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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
ハマール編
131/247

予選

遅くなりました。

「それでは第46回従魔武道会を開始します」

 拡大魔法に乗せられた声が闘技場の隅々まで響き渡る。

 闘技場内に集まった従魔はおよそ300匹。これだけいると恐ろしい以外何者でもない。


「ま、ある意味壮観というべきなのか」

 千夏は苦笑して、周りを見回す。その隣で座ったままの姿勢で尻尾をピンと立て、コムギは誇らしげに胸を張る。


 コムギの首にはキラキラと輝く貝殻の首飾りがかかっている。タマが南国諸島で作ったものだ。

 正面の観客席から手を振るタマ達が見える。千夏は軽く手を振り返す。


「番号が1番から30番の従魔は大会本部テント前に集まってください。その他の人は闘技場内の左右にある白線内で待機をお願いします。負けた場合は速やかに退場してください」

 繰り返し同じアナウンスが流れる。


 千夏とコムギは闘技場の横に作られた待機テントの中に入る。テントの中には飲み物や軽い従魔用の食事などが用意されている。

 千夏はお茶を一杯もらって、持参したクッキーをアイテムボックスから取り出し、食べながら観戦することにする。


「予選開始までの間、ラージラビット達による可愛らしいダンスをお楽しみください」

 アナウンスがそう流れると、闘技場の上空に巨大な映像が浮かび上がる。

 舞台に並んだ40センチほどのウサギ達が、生演奏に合わせてコミカルにピヨコピョコと動き回る姿が映し出される。


「うわぁ。すごいわ」

 巨大な上空に浮かぶ映像を千夏は楽しそうに眺める。

 ウサギたちは次々と団子のように重なり、組体操のピラミッドを作り上げる。頂点に立ったウサギがくるんとその場で宙返りして見事に着地する。


「「「「「おおおおおおおおおお!」」」」」

 観衆はウサギたちの動きに歓声を上げ、手を叩く。

 体育祭の男子による競技というよりチアリーディングに近い動きを次々とウサギ達は決めていく。


 観客席でそれを見ていたジークも楽しげに、ウサギ達に向かって拍手をする。

「今年は去年よりも凝っていますね」

 リリーナの言葉に、ジークは頷く。


「初めて見るでしゅ」

 タマも楽しそうに笑う。

 レオンはどちらかというと音楽のほうに驚いたようだ。隣に座るリルにいろいろと質問している。


「アルもセレナも見れなくて残念でしゅ」

 タマはこちらに向けて短い尻尾を振りながら踊るウサギを見て、残念そうに言う。


「明日は来るって言ってたから、コムギには勝ち残ってもらわないとね」

 セラは扇子で仰ぎながら上空の映像を眺める。

「もちろんでしゅ。コムギは勝つでしゅ!」

 ぐっと握りこぶしをつくりタマは真剣に答えた。




 華やかなウサギのダンスが終わり、いよいよ予選が始まる。予選は1ブロックあたり総勢30匹による混合バトルになる。

 闘技場の舞台に先ほど呼び出された番号の従魔達が登り、その舞台の周りをぐるりと飼い主たちが取り囲む。


「それでは予選第一ブロック、競技開始!」

 アナウンスが流れると一斉に舞台上の従魔達が走り出す。突撃して相手を昏睡させるものや、相手に噛みつくものがいる。

 舞台からいろいろな魔物の悲鳴や雄叫びが入り混じる。


 開始直後にぶつかって潰しあったため、早々に舞台の上で立っているのは2匹だけになっていた。

 大会の運営委員の人が舞台で気絶している従魔を、勝負の邪魔にならないようにずるずると舞台から引きずり下ろす。

 怪我をしている従魔は、すぐに舞台そでにいた治療師達に回復魔法をかけてもらっている。


 最後はサイのような従魔が相手に突撃して、そのまま舞台から突き落とし決着がつく。

 上空のスクリーンには勝者である魔物の名前が表示される。


 次に行われた第二ブロックでは先ほどの試合の影響か、開始直後にすぐに従魔達は動かない。近くにいる相手とそれぞれ戦い、ゆっくりと戦いが進んでいく。

 観客達は気に入った従魔を応援しながら、戦いの成り行きを見守る。

 最後に勝った従魔は口から粘着液のようなものを吐き出す、トカゲのような従魔だった。


