山賊と泥沼
ドンペン山は自然の宝庫である。有名なものは、スィートベリーとシャントレルという高級キノコだ。また獲物も多く猪、鹿、兎なども多く生息しており、食材や獲物を求めて多くの狩人や商人が通っていた。
しかし、ここ1年ほど山賊が山に住み着いたため、武装をして山に入らなければならなくなった。辺境伯バーナムも数か月に一回山に兵士を送り込み山狩りを行っていたが、山を知り尽くした山賊たちに逃げられ、あまり成果があがらなかった。
山賊たちは、にやにやと笑いながら千夏達を囲み始める。冒険者らしいが結局のところ女二人連れ。しかも一人は丸腰である。こちらは8人、負ける要素がまったくない。実にいいカモである。
「さっさと有り金全部だしな。命だけは助けてやらぁ」
リーダーであるマッコイは、ドスの効かせた声で再度うながし、相棒であるバトルアックスを背中から抜き出す。
「いやなの」
セレナはすでに剣をぬいており、臨戦態勢をとる。千夏はというと(これが生山賊か……)と感心しているところだった。
「おぃおぃ、ヤル気かい?嬢ちゃんたち。怪我してもしらねぇぞ」
「お頭、こいつら奴隷商に売ったらいい値段になるんじゃないっすか?」
ひひひっとサブリーダーのボリスがなめるようにセレナと千夏を見る。
「おぅ、それもいい案だな。うひひ…嬢ちゃんたちがやるっていんじゃ、なにされても仕方ねぇよな」
マッコイのその言葉を合図に残りの7人の山賊が二人に襲い掛かる。
「ウィンドーカッター!」
千夏は右手に生えていた何本かの木を山賊に方向に切り倒す。
「「「うわーっ」」」
倒れてくる巨木を避けようとバラバラに山賊が迂回する。
セレナはその隙を狙って飛び込み、一番近くにいたひとりの足を切りつける。
「ぎゃーっ!」
足を切られた男はその場にうずくまり絶叫を上げる。セレナはすぐに次の男へと向かう。千夏は今度は左側に生えている木を倒す。つぶされまいとまたもや山賊が回避する。
そこへ空から急降下してきたタマがするどい鉤爪で二人ほど薙ぎ払う。一撃でウォーターモンキーを倒せるタマの攻撃だ。しかし、人は殺しちゃだめという千夏のしつけにより、タマは威力を加減し攻撃していた。とりあえず動けなくなればいいのである。
千夏自身の魔法も一撃必殺であるため、直接山賊に叩き込むことができない。今回はセレナとタマに攻撃をまかせて、千夏は補助にまわることにした。
何本も木が横倒れして足場が悪いところに、千夏は更にウォーターを使い地面をドロドロにする。それによって山賊のひとりが泥に足をすべらせてずるりと転ぶ。すかさずセレナが転んだ男を薙ぎ払う。相手が動けなくなったことを確認すると、セレナは倒木をうまく飛んで移動して次の獲物に向かう。
隙だらけの千夏に向かってきた山賊の一人をタマが薙ぎ払う。これで残りは4人。あっというまに半分に仲間を減らされたマッコイは冷汗を流し、覚悟を決めてセレナに向かう。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
セレナは雄叫びをあげて向かってくるマッコイに向けて剣を構える。残りの山賊もセレナに向かって駆け出すが、障害物が多くすぐにはたどり着けない。
「タマ!」
「ニュー!」
タマは、再び上空にあがり急降下し、邪魔者二人を次々と倒す。残りはついにマッコイだけになった。とりあえず千夏は、さらにウォーターを使い地面をドロドロにしてマッコイが力をためられないようにする。マッコイは自分の重装備でにぬかるみに足を引かれる。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
倒木の上から脚力を生かしセレナはマッコイに跳びかかる。
「させるか!」
マッコイは斧を横にし、セレナの剣を受け止めるが、足場が悪い。踏ん張りがきかずにマッコイはずるりと泥ですべる。すかさずセレナはマッコイの腹をけり、再び倒木へと飛び戻り、再突撃する。セレナの一撃を肩にくらい、負けを悟ったマッコイは逃げようとするが、バランスを崩してドスンと倒れる。
