助太刀!
大森林を抜け、馬車での旅に戻った一行はタニタ渓谷へと向かっていた。
久しぶりの馬車の中で千夏はのんびり読書に夢中になっていた。
タニタ渓谷まであと少しというところで、シルフィンが全員に警告を発する。
(前方でなんや戦闘しとるみたいや)
「そういえば、タニタ渓谷でサンドワームの討伐依頼があったっていってたね。それかな?」
リルは簡易地図を広げながら、情報元であるアルフォンスの書き込みを確認する。
千夏は本から顔を上げると前方をじっと見つめる。
確かに複数の気が入り混じり、激しく移動している。
初めて見る気ばかりなので人が多いのか魔物が多いのかも判断がつかない。
少なくともこのまま真っ直ぐ行けば戦場に突っ込むことになる。
エドは馬車を止めると並走していたアルフォンスとセレナを馬車に乗せる。
戦闘の邪魔をしないように注意して進むべきと考えたからだ。
「あ、あそこだ!」
アルフォンスが馬車の窓から身を乗り出したまま、指をさす。
そこには巨大なミミズのような5匹と戦っている数人の人々が見えた。
どうも人側が劣勢であるらしく、押されているように見える。
「助太刀してもいいのか?」
アルフォンスは冒険者のルールを知らない。身を乗り出したまま御者台のエドに尋ねる。
「とりあえずリルさん、負傷者が結構いるようです。治療を!」
治療支援くらいであれば、邪魔をされたと文句をいう冒険者はいない。
エドは馬車の速度を速め、戦場に向かう。
リルもアルフォンスと逆側の窓から身を乗り出し戦場を確認すると、ハイヒールを連発する。
突然痛んでいた腕のケガが治ったことにサムは驚く。
治療師のオズは魔力不足で今治療魔法は使えない。疑問に思いながらも完全な状態に戻った今こそ攻撃を繰り出すべきだ。
サムは剣を両手で握りしめると、襲ってくるサンドワームの側面を素早く斬りこむ。
近づいてくる馬車に気が付いたオズは、馬車のほうに駆け寄り、両手を振って馬車を止める。戦場より数十メートル前で馬車が止まり、アルフォンス達は馬車を置いてオズに駆け寄る。
御者がフロックコートを着ていたので、どこかの金持の商人かとオズは思っていたが、馬車の中から出てきた若い男女は自分たちと同じ冒険者のような姿をしている。
「ここから先は危険だ。サンドワームが大量にいるんだ。もし魔力回復剤を持っていたら分けてほしい。金は後で払う」
オズはエドに向かってそう切り出した。
「どうぞ。ところで助太刀してもよろしいでしょうか?」
エドはアイテムボックスから魔力回復剤を3つほど取り出してオズに渡す。
「ああ、頼む」
オズは短くそう答えると急いで魔力回復剤を飲み干す。
リルはオズの返答を聞くとすぐにパーティ全体に速度上昇と防御力上昇の魔法をかける。
アルフォンスとセレナ、それにコムギはすでに戦場に向かって走り出していた。
「タマとレオンはとりあえず観戦。やばそうだったらもとに戻って参加で」
千夏は2匹にそう声をかけると、ファイヤーランスをその場でサンドワームに向かって飛ばす。
エリザを狙っていたサンドワームは頭上から現れた炎の槍に体を貫かれる。
だがまだサンドワームは生きている。
動きが鈍ったサンドワームに向かってエリザは剣をふるう。
キールは一人で2匹のサンドワームを相手に戦っていた。支援魔法なしで一人で2匹のサンドワームと戦い、大きなケガをしていないだけで、賞賛ものだった。
だが牽制するだけで精一杯だった。倒すどころではない。
またもや2匹同時にキールに向かってサンドワームが突撃してくる。
「助太刀する!」
サンドワームの一匹とキールの間にアルフォンスが割り込む。
突然の闖入者に一瞬驚いたキールだったが、すぐに自分が相手にすべきサンドワームに向かって斧をふるう。
セレナも2匹を相手にしていたサムのほうに加勢し、磨いたスピードでサンドワームに近寄り、剛腕の腕輪の力で思いっきり剣を振るう。
ビュゥと突風が吹いたかのような風斬り音を鳴らし、妖精剣がサンドワームの固い表皮を食い破り、体の半分ほど切断する。
そしてどこかに大勢の援軍がいるかのように、炎の槍がサンドワームに降り注ぐ。
ピートは口を大きく開けたまま、唖然とその光景を見ていた。
「おい、ピート。他に近寄ってくるやつは?」
全てのサンドワームが倒れた後でも油断なくサムがピートに尋ねる。
「え、ああ。この近辺にはもういない」
呆けたようにピートがそう答えると、サムは大きく息を吐きどかっとそのまま地面に座り込む。
「ああ、やっと終わったか。座ったまんまで失礼するよ。助太刀感謝するぜ」
