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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
ハマール編
135/247

ワイバーン戦

遅くなりました本話です。

試合開始直後ワイバーンは翼を羽ばたき空へと舞い上がる。

約束通り5メートルほどの高さで止まると、小さなコムギを見下ろす。

さすがにその位置までコムギはジャンプしても届かない。

手も足もでないコムギの姿をみて竜使いは楽しげに目を細める。


どちらにしてもワイバーンはコムギを攻撃するために接近する必要がある。

竜達と違ってワイバーンはブレスや魔法を使うことができない。肉弾戦が主流だ。

そのときが勝負だと千夏はじっとコムギを見つめる。

願わくば大きな怪我をしないでほしい。


一度ワイバーンからの攻撃を受けたことがあるタマはその速さを知っている。

単純な速度勝負であればコムギのほうが有利。

回避するだけなら問題はないだろう。でもそれだけでは勝負にならない。


コムギは気を大きく練り上げ、何重もの防御壁を作りこむ。

どうやら回避をすてて、攻撃に移るようだ。

タマはコムギの思い切りのよさに嬉しそうにその姿を眺める。


竜使いが竜笛を吹くと、ワイバーンがコムギに向かって急降下する。

するどい足の鉤爪でコムギの体を捕える。

一瞬に何重にも張り巡らされた防御壁がバリバリと割られ、コムギの体に鉤爪が振り下ろされる。

コムギは体から血を流しながら、振り下ろされたワイバーンの足に食らいつく。

ワイバーンは足にコムギをぶら下げたまま上昇していく。


「コムギ!」

千夏は血を流すコムギの姿を見上げる。攻撃直後にコムギの気が少し小さくなったが、ぐんぐんとワイバーンから気を吸い出していっているようで、コムギの気がドンドンと膨れ上がる。


ワイバーンは何度かコムギを引き離そうとジタバタと上空で暴れていたが、コムギが離れないと知ると、今度は舞台に向かって急降下をする。そのまま石の舞台の上にコムギの体を叩きつける。


