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再会

「あのね、タマのお父さんとお母さんと思われる竜に明日会えるよ」

 千夏は天幕で一緒に寝転んでいるタマに向かってそう告げる。タマはもぞもぞと動きころんと千夏のそばに近寄ってくる。


「お父さんとお母さんでしゅか?」

 じっとタマは千夏の顔を覗き込む。

「そう。その2匹がいなかったら、タマと私は出会うことができなかった。タマにとって大事な竜なんだよ。すごくタマのことを可愛がってくれるはずだよ」

 千夏はタマの頭を撫でながら優しく笑う。


 もそりとコムギがタマと千夏の間に体を割り込ませてくる。ふわふわの柔らかい毛が気持ちいい。

「楽しみだね。おやすみ」

 千夏はそういうと目を閉じてしまったが、タマはなんだか落ち着かない。


 お父さんとお母さん。シャロンのお父さんとお母さんと同じようなものだろうか。

 いままで千夏をお母さんだと思ってきた。でもタマには別にお母さんがいるらしい。なんだか変な気持ちだ。


「コムギにも別にお母さんがいるのでしゅか?」

 すりすりとすり寄ってくるコムギを撫でながらタマは尋ねる。

「クー!」

 コムギはぽんぽんと前足で軽く千夏を叩く。千夏がお母さんだといいたいようだ。


「そうでしゅね。ちーちゃんはお母さんでしゅ」

 タマは少しだけ安心して、眠りについた。






「なにしているの?」

 タマが河原でうろうろしているのをみて、ひょっこりとディアが近寄ってくる。

「綺麗な石を探しているでしゅ」

 素直にタマが答えると、ディアはじっとタマを見つめる。


「綺麗な石があるところ知ってるよ。教えるから、あたしの子分になりなしゃい」

 昨日のようにディアは翼を広げ、タマに向かってそう叫ぶ。

「タマのが強いでしゅ。子分にはならないでしゅよ」

 普段おっとりしているタマであるが、強さの上下関係だけは譲れない。


「なんでよー!なんでディアと遊んでくれないの!」

 ディアはがしがしと近くの岩に鉤爪を何度も振り下ろす。

「遊びたいのでしゅか?タマ知っているでしゅよ。そういうときにはお友達になりたいというのでしゅ」

 きょとんとタマはディアを見返す。同じくらいの年と聞いていたが、彼女はタマよりもものを知らないようだ。


「お友達……?」

 産まれてから竜の谷でたった一匹の幼竜だったディアは、そんな言葉を聞いたことがない。

「お友達でしゅよ。一緒にいっぱい遊ぶ人のことをいうでしゅ」

「いっぱい遊ぶの?ディア、お友達になる!」

 こくんとディアは頷く。


「はいでしゅ。一緒に遊ぶでしゅ」

 タマがにっこり笑うとディアもなんだか嬉しくなる。

「あっちよ。綺麗な石があるのは」

 ディアは翼を広げてタマを奥の河川へと案内する。ひょこひょことついてくるタマをときおり、ディアは振り返る。


「なんで人の姿なの?」

 最初に会ったときからタマは竜身でなく、人の姿をとっている。この谷で常に人の姿でいるのはガーシャ様だけだ。

「ちーちゃんと手がつなげるでしゅ。あとみんなとご飯が食べれるでしゅ」

 タマは少し考えながら答える。


「手をつなぐの?」

 不思議そうにディアが小首を傾げる。

「そうでしゅ。手をつなぐと嬉しくなるでしゅよ」

 竜同士のスキンシップは体が大きいため、一緒に寝るくらいしかできないが、人の姿の場合いろいろできる。コムギを抱っこしたり、優しくなでたり、手をつないだり。


 少し考えてからディアは人の姿に変化する。肩までのびた柔らかそうなライトグーリンの髪に、深い緑の瞳をした可愛らしい女の子の姿だった。つい最近人の姿に変化することを覚えたばかりだ。

 人の姿だと空は飛べないし、狩りはできない。この姿になる意味がディアには見いだせていなかった。


 タマは少し自分より背の低いディアに手を差し出す。ディアは不思議そうに自分の手をタマの手に乗せる。ぎゅっとタマが手を握り返してくる。なんだかとほんわりと暖かい。

「あっち」

 少し照れたように顔を赤くしてディアは奥を指さした。




「これくらいあれば足りるか?」

 那留はアイテムボックスから先ほど地竜と一緒に掘り出してきた金の塊を取り出す。金の塊はおよそ10キロほど。まだまだたくさん採ってきたが、とりあえず一番小さい塊を出してみた。

「十分足りますよ」

 エドは那留から金を受け取りアイテムボックスへしまい込む。


「次に村に商人が来るのは2週間後です。お酒はそのときにお渡しします」

「ああ、それでいい。俺もお前たちに一緒についていくから、その帰りに酒は俺が運ぼう」

「ついていくって一緒に村にいくの?」

「ああ。ずっとここにいたからな。外に出てみたいと思っていたんだ」

 千夏の質問に那留はニヤリと笑って答える。


 タロスの子供が見つかったのだ。負い目を感じる必要がなくなる。それならば少しこの世界を見て回りたいと那留は考えていた。


「来たか」

 東から急速に近づく2つの気を那留は見上げる。那留には及ばないが、他の竜達よりも大きな気がこちらに向かってくることを千夏も確認する。


 竜が本気で飛べば時速80キロを超える。あっという間に近づいてきた2匹の竜達はこのひらけた場所へと急降下してくる。白銀にきらきらと光る鱗がまぶしい2匹の竜は、全長およそ20メートルほどの大きさだ。


