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セレナの災難

最初からこの終わり方をする予定だったのですが、

書き終わってみたら、非常にくだらないコメディになってしまいました。

苦手な方は読まないほうが精神安定になると思います。

「暗いな」

カンテラを持ち上げながら、アルフォンスは元領主の館の入口を確認する。

すっかり錆びてしまった鉄門は夜風にあおられキィキィと音を軋ませる。

アルフォンスは門を押し開くと雑草が生い茂る庭へと侵入する。


「なんか出そうなの」

びくびくとセレナは尻尾を丸め、レオンの後ろに隠れながらみんなの後を追う。

セレナの言葉が呼び水になったのか、荒れ放題の庭から音もなくアンデットハウンド達が姿を現す。


半分腐った体は肉が粘着液のようにどろりとゲル状になっており、そこから白い骨が浮かび上がる。目からは飛び出した眼球は細い糸のようなもので落ちずにぶらりとぶら下がっている。凄まじい悪臭を放つ、動く大型狼の腐乱死体だ。

カチカチと歯を鳴らしながら、アンデットハウンド達はじわじわとアルフォンス達を囲んでいく。


「うっ。臭いの」

アンデットハウンド達のおどろおどろしい姿を怖がる以前に、獣人であるセレナの敏感な鼻は強烈な腐敗臭を嗅ぎ取り窒息しそうだ。

「確かにこれはキツイですね。正直近寄りたくありません」

ハンカチを口元にあてエドが眉をしかめる。強烈なにおいに目までが痛くなってくる。

ひどい腐敗臭を吸い込んでしまったアルフォンスも、けほけほと咳を始める。このままでは吐きそうだ。


アンデットハウンドはCランクの魔物でそれほど強くはない。ひどい腐敗臭のおかげで、ある意味初めてアルフォンスとセレナの闘争心を奪うことに成功したようだ。

じりじりとアルフォンスとセレナそしてエドは後ろへ後退していく。斬り倒せばいいのだが、手を鼻から離せないし、万が一アンデットハウンドの血肉が体に付着したら…と考えるとおぞましくて手が出せない。


「なんでこんな臭いの魔物がいるんだ。鼻が曲がりそうだ」

レオンも堪らなかったようで、すぐさまフリーズの魔法をアンデットハウンドにぶちまける。

20匹ほどいたアンデットハウンド達は足元から氷つき、あっという間に氷の彫像と化す。

氷で臭いが遮断され、やっと落ち着いて呼吸ができるようになる。


「ぷふぁぁ、生き返った!」

アルフォンスは何度も深呼吸を繰り返す。

「ある意味恐ろしい敵でした。グールとは戦ったことがありますが、アンデットハウンドの臭いはグールの比じゃありません。臭いで目まで痛くなるとは…レオンがいてくれてよかったです」

「死ぬかと思ったの…」

ボロボロと流れる涙をセレナはポーチから取り出したハンカチで拭う。


「あれが屋敷の中に出てきたら窒息死するぞ」

「少しでも臭いがしたらレオンにさっさと倒してもらうしかないですね」

げんなりとするアルフォンスに嫌悪感をにじませたエドが答える。

もう少し楽に討伐できると考えていたが、意外な強敵がこの廃墟にいたようだ。


「それだったら水膜を張っておこう。多少臭いが緩和されるはずだ」

レオンは全員に水膜の魔法をかける。


「とりあえず、中へ入るか」

いくぶん落ち着いたアルフォンスは雑草のはびこる庭を横断し、朽ちた屋敷の扉を蹴り破る。

その音で屋敷内でじっとしていた吸血こうもり達が一斉に飛び交う。

吸血こうもりは一匹が幼児の頭くらいのサイズで、なかなかすばしっこい。


バタバタと闖入者であるアルフォンスに向かって数十匹が一斉に襲ってくる。

暗くてよく見えない上に吸血こうもりは素早い。セレナもアルフォンスの支援をするために、室内に入り共に近づいてくる吸血蝙蝠を斬り伏せる。

仲間が数匹倒されると不利を悟ったのか、吸血こうもり達はバタバタと羽をせわしく動かし、屋敷の奥のほうへと逃げていった。


(なんか変な魔力が流れとるな。この魔力のせいでアンデットが溜まっとるのか?)

「変な魔力だと? どこから流れてきてるんだ?」

シルフィンの言葉にアルフォンスは目を輝かせる。正直アンデットハウンドとはもう遭遇したくないが、強そうな魔物がいるならぜひ対決したい。


(あっちや)

剣の中から抜け出したシルフィンが屋敷の奥を指さす。

アルフォンス達はゆっくりとシルフィンが指さしたほうへと向かって歩き出す。

いかにもお化けが出そうな荒んだ室内にセレナは、身をかがめながらレオンの後ろにぴったりとくっついて歩く。


ときおり吸血こうもりとすれ違うが、他に魔物と遭遇せずに屋敷の奥にたどり着く。

(うーん、この下から変な魔力が漏れ出しとる)

シルフィンはかつて台所だった部屋の横に設置されている、地下へと延びる階段の前でぴたりと止まる。

「貯蔵庫ですかね。階段は石のようなので踏み外すことはないでしょうけど、コケがびっしりついてますから転ばないように気を付けてくださいね」

エドはカンテラで地下へと延びる階段を照らす。


その時だ。地下からズルズルと布が這うような音が聞こえ、その後に小さい声だったが、はっきりと呻く女の低い声がかすかに聞こえてくる。

『…まだなのか…まだ我の望みが叶わぬのか…』


「ひゃぁぁぁぁ」

セレナはうずくまり耳を押さえてブルブルと震えはじめる。

お化けだ。どう聞いてもお化けがいる!