「ああ!」

ジークはぎゅっと目をつぶる。あんなスピードでたたきつけられたら、無事で済むはずがない。

「大丈夫でしゅ」

隣に座るタマが静かにそう告げる。


コムギは気を先程よりも多くの防御壁を体にまとっていたため、多少のダメージを受けるが潰れてはいない。ワイバーンは何度も急降下し、コムギを舞台へとたたきつける。


このままだと消耗戦だ。

ワイバーンの気がなくなるか、コムギが累積ダメージで倒れるか。


より大きなダメージを与えようと、ワイバーンは約束の5メートルを超えグングンと上昇していく。

「ちょっと、ルール違反よ!」

千夏はすぐに審判と竜使いに抗議する。


「少し興奮してしまったようだ。すぐに降りてくる」

なかなかコムギが倒れないことにイライラとしている竜使いがそう答える。

降りてくるといってもかなりの高度からの急降下させるつもりだ。


「やめさせなさい!あなたのルール違反負けよ!」

千夏は竜使いに向かって叫ぶ。

竜使いは千夏の声を無視する。


「審判!あっちがルールを破るならこっちも好きにさせてもらうわよ!」

千夏は審判に向かって怒鳴る。

さすがにあの高さから急降下されたらコムギの命に係わる。


20メートルほどの高さからワイバーンが急降下してくる。


千夏は気で2本の大きな手をだし、大きな緩衝材を舞台の上に作り上げる。

衝撃を吸収するもの。そうトランポリン。

そのまま、衝撃を上に逃がすの。

千夏は焦りながらもそう強くイメージする。


急降下したワイバーンは、舞台より2メートルほどの高さに作られた千夏の巨大トランポリンにぶつかり、そのまま上へと押し戻される。


ワイバーンの動きに竜使いは不審の目を向ける。

辺りに魔法の気配はない。だが、あの女が何かしたに違いない。

心配そうに上空を見上げる千夏を竜使いは睨み付ける。


「お前、いったい何をやった!」

「そんなことより、さっさと高さの制限をしなさいよ!そうじゃなきゃルール違反負けで終わりにしてほしいものだわ」

竜使いの言葉に千夏はすぐに言い返す。

コムギはまだ気をずっと吸い込んでいる。健闘しているコムギを見て、試合中断など野暮なことを言いたくはないが、好きかってされても困る。


それまで黙っていた審判が、竜使いにワイバーンの高度を下げるように指示する。

竜使いが渋々と高度を下げるようにワイバーンに竜笛で伝える。

千夏もワイバーンの高度が下がったことを確認すると、気で作ったトランポリンを解除する。

高度制限があってギリギリコムギが勝負できる状況なのだ。

本気のワイバーンとはまだコムギは勝負することはできない。


その頃大会本部にクロームはたどり着き、試合を中止させるように委員長に詰め寄っていた。

「皇太子様、今無理やり中止にすると観客が黙っていますまい」

委員長はワイバーンとコムギの戦いに熱狂する観客席を見てそう答える。


本部に置かれているワイバーンの生命力を現すマジックアイテムは緑。コムギのは黄色だ。

黄色は怪我をしていることを表す。ただ、命に別状しない怪我だ。

緑→黄→オレンジ→赤とマジックアイテムは4段階の色を示す。大会ルールではオレンジになった場合に試合を中断させることになっている。


「では後5分だ。それ以上は引き分けにしろ」

苦虫を潰したようにクロームは答える。勝手にワイバーンを連れてきた竜騎士団に腹がたつが、こんな大勢の観客の前で万が一でもワイバーンが負けてしまうと困るのだ。


国の威信を覆すことになる。

それにもしあの従魔が死んでも大事だ。千夏達がきっと暴動を起こすとクロームは考えていた。


「わかりました」

委員長はそう答えると、アナウンス係りに伝言を頼む。


「この試合は時間制限付となります。あと5分で勝負がつかない場合は引き分けとなります。竜騎士団は多忙なため、時間制限となります」

繰り返し場内にアナウンスが流れる。


竜使いはそのアナウンスをイライラと聞いている。

ある程度のダメージは与えられているが、まだあの小さな従魔が倒れない。それになぜかワイバーンの動きにキレがなくなってきたのだ。下降速度も落ちてきている。

騎士団長から請け負ったのだ。失敗するわけにはいかない。


下級竜だとて竜には違いないのだ。竜の気を吸いこんだコムギはどんどんと力が強くなっていく。

防御壁と気の吸収以外にも攻撃用に気をまとい、ワイバーンの脚に傷を負わせていく。

落下中にワイバーンの脚がついにコムギの爪によって切断される。


「グギャャャャャャャャャャャャャャャャャャャ!」

ワイバーンは悲鳴を上げる。

コムギは足から口を離し、体全体を覆うように防御壁を何重も積み上げていく。


「なんてことだ!」

竜使いはワイバーンの脚が切断されたことに悲鳴を上げる。

あれでは今後竜騎士を乗せて働かせることが難しくなる。

ワイバーンはまだ勝負に負けているわけではないが、がっくりと竜使いは力なく地面にへたり込む。

このままでは責任を追及され、解雇される。


コムギは自由落下中に体をひねって受け身をとる。着時のダメージは防御壁でカバーされたので、今回はノーダメージだ。


千夏は目の前のコムギの姿に目を細める。

まっ黒な体毛の中に赤黒い血が転々とこびりついている。

血はもう流れ出ていない。


以前従魔屋で強い気を取り込めば取り込むほど、強くなる従魔だと聞いたことがある。

コムギは爛々と目を輝かせ、空で旋回するワイバーンをにらみつける。


「5分経ちました。これにてエキビジョンマッチを終了します。両者引き分けです」

アナウンスの声が場内に響き渡る。

千夏はすぐに待機していた治療師にコムギの治療を頼む。

ワイバーンもすぐに治療されたが、上級治療魔法でないとちぎれた足を接合することはできない。


竜使いはがっくりとうなだれたまま、ワイバーンの脚を拾いそのままワイバーンにのって闘技場を出ていく。ワイバーンはハマールの守りの要だ。あとで上級治療魔法によって足が復活してもらうのだ。


「いやー、高度制限があったからですかね。なかなかいい勝負でした」

解説者が今の勝負についてコメントする。

観客席からコムギに向かって盛大な拍手が送られる。


千夏は一度コムギの血を水でざっと洗い流し、乾燥させるとコムギを抱き上げる。

「コムギ、よく頑張ったね」

千夏の言葉にコムギはヒゲをそよがせて「クー!」と一言鳴く。


最後に表彰式があり、コムギの首にピカピカの金メダルがかけられる。

タマはうっとりとその姿を眺める。レオンも微笑まし気にコムギの姿を見ている。


「なかなか白熱した戦いだった。高度制限があったが、コムギも一匹でAランクの魔物とあそこまでやり合えるとは」

アルフォンスが感心したようにコムギを見下ろす。

「コムギ強くなったの。私たちだって一人でAランクの魔物を倒せないの。抜かされないように頑張るの」

セレナが気を引き締めるように宣言する。


「では賭け札でお金を回収したら戻りましょう」

エドが皆に声をかける。

「あ、そういえば200倍だっけ。金貨200枚か。大金だね」

リルはコムギと書かれた賭け札をじっくりと眺める。


千夏とコムギに合流すると、代わる代わるコムギを皆抱き上げて、「おめでとう」と頭を撫でる。

コムギは嬉しそうにバタバタと尻尾を振り回す。

特にタマとレオンに褒められたのがうれしかったようだ。


闘技場の入口で賭け札をお金と交換する。

レオンとタマはお金をそのまま千夏へ渡す。必要なときに必要な分もらっているので、彼らには必要なかった。

ジークもクロームに金貨を入った袋をそのまま渡す。

クロームは複雑な顔でその袋を受け取った。


「さぁ帰ったら優勝パーティよ。ガンガン食べるぞー!」

千夏は楽し気に歩き出す。その後ろをコムギがパタパタと尻尾を振って追っていく。


その日皇太子宮の厨房は50人前を用意していたのだが、次々とはけていく料理に慌てて追加を作ったのは言うまでもない。


評価ありがとうございます。


次回から読者様から感想や活動報告のコメントで頂いた内容のお話を少し入れさせてもらおうと思っています。

(フライング気味に閑話入れましたが・・・)

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