに座りなおす。



「俺から二人に依頼があるのだ。俺の護衛として王都まで一緒に行ってほしい。ギルド長の許可はもうとってある」

「それって、断れないってことですか?」

 千夏が嫌そうにアルフォンスではなくエドに聞く。


「はい。そういうことになります」

 にっこりとエドは微笑んだ。


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