暇つぶし
船に乗った3日目。
魚釣りで暇をつぶしていたアルフォンスが、釣竿を持ったままばたりと後ろにひっくり返る。
「釣りも飽きたぞ」
このあたりの魚は賢いのか、なかなか釣り上げることができず、釣り糸をずっと垂らしていることに飽きたのだ。
「なかなかつれないでしゅ」
タマも釣竿をかかえたまま、ずっと海面を覗き込んでいる。
海の中から複数の気が見えるので魚がいないわけではない。
コムギは魚が全然釣りあがらないので、待つのに飽きて千夏の部屋に戻っている。
この船の中では抜剣が許されておらず、剣の稽古もできない。
走り回れば船員に邪魔だと怒られるし、仕方なく腕立て伏せなど狭いところで体を鍛えることしかできない。だがそれも朝からずっと続けていると、体の一部だけを酷使すると筋肉を壊すといわれて、シルフィンから中止命令が出る。
アルフォンスほどではないが、タマもじっとしているのはつらい。
タマは糸を引き戻すと、釣竿を持って千夏の部屋へと戻る。
千夏はベットの上で読書していたが、タマがしょんぼりと戻ってきたことに気がつく。
「おかえり、釣れなかったの?」
千夏の質問にタマは麦わら帽子を脱ぎながらこくりと頷く。
「ちーちゃん、タマは何をしたらいいでしゅか?」
竜に戻って大空を飛ぶこともできない。
シャロンの手紙も昨日書いてしまった。
人間の幼児のようにタマもじっとしていることがつらい。
「うーん、そうだね。じゃあトランプでも作ってみようか」
千夏はアイテムボックスから大きな紙を取り出した。
タマとコムギの成長記録用の紙なので、厚手の紙でトランプを作るには向いているだろう。
「トランプでしゅか?」
「うん。遊ぶ道具なの。タマも作るの手伝って」
千夏はテーブルの上に紙をひろげ、ナイフで手のひらサイズに1枚切り取る。
ハサミがあれば便利なのだが、この世界でハサミは作られていないようだ。
同じく暇を持て余していた、セレナがベットから起き上がり千夏とタマをじっと見つめる。
「私も手伝うの」
「じゃあ、この大きさに紙を切ってくれる?えっと54枚必要かな」
千夏がもう一枚紙を取り出して、セレナに渡す。
「わかったの」
セレナは千夏に渡された紙を同じ大きさに切っていく。
「ハートとかダイヤじゃわかりずらいか。そうね、火・水・風・土がいいか。色もつけたほうがいいね」
千夏は絵具を取り出し、タマに渡す。
タマは千夏に言われた通りに赤、青、緑、茶色の絵具をパレット代わりの小さな器にといでいく。
セレナが切った紙の上にそれぞれの色を使って、マークのかわりに色をかえ絵具で小さな丸で数字をあらわしていく。
1から10までのカードを作ったあと、今度はジャックからキングまでの絵を書くようにセレナとタマに伝える。
「11が召使い……いいや、王子にしよう、12が女王、13が王よ。それぞれジャックとクイーンとキング。タマは火のカードのを作って、セレナは水のカードね。別の人が書いたほうが面白そうだからね」
千夏がそういうと、タマが「アルも暇そうだったから呼んでくるでしゅ」と甲板に駆け出していった。
しばらくするとアルフォンスを連れてタマが戻ってくる。
簡単に千夏が遊ぶ道具を作っていることをアルフォンスに説明し、アルフォンスが風のJからKを書くことになった。
千夏が土のカードを担当する。
ただ、丸をかくだけだった数字カードと異なり、それぞれが気合をいれてJ,Q、Kの絵をかいていく。
相変わらずタマの絵は頭が大きく体が小さい。
千夏も絵は人のことは言えない。セレナもどっこいどっこいといったところだろう。
どうせJ、Q、Kと書くのだ。絵だけでわからないでも問題はない。
意外に上手くかけたのはアルフォンスだ。説明しないでも、なんとなくなんの絵だかわかる。
「アル、うまいでしゅ」
はじめてタマに褒められたアルフォンスは嬉しそうに笑う。
最後のジョーカー2枚は光と闇にすべきだろう。
一番絵がうまいリルに書いてもらった方がいいかもしれない。
千夏は隣の部屋を訪ね、リルを呼びに行く。
