腕輪の鑑定
冒険者ギルドを出てすぐ隣の商人ギルドの建物の中に入る。
人の多さは同じくらいだが、あきらかに客層が異なる。
武器や防具などと縁がなさそうな、薄手の麻の服を着込んだ人々が入れ替わり立ち代わり出入りしている。
カウンターは冒険者ギルドよりも多くあり、鑑定と書かれた人気の少ないカウンターに向かって、エドは歩き出す。
朝から鑑定を頼む人などいないから、すいているのだろう。
千夏達はエドの後をそのままついていく。
「いらっしゃいませ。ギルドカードはお持ちですか?」
少し暇そうにしていた中年の男性がエドに気付きにこやかに声をかける。
「いえ、商人ギルドには加入していないのでありません」
「そうですか。ギルドに加入していなくても鑑定することは可能です。ただし、鑑定料が割高になってしまいますが。鑑定するのはどのようなお品でしょうか?」
エドがアイテムボックスから例の腕輪を取り出す。
あのときバタバタしていたので千夏は腕輪をじっくりと見ていなかった。
その腕輪は木製でリーフ柄が彫り込まれた小さな腕輪だった。宝石などの装飾品は全くついていない。
ダンジョンマスターから出るアイテムは外れもあるそうだ。
見た目的には外れのように見える。
「ほほう。これは結構古いものですね。どこで手に入れられました?あ、無理にお答えいただけなくても構いません」
しげしげと男が腕輪を見ながら質問する。
「ラヘルのダンジョンマスターです」
別に隠し立てすることではないのでエドがそう答えると、男は目を輝かせた。
「ダンジョンマスターですか。ダンジョンマスターの品の鑑定は当ギルドではかなり久しぶりです。初級鑑定魔法ではなく、中級鑑定魔法を使いたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
どう違うのか千夏にはわからなかったが、「鑑定料が違うんだよ」とリルが小声で教えてくれる。
高度なマジックアイテムほど、鑑定する魔法のレベルが必要なのだそうだ。
例えば千夏の首からぶら下げている世界樹の枝など、最たるものだろう。
初級鑑定魔法では「杖、特殊能力あり」とだけ情報がわかる程度だ。
中級鑑定魔法でやっと「世界樹の杖、特殊能力あり」となり上級鑑定魔法で「ユニークスキル2倍」という特殊能力がわかるのだ。
上級鑑定魔法が使える人は各国に2,3人しかいない。
国宝級のものでなければ、中級鑑定魔法でほとんどの能力がわかるそうだ。
「では中級でお願いします」
エドが鑑定料の金貨1枚を支払う。
ただの腕輪だったら高い鑑定料だろう。
宝くじを買うようなものかなと千夏は感じた。
「それでは『鑑定強化』」
ギルド職員がそう唱えると、周りの商人たちが興味を持ったのか近寄ってくる。
最初から中級鑑定魔法を使う品ならそれなりに値打ちものだからだ。
「鎮静の腕輪。毒、石化を無効化。耐性ではなく無効化ですか。ここの冒険者なら高値でもだれもが欲しがるでしょう」
職員は腕輪をエドに渡しながら、鑑定結果を告げる。
職員の話をきいた商人たちがわらわらとエドの周りに集まってくる。
「売るなら金貨10枚で買い取るよ」
「馬鹿いえ、金貨10枚なんて金で売らないだろう。俺は金貨20枚だ」
エドは腕輪をアイテムボックスにしまい込むと、商人達を相手にせずそのままギルドを出ていく。
一度捕まると長いことをよく知っているのだ。
『まいたら買い物をしてから港に向かいます。そちらは次の場所に向かっていてください』
エドが遠話を使って連絡してくる。
「確かに、ここの国では猛毒や石化を使ってくる魔物が多い。重宝するだろうな」
アルフォンスが足早に立ち去るエドを見送りながら納得する。
「猛毒や石化は命の危険が高い状態異常だからね。無効化できるなら安全だね」
リルは少しエドを気の毒そうに見送っている。
セレナから何かあったのか?という問い合わせが入り、特に大した問題じゃない。後で報告するとアルフォンスが答える。
『ところで、そっちの妖精の聞き込みはどうなんだ?』
『全然進んでないの。水の妖精は多いんだけど、風の妖精が少ないの。それもいたと思ったら風に乗って飛んで行っちゃうから、なかなかつかまらないらしいの』
セレナ自身は妖精が見えないのでよくわかってない。
シルフィンから状況を聞いているだけだ。
今現在は港にある小さな倉庫で休憩中だ。この倉庫は今日だけ借りており、熱中症対策に千夏がマジックアイテムを置いていっているので、ひんやりとしていて涼しい。
氷のたらいにはお茶が入った瓶が冷やされている。
