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呪いの指輪(旧魔女の城 ⑥ページ修正)

魔女の城⑥をから呪いの指輪に変更しました。

「やっと帰ってきたぁ!」

千夏は転移して辿りついたフルール村を眺める丘の上に立っていた。魔女の城の転移石から中央大陸に戻り、さらに転移してここまでたどり着いたのだ。


ぞろぞろと村に向かって歩いていくと、村人達が千夏に気が付き駆け寄ってくる。

「領主どん、お帰りなさい」

代わる代わる村人達が千夏へ声をかける。村人達の顔はとても嬉しそうだ。

なにせ突然領主が失踪して、村人全員で探し回っていたのだ。


「ただいま。心配かけてごめんね」

千夏は駆け寄ってくる村人達に何度も声をかける。

「本当に領主が帰ってきて喜んでいるのね」

少し後ろを歩き村人達に囲まれる千夏を見て茜はぽつりと呟いた。


「ここの村人達は気がいい人ばかりなの」

セレナは自慢そうに胸を張って笑顔で答える。

「おかえり、チナツ。お帰りなさいガーシャ様」

村人達だではなく竜達も集まってくる。来る前に話には聞いていたが、茜は唖然と竜を見上げる。


「キューイ。お前確か魔法マニアだったよな。この人はお前と趣味が合うぞ」

のそりと現れた火竜を見上げて那留が茜を紹介する。

「それは楽しみだな」

ずいっとキューイと呼ばれた火竜は茜に顔を近づけ、少し短い前足を差し出す。


茜はごくりと唾を飲み込むと、差し出された大きな前足に手を軽く触れる。鱗で覆われていてとても固い。キューイは茜が手を差し出してきたことに軽く笑うと、そのまま人の姿に変化する。


「同じ高さで話さないと、首が疲れそうだな。後で俺が考えた魔法陣を見せよう」

燃えるような赤毛を腰まで伸ばし、三つ編みで一本にまとめたがっしりと筋肉に覆われた40台半ばくらいの男が現れる。


ぴくりとセレナはその姿を見つめる。セレナはそのままキューイに近寄り、さわさわと胸の筋肉を触り始める。

『筋肉ぅぅぅぅぅぅぅぅ!』

以前聞いた覚えがある声にアルフォンスとエド、そしてレオンがセレナを茫然と見つめる。


「どうしたんだ、お嬢ちゃん?」

キューイはさわさわと触りまくるセレナにくすぐったそうに答える。

『素敵な胸筋!』

セレナがぴたりとキューイの胸に飛びつく。すぐに我に返ったエドがセレナの後頭部を手刀で素早く叩く。


「どうしたの?」

村人に囲まれた千夏が、突然セレナを殴り倒したエドに向かって尋ねる。

「……どうやら憑かれているようです」



「呪いの指輪ね……」

指輪がはまった指から懸命に指輪を外そうと、もがいているセレナを千夏は気の毒そうに眺める。

あのあと茜に指輪をよく調べてもらったら、呪いの指輪だということが判明したのだ。

千夏はのんびりとタマを膝に乗せ湯船に浸かる。コムギはプカプカと湯船をゆっくりと泳いでいる。


「魔法陣で出来ているなら壊して外せたかもしれないけど、怨念だと私には手が出せないわ」

こちらも久しぶりの湯船を満喫している茜が、気の毒そうにセレナを眺めている。


「鑑定もできるなんてすごいよね」

「魔力を帯びているものはね。その代り私は前世界の知識の大半を失ったわ。電気と呼ばれるものを使ってどうやって電車が走っているのかすらわからない」

「というか、私もよく判らないから。大丈夫」

千夏はへらへらと笑って答える。千夏の気の抜けた笑顔に茜もつられて笑う。


「不思議な人ね。領主って偉い人なんでしょう?」

「そうかもしれないけど、私は私だもの。多少体裁は整えても、変わりようがないよ」

しみじみと千夏の顔を覗く茜に千夏は笑って答える。膝の上のタマが「ちーちゃんはちーちゃんでしゅ」となぜか得意そうに胸を張る。


「領主どん、こりゃいい湯だね。ありがたい」

新しく湯船に入ってきた村の老婆が千夏に向かってにかっと笑う。

「効能はよくわからないけど、体を温めると腰とかにいいんだよ。のぼせない程度にゆっくり浸かってね」

老婆に向かって笑い返す千夏を茜はのんびりと眺める。

自分は自分か……。


「とーれーなーいーのぉぉぉぉ!」

石鹸で泡だらけになった指を高く掲げセレナは泣きべそをかきながら叫ぶ。

明日王都の教会にでも行って外してもらおう。千夏は不憫なセレナを見て苦笑した。





「俺たちは竜の秘薬を探しに行ってくる。セレナのことは任せた」

翌朝。旅支度を整えたアルフォンスは、うつうつとテーブルに顔を乗せへたり込んでいるセレナを憐れむ。セレナの代わりに那留が一緒に行くことになった。

出発だとアルフォンスに言われ、レオンは抱き上げていたコムギを渋々と下ろす。


「まぁとりあえず王都の教会にでも行ってみるよ」

「そうしてくれ。じゃあ、何かあったら連絡よこせよ!」

アルフォンスはそう答えるとエドがそのまま途中まで登った山に向かって転移魔法をかける。一瞬で消えた4人の姿を見送ると、千夏はテーブルでへたっているセレナに視線を向ける。


