魔女の城 (2)(改訂版)
内容を全面見直しました。
「誰かが入ってきた?」
グリーンからイエローにマジックアイテムが変化する。
誤って城の防衛装置を起動してしまい、必死に止める手段を解析していた茜は変化したマジックアイテムを愕然とした表情で見つめる。
この城の防衛装置を止めるまで誰にも近づけさせないようにと、城の周囲に物理結界を張ったのだがそれが突破されたようだ。
くるくると複雑に絡み合う複数の色の魔法陣が困惑した茜の顔を照らし出す。
「お願い、帰って。この城は危険なのよ!」
関口茜は今年32歳を迎える。電子工学の最先端である研究所で働く、バリバリのキャリアウーマンだった。茜は仕事を誇りに思っていたし、当分結婚するつもりはない。仕事がとても楽しかった。
「たまには帰ってきなさい。和明が子供達を連れて帰ってくるから、それに合わせてあなたもうちに顔を出して頂戴」
ここ1年ほど実家に帰っていなかったので、何度も母にせっつかれていた。帰れば結婚がどうのとかいろいろ言われるのが一番嫌で仕方ない。だが、毎晩母からの電話攻撃も堪える。兄達と一緒に顔出せば多少矛先がそれるかもしれない。兄が家に顔出すと聞いた日に合わせて茜は実家に寄ることにした。
「全くお母さんには疲れるわ」
途中まで帰りが一緒であったため、兄達家族と一緒に帰ることになった。その電車の中で茜は盛大な溜息をつく。
「今と昔では違うことを知らないんだよ」
兄はつり革に捕まりながら茜を見て笑う。
「私ね、もう少し研究を頑張りたいの。仕事が面白くてたまらないのよ。子供はいずれ欲しいけど、今はね……」
茜は目の前の座席に座り、楽しそうにはしゃいでいる兄の子供達を見下ろす。そんな時だった電車の脱線事故が起きたのは。
親族ということで、5人揃った状態で死神局員という男に事故の説明を聞かされた。幼い子供達は状況を全く理解できていない。不思議そうに母親である典子を見上げていた。
死んだということに茜も実感がわかない。欲しいスキルは?と聞かれて、茜は自分が今まで貯めた知識と同様の最先端技術の知識が欲しいと答えた。茜には仕事しかなかったからだ。
「最先端ですか……あなたの知識を変換するとしたら、魔法工学ですかね」
男は少し考え込んでから答えた。
「それがその世界での最先端技術であるならば異論はありません」
茜は座った姿勢でぎゅっと自分のタイトスカートを握る。
「おい、茜。それでいいのか?」
兄の和明が茜の選択に口を挟む。
「ええ、出来れば研究材料がある近くに私を送ってください」
茜は兄の声を無視して男に告げる。茜もいきなり死んだと言われて混乱しているのだ。研究に没頭出来ればいろいろ考えないで済む。
「分かりました。他の方は場所に拘りがないようですから、みなさん同じ場所に送りますね」
兄達がどのようなスキルを取得したのか、茜はまるで関心がなかったので覚えていなかった。街に着くと早速所持金をすべて食べ物に替え、茜は街の人から聞いた古の魔女の住処へと向かった。
古の魔女の住処だという巨大な岩で出来た城は、長年放置されていたので荒れ放題だった。城は広く、なかなか目当ての研究材料が見当たらない。それでも茜は黙って城の中を一つ一つ確認していく。やがて城の一番上にある部屋の奥に複雑な魔法陣で隠された部屋を見つける。
その部屋の中にはおびただしい数の魔法陣が何重にも積み重ねたようにうごめいていた。魔法陣は全てマジックアイテムから起動されており、所狭しと置かれたマジックアイテムの数だけでも数百を数える。
茜はその魔法陣の解析にのめり込んだ。魔女の住んでいた部屋と思われる場所にはアイテムボックスを固定化した食糧庫があり、自分一人がしばらく食いつないでいける食料があったことも幸いする。
この世界に来て2か月。煩雑な魔法陣の一部を読み解いた頃、茜は少しずつ実際に解析できた魔法陣を起動実験することにした。
茜には大した魔力はなかったが、ここの魔法陣はシステムとして構築されているため魔力を必要としていなかった。研究はやはり推論だけではなく実験して証明することが必要だ。
ときおりこの城の近くに人がやって来ることがあったが、城の中までは入ってくることはなかった。
茜は繰り返し実験を行うことに夢中になった。
数種類の魔法陣の起動実験を経て、ついに城本体の防御システムに手を出す。実際に盗賊などが侵入してこない限り防衛機能は働かない。動かすだけ動かしたが、実際に人で実験するわけにはいかず、データが取れないことが残念であったが起動実験を終了しようと魔法陣に手を伸ばす。
「えっ、何で止まらないの?」
茜は何度も魔法陣に綴られた文字を見直す。停止させるための術式がうまく発動しないのだ。今まで起動実験した他の魔法陣と同様の魔法陣を作り出してみたが、全て失敗に終わる。