たまに冷気を感じて港の男たちが覗きにくる。
エドにしっかり教育されたのか、セレナが男たちから銅貨1枚の休憩料をとっている。
お茶も1杯銅貨1枚だ。
噂を聞きつけ入れ代わり立ち代わりに人がやってくる。
暇な留守番かと思っていたが、なかなか忙しい。
レオンとタマそれとコムギはたまに休憩に戻ってくるが、ほとんどが外に出っ放しだ。
空を飛んで風の妖精を捕まえたほうが手っ取り早い。
とレオンから苦情が上がってくる。
さすがに竜で徘徊するのはまずい。
『今のところわかってるのは、南のほうにあるというくらいだけなの』
「妖精の谷はどこだ?」という質問に風の妖精が笑いながら、みんな南へと飛び立っていったからだ。
『とりあえず、頑張って。お土産においしいもの買って帰るから』
千夏はそう答えながら、アルフォンスの先導で魔法屋に向かって歩き始める。
後は魔法屋にいったあと、多少食材を買い込めば終わりだ。
南に妖精の谷があるのであれば、水も多めに買い込んでおいた方がいいだろう。
千夏は魔法屋に入ると、カウンターに座っていた中年の女性に「石化耐性の転写をお願い」と頼む。
無属性魔法なので、アルフォンスも覚えられる可能性がある。
覚えられても全員に支援魔法をかけられる魔力があるのかが、はなはだ疑問ではあるが、本人が覚えたいというので頼んだ。
リルは石化解除の聖水をもらいに途中で見つけた教会に寄っている。
「それでは行きますよ。『転写 石化耐性』」
びりりと久しぶりに痺れる頭を押さえ、千夏は呻く。
アルフォンスのほうは、覚えられなかったようで頭痛で頭を押さえている千夏をうらやましそうに見ている。
「あ、覚えられたんだ。よかった。今、痛みをとるね」
魔法屋に入ってきたリルが千夏の頭に手をおき、ヒールをかける。
代金の銀貨5枚はアルフォンスがまとめて銀貨10枚を出して支払う。
魔法転写代もエッセルバッハに比べてかなり安い。
痛くないならある程度まとめてかけてもらいたいくらいだ。
「さて、タマ達が心配だからさっさと買い物して戻ろう」
頭痛がおさまった千夏は、魔法屋を出るとさっさと露店街へと向かった。
「坊や、さっきからずっとそこにいるね。どうしたんだい?」
タマは港の船着き場に腰をかけ、ぶらぶらと足を動かしながら海をみていた。
正確には海を渡る風の妖精を探していた。
タマに声をかけてきたのは地元のベテランの海女で、ひと潜りした後にも同じ場所に座っているタマが気になって声をかけてきたのだ。
麦わら帽子をかぶっているとはいえ、この炎天下だ。
ほとんど動きもせず座り込んでいたら熱中症にかかる。
肌の色は白い。きっとよその国からここに来たばかりだ。
彼女は濡れた髪をぬぐいながら、タマの隣に座る。
タマも身なりは自由民と同じそれなりの服装だ。貧しい親が子供を置き去りにしたということはなさそうではある。
「妖精を探しているのでしゅ。妖精の谷を知ってるでしゅか?」
タマは海女を見てぺこりと頭を下げて挨拶する。
「妖精かい?なつかしいね。子供のころに聞いた以来だね」
タマが座り続けている理由を聞き、海女は目をまるくする。
海女の隣にはくすくすと笑っている水の妖精が座っている。
彼女も千夏と同様に水の妖精から加護をもらっていた。
加護を持っている人の近くに妖精はよく現れる。
そう、たとえ相手が見えなくてもだ。
「うちのじいさんがそういう話が大好きでね。小さいころによく聞かされたよ。最近は聞かなくなったもんだね。坊やは妖精に会いたいのかい?」
妖精にはすでに会っている。
素直なタマはどう答えていいのか考える。
「タマは妖精の谷に行きたいのでしゅ」
その答えを海女は妖精に会いたいと解釈する。
「そうだね。私がじいさんから聞いたことがあるのは、ここからずっと南に妖精が住む谷があるってことくらいだね。そこにはたくさんの妖精が住んでいるって話さ。本当にあるかはどうだろうかね。じいさんがぼけてなければ、何か覚えてたんだろうけど」
「南でしゅか。教えてくれてありがとうでしゅ。これ、お礼でしゅ」
やはり南に妖精の谷はあるらしい。
タマはお礼に先ほど港で拾ったキラキラ光る貝殻を海女に渡す。
「タマ!」
遠くからレオンがこちらに向かって歩いてくる。
タマはレオンに向かって手を振る。コムギもレオンと一緒にいる。
海女にぺこりと頭を下げるとタマはレオンの元へ駆け出した。
海女はその姿を見送り、安心してその場を離れていった。
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