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マハイ

 旧セルレーン王国。現在レゴン共和国は南国諸島の中でも最南端に位置している。そこから更に南にはいくつかの無人島がありその先には果てしなく広がる海がある。


 入国審査を終え、一行はレゴン共和国の玄関口のマハイの港街に入る。

 ここからは風の妖精を捕まえて、妖精の谷に向かう予定だ。シルフィンがしっかり覚えていれば良かったのだが、300年の年月ですっかり忘れてしまっていた。


 妖精が見える竜二匹とコムギ、セレナを港に残し、残りのメンバーは食料の買い出しとギルドへの到達報告に向かう。

 マハイはラヘルと異なり、開放的でたくさんの露店がところ狭しと並んでいる。その中で千夏の目を引いたのは青果売り場のパイナップルとマンゴーだった。


「おばちゃん、これとこれ1個ずつ頂戴」

「あいよ、銅貨2枚だね」

 千夏がアイテムボックスから銅貨を取り出し、渡すと店の店主が「硬貨が違うよ」と首を振る。どうやらレゴンではエッセルバッハで使っていた硬貨がそのまま使えないらしい。


 千夏はまた後でくると店主に謝り、少し呆れたような顔しているエドの元へと戻る。

「入国審査のとき、話聞いてなかったんですね?」

 そのとおりなので千夏は笑ってごまかす。レゴンに入ったのは早朝でとても眠くて聞いてられなかったのだ。


「ギルドより先に両替商に行きましょうか」

 エドは入国審査官から聞いた両替商の店に向かって歩き出す。港にあれば便利なのだが、街中にあるらしい。


 両替商の店はあまり混雑しておらず、すぐに両替することができた。

 商人などは硬貨を換金せずに商札と呼ばれる札をつかって売買を行う。商札も同じ両替商が取り扱っているのだが、こちらの取引は港に事務所があり街中の店は観光客向けだった。


 どのくらいここでお金を使うのかわからないので、千夏は金貨10枚を両替してもらうことにする。手数料は交換硬貨10パーセントで、別に銀貨10枚を支払う。返ってきたお金は赤銅貨50枚に銀貨19枚。金貨4枚。


「こちらでは赤銅貨50枚で銀貨1枚。銀貨20枚で金貨1枚となります。赤銅貨6枚で食事、普通の宿屋にとまるのであれば、40枚で泊まれます。エッセルバッハの硬貨との交換比率は銅貨1枚に対してこちらの赤銅貨が5枚にあたります」