全ての山賊を倒した後、千夏とセレナは動けない山賊たちを泥沼から引きずりだし、近くの木にロープでぐるぐる巻きにする。おかげで千夏たちも泥だらけである。倒木は邪魔なのでアイテムボックスに収容する。
「運が悪ければ森の獣に襲われ、運がよければ私たちが連絡した兵士に助けてもらえるかもね」
千夏が山賊たち投げやりにそういうと「人でなしー」「鬼ー!」と山賊たちが嘆く。そういわれても野放しはできないし、街まで怪我人を連れていけるわけがない。自業自得である。
「それよりもスィートベリー!」
千夏は実を摘んでまずは口に入れる。
「あまーい。なにこの甘さ。これはまさに苺練乳の味だ」
たまらずもぐもぐと実をもいで食べる千夏。タマもスィートベリーをおいしそうについばんでいる。もくもくと採取をしたのはセレナだけであった。
山賊のうめき声を無視してスィートベリーを堪能した千夏達はドンペン山を後にした。
「しかし、帰るのがだるいわ……」
「チナツ、転移魔法使わないの?」
「転移魔法?」
「一度いったことがある場所なら魔法で転移できる魔法なの。空間魔法なの」
「そんなのがあるの?もっと早く言ってよ、セレナ!」
何はともあれ無事スィートベリー採取の依頼は終わった。
夕飯を食べにいくタマを残して、千夏とセレナはギルドで依頼達成報告と山賊について報告を行い報酬を受け取る。山賊については懸賞金がかけられていたので、街の兵士が山賊の確認をしてきたあとに報酬をもらえることになった。
最後にミラが千夏の冒険者カードをみて、うーんとうなった。
「チナツさんは依頼達成回数が少ないのですが、討伐魔物の質量をみるかぎり、どう見てもFランクじゃないですね……。山賊討伐はDランクに相当しますし。Eランクにランクアップしましょう。一応ギルド長に確認とってきますね。カードお借りします」
そういうとミラは奥へとはいっていった。
「チナツまだFランクだったの?」
セレナも驚いた顔で千夏をみる。
千夏はまだギルド入って二週間ちょっとしか経っていないうえ、だらだら過ごす時間のほうが多く、依頼もまだ4回しか達成していない。ただ受けた依頼は全てひとつ上のEランク依頼で二週間でかなりの数のウォーターモンキーを倒している。実際はその半分をタマが倒したのであるが。まぁそれだけ強い従魔を持っているだけでもランクアップに該当するだろう。
問題なくランクアップ可能ということで千夏はEランクにランクアップした。
「おめでとうございます。次からDランクの依頼も受けれるようになります」
にこにこ顔のミラから更新された冒険者カードを受け取り、千夏はお礼をいう。
そのあと千夏はセレナとギルド前で別れ、早速魔法屋に向かう。魔法屋では老婆がまたもや寝ていたので突いて起こし、いつものやり取りのあと老婆から転移魔法の説明を受けていた。
「ふん。初級の転移魔法は10キロくらいの移動のみじゃ。転移できるものは転移者が触っているもののみ。ただし、一回に転移できる総重量は300キロまでじゃ。中級や上級の転移魔法になるとかなりの距離と物を運ぶことができる。
お主今Lvはいくつなのじゃ?」
千夏は冒険者カードを取り出して確認する。
「えっと、Lv14かな」
「まぁ初級はなんとか覚えられるじゃろう。料金は金貨5枚じゃ」
千夏がお金を払うといつものように転写をしてもらう。いつもの頭のしびれが走る。
「うぅぅ……」
「成功じゃな。またなにか買いにおいで」
◇千夏のステータス◇
名前:佐藤千夏
年齢:24
Lv14
生命力 :1300(+3600)
魔力 :1560(+583)
持久力 :51(+72)
気力 :30(+70)
STR(力) :23
DEX(器用) :23
AGI(素早さ):23
DEF(防御) :23
INT(知力) :49
LUK(幸運) :23
その他
・食いだめ:4日分
・寝だめ :5日分
・汚れ度 :標準
脱字を修正しました。
 




