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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
ハマール編
123/247

同盟者

ばたばたした昼食会が終わると、千夏達は滞在中に使用する部屋へと案内される。

千夏とタマとコムギの部屋は主寝室が1つ、居間と使用人用の小さな寝室がついた部屋だった。


主寝室のベットは大きく、3人の大人が余裕で眠れるサイズである。

調度品も煌びやかな細かい細工がほどこされている。金や銀は抑え目に配されて、豪華だが品がある素晴らしい部屋だった。


自分の服装にもあまり頓着しない千夏には、まさに豚に真珠のような部屋である。

千夏が唯一注目したのがベットで、ふかふかして広いことを確認するとごろりとベットの上に横になる。


「ふかふかだね」

嬉しそうに千夏はベットの柔らかさを確認してから、アイテムボックスから本を一冊取り出す。


本の題名はハマール観光ガイド。

いつもはゴロゴロ食っちゃ寝をしている千夏だったが、今回はせっかくなので観光でもしてみようと思っていたのだ。


きっかけはジャクブルグ侯爵との会話だ。

タマをシャロンのもとに預けずにつれてきたのだ。疲れない程度にタマを連れて遊びに連れていこうと思っている。


「タマはどこに行きたい?」

千夏は挿絵がいっぱい入っているガイドブックをぱらぱらとめくりながら、タマに尋ねる。

タマもベットの上にのって千夏がめくる本を眺めている。


「王都から遠いところはいけないよね。王都近郊だとこのあたりか」

王都近郊のページを開くと、「芋堀り」や「鉱床見学」「テパ川下り」「ティフルダンジョン」などが乗っている。王都内では「陶芸教室」や「闘技場見学」が人気があるらしい。


「鉱床見学ってなんでしゅか?」

聞きなれない言葉にタマは首を傾げる。

「えっと、王都から半日ほどいった鉱山の見学みたい。宝石とかもでる鉱山で、体験で鉱山堀りができるんだって。なにか掘り当てたらそのままもらえるみたいよ」

「宝石でしゅか?」

タマはキラキラと目を輝かせる。


掘り当てたら持って帰っていいと書いてあるが、胡散臭い。

ど素人がちょっと掘っただけではどうせなにもでないに違いない。

まぁタマが行きたいようなので、明日にでも行ってみるか。

芋ほりや川下り、陶芸教室などは日本でもあったのと大差はないだろう。


「闘技場ってなにやってるんだろう。えっと年に1回武術大会が開かれる。開催時期は春だから、もうとっくに終わってるね。

あとは秋に従魔の大会があるんだって。強い従魔を決める大会で、9月3日にあるそうだよ。一週間後か。これなら見れそうだね」

「クー!」

今度はコムギが身を乗り出し、パンパンと前足で本を叩く。


「コムギが出たいっていってるでしゅ」

「出るってこれに?まだ早いんじゃないの?」

千夏はがばりと身を起こすと、コムギを見下ろす。

一度擬態に成功したが、コムギはまだ全長40センチほどの子供の黒豹にしか見えない。


「さすがタマの弟でしゅね。ヤル気満々でしゅ」

うれしそうに弟の成長をタマは喜ぶ。


「え、でもね。危ないんじゃない?ちょっとセラに情報聞いてみてから考えるよ」

千夏は本をもってベットから降りる。

タマとコムギもベットから降り、千夏の後に続く。


セラの部屋の前につくと千夏はコンコンとドアをノックする。

すぐに返事があり、中に通される。

セラの部屋には先客のクロームがおり、千夏は軽くクロームに向かって会釈する。

クロームは千夏の後に続いて入室してきたタマの姿を目にすると、はっと身を引き締める。


「お邪魔だった?」

「大丈夫よ。この人のことは気にしないで。なにかあった?」

千夏はさっそくハマール観光についてかかれた本を広げ、テーブルの上に載せる。


「ここに書いてある従魔の大会ってどんな感じなの?」

「ああ、これ?ハマールで一番強い従魔を決める大会よ。もしかして参加するの?」

セラは面白そうに千夏を眺める。

クロームはセラの言葉を受け、はっと千夏を見る。


「まさか、竜を出すんじゃないだろうね?」

千夏の隣に腰かけにこにこ楽しそうにしているタマを一瞥したあと、クロームは千夏に厳しい視線を送る。

そんなもの出されたら、大騒ぎになってしまう。大会どころじゃない。

竜が王都で暴れるだなんて考えただけでぞっとする。


「いえ。こっちの子です」

クロームの視線に千夏は首をすくめ、膝の上にコムギを抱き上げる。コムギは興奮しているらしくブンブンとしっぽを振り回している。

千夏の返答にクロームは厳しい視線を緩める。


「どのくらい危ない大会なのかを教えてもらいにきました」

「そうね。従魔たちが戦うけど、殺し合いをさせるほど激しいものではないわ。確か従魔が動けなくなるか、主人が敗北を宣言したら終わりだったはずよ。そうよね?クローム」


セラに問いかけられたクロームは頷き、セラの説明を補足する。

「子供にも観戦を許しているお祭りのような大会だから、殺し合いはさせない。本大会では従魔の生命力が見えるマジックアイテムが使われ、色が赤になる前に試合は中止される。治療師も待機しているし、それほど危険ではない」


