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大森林

マハイで一泊した後、とりあえず一行は南へと向かうことにした。

港の周りでは人が多すぎる。多少離れれば、竜に戻ることも可能だ。

そのときに、風の精霊を捕まえてより正確な場所を聞くことにしたのだ。

南にはタニタ渓谷がある。妖精の谷というからにはどこか山に囲まれた谷の近くにあるはずだ。

千夏はタニタ渓谷が怪しいと考えている。だが、あくまでも憶測だ。


「シルフィン、本当に全然思い出せないの?」

千夏は、馬車の窓から馬車と並走するセレナの方に向かって声をかける。

(かんにんな。ぼやっとしか思い出せへんわ。)

珍しく落ち込んでいる様子でシルフィンが答える。


レゴンはエッセルバッハの半分くらいの大きさの国だ。

マハイの港は最北端にあり、全体的に南北へのびてた形をしている。

だから南という漠然な位置はレゴンの大半を指し示すことになる。


レゴンの端から端まで馬車でおよそ40日かかる。

セラに期限をきられている一カ月までおよそ残り13日ほど。最南端まで到底足りない。


「最悪は連続転移での移動か、人が少ないところはタマとレオンに運んでもらうしかないですね」

出発前にエドはレゴンの簡易地図を見てそう結論付けた。


千夏としてはせっかくここまできたのだ。見つけて帰りたい。

だが、万冬(まふゆ)の結婚式のこともある。

3週間後にはラヘルに戻らなければいけない。

エドもその辺りを計算しているのだろう。


「マハイから南へ向かうとまずは、大森林を通るんだね」

リルは簡易地図を確認している。

「大森林まではマハイから約半日で到着で、抜けるまでに徒歩でおよそ4日か。結構かかるね」

千夏は王城の図書館から借りてきたレゴンについて書かれている本を広げる。


「大森林を抜けてからまた半日ほどで今度はレゴンを分断する山脈地帯に入る。タニタ渓谷はレゴン南部へと抜ける唯一の道らしいよね。山の勾配はきつくて馬車は通れないみたい」

「地図の書き込みによると、今タニタ渓谷でサンドワームが大量発生しているので、通行できないみたいだね」

リルはアルフォンスが冒険者ギルドの掲示板を見て、地図にかきこんだ文字を追う。


「渓谷を抜けた先にある沼地でもヒュドラが出てるって書いてある。大森林にも魔物がいるらしいし、結構この国魔物が多いんだね」

「そうみたい。本によると大森林でとれる果実とマハイの漁港、タニタ渓谷近くの山からでる鉄と銅、それに漁港近くの農産地がレゴンの主産業はみたい。それより南のほうはあまり手つかずのようね。小さな村は転々としてあるんだけど」

リルは千夏の説明を聞いて首を傾げる。

「なんで南は手つかずなの?魔物が多いからかな?」


「最南端のほうに火山地帯があるみたい。どうも旧セルレーン王国が滅びたのが、その火山の大噴火による影響みたいなのよね。かなり激しい大噴火らしくて、南一帯が溶岩につつまれたらしいの。レゴンの中央から北にいた人たちが助かって、いくつかの村が併合されてレゴン共和国になったらしい。国の立て直しに時間がかかって落ち着いたのが100年程前。それで南まで手を伸ばそうと思ったら、魔物が大量に住み着いてるわ、水路が溶岩で塞がれているわで、なかなか開発に手がつけれれないらしい」

