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見える見えない?

その日の夕方前に全員がそろい、巡回船に乗り込むことができた。

旧セルレーン王国があった島国まではおよそ船で4日間かかる。

アルフォンスにとってはとても退屈な日々が戻ってきた。


「なぁ、呪いってなんだ?」

こりもせず2回もドラゴンオーブを触り気絶した次の日、起きだしたアルフォンスが突然質問をしてきた。

「ドラゴンオーブを2回触ったが、まったくといっていいほど水竜の記憶が残ってないんだが、呪いという言葉だけなんか覚えているんだよな」

ぽりぽりと頭をかきながらアルフォンスがそう説明をする。


「ああ、呪い。そういえば魔族に呪いをかけられて力が戻らなかったとか」

千夏も思い出したようで、アルフォンスの言葉に頷く。

「母様の記憶にあったな。力が戻らない呪い。考えてみれば恐ろしいものだ」

レオンは目を細め顎に手をあて考え込む。

「父様は竜の秘薬と呼ばれる薬を探しに出かけたが戻ってこなかった。その竜の秘薬というもので呪いは解けるものだったのだろうか」


「さっぱりわかりませんね。でも魔族にそんな力があるのであれば、恐ろしいですね」

エドがお茶のおかわりをみんなに配る。

「だよな。それで、竜の谷にいって聞いてみたらどうかと思うんだ」

アルフォンスがわくわくしながら提案をする。


「とりあえずセラ様に過去の文献をあたってもらいましょう。今私たちが向かうのは妖精の谷です。無事そこに辿りつけてから次の話をしましょう。もしかしたら妖精王が知っているかもしれませんよ」

エドはアルフォンスの提案を一蹴する。


(知っとるかもしれんし、知らんかもしれんなぁ。)

シルフィンも適当に答える。


妖精王とはすべての精霊が見聞きした情報全てを把握できる。

代替わりするときも前の精霊王の知識をそのまま受け継ぐ。

物知りには違いない。


「ところで、妖精って見えるものなの?」

セレナが素朴な疑問を投げかける。

(そうやな。普通は見えんな。)

あっさりとシルフィンが答える。


「そうなのか?妖精王にあってもわからないのか?」

アルフォンスががっくりとうなだれる。

(この中で妖精が確実に見えるのはレオンとタマだけや。あとは千夏が見えるかどうかやな。妖精王の声だけは全員聞こえると思うで。なんせおいらの声が聞こえてるんや。普通の妖精は無理やろうな。いままで妖精の声を聴いたことないやろ?)


「え、私いままで妖精見たことないんだけど。ということは見えない?」

千夏も少しがっかりしたようにシルフィンに質問する。

(妖精を意識してみてないんやから見えるはずがないわ。甲板に出れば水の妖精が数人おるからじっと気を感じるほうをみてみたらどうや?)

シルフィンにそういわれ、全員で甲板へと向かう。


すぐにレオンが「あそこにいるぞ」と帆先を指さす。

確かにレオンが指さしたところに気が見える。

千夏はじっとその気を見つめ続ける。


妖精、妖精、妖精出てこい!


千夏の執念からの妄想なのか、ぼやっと気が乱れ小さな水色のワンピースをきた女の子が見える。

背中には2対の透明な羽があり、楽しそうにこちらを見ている。

「水色のワンピースをきた小さい