どうやらそれほど危険はないようだ。

タマもコムギも期待をこめた眼差しで千夏を見上げる。

「危なくなったらすぐに棄権するからね」

千夏は溜息をつく。


「頑張るでしゅよ、コムギ!」

「クー!」

楽しそうに2匹は飛び跳ねる。


「出るからには優勝でしゅ。今から特訓でしゅ!」

タマは目をキラキラさせながら部屋の外へと飛び出していく。

コムギも上機嫌でそのあとに続いていく。


「ほんと、竜って強さに拘るのね」

セラは部屋を飛び出していったタマとコムギの背中を見送りながら苦笑する。


「竜っていうより魔物はって感じね。コムギも同じなんだもの。あーあ、せっかくどこかに観光に行こうと思ってたのに」

千夏はテーブルに広げた本に視線を落とす。


「あら、チナツがどこかに行こうとするなんて珍しい」

「たまには家族サービスでもしようと思ってたんだけど。どうもお邪魔しました」

本を回収すると千夏はクロームに会釈してから自分の部屋へと戻る。


「あの魔物も強いのか?」

クロームは千夏が出ていったあと、セラに尋ねる。

「そこそこだけど、竜と比べるほどではないわ。まだまだ子供ですもの」

「ならいいんだ」

「やたらとタマを気にしているようだけど、一番気をつけなきゃいけない相手をあなた間違えているわ」

セラはカップを持ち上げると、ゆっくりとお茶を楽しむ。


「ああ、レオンという成竜だな」

千夏達が乱入してくるまで話していた話題を思い出し、クロームは真剣な表情でセラを見る。


混血竜(ハーフドラゴン)だそうだが、長い間ダンジョンの魔気を吸い続け、普通の竜と実力が変わらないということを聞いたばかりだった。


「違うわよ。チナツよ、チナツ」

千夏のユニークスキルについてクロームは説明されていない。

今後もセラは彼にそれを告げるつもりはなかった。

「竜の主人だったよな?だからか?」

クロームはまたもや意味ありげに微笑むセラをうんざりと眺める。


幼い頃からセラは本当にはた迷惑な性格をしていた。一時期はクロームの婚約者だったこともある。

全身全霊をかけてクロームが拒否したことと、ちょうどその頃からセラが表舞台に現れなくなったおかげでなんとか回避できたのだ。


賢い王妃は必要だが、ずる賢くて口が達者な妻はいらない。

同盟者として考えるならば意地が悪いが我慢できるし、彼女の知恵は対魔族との戦いで必要だった。


「そうよ、竜の主人だからよ。竜は強さに拘る。自分より弱い主人なんて認めるわけがないじゃない。圧倒的に強さがなければ竜の主人にはなれないわ」

セラはカップを置き、にっこりと笑う。

千夏の説明はこれだけでも十分だった。


「!! 成竜よりも圧倒的に強いというのか?!」

愕然とセラに向かってクロームは叫ぶ。一体どんな化け物なんだ。

世界に5人と言われているドラゴンスレイヤーと呼ばれるSランクの冒険者はいる。だが彼らとて成竜と五分に戦えるだけで、成竜を凌駕しているわけではない。


実際タマは千夏が自分よりも弱かったらそばから離れるのだろうか?

それはセラにもわからない。


レオンが千夏の説得に耳を傾けたことも、弱き人ではなく強者たる千夏だったからだろう。

本人はそんな自覚を全然持っていないだろうけどね。

というか自覚されても困る。


「とにかく彼らに危害を与えなければ大丈夫よ。心配なのは無知なあなたのお父様とか、今日あった竜騎士団長とかよね。その辺りはきちんと監視しておいてね」


朝から散々脅かされ続けたクロームはぐったりと黙り込む。

なんでそんなものをこの国に入れたんだ!と怒鳴ってやりたいところだが、対魔族対策と言われてしまえば言い返すことができない。


クロームはセラの部屋から執務室へと戻ると、早速女官長に千夏付を命じる。

千夏の要望にできるだけそうように言い含める。


それと彼らが滞在中の食事は30人前くらいを目安に必ず用意するように事づける。そうしないと、早朝か夕方にハマール王都近辺で竜が2匹目撃されることになる。


エッセルバッハでは、その辺りは救国の竜として国民に触れ回って自由にさせているらしいが、ハマールでは竜騎士団と衝突しかねない。


次に行政政務次官を呼び出す。彼は国王一派とは異なり広い視野をもったクロームの腹心だ。

彼にセラが運んできた魔石の説明をし、各地に設置するようにと命じる。


「さすがセラ様。頼もしい限りです」

彼にはセラの本当の身分を事前に説明していた。手放しでセラを絶賛する腹心に、内心クロームは毒づく。確かにセラは同盟者として頼りになるが、性格は最悪なんだぞ。


長い一日が終わり、彼は真っ直ぐに皇太子宮の妻子が待つ部屋へと戻る。

つつましく心優しい妻と素直な息子の笑顔に癒されたかった。


「父上、お帰りなさい」

部屋に入ると笑顔で息子が駆け寄ってくる。

クロームは息子を抱き上げ、優しげな笑みを浮かべる妻の元へ歩いていく。


この笑顔を守るためだ。明日も頑張ろう。

クロームは笑顔で「ただいま」と二人にむかって微笑んだ。


評価ありがとうございます。


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