千夏は本を読みながら要約して説明する。


「水路がないんだ。だから水不足なんだね」

納得したようにリルが答える。

「そうね、海があるけどそのまま水として使えないのが問題よね」

「ともかく、大森林を抜ければ人が減るんだな?」

レオンが確認する。人が減れば竜に戻って空で風の妖精を捕まえることができる。


「そうだね。そのときはお願いするよ」

千夏は本を閉じて、すまなさそうにレオンを見る。

「妖精をはっきり見えるのは僕とタマだけだ。行く当てもない旅でも僕は構わないが、約束があるんだろう?やれるものがやるだけだ」

すまなさそうな千夏の視線が気に入らないらしく、レオンは少し不機嫌そうに答える。


千夏の腹時計がお昼を告げるころ、ようやく大森林が見えてくる。

「うわー、まさにジャングルだね。馬車じゃ入れないね」

カンドックが住む孤島を千夏は思い出す。

草木の生え具合があそことあまり変わらない。


馬車を止め一旦お昼を食べることにする。

大森林の入口付近には煮炊きができるような広場ができている。

毎日森の恵みを採取するために、人が行き来しているのだ。

広場にはすでに先着していた大勢の人々が昼食をとっていた。


「見かけない顔だね。旅行者かい?あんたらも大森林に入るのかい?」

広場に馬車を止めると、一人が馬車に近寄ってくる。

「はい。そのつもりです」

エドは御者台から降りながら男に答える。


「まさかその馬車でいくつもりじゃないだろうね?森の中の道はせまい。荷車が1台通れるくらいだ」

男は眉間に皺を寄せて、エドを見上げる。

「この森の道は俺たちが荷車を通すために、毎日整備しているんだ。悪いけど、歩いて行ってくれ」

男はいうだけいうと仲間たちのもとへと戻っていった。


「どうやらここは徒歩のようです」

エドは遅れて到着したアルフォンスに事情を説明する。

できるだけ早く妖精の谷を探したいが、地元民ともめてまで馬車で通る必要はないだろう。

「わかった。とりあえず昼食にしよう。はらがへった」

アルフォンスは汗を拭きながら、腹を押さえる。


昼食が済むと、エドは馬車をアイテムボックスに収納する。

できるだけ急ぎたいので、鍛えていない千夏とリルが2頭の馬の背に乗る。

馬に乗るのは体験牧場で一度ポニーに乗った以来だ。

千夏は及び腰で馬の背にのせてもらう。

タマの背とはまた違った怖さがある。


アルフォンスとエドがそれぞれ馬の手綱をひき、先頭はセレナとコムギが歩く。

竜2匹はしんがりを務める。


森の中はカンドックの住処の森とは少し違った。

密林なのは同じなのだが、生えている木の種類が違う。

ところどころにおいしそうな果物が実っている木が目立つ。

キノコや山菜も豊富に生えており、まさに恵みが豊富な森だった。

たぶん、人の手がだいぶはいっているのだろう。


「あれ、採ったら怒られるのかな」

千夏はバナナがふんだんに実っている木を眺めながらつぶやく。

「1本くらいはいいとは思いますが、やめておいたほうがいいでしょうね」

手綱を引くエドが素っ気なく答える。


「この森には魔物が出ないの?」

先頭を歩くセレナが振り返り質問する。

「ギルドではこの森での討伐依頼は出てなかった。いたとしても、さっき居た連中が倒しているんだろう。彼らの装備を見る限り大物は出なさそうだな」

アルフォンスが記憶を探りながら答える。


「わかったの。じゃあ、できるだけ急いでこの森を抜けるの」

弱い魔物ならすぐに対応ができる。

警戒してゆっくり歩く必要はなさそうだ。セレナは頷くと速足で歩き始める。

全体的にかなりのハイペースで進んでいく。


夕方には森の1/3を踏破していた。

馬が小走りに走るくらいのペースで、ずっと歩き続けたのだ。

リルは自分が歩いていたら脱落していただろうなと馬を下りながら思った。


道から少しそれて野営に適した少し広めの場所に落ち着くと、早速天幕を建てはじめる。

まだ夕方だが、木々に覆われた森の中はすでに薄暗い。

完全に見えなくなる前に野営の準備を終わらせなければならなかった。

森の幸をふんだんに乗せた荷車とは何度もすれ違ったが、この日は一度も魔物に遭遇しなかった。

街に近い場所だ。普段から狩っていればこの森は安全な場所なのだ。


次の日も夜明けとともに朝食をとり、すぐに出発する。

千夏は眠い目をこすりながら馬から落ちないように、鞍に指をかける。

小走りに走る馬の上はゆっくりと居眠りする余裕などない。

旅を急がせている理由の一つが従妹の結婚式のせいであるので、文句をいうことはできない。

せめて妖精の谷の場所がわかれば、もう少し落ち着いて旅をできるのだが・・・


ガイドブックでは大森林を南に横断するのにおよそ4日とあったが、結局千夏達は3日で森を抜けた。


説明回です。

次話はサンドワーム戦です。

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