一から大量の魔法陣を見直しする。途中で2つほど読み解けない魔法陣にぶつかり、茜は髪を掻きむしる。焦燥感だけが募り冷静な判断が出来なくなっていた。
「……大丈夫、私なら解ける。時間をかければ解けるはずよ」
茜は城の範囲一キロをカバーする物理結界を展開し、煩雑に絡んだ魔法陣をじっと見つめた。
崩れたエントランスホールで唯一残った階段のすぐ近くに那留は身を寄せ、その背中から千夏と太郎は飛び降りる。二人が無事階段に降り立ったことを確認した後、那留は人の姿に戻る。竜の巨体ではそのまま次の階へと続く扉をくぐれないからだ。
「罠がよくわかんねぇけど、とりあえず先に進むか。お前らは体が頑丈じゃないから、俺から離れてついて来い」
那留は飄々とそう言うと、再びズボンのポケットに両手を突っ込んで歩き始める。
ぐるりとカーブした階段を上ると道幅2メートルほどの廊下が奥まで続いていた。廊下にはいくつものドアが立ち並んでいる。
「とりあえず真っ直ぐ行くか」
那留はぽりぽりと頭を掻きながら廊下を真っ直ぐに進んでいく。薄暗い廊下を進むと少し広めのホールに突き当たった。
「なんかありそうだな」
那留は一度立ち止まって、ホールの中を覗き込むがよくわからない。まぁ進んでみれば判るだろう。
なるようになれだ。
那留がホールに一歩足を踏み入れると、両側の岩壁がボコボコと隆起を始める。岩壁から生み出されたのはストーンゴーレム達だった。数はおよそ10体。
「援護よろしく!」
那留はそう叫ぶと、ストーンゴーレム達に向かって走り出す。
「ファイヤーランス!ファイヤーランス!」
千夏はゴーレム達に向かって炎の槍の雨を降らせる。
『うーん、ゴーレムね。この国の人は魔法があまり使えないようだから、ゴーレムがこれだけいたら脅威になるかもしれないわね。ゴーレムは物理防御が高いしね。でも相手が竜じゃあまり意味がないかも。70点って所かしら。』
千夏の肩に乗ったアンジーはクリスの仕掛けについてそう評価する。
千夏の魔法で体を抉られたゴーレム達に、那留は細い腕で痛恨の一撃を加え続ける。関節部分を殴られたゴーレムはそのまま体が分解し、中央の胴体を殴られたゴーレムもピキピキと体にヒビが走る。
那留が怪我したときのためにと治療薬を片手に見守っていた太郎は、那留の動きについていけず「えっえっ?どこ?」とキョロキョロと那留の姿を探す。
千夏が容赦なく炎の槍を飛ばしてくるので、那留は炎の槍を避けながら次々とゴーレム達にダメージを与えていく。
全てのゴーレムが起き上がれない状態まで崩れる。それを見届けた千夏は魔法を放つのを止める。
「ちったぁ加減しろよ!」
那留は動けなくなったゴーレム達の核を潰しながら、千夏に文句を言う。
「俺はスピード特化じゃねぇの。結構ギリギリだったんだからな」
「ごめん、ごめん。以後気をつけるよ」
千夏は素直に謝る。千夏の前衛の基準はセレナとアルフォンスになっている。那留はどちらかというとパワーファイターだ。前衛の特性を理解し、後衛は補助を行う必要がある。
「しかし、燃費わりーこの体。すげぇ腹減ったぞ」
那留は動かなくなったストーンゴーレムの上に腰かけ、少し情けない声を上げる。
「ここなら広いから竜に戻れるんじゃない?これでも食べて栄養補給でもしてね」
千夏はアイテムボックスから数匹のカツオを取り出して床に並べる。那留が竜に戻ってカツオを食べている間に、千夏はお茶と茶菓子を取り出し、太郎と休憩をする。
「この城何階まであるんだろうね」
「外から見たら結構高そうに見えましたね」
「だよね。私だったらこんな広い家には住みたくないなぁ。上り下りするだけで疲れちゃいそう」
千夏ははぁと溜息をつく。
「とりあえず登ろうぜ。夕方くらいまでには上に着くだろう。風の妖精王の言う通りなら、城の主要部に転移石がありそうな気がするしな」
「わかった。タマ達が待っているし、頑張るよ」
千夏は茶器をアイテムボックスに片づけると、気合を入れて立ち上がる。
だがすぐに千夏は盛大に文句を垂れることになる。
3階へと上がった瞬間に大量の水が怒涛のように押し寄せて来たのだ。すぐに水膜を全員の体にかけるが、例の一階のエントランスホールの落とし穴のほうまで押し流される。慌てて那留が千夏と太郎を回収する。
「なんなのこの城は!!!!」
千夏の叫びが城の中で木霊する。
評価とご感想ありがとうございます。
★前話との差分
佐藤千夏
Lv 183
生命力 18,300(335,680)
魔力 21,840(431,120)★-12,000
気力 50(1,100)
持久力 400(13,910)★-60
Str 193(6,172)
Vit(DEF) 193(+防具10)
Dex 374
Int 556
Agi 356
Luk 44