「特殊スキル持ちの従魔もいるのね。気をつけるのよ、コムギ」

「クー!」

 千夏の言葉にコムギは勇ましく鳴いて答える。


 いよいよついにコムギの出番だ。

 作戦は前に立てた通りにとりあえずは回避して、生き残ることを優先することになっている。


 第二ブロックで勝った従魔が吐いた粘着液の掃除があり、しばらく待ち時間になる。千夏はその間に第三ブロックで集まっている従魔達の様子をじっくりと眺める。


「コムギ、あの赤いのに注意してね」

 一番気が多い従魔を千夏は指し示す。

 その従魔は全身が赤黒い軍馬のような大きな体と頭から生えた2本の長い角を持つ。

 ガゼルと呼ばれ軍用馬によく使われる従魔だ。ウォーウルフ程度の魔物なら蹴り飛ばしてしまうほど脚力に優れている。体格差ではコムギのほうが分が悪い。


「とにかくあの馬の前に出ないこと。できるだけ背後から狙うほうがいいね」

 千夏はかがみこんで、コムギをなでる。

 タマが作った貝殻の首飾りは、戦闘で壊れるといけないので、すでにアイテムボックへ収納済だ。



「次はコムギが出るのでしゅよ。あそこにいる黒い子でしゅ。コムギはタマの弟なんでしゅよ」

 タマはじっとコムギを見ながら、ジークに向かって話しかける。

「弟って従魔のこと?」

 不思議そうにジークはタマが指差した小さな従魔を眺める。あのサイズなら勝ち残るのは難しいだろう。


「そうでしゅ。コムギが優勝するんでしゅ」

 胸を張ってタマが答える。

「じゃあ、頑張って応援しないとね」

 ジークはタマの幼い仕草をみて微笑ましいと感じたようだ。


 舞台の清掃が終わり、舞台の上に従魔を上げるように大会委員から指示される。

「コムギ、頑張ってね」

 意気込むコムギの背を千夏は軽く叩く。


「クー!」

 コムギは一度千夏を振り返り、真っ直ぐにガゼルを睨む。コムギが舞台へ上った位置は例のガゼルの斜め右側だ。正面に立てばあっという間に踏みつぶされることが予想できた。


「グゴォォォォォォォォ!」

 コムギの隣に立つ、ウォーターモンキーが威嚇のために声を上げる。


「それでは競技開始!」

 大会委員の掛け声と共に、従魔の主人たちが自分の従魔に向かって叫び始める。

 まずは隣にいたウォーターモンキーがコムギに襲い掛かる。コムギはひょいとその攻撃を回避し、開始合図直後にガゼルが突進した後空いたスペースへと体を移動する。


 なおもウォーターモンキーが追撃するが素早く動き、コムギに一度も攻撃を当てることができない。

 コムギはウォーターモンキーをよけながら舞台の端のほうに移動する。はたから見れば追い込まれているようにしか見えない。


「ウキィィィ!」

 ウォーターモンキーは渾身の一撃をコムギに向かって振り下ろす。だがその一撃をさっと避けたコムギは、そのまま背後からウォーターモンキーに突撃をくらわす。

 攻撃姿勢のまま、ころんとウォーターモンキーは舞台の上から転がり落ちる。


 いつも魔物に一直線に立ち向かい、噛みついているコムギの姿しかしらない千夏は、冷静なコムギの動きに驚く。


 もともとコムギは知力が高い魔物だ。千夏達パーティと一緒に魔物を攻撃するときは、とにかくさっさと攻撃しないとさくっと誰かが終わらせてしまうので、出番がなくならないように、あせって噛みついているに過ぎない。

 サンドワーム戦でセレナが、タマにさっくと終わらせないようにと苦言したのと同じ気持ちなのだ。


 再びガゼルが動き始める。ガゼルは一直線に動くようで、どこに向かうかはとてもわかりやすい。

 コムギはガゼルの進路の後ろにいる従魔に向かって、突撃する。


 ガゼルに気を取られていた従魔は、横からのコムギの突撃にバランスを崩す。そのまま、がぶりとコムギは噛みつき従魔の気を根こそぎ奪う。気を奪われた従魔がふらふらとその場に倒れ込むと、コムギは次の獲物に向かう。


「すごいね、あの従魔。動きが早いよ」

 タマと一緒に応援していたジークが、コムギの動きに興奮する。

「まだまだでしゅよ。コムギは本気を出していないでしゅ」

 コムギを褒められて兄としてとてもうれしいようで、タマはにこにこと笑う。


 ガゼルに踏み倒された従魔や他の戦闘で失神した従魔などを大会委員と飼い主が、協力して舞台の上から引きずり下ろす。大半の従魔がガゼルの攻撃でダウンしていたため、舞台に残っているのは5匹だけだった。