「ほら、セレナ行くよ」

千夏に呼びかけられ、セレナは重い足取りでこちらに向かってくる。

「俺も行っていいかな? 治療部隊と教会は親密だったし。多少力になれるかもしれない」

リルはコムギを抱き上げて千夏に聞く。もちろん千夏には異論はない。


千夏達はエッセルバッハの王都に転移し、王都の入口をくぐる。

タマの身分証明は新たに千夏が発行しなおして、今はミジクの農民の子ではない。ネバーランドの領主の息子となっている。どうみても古着を着込んだ領主の母子に、エッセルバッハの門番は何度も千夏達の身分証を確認していた。


「やっぱり服はもうちょっとましなものを着た方がいいのかなぁ。でもお金勿体ないよね」

ぶつぶつと千夏は呟く。

「あまり王都に来ないから、来る時だけの特別な服があってもいいんじゃないかな」

リルはセレナの手を引いて歩きながら千夏の独り言に答える。そういえば以前買った黒のスーツがあった。あれを着てくればよかったのかと千夏は後悔する。


「タマの服は幻術と一緒だから買わなくて済むのがお得でいいよね」

千夏はタマとつないだ手をぶんぶんと振り回しながら機嫌よく歩く。

「お得でしゅ」

タマもご機嫌に答える。

一国の領主なんだからもう少し贅沢をしても、罰は当たらないと思うけどなとリルは二人を見て笑う。


千夏はケチケチしているわけではないし、豪快にお金を使う。使いどころが身の回りではなく、食事か領地関係なだけだ。


リルは千夏からお給料が払われている。名目は領地執政官。セレナも同じだ。

何もしていないのにお金だけもらうのは心苦しいと断ったが、リルの治療で村人達が感謝していたよと言われると断れなかった。お金は貯めておいていざというときに千夏に渡せばいいのだ。リルはそう割り切ることにした。


以前魔族に壊された中央広場は全ての残骸が取り払われ、コツコツと店が作られている。まだ全てが完全に元通りではないが、街には活気があった。


「あら、タマちゃんじゃない?」

野太い声が後ろからかけられる。リルは振り返って、相手の姿をみて固まった。ピンクのフリルがふんだんに使われたブラウスに、ピチピチの白いパンツをはいた栗色の見事な巻き毛の偉丈夫が立っていた。

彼はタマに向かって両手を可愛らしく小さく振る。


「ランドルフっ!」

千夏はその姿を見てひくりと顔を歪ませる。悪い人ではないが、相変わらず奇抜な格好だ。

「あらチナツお元気? セレナはどうしたの? 元気ないじゃない」

くねくねと体を揺らしながらランドルフが近寄ってくる。


「こちらは連れ? 女の子に見えるけど?」

ぬっとランドルフの顔が目の前に近づき、リルは思わず後ずさる。

「可愛いけど、成人した男の人よ。女の子に間違えられるの嫌っているんだから、気を付けてよ」

千夏がそういうと、ランドルフはすぐにリルに向かって軽く頭を下げる。


「あら、ごめんなさいね。私のことはランちゃんって呼んでね」

ランドルフは太い腕を突き出し、リルの腕を掴むとぶんぶんと振り回す。

「……チナツこのひとって?」

「女嫌いのSランク冒険者のランドルフ。エドの知り合いで以前お世話になったの」


『筋肉ぅぅぅぅぅ!』

千夏がランドルフの紹介を嫌々リルにしたとき、キラリとセレナの眼が光りランドルフに抱き付く。

『はぁはぁ……この上腕二頭筋が素晴らしいわ……』

さわさわとランドルフの腕を掴みうっとりとセレナが呟く。


「いやん、セレナ。お触りはだめよ!」

ぺしっとセレナをランドルフが小突く。軽く小突かれたくらいでは元に戻らないようだ。セレナははぁはぁと言いながら、ランドルフにまとわりつく。

見るに堪えない友人の姿に千夏は、泣きたくなる。


「ランドルフ、セレナは正気じゃないの。ちょっと気絶させてほしいんだけど」

自分ではうまく手加減できないので、千夏はランドルフに頼み込む。すとんと、ランドルフは後ろに回した手でセレナの後頭部を叩く。ふらりとセレナは倒れるが、ランドルフは腕ですぐに支える。


「とりあえず、教会までセレナを運んでくれる?」

「いいわよ」

ランドルフはセレナをよいしょと肩に担ぎあげる。

(エドといい、この人といいなぜ荷物運びなのだろうか。かといってお姫様抱っこも嫌だよねぇ)

ぷらぁんとランドルフの背中で、口をあけて気絶しているセレナの姿を見て何か千夏は物悲しくなる。


奇怪なフリル男が気絶した獣耳の女の子を背負っている姿を、街を行く人達は唖然と眺めている。


「チナツ、早く教会に行こう」

リルは恥ずかしそうに下を向いて千夏を催促した。



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