何事か興味深げに聞き耳をたてているレオンもさそい、二人にジョーカーを書いてもらう。
ジョーカーの絵は竜にした。黄色の絵具と黒の絵具を使う。
リルが描いた竜は本の挿絵にしてもいいくらいの見事な出来栄えだった。
レオンは絵をかくということ自体が初めての体験だ。
竜にはとてもみえない、丸いなにかがそこには描かれていたが、それはそれでご愛嬌である。
絵具がかわくとさっそく千夏はババ抜きのやり方をみんなに説明する。
一番単純な遊び方なので複雑なルールはない。
レオンが描いたジョーカーを横に一枚どけ、53枚の紙を千夏は裏返しばらばらに手でまぜる。
適当にきった紙なので手にもってシャッフルするのは難しかったからだ。
全員にカードを配り、実際に練習してみる。
トランプをやったことがない他のメンバーはジョーカーが回ってくるたびに声をあげるので、誰が持っているかがすぐにわかってしまう。
「くぅ・・・もう一度だ」
アルフォンスが竜のカードを持って呻く。
最初の練習ゲームで負けたのはアルフォンスだった。
「聞いてみれば単純な遊びだけどおもいつかないよ。千夏の故郷の遊びなの?面白いね」
リルが再びカードを混ぜ、配り始めた千夏に質問する。
「そうだよ。手軽に遊べるゲームだね」
千夏はそう答えながら自分の手札を広げ、竜のカードがあることをそっと確認する。
千夏は竜のカードを少し他のカードより上にあげて手に持ってみる。
セレナは何の疑いもなく少し高くなっているカードを引き、「あっ!」と声を上げる。
やはり初心者は疑いもせずに目に入る特徴的なものをひくものなのか。
アルフォンスはなんのくせなのかわからないが、左側からカードをひく。
セレナがひいたカードをそのまま左におくので、竜のカードがアルフォンスの手に渡る。
「うっ」
アルフォンスは低く呻くと自分の持っているカードを裏返しにして混ぜたあと、レオンにひかせる。
こうなると引くカードは完全に運になる。
レオンも真剣にどのカードをひくか考え込む。しばらく考え込んだあと、真ん中あたりのカードをひく。
明らかにほっとしたような表情をして、レオンは場に7の数字のカードを2枚出す。
しょせんゲームなのだが、皆真剣だ。
結局2回目のゲームはタマが負けて終わった。
千夏はゲームから抜け、読書へと戻る。他のメンバーはまだまだヤル気まんまんだ。
「おや、ここに集まっていたのですか」
しばらくすると、ドアがノックされてエドが顔を出す。
妙に真剣な3人と2匹を見て、何をやっているのか千夏に尋ねる。
千夏はトランプとババ抜きの説明を簡単にする。
「そっちでいいのか?いいんだな?」
丁度そのときアルフォンスはリルが手にかけたカードをみて、そう声をかけているところだった。
そういわれるとリルは引こうとした手を止め悩む。
しばらく悩んだあと、最初に手をかけたカードをひく。
「あっ!」
それは竜のカードだった。
「だから言ったのに」
アルフォンスは嬉しそうに、にやにやと笑う。
いち早く心理戦が有効であることをアルフォンスは気が付いたようだ。
リルは悔しそうにそのカードを見つめている。
「なるほど。奥が深いゲームですね」
エドは少し見ただけで、理解したようだ。
「暇つぶしにはいいかと思って」
千夏は隣で寝転んでいるコムギをなでながら答える。
「あまりにも暇そうでしたので、今晩のご飯を私たちが作ることにしてしまいました。少し早計でしたね」
「ご飯?船員さんの分も含めて?」
「はい。いい気晴らしになるかと思いまして」
この船には船員や客を含めて50人ほどの人が乗り込んでいる。
全員のご飯の量となればかなりの量だった。
また面倒な・・・
顔に出たのだろう。暇など持て余していない千夏は不参加でも問題はないとエドから言われる。
夕食は今から約3時間後だ。
ゲームが終わると早速全員で厨房に向かう。
一番時間がかかるパンつくりから始める。
エドの指示のもと小麦粉に水を加えて、力仕事に向いているタマとレオンが50人分のパンのタネをひたすらこねまくる。