 ガゼル以外の従魔はできるだけ固まらないように距離をとる。ガゼルは残った従魔で一番大きな従魔に目をつけて突進していく。


 コムギはそれを見届けると、少し距離がある隣の従魔に向かって突撃する。その従魔は昨日千夏がみて驚いていたワニの姿をした従魔だ。


 コムギの突撃にワニは口を大きく開けて威嚇してくる。コムギは素早く駆け寄り、ワニの口の前で大きくジャンプをすると、そのままワニの尻尾に噛みつく。

 ワニは尻尾を上下に揺らし、コムギを舞台の堅い石に何度も叩きつける。


「よし、そのままつぶせ!」

 千夏の隣にいるワニの飼い主が叫ぶ。

 千夏はちらりとコムギの様子を窺った後、ライバルのガゼルに視線を移す。コムギは防御の気を張り巡らせているのでほとんどダメージを受けてないことを千夏は知っていた。


 コムギに気を吸われているワニの動きが段々と遅くなる。

 ガゼルは次のターゲットに戦闘中の二匹を選んだようだ。

「コムギ!」

 千夏はコムギに向かって注意を促す。


 すぐにコムギはワニの尻尾から離れ、大きく横へとジャンプする。その横をガゼルが突進し、ワニをそのまま場外へと蹴り飛ばす。

 残ったのはこれで3匹。


 最後の一匹はウォーウルフである。尻尾は垂れ下がり戦意を喪失しているようで、ガタガタと震えている。飼い主はその従魔の様子を見て負けを宣言する。ウォーウルフがすぐに舞台から飛び降りる。

 これでコムギとガゼルの一騎打ちになった。


「いやはや驚きました。あの小さな従魔が残るとは。でもガゼルが相手では手も足もでませんね」

 解説をしている大会運営委員の声が会場に流れる。大画面ではコムギとガゼルの様子が大きく映し出される。


 ガゼルは鼻息荒く、コムギを睨むとまっすぐコムギに向かって突撃してくる。

 コムギもガゼルに向かって走り始める。


「おおっと、真っ向から向かっていきます。勇気があるというより無謀でしょう」

 千夏は解説のセリフにイラっとしたが、無言でずっとコムギを目で追う。


 コムギに向かってガゼルが前足を大きく振り上げる。

 コムギは速度をさらに早め、ガゼルの足の間をすり抜ける。

 ガゼルが何もいない石畳に蹄を振り下ろしたとき、コムギはジャンプし、ガゼルの背中に跳び乗る。そのままガゼルの背を疾走し、首へガブリと噛みつく。


 ガゼルの皮は固い。コムギは気を牙に込め、ずぶずぶとガゼルの首に食らい込んでいく。

「グギャャャャャャャャャャャャャャャ!」

 ガゼルは悲鳴を上げながら棹立ちなる。コムギの体は大きく左右に揺れるが、しっかりと噛みついたまま離れない。


 ガゼルは舞台の上を飛んだりしながらすごいスピードで走り出す。コムギを振り落とすためだ。何度もコムギの体がバウンドするが、コムギは気を吸い続ける。


 千夏の目にガゼルの気がどんどん小さくなっていくのが見える。それでもガゼルは懸命に走り続けた。

 コムギはガゼルの気をすべて吸い出した瞬間、唐突にばったりとガゼルが倒れる。


 ガゼルが横倒しで倒れたのでコムギはその下敷きになっている。もそもそとコムギはガゼルの下から這い出てくる。

 コムギは観客席のタマとレオンがいる方向に歩き出し、誇らしげにぴんと尻尾をたてる。


「「「「「おおおおおおおおおお!」」」」」

 観衆がどよめきの声を上げる。


「なんとガゼルが倒れました!勝ったのは番号89番コムギです!!いやー驚きました」

 大歓声の中解説者が絶叫する。大画面に得意そうに胸をはったコムギの姿が大きく映し出される。


 タマとジークは二人で手をとりあって、嬉しそうにはしゃぐ。

 レオンも珍しく、嬉しそうにコムギに向かって手を振っている。普段の仏頂面とのギャップに千夏は笑いをかみ殺す。


「コムギ、おめでとう」

 千夏が声をかけると、ぴょんとコムギは舞台から千夏に向かって飛んでくる。なんとかコムギをキャッチすると、千夏はコムギの頭を撫でる。


「帰っておいしいものでも食べようね」

 もちろんコムギには異論がない。うれしそうにコムギは「クー!」と鳴いた。

評価ありがとうございます。

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