海辺で
「馬が暑さで倒れそうですね。こちらで従魔を借り入れましょう」
エドはここまで一緒に旅してきた馬を、セラから紹介された宿に預けていくと昼食の席で説明をする。
確かにこの国は暑い。
クール効果がある服をきていても汗が流れ落ちる。
平気な顔をしているのは、竜2匹とエドくらいなものだろう。
コムギもこの暑さで元気がない。ぐでっとテーブルの下の陰でのびている。
「暑いのか?」
レオンはそう確認すると、全員の体の周りに薄い水の膜を魔法で張り巡らせる。
とたんにすぅっと体が涼しくなる。
コムギも魔法をかけてもらったようで、ぴくりと立ち上がりテーブルの下から出てくる。
「空気が乾燥しているから、長くは持たない。水があれば継続することはできる」
レオンにとっては簡単な魔法なのだろう。
「すごいの!」
「涼しいよ!」
温度はもちろんのこと湿度もちょうどいい。
いつもは一緒に騒がないエドもこの猛暑は辛かったらしく、レオンに丁寧にお礼をいう。
「さすが水竜の混血竜ですね。助かります」
「そうだ。僕は竜だからできて当たり前なんだ。これくらいで騒ぐな」
レオンは自分に集まる視線から、顔をそむけ答える。
しかもレオンいわく、この魔法に使用する水はどんな水でもよいらしい。
「どんな水でもって、お風呂の残り湯でもいいのか。それは便利よね」
レオンの説明を聞き、千夏はレオンに尋ねる。
「構わない」
「じゃあ、海水も平気なの?」
セレナが目の前に広がる海を見る。
「水なら問題はない」
「それなら海水を小さな塊に凍らせて、アイテムボックスに詰められるだけ詰めて、持って行きましょう」
水はこの街ではかなり高い。
海水が代用できるのであれば、飲み水以外の水を大量に買わなくてもよくなった。
馬はそのまま連れていくことにし、昼食後に早速海岸に移動する。
レオンが海水を凍らせ、エドがアイテムボックスへ詰めていく。
今日はこのままこの街で一泊する予定だ。
アルフォンスとセレナはいつもの鍛錬に。
タマとコムギは千夏達からあまり離れたところに行かないと約束して、海岸で貝殻を拾い集めている。
一応リルが2匹のお目付け役だ。
「キラキラしたのを集めるでしゅ」
「クゥー」
気合を入れてタマは貝殻探しに取り組む。
コムギも海岸の砂浜を掘って、貝殻を探すのを手伝う。
港で何枚かキラキラと輝く貝殻を手にいれたタマは、昼食時にうっとりとそれを眺めていた。
それをみて千夏がタマに助言したのだ。
「綺麗だね。沢山集まったら、首飾りでも作ったら可愛いかも。コムギに似合うかもね」
「コムギの首飾りでしゅか。それは綺麗でしゅね。沢山集めるでしゅ!」
タマは頷き、そして現在に至る。
波打ち際の辺りをタマとコムギは貝殻を探し、すごい勢いで掘り返していく。
「あまり深く掘っても出てこないと思うよ」
積みあがっていく土砂を見て、唖然としたリルが2匹に他の場所を探すようにと助言する。
千夏はレオンとエドが作業する近くで、水操作の応用魔法である水膜の練習をしている。
他にも使える人が多い方が便利なため、千夏は珍しく真面目に魔法の練習に取り組むことにする。
馬車の中にいる場合は氷と風のマジックアイテムで十分涼しいが、外に出たら無意味だ。
快適な生活のために多少の努力は苦にはならない。
たまに海水を氷に変える魔法も見様見真似で試したりする。
無から氷や水を作り出す魔力に比べ、存在している水の温度を変える魔法は魔力が少なくて済む。
レオンも大量に海水を氷に変えたわりにはあまり魔力が減っていなかった。
エドのアイテムボックスがそれなりにいっぱいになると、今度は千夏のアイテムボックスに氷を詰め込んでいく。最悪飲料水がなくなったときにレオンの魔法で不純物を取り除き、海水を飲用水に代用できる魔法を使えると言ったからだ。
「レオンっていろいろできてすごいね」
「本当にいろいろ助かります」