 両替商の言葉を聞き、千夏は計算しなおす。つまり、エッセルバッハだと宿に一泊で銀貨3枚だったが、ここでは銅貨8枚で宿屋に泊れるのだ。

 めちゃくちゃ安い。さっき買おうとしたパイナップルもどきとマンゴーもどきも銅貨2枚といっていた。


「果物や魚それに米などがかなり安く買えますが、代わりに肉やパン、ワインやエールなどはかなり高いです。香辛料や砂糖の原料になる使うサトウキビなどは安いですね」

 ほくほくとしながら両替商の店を出る千夏にエドがここでの物価を説明する。


「それなら果物とお米とか安いのを大量に買っておこう。アイテムボックスがあるんだから鮮度は問題ないしね」

 すぐに買い物へ向かおうとする千夏をアルフォンスが止める。

「先にギルドにいって到着報告をしたほうがいいぞ。チナツは買い物に夢中になって忘れそうだ」

 実際に忘れかけていたので何もいえない。


 冒険者ギルドは両替商の店から道を1本向う側にある。まだ早朝だったので、ギルドの中は結構な混雑だった。

 大量に張られている依頼掲示板をちらりと覗き込む。ほとんどが討伐依頼ばかりだった。意外とこの島は物騒なののかもしれない。


「へぇ、サンドワームが出るのか」

 アルフォンスも興味深げに掲示板を覗き込んでいた。

「なにそれ?」

 千夏が質問するとリルが教えてくれた。

「土の中に潜って人を襲う大きな虫だよ。口から酸を吐き出すし、毒の尾もあるんだ。Aランクの魔物だよ」


「コカトリスも出るみたいです。石化の状態異常をしてくる大きな鳥のことです」

 エドもこれから移動する島に出てくる魔物が気になったのだろう。アルフォンスと一緒に討伐依頼を見つめている。

 今回は行先がなにせはっきりしていない。どこに向かうのかも妖精任せだ。


「石化かぁ。キュアで治せるけど、耐性魔法もってないんだよね。チナツは石化耐性試してみた?」

 リルが千夏に問いかける。

「耐性魔法って無属性魔法だっけ?」

「うん。そうだよ」


 例のギャンブル要素が高いので覚えられるかどうかわからないやつか。

「試してないけど、覚えたほうがよさげ?」

「あったほうが石化にかかりにくいからね」

 これは魔法屋にもよらなければならないか。とりあえず到着報告をするために千夏はカウンターの列に並ぶ。


 レゴンの人たちは全体的に体が大きく、女性でも180センチ近くの人が何人か見える。千夏などすっぽり覆い隠せるくらいだ。


「今年は雨が少ない。南に行けばいくほど、川が干上がって飲み水にも困るそうよ」

 千夏の前に並んでいる銀色の鎧を身にまとった、長身の女剣士が隣に立っているさらに大きな体に巨大戦斧を背負っている男に話しかけている。

「じゃあ、水を大量に持っていかねぇとだめだな。そうなると、魔法使いがいるパーティと組んで向かったほうがいいだろう」


「サムのところがタニタ渓谷に行くといっていたわ。一緒に行けるか確認してくる」

 女剣士は列から抜けて、併設された食堂の方へと歩いていく。

 千夏は不自然にならないように聞き耳を立てていた。タニタ渓谷と南にいくと水不足だということをしっかり頭の中にメモる。


 列が少し進んだところで先ほどの女剣士が戻ってくる。

「タニタ渓谷のサンドワーム狩りにやっぱり行くそうよ。同行するのは問題なし。ついでに足を延ばしてもらって、こっちのヒュドラ狩りも付き合ってくれるそうよ」

「それはありがてえな」

 男が振り返り、いかつい顔に笑みを浮かべる。


 そのときに千夏と男の視線がかち合う。ここで視線をそらすといかにも立ち聞きしていましたとなるので、千夏はそのまま視線をそらさず男を眺める。

「嬢ちゃんは、どこに行くんだい?」

 まったく日に焼けていない千夏の肌の色が気になったのだろう。男は視線をあわせたまま千夏へ問いかける。


「今日レゴンに着いたばかり。行先も決まってないの」

 素直に千夏は答える。

「ああ、だからそんなに日に焼けてないんだな。数日歩けばあっという間に日に焼ける。暑いだろうが、長そでの服をきて、火ぶくれしないように気を付けたほうがいい」

 絡んでくるわけでもなく、男は親切に千夏へ助言をしてくれる。女剣士も物珍しげに千夏の肌を見ている。


「ありがとう。ところで、妖精の谷って聞いたことはない?」

 千夏は礼をいってから、この土地に詳しそうな二人に聞いてみる。

「妖精の谷か。エルザ、お前聞いたことあるか?」

「子供のころ童話で聞いたくらいね」

 彼女は首をすくめて返事する。

 どうやら二人の番が回ってきたようだ。千夏は再度お礼を言った。


 彼らがヒュドラ討伐依頼を受けてカウンターから去ったあと、千夏は3枚の冒険者カードをカウンターにのせる。

「到着報告をお願い」

 受付嬢は手早くカードを到着報告用のマジックアイテムに差し込んでいく。

「未精算もありますが、清算しますか?」

「じゃあ、それもお願い」

 千夏がそう答えると、受付嬢は今度は清算スロットにカードを差し込んでいく。


「ゴブリン 11匹、ボイズンスネーク 4匹、ストーンゴレーム 2体にヒュドラが1ですね。合わせて金貨1枚と銅貨25枚です。ヒュドラの鱗かなにか買い取りするものはありますか?」

「ないわ」

 ヒュドラはダンジョンマスターで死体が残らなかったのだ。そういえばあの腕輪は何だったんだろう。ヒュドラの死体から出てきた腕輪のことなどすっかり忘れていた。


 清算してもらったお金をアイテムボックスに詰め、カードを受け取ると、千夏はお礼をいってからカウンターから離れる。

 アルフォンス達も情報収集をしていたようで、入国審査の際に買ったレゴンの地図やメモにいろいろと書き込んでいる。よく知らない土地なのだ。できるだけ情報が多いほうがいい。

「おまたせ」

 千夏が声をかけると、メモを書き終えたエドが顔を上げる。


「終わりましたか。それでは魔法屋にいきますか」

「そうだね。それと思い出したんだけど、ヒュドラから出た腕輪の鑑定どこかでしてもらえないのかな?」

「それなら商人ギルドですね。隣の建物だそうです。先に寄りましょう」


手数料の計算がおかしかったので修正しました。

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