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サンドワーム

タ二タ渓谷にはレゴン北部の生命線ともいえるサリ河が流れている。河の上流で源泉に近い。


河の恩恵を受けるのは人に限ったことではない。動物も植物もそして魔物にも水は必要だ。

なにも人だけが河を独占する必要はない。

だが、害をもたらす魔物は別だ。


「こいつはひでぇな」

タニタ渓谷を一望できる丘の上からサリ河の現状をみてキールは呻いた。

サリ河から細い支流が無数にできている。

河の水一部が本流に乗らずその支流にのり、溢れて沼地を作っている。


「サンドワームが穴を掘って、河の支流を作ってるようだな。こんだけの数だ。どのくらいいやがるんだ?」

キールの隣に立つサムは苦々しそうに河の様子を窺っている。


キールは2メートルを越す長身で、横幅もがっしりとした鋼のような大男だ。背中には巨大な戦斧を背負っている。

サムはキールの隣に立つとまるで貧弱に見えるが、実際は鍛え上げられたしなやかなバネのような筋肉を持った剣士だ。


そもそもの発端はタニタ渓谷の両側の山には鉱山があり、掘り出した鉄や銅をこの河を使って、マハイまで運んでいたがサンドワームの発生によりそれが不可能となった。


今は鉱山は休止状態に追い込まれている。

早急にサンドワームの討伐をしてほしいと冒険者ギルドに依頼が入った。


サンドワームはこの近辺にまれに発生する魔物だ。

過去に鉱山から討伐依頼が何回か出ている。

キールもサムもその依頼を過去に受けたことがある。

しかし、今回の状況はいままでに例がないほどのひどい有様だった。


「穴の数はかなり多いわ。数匹じゃ、こんな状況にならない」

キールの後ろに立っているエリザが顔をこわばらせる。


彼女はキールの次に身長が高く、凹凸のはっきりした豊満な美女である。腰に下げた剣は2振。この世界では珍しい二刀流の使い手である。


キール、サム、エリザは3人ともAランクの猛者だ。

だが、彼らでも対応できない数のサンドワームがこの渓谷にいるのだ。


サンドワームは単体ではBランク、集団の場合Aランクに数えられる魔物だ。

だいたいが集団で固まっており、その数は3、4匹程度だった。今までは。


「とにかく、どのくらいの数がいるか確認しよう」

サムは自分のパーティの魔法使いのピートに地中調査魔法をかけるように指示する。

サンドワームのように土の中に潜んでいる魔物の位置を割り出す魔法だ。


ピートが魔法で調査しているのをじっとキールは黙って待った。

キールとエリザはもともとタニタ渓谷のサンドワーム討伐依頼を受けていない。

その先の沼地に現れたヒュドラ討伐の依頼を受けている。


キールとエリザは2人だけのパーティだった。

今年の夏の猛暑がひどく、タニタ渓谷より先が深刻な水不足だという噂を聞いた。

2人とも前衛であるため大量に荷物は持てない。

丁度サムたちのパーティがサンドワームの討伐依頼を受けたので、合同でサンドワームとヒュドラ討伐をすることにしたのだ。


サムのパーティはサムを除けば、5人ともランクBだ。

全員で同時に対応できるサンドワームは3、4匹まで。

それ以上はかなり厳しい状況だった。


「……全部で20はいる」

ピートは絶望的な表情でサムに報告した。

「ばらばらでいるのか?まとまっているのか?」

キールは天を仰いでから、ピートに質問する。

ここまで5日もかけてきたのだ。

手ぶらでは帰れない。


「真ん中あたりに10匹ほど固まってるけど、残りは渓谷全体にわかれてバラバラだ。ここから一番近いやつと次に近いやつとの間は20メートル以上離れている」

ピートはキールの質問の意図を理解し答える。


「どうせ戻ってもランクAの冒険者はあまりいねぇ。人数が増えてもランクBだ。今回は少しずつおびき寄せて倒していくしかないだろう。固まってるやつらは無理なら今回はあきらめるしかねぇ」


キールはぽりぽりと頭をかきながら、そう言い切る。

ここで手ぶらで帰ったら次回は20匹と総当たりになるのだ。

いくら人数を集めたとしても、それはとても厳しい状況だった。


「そうだな。無茶をしない範囲で削れるだけ削ろう」

サムは溜息をついてキールの提案をのむ。

「ピートは戦闘に参加せずに、一定間隔おきに地中調査を行え。やばくなりそうだったら早めに伝えろ」

「わかった」


「他のメンバーは酸と毒には気を付けろ。ピートの指示があり次第撤退する。そのときに状態異常だと足手まといになる。毒消しの薬とヒール薬はすぐに取り出せるようにしておけ。オズは支援魔法を切らすな」