サムは近くにいたセレナに向かって頭を下げる。
「助け合うのは当たり前なの」
セレナは剣を一振りしてから鞘に戻しながら答える。
キールもエルザも緊張の糸がきれ、その場に座り込んでいる。
サンドワームとの戦闘はおよそ3時間も続いた。体中の筋肉が悲鳴を上げている。
「どうやら休憩が必要そうですね」
エドはアイテムボックスからテーブルやイス、食材などを取り出しお茶の準備を始める。手早く具だくさんのサンドイッチを作り、お茶と一緒にサムたちへ配る。
「おお、ありがてぇ」
座り込んだままキールはエドからお茶とサンドイッチを受け取ると、すぐさまサンドイッチを齧る。
「おー、うめぇ。食ったことがない味だな」
米が主食であるレゴンではあまりパン食は食べない。
更にエドが作ったのはホロホロ鳥のチキンサンドだった。肉もめったに食べない彼らにとっては未知の味だった。
千夏も久しぶりのホロホロ鳥を味わう。
なんだかとても懐かしい味だった。
休憩したのでいくらか気力を取り戻したのか、エリザは千夏に気が付いた。
「あら、ギルドで会ったわよね?」
エルザは立ち上がると千夏に声をかける。
「うん。そっちはヒュドラ討伐じゃなかったの?」
千夏は椅子に座ったまま近寄ってくるエルザに質問する。
「そうよ。でもその前にタニタ渓谷を抜けなきゃいけなくてね。サンドワーム討伐に加わったの」
「失礼ですが、渓谷はまだ先ですよね?サンドワームはこのあたりにもでるのですか?」
エドがお茶を淹れながら尋ねる。
「渓谷はまだ先だ。このサンドワームは俺たちがここまで連れてきちまったようなもんだ」
少し顔色がよくなったサムがエルザの代わりに答える。
サムは渓谷の様子について簡単にエドに説明をする。
「そうですか。渓谷にサンドワームが大量にいるのですか」
「まだ13くらいはいるはずだぜ」
「といっても俺たちは先に進むしかないけどな」
アルフォンスは、ことなげにそう答える。
サンドワームの実力は今戦ってだいたいの感じを掴めた。
竜2匹が戦闘に加わればその数でもなんとかできるはずだ。
「自殺行為だぞ!」
ぎょっとしてサムが呑気そうなアルフォンスに向かって叫ぶ。
アルフォンス達は全員で7人。自分たちとたいして人数が変わらない。しかも一人は幼児だ。
「レオン難しいか?」
アルフォンスは隣ですました顔でお茶を飲んでいるレオンに尋ねる。
「問題はない。チナツ一人で十分だ」
「え? 私?」
突然話題を振られた千夏は驚いたようにレオンを見る。
「魔法を練習するといっただろう。丁度いいじゃないか」
確かに水の上級魔法をこっちで練習すると船の中でレオンと約束していた。
渓谷なら人もいないし、練習にはうってつけではある。
「あんたら気は確かか?」
オズも呆れたように、千夏達を見上げる。
「魔法っていったい何を使うんだ?」
ピートはサムたちと異なり、興味深げに尋ねる。先ほどのファイヤーランスを見て、千夏の実力が高いことを彼は理解していた。
「氷雪地獄だ」
レオンはクッキーに手をのばしながら答える。
「なんかすごそうな魔法だな」
水属性を持っていないピートにはそれが上級魔法であることがわからない。
だが、その魔法名からいって凄そうな魔法である。是非見てみたい。
(そうやな。今回はチナツの魔法の練習でええかもな。それを覚えるためにダンジョンに向うたんやしな)
シルフィンも同意する。
そういわれても千夏は氷雪地獄の魔法を思い出せない。
以前カトレアが千夏に目の前で上級魔法を見せてくれたように、レオンが見せてくれてから使うのかと思っていた。
千夏の表情を見てレオンは少し突き放したように言う。
「僕がついてこなかった場合、どうするつもりだったんだ?」
それを言われると確かに痛い。
千夏の頭の中に少なくても上級魔法や特級魔法は詰め込まれているはずだった。
千夏の情けない顔を見て、レオンはしょうがないなと溜息をついた。
「人の身でドラゴンオーブを読めるだけ大したものだとは理解している。確かに今回の水魔法については僕が教えられる。だけど、他の属性……風属性だったらお手上げだ。使えるのにわからないなんて意味がないだろう? 今のうちに魔法について詳しい人に思い出し方を聞いてみたらどうだ?」
レオンもなにも意地悪で言っているわけではない。逆に今後のことを考えて助言してくれているのだ。
火の上級魔法も人に見せてもらって記憶から呼び覚ました。毎回運よくその属性魔法が使える人がいるとは限らない。
「魔法に詳しい人か……カトレアさんかな?」
千夏はとりあえず、カトレアに話を聞いてみることにした。