タマにしてみれば泥をこねるのとたいして変わりがない。
結構楽しそうに小麦粉をこねている。
今日の晩御飯のメニューはパンと野菜スープそれに魚の煮物だ。
その隣で刃物に慣れているアルフォンスとセレナが野菜の皮むきを始める。
リルも自炊で慣れているので包丁を使うのは得意だった。
魚を1匹ずつ3枚におろしていく。
千夏は、船の食糧庫をごそごそとあさっている。
不参加でよいと言われたので、あくまで気まぐれだ。
なにか変った食材がないかを探していた。
「あ、これ天草?」
ベージュの干からびた海藻を見つけ、千夏は匂いを嗅ぐ。
一時期寒天ダイエットをしたときによく食べていた。
とりあえず、天草らしきものをもってそのまま台所へ戻る。
それをよく水で洗い流し、鍋に入れる。
アルフォンスに竈に火を入れてもらい、水操作魔法を使い、鍋に熱湯を注ぎ込む。
エドからお酢をもらい少し鍋の中にたらす。
「何を作っているんです?」
エドからそう聞かれたが、千夏は「実験かな。あと砂糖もちょっとちょうだい」と答える。
天草でなかったら、思った通りの料理にはならないからだ。
3、40分ほど煮込んだあと、竈から鍋をおろし、アイテムボックスから取り出した布を使ってこしたあと鍋をもって部屋へと戻る。
アイスキャンディー用に買い込んだジュースをその鍋にどばどばと入れ、砂糖を足しぐるぐるとスプーンでかき回したあと、大きめの氷のたらいに鍋を突っ込む。
あとは冷えて固まるのを待つだけだ。
千夏は本を取り出すと、続きを読み始めた。
「チナツ、ご飯できたよ」
セレナに声をかけられ、千夏はむくりとベットから起きだす。
横で寝ていたコムギもご飯という言葉に反応して起きだす。
千夏は鍋の様子を確認する。
ちゃんと固まっているようだ。
スプーンを取り出し、味見する。
間違いなく、ゼリーの味がする。
千夏は満足気に頷くと、鍋をもって食堂へと向かった。
すでに食堂には船員たちがつめかけ、夕食が始まっていた。
「ちーちゃん、タマが作ったパンでしゅ」
席についくとすぐにタマが千夏の皿にパンを載せる。
「こっちは僕が作ったパンだ」
レオンも自分が作ったパンを千夏の皿にのせる。
他のメンバーはすでに味見をしたのだろう。
2匹の竜はじっと千夏が食べるのを待っている。
すこしいびつな形のパンを千夏は手にとるとそれぞれ一口大にちぎり、同時に口の中に入れる。
こういうときは同時に食べる方がいい。
「おいしいよ。よくできたね」
千夏はじっと答えを待つタマとレオンを見て微笑む。
よくこねただけあって、柔らかいパンになっている。
タマは嬉しそうに笑い、レオンは満足そうに頷く。
千夏はお礼に出来立てのゼリーを鍋から二匹の皿に盛る。
プルプルと揺れる食べ物をみてすぐにレオンが「これは何だ?」と尋ねる。
「ゼリーっていうお菓子。食べてみて」
千夏は他のメンバーのお皿にもゼリーを配りながら答える。
2匹の竜はゼリーをスプーンですくい、つるりと嚥下する。
「なんだこれは?」
「つるつるでしゅ」
「うまいな。これがあの海藻からできたのか?海藻の味がしない」
アルフォンスがゼリーを一口食べてから不思議そうに答える。
「あの海藻は煮込むと味がしなくなるんだよ。代わりにジュースとか液体を固めるの」
「不思議な食感なの」
セレナがおいしそうにゼリーを食べる。
タマは自分が作ったパンをコムギにもわける。
「どうでしゅか?」
「クゥー」
コムギは目を細め、タマを見上げて鳴く。
「そうでしゅか。おいしいでしゅか」
タマはうれしそうににこにこ笑う。
「次は僕のだ」
レオンはコムギの皿に自分が作ったパンを置く。
千夏も自分が作ったゼリーを口にする。
久しぶりに食べたゼリーはおいしい。寒天があれば千夏の好物の牛乳プリンも作れるはずだ。
後でエドに作り方を教えておこうとあくまで食べる専門の千夏はそう思った。
やっぱりこの話にリアルゲーム(トランプ)は違和感ありまくりでした・・・
反省しています。
次話からはきちんとなんちゃってファンタジーに戻ります。