「死んだふりをするとお化けに襲われないそうですよ」

エドがぽつりとそう呟く。すかさずセレナは、石の上でころりと横になる。

「私は死んでるの。死んでるの。」

必死に目を閉じ、念仏でも唱えるようにぶつぶつとセレナは青い顔で呟く。


「それって熊に会ったときじゃなかったか?」

アルフォンスは必死なセレナの姿を見下ろして首を傾げる。

「熊の前で死んだふりなんかしたら、そのまま食われるぞ。アンデットも同じだろう?」

レオンが呆れたようエドを見返す。


「ああ、私の記憶違いでしたね。お化けのときは猫のマネをすればよかったんでしたっけ?」

すっとぼけた表情でエドがそういうと、セレナはしゅたっと起き上がり四つん這いになって「猫なのにゃ~」と鳴く。


「なんか犬っぽいですよ。もうちょっと猫になりきらないと」

「にゃ~ごぉ」

セレナは尻尾を振りながらくいくいっと手を丸めて耳をかく。黒いつぶらな瞳はうるうると揺れており、半べそ状態だ。


(……なに遊んでるんや)

「おや、人聞きの悪い。リラックスさせてあげているんですよ。猿と言わなかっただけましかと」

必死に猫の真似をするセレナを見下ろしながらエドは口角を上げる。


「降りるぞ」

どうやらじっとしていられなくなったアルフォンスは、地下へ続く階段を降り始める。

レオンがその後に続き、猫になりきったセレナを小脇に抱えて最後にエドが降りていく。


地下の貯蔵庫はひんやりとしており、ところどこに朽ちた木の棚が点在している。

ズルズルという布を引きずるような音は奥のほうから聞こえてくる。

戦うには少し狭い。アルフォンスは手前の棚に向かって蹴りを放つ。

腐った棚は木端微塵に砕け散る。


『…男?』

棚の奥にいたのは退色しボロボロになったドレスを着た女のようだ。

ただし、顔は骸骨で頭部には銀色の薄汚れた長い頭髪がふわりと揺れる。


「ふにゃーごぉ!」

セレナは悲鳴のような鳴き声を上げ、前傾姿勢でフーッと威嚇体勢を取る。だが尻尾は下がったまま足の間で丸まっている。


(スケルトンとはちゃうな。まさかリッチか?)

先程から追いかけてきた変な魔力の元を訝し気にシルフィンは観察する。

リッチは死霊の上位種だ。だが目の間のリッチからは魔力がだだもれているので、本人自体の魔力はそれほどない。


アルフォンスは剣を構え、女の挙動に目を光らせる。

エドは念のため魔封じの盾をアイテムボックスから取り出し、右腕に装着する。

『男…男だけども、こんなのじゃない!』

カッとリッチは空っぽの眼下を光らせる。


『我が野望にはマッチョの男が必要なのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

「は?」

リッチの心からの叫びに一瞬アルフォンスは茫然とする。


『弾む胸板、光輝く上腕筋、これでもかと割れた腹筋に、思わず見惚れる大殿筋。そんな男に優しく抱かれないと、私は成仏できないのぉぉぉぉぉぉぉぉ』

再びリッチの魂の叫びを聞き、アルフォンスはすっかりやる気をなくす。レオンにいたっては何を言っているのかすらわからない。


『どういうこと、どういうことなの!町からマッチョな男を連れてくるように命じたはずなのよ!なんで、あなたたちのような男がくるのよぉぉぉぉぉ』

「エド、任せた」

アルフォンスは剣を鞘に戻し、ポンとエドの肩を叩く。


(あほか、リッチになっちまったら成仏なんでできへんで。輪廻の輪から外れちまってるんやから。変な魔力だと思ってたら煩悩から来てるんかい。あほらし)

シルフィンは剣から抜け出しプカプカと空中に浮かび、叫んでいるリッチを呆れたように見下ろす。


「大方、ここにいた元領主の関係者でしょう。アンデットが村を徘徊していたのも男を連れ去るためだったようですね。みんな物が食べれなくてそんな男などいませんのに」

エドは嘆息すると『マッチョぉぉぉぉ』と叫んでいるリッチの胸部に向かって問答無用で最大威力の蹴りを放つ。


リッチは魔力特化型の魔物で物理攻撃に弱い。

ピシリと骨に大きなヒビが入ると、そのまま細部まで亀裂が走る。

パリン。

澄んだ音を立ててリッチは粉々になって崩れ落ちた。後に残ったのはボロボロのドレスと銀色に光る指輪がひとつ。


エドは指輪を拾い上げる。指輪の内側にE.Sとイニシャルが刻み込まれていた。

セレナはリッチが倒れた瞬間、ペタンとそのままうつ伏せになり安堵する。

エドが言う通りに猫の真似をしていたらお化けに襲われることがなかった。甚だしい誤解であるのだが、この場にいる誰も訂正しなかったので、セレナの中でその虚偽情報が深く刻み込まれる。


「おっと」

エドの手のひらから銀色の指輪がぽろりと落ちる。指輪はまるで意志をもつかのようにころころと転がり、床で寝そべっていたセレナの指にすっぽりと収まる。


【エイミーの呪いの指輪】

アンデット攻撃時にダメージ大。低確率でエイミーに体を乗っ取られる(時間制限あり)。


この指輪の解呪でドタバタと騒ぎが起こるのは、しばらく後のことになる。

ご感想と評価ありがとうございます。

誤記を修正しました。

なんか脳みそが異様な方向にかっ跳びました。エドらしさを書きたかったんですけど…

次回からチナツ達の話に戻ります。

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