アイテムボックスに氷の塊をしまいながら千夏がレオンを褒めると、エドもすぐさま同意する。
「僕は竜だからな。できて当たり前だ」
レオンはすまして答える。
水商人にとってレオンは商売を脅かす邪魔者になるだろう。
もちろん誰にも言ったりしないが。
なので、氷詰め作業もこっそりと行っている。
この暑い時期真昼の海岸には泳いでいる人もいるのだ。
ある程度千夏のアイテムボックスに氷を詰め込み終わり、のんびりとエドが淹れてくれたお茶を飲んで休憩していると、アルフォンスとセレナが駆け戻ってきた。
レオンの魔法効果がきれて2人とも汗だくだくだ。
「うぉーーーーっ!」
そのまま、二人とも千夏達の前を通り過ぎ、海に次々と飛び込んでいく。
それを見たコムギも一緒になって海に飛び込んでいく。
「コムギ!」
慌ててタマも海に走り寄るが、どうやらコムギは泳げたらしい。
足をバタバタさせながら、犬かきで波を乗り越える。
「ふぅー気持ちいいぞ!ちょっと水がぬるいけどな」
潜っていたアルフォンスとセレナが海上に浮上してくる。
「あー、さっぱりしたの」
そのまま二人は海の中が気持ちいいらしく、再び泳ぎ始める。
そのあとをコムギが犬かきで追いかけていく。
タマも海に興味を持ったようで、海の中へと入っていく。
以前初めて海に潜ったときは潜水魔法を使っていたので、泳いだことはない。
アルフォンスとセレナそしてコムギが泳いでいる方向にタマは歩いていく。
「!!」
途中からがくんと海底が深くなっており、タマはそのままずぼっと海の中へと沈んだ。
「「「タマ?!」」」
沈んだまま浮かんでこないタマ目がけて人が殺到する。
千夏はすぐにタマの気に向かって潜水魔法をかける。
一番早くたどり着いたアルフォンスが海中からタマを掴んで引き上げる。
タマはアルフォンスにしっかりとしがみついており、意識もしっかりあるようだ。
千夏はそれを見てほっとする。
「タマ、大丈夫か?」
アルフォンスはタマを担いだまま、自分の両足が届くところまで戻る。
「びっくりしたでしゅ。コムギみたいに泳いで上に上がろうとしたんでしゅけど、うまく泳げなかったでしゅ」
タマがきょとんとしながらそう答える頃には、全員がタマの周りにたどり着いていた。
千夏はもちろんのことエドもフロックコートのまま海の中だ。
「海は泳げないと足がつかないところまで入ってはだめですよ」
アルフォンスに抱き上げられているタマにエドが注意する。
「はいでしゅ。ごめんなさいでしゅ」
素直にタマは謝る。
「無事でよかったの。でも竜って泳げないの?」
セレナはタマの頭をなでながら質問する。
「水竜は泳げるみたいだが、他の竜が泳ぐというのは聞いたことがないな」
アルフォンスは首を傾げて答える。
「確かにあまり聞かない話だよね」
海水を吸ってすっかり重くなったローブを脱ぎながらリルも同意する。
「とりあえず海から上りませんか?」
エドがそう提案すると、全員海岸に向かって歩き始める。
海から上がると、アルフォンスは反省してしょぼんとしているタマを下ろす。
コムギも海からあがってきて、ぶるぶると全身を震わせ水けをはじく。
千夏はメンバーの体の表面から水分を飛ばす魔法を使う。
練習していた成果もあり、服の水分もきれいに飛ばすことができた。
「タマ、泳ぐ練習する?練習すれば泳げるようになるよ」
リルはしゃがみ込んでタマに優しく問いかける。
「するでしゅ。タマもコムギみたいに泳ぎたいでしゅ」
「じゃあ、練習しようか。おいで」
リルはローブを砂浜の上に置くと、タマの手をつなぎ、海のほうへと歩いていった。
そのあとをコムギが付いて歩いていく。
(ビート板か浮き輪があれば練習するのも楽だろうな。)
千夏はリルの腕につかまってバタ足で練習しているタマを微笑ましく眺めた。
すみません、体調が悪いのと仕事で全然進んでいません。
今週も不定期更新になります。