次々とパーティメンバーにサムは指示を出し、キールとエルザを緊迫した表情で見上げる。


「俺たちが最初の一匹を受け持つ。お前たちは新しく追加で増えたやつの対応をしてもらう。横湧が多くなったら再度振り分けするから、俺の指示に今回は従ってくれ」

同じAランク冒険者に指示をだされることは不快だろうと思い、サムは二人に向かって頭を下げる。


「気にすんなよ。俺たちは二人だけだ。大人数の戦闘は素人だから、あんたに指示してもらったほうがいい」

「そうよ、そんな水臭いこと言われる付き合いはしていないはずよ」

キールはいかつい顔に笑みを浮かべ、エルザはすねたようにツンとそっぽを向く。

「そう言うだろうと思ったが、一応礼儀ってもんだ」

サムは不敵に笑う。


「では、まずは腹こしらえするぞ」

サムの一言でピートがポットと水が入ったタンクを取り出す。


湯を沸かすための薪も取り出し火をつける。

その間に出発前に握ってきたおにぎりを皿の上にのせて、端のほうから配る。

付け合わせは魚と豆の煮物だった。


肉は大森林でとれる獣か魔物の肉くらいでなかなかレゴンでは手に入れられない。


戦闘ではかなりのエネルギーを消費するため、普段よりも皆大量に食べた。

いざというときに体が動かないということがないように。

食後はわかしたお湯でお茶が配られる。


「南部では深刻な水不足が起きているらしいから、サンドワームも水を求めてこっちに移動してきたのかしら?」

エリザがお茶をゆっくりと飲みながら、首を傾げる。


「そうかもしれないな」

キールはサリ河の様子をみながら思案深気に答える。

各山脈の雪解け水と湧き水がタニタ渓谷で合流しサリ河になる。

サンドワームをこのまま放置しておけば、水は大森林やマハイまで流れてこなくなるかもしれない。


「でははじめるぞ。装備を確認しろ」

サムは立ち上がり、ピートが一番近くにいるといったサンドワームの場所に向かって歩き始める。

そのあとに全員がぞろぞろとついて歩いていく。

オズが毒耐性と速度上昇魔法を全員にかける。


ピートは位置に着くと再度地中調査魔法をかける。

サンドワームは移動しておらず、目の前の盛り上がった地面の下にいる。


サンドワームを地上へおびき寄せる方法は2つある。

ひとつは地中深くもぐっているサンドワームへの攻撃。もしくは、サンドワームの近くで血を流すことだ。血の匂いでサンドワームは地中から出てくる。


今回は大森林で分けてもらった獣の血を使う。

おびき出したいサンドワームの数を絞りたいので、2滴ほど垂らすだけにする。


「来たぞ」

ピートが地中を睨みながら短く警告を発する。

サムは愛剣を構え、地中から飛び出して来たサンドワームに斬りかかる。

サムが斬りつけたサンドワームの体から紫色の体液が流れ出す。


「グギャャャャャャャャャャャャャャャャャ」

サンドワームが痛みに声を上げたときには、サムと同じ前衛のグドシャが連続して斬りつける。後衛から次々と火矢がサンドワームに襲い掛かる。


「近くの2匹が左から来た!」

ピートの叫び声を聞き、キールとエリザは即座に左側に走り込む。

土を食い破るかのように飛び出してきたサンドワームの頭に、キールはブンと風切り音を鳴らし巨大な戦斧を叩き込む。グシャっと骨が砕ける音が鳴り、サンドワームの頭部が陥没する。

エルザも2本の剣で飛び出してきたサンドワームを十字に切り結ぶ。


エルザと戦闘中のサンドワームが大きく口を開け、ピシャっと酸をエルザ目がけて吐き出す。

エルザは攻撃のために上方に飛び上がっていたため、回避ができない。

剣を十字に構え、酸の一部を防ぐが、酸の飛沫がエルザの太ももに数滴降りかかる。


「うっ」

エルザはそのまま一太刀サンドワームを斬り、サンドワームの体に足を当てくるりと宙返りし、後ろに一旦飛び下がる。

素早く腰に下げたポーチからヒール薬を取り出し、太ももに振りかける。

その隙にサンドワームはぐんぐんとエルザとの距離を詰めてくる。


「はぁ!」

エルザは片方の剣をサンドワームの片目を狙って投擲し、さらに後ろに跳び下がる。

「グギャャャャャャャャャャャャャャャャャ」

片目を深々と刺されたサンドワームが悲鳴を上げ、長い体を前後に揺らし怒りをあらわにする。

エルザはそのまま再度突撃し、先ほど斬りこんだ傷口をさらに抉るように剣をふるう。

傷口からはだらだらと紫の体液が流れ落ちる。


ヒュンと風を切って、火矢が残ったもう一つの目に次々と突き立てられる。

どうやらサムのパーティは1匹目を倒したようだ。

サンドワームの動きが更に鈍くなる。エルザはその隙に素早く近寄り、眼下に突き立てた剣を引き抜く。

一度距離をとり、左手を下に右手をサンドワームと垂直に向ける。


「双斬剣!」

エルザは両方の剣に裂帛の気を送り込み、素早く横に薙ぐのと同時に下から斬りあげる。

一陣の強風が突如発生したかのように、サンドワームの巨体が錐揉みしながら跳ね上げられる。

一メートルほどサンドワームは跳ね上げられたあと、慣性に従ってそのまま落下する。

ドシンと地響きが鳴り、大地にたたきつけられたサンドワームはピクリとも動かない。


エルザは剣についた紫色の体液を剣を振って落とすと、キースのほうを振り返る。

そちらもすでに決着はついていた。頭を斧で砕かれたサンドワームが倒れている。


「新たに右から二匹、正面から一匹が来る!少し離れて3匹ほどが正面から動き出した」

ピートの叫び声が戦地に響く。

同時に6匹は厳しい。


「後退しながら追ってくるやつを牽制!逃走が最優先だ。深追いするな!ピートはファイヤーウォールを出してから下がれ」

サムから撤退命令が出る。

足の遅い後衛から撤退が始まる。


ピートが放った炎の壁が数枚展開される。

一度地中から出てくれば問題ないが、地中から来られたら壁の意味はまったくない。あくまでも気休め程度だ。

エルザを含め前衛はじりじりと後ろに下がりながら、いつ飛び出してくるかわからない気配を必死に追った。

戦闘シーンは難しいです。

主人公たちは次の回からでした。


めちゃくちゃきりが悪いのですが、明日はたぶん投稿が間に合いません。

いいところなので頑張りたいとは思っています。すみません。

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評価してくださってありがとうございます。

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