「いったい、何があったのだ」

 着地するとすぐに那留に向かってタロスは急くように尋ねる。

「よぉ、久しぶりだな。お前たちの息子らしい竜が見つかった」

 那留は片手を上げ挨拶すると早速本題を話す。


「まことか!それで今どこにいるのだ!」

「そうあわてんなよ。ディアと向うの河原で遊んでいるよ」

 那留が奥の河原を指さすと、光竜夫婦は急いでそちらに飛んで行ってしまった。3か月も探し続けていたのだ。急くなというほうが無理だろう。


 タマはこちらにやってくる竜に気が付き顔を上げる。ディアと川の中にはいって石探しをしていたので、全身びしょ濡れだ。

 竜達はタマの近くに降り立つと、すぐにタマに合わせて人の姿に変化する。2人の姿を確認しようと目を向けた瞬間、タマは大きな腕にぎゅっと抱きしめられた。


「ずっと……ずっと探していた」

 綺麗な白髪の男の人がタマを広い胸に抱きしめ、声を絞り出すように小さな声で囁く。

「あなた、私にも抱かせてください」

 優しそうな長い髪の赤い目の女の人が涙を浮かべながら、タロスの腕を引く。


「ああ、すまん」

 タロスがタマから体を離すと、今度はふわりと柔らかい胸にタマは包まれる。さっきから状況がタマにはよくわからないが、不快感はない。

「大きくなって……」

 フィーアはそれ以上言葉にならずに、タマをぎゅっと抱きしめる。タロスも逞しい腕で二人を包むように抱きしめる。


 突然現れた知り合いの夫婦にディアは首を傾げる。楽しく遊んでいたのに邪魔をされたのだ。普段なら癇癪をおこすディアだが、二人とも泣いているので怒る気持ちになれなかった。


 2匹の光竜を追って、那留と千夏達が河原へとやってくる。タマはすぐに千夏の気を掴み、抱きしめられた腕の中でバタバタともがき始める。フィーアはすぐに腕の力を緩める。手加減しないで抱きしめてしまったため、子供が苦しがっているかと思ったのだ。


 腕の中から現れた子供は、自分たちと同じ大きな紅い目をぱちぱちと瞬きしながら、不思議そうにこちらを眺めてくる。しばらくフィーアとタロスの顔を交互に見比べた後に、タマはフィーアの腕からするりと抜け、千夏に向かって走り出した。不快感はなかったが、突然だったのでびっくりしたのだ。


「ちーっちゃんっ!」

 突進するように千夏のおなかにぺたりとタマは飛びつく。千夏はぎゅっとタマを抱きしめながら、2匹の光竜に向かって軽く頭を下げる。


「タマ、タマのお父さんとお母さんだよ」

 千夏は抱きしめた腕をゆっくりと離し、タマのからだの向きを変えさせる。

「ほら、二人に挨拶しておいで」

 千夏はタマの背中をとんと軽く押す。タマはゆっくりと同じ目の色の二人に向かって歩き出す。


「お父さん?お母さんでしゅか?」

 たどたどしいタマの言葉にタロスとフィーアは頷く。

「そうだよ、お父さんだよ」

「お母さんよ」

 2人はもう一度タマを優しく抱き寄せる。タマはそっと目を閉じる。なんだか懐かしい匂いがした。


 タロスとフィーアはしばらくしてやっと落ち着くと、タマを連れて自分たちの住処へと戻る。森の中のとても日差しが気持ちいい場所に二匹の住処はあった。道中木々から果物をタロスがとり、両手いっぱいにかかえる。住処につくと、タマに果物をタロスは手渡す。


「おいしいからたべてごらん」

 タマはこくんと頷いてもらった果物に齧りつく。

「おいしいでしゅ」

 愛らしい子供の笑顔を見て、タロスとフィーアは幸せそうに微笑む。


「名前はあるの?」

 フィーアはタマの頭を撫でながら訪ねる。

「タマでしゅ」

「ずいぶん変わった名前だね」

 タロスはすぐに食べ終わったタマに新しい果物を渡しながら笑う。本当は二人で考えていた名前があったのだが、すでに子供には名づけられている。名は一度つけると魂まで刻まれるので変えることはできない。


「竜の姿もみせてほしいわ」

 フィーアにおねだりされて、タマは竜の姿に戻る。フィーアもタロスも竜に戻り、3匹で仲良くゆったりと体を横たえる。


「ずいぶん大きくなったのね。力も強くなっているし」

「でも魔法が使えないでしゅ。教えて欲しいでしゅ」

 可愛い我が子のおねだりにタロスは「もちろんだよ」と力強く答える。


 その頃千夏は腕の中で暴れるコムギを押さえつけていた。

「こら、暴れないの!」

「クー!」

「駄目よ、今タマは久しぶりに両親と会っているんだから。そっとしてあげて」

 重ねて千夏がコムギを諭すと、渋々と腕の中でコムギは大人しくなる。


「寂しいのね?タマに置いていかれたみたいで」

 優しくコムギの頭を千夏は撫でる。ふわふわの柔らかい毛に癒される。

「クゥー」

 コムギは一声なくとペロリと千夏の顔を舐める。


 タマがもし両親とここに残ることになったら、コムギもここに置いていかないといけないのかな……。会おうと思えば転移ですぐにこれるけど……。

 千夏はなんだかやるせない気持ちになり、何度もコムギの頭を優しく撫でた。


タマを抜かすと千夏とコムギ以外ほとんどでてきません。

ああ・・だんだん影が薄くなる・・・



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