卵をあたためよう
「ところでお嬢さん、従魔はいかがでしょうか?一匹いるとかなり便利ですよ」
散々ウォルに怒られたあと、サイラスが千夏に尋ねる。
「でも、結構高いんでしょ?」
「そうだな、ラディだと1匹金貨10枚だな。千夏は冒険者だっけ?移動するときに足にできる従魔がいいよな。それか一緒に戦ってくれる獣魔とか」
「移動が楽ってのは魅力的だけど、金貨10枚なんて手が出せないよ」
「金貨1枚ならどうです?」
サイラスが尋ねる。
「出せなくないけど、どんな従魔なんですか?」
明らかな値引きに怪訝そうに千夏はサイラスを見る。
「分かりません」
ふぉふぉふぉと笑いながらサイラスが答える。
「わからないって……」
「いやぁ、ゼンから北にある村の従魔師からこの前従魔の卵を大量に仕入れたんですが、なんの卵かまったくわからないのが結構あるんですよ。まぁそれなりの従魔だと思うんですが」
「卵?(どうみても哺乳類なんですけど)」
「はい。従魔はすでに卵からかえった野生の従魔を捕獲し契約するのと、卵のうちから契約する2種類があるんですよ。卵のうちから契約した従魔は主人の気を吸収して生まれるので、多少離れていても意志の疎通ができるんです。とても便利ですよ。だからできるだけ卵の状態で売りたいのですが、何の卵なのかがわからないものがあってなかなか売れないんですよ」
「一回、店主さんが卵からかえして育てた後に売ればいいんじゃないの?」
「従魔契約は一匹に一回しかできないんですよ。私が契約してしまうと売り物になりません。野生の従魔は親から同質の気をもらって卵からかえるんです。この場合は契約にはなりません」
こちらへとサイラスに先導され、檻の間を抜けてテントを出てとなりの小さな小屋へと案内される。サイラスは鍵を開けて小屋にはいっていく。オスカーは大きいので外で待機だ。
小さな小屋の中には藁が敷き詰めてあり、大小さまざまな卵が50個ほど転がっていた。
「これが何の従魔かわからない卵です。当たりの卵もあると思います。野生の従魔は安くても金貨9枚から、卵の従魔は貴重ですから安くても金貨15枚します。どうでしょうか?」
他の値段をいわれるとお得なきがしてくるのが不思議だと千夏は思った。今日の稼ぎから考えると金貨1枚は高くない。森を放火した稼ぎなので標準とするのがそもそも間違っているが。
ウォルとオスカーをみているとペットを持つのもいいのではないかと思えてくる。
「じゃあ、買ってみようかな」
「おぉ、では選んでください」
千夏は卵ひとつひとつを軽く触ってみる。大きいのがいいのか、小さいのがいいのかがわからない。ふととある中くらいの卵を触ったときに軽く気が吸われたような感覚がおきる。
うーん、これはダメだという意味なのかいいという意味なのか。千夏はその黒と赤の縞々な卵をじっとみる。
「これって結構特徴ある卵だけどわからないの?」
「そうですね。結構派手な卵なんですが、いままで見たことがないんですよ。従魔の卵は貴重で販売している従魔の8割は捕獲したものなんです。卵の場合は、ラディなどメジャーな魔物だとすぐわかるのですが、それ以外だとどの魔物の巣から拾ってきたかを正確に記録して売るものなんですが、どうも仕入れ先の従魔師の管理がずさんで……。でも彼は優秀な卵ハンターなんですよ。低レベルの卵ではないと思います」
(商売上手だなぁ……。当たりが多いといってるんだよね……)
千夏は再度その卵を触ってみる。すぅっとまた気が吸われる。
「まぁどれを選んでいいのか基準がわからないのでこれにするわ」
「ありがとうございます」
千夏は金貨1枚をサイラスに払い、その卵に従魔の契約を行う。じっとしばらくまってみたが、卵が割れることはなかった。
「卵の場合は先ほど申したとおりに、主人の気をあたえることによって卵がかえります。しばらくの間、卵を身につけておいてください」
(身に着けるって…大きな卵をえらばなくてよかった……)
「卵がかえったあとにできれば一度ここに連れてきていただけますでしょうか?お礼をします。次からの卵鑑定に役に立ちますのでお願いしたいです」
店を去ろうとする千夏とウォル、オスカーにサイラスが声をかける。お礼をくれるというなら来てもいいかなと千夏は思った。もちろん道がわからないのでウォルに連れてきてもらうつもりだ。
メイン通りまでウォルとオスカーの後について千夏は歩いていく。すれ違う人々はオスカーをみても驚きもしないようだ。どうやら従魔はこの世界では一般的らしい。
千夏はメインストリートでちょっと大きめの布を買い、卵をその布に巻いてから布を体に結んで固定させる。おなかのあたりに卵があたるようにする。背中だといつ潰すかわからないからだ。
またちょっと千夏の気が卵に吸われた。
「どころで従魔って何食べるの?」
「ほとんどの従魔は雑食だな。なんでも食べる」
買うときにはまったく考えていなかったが、従魔の食事代がかかることにやっと千夏は気が付く。
(まぁ生まれてから考えよう)
考えるのが面倒になった千夏はウォルと別れて宿に戻る。
とりあえず、卵が産まれるまでは依頼を受けるわけにはいかない。という大義名分のもと、千夏は数日だらだらすることにした。
誤記を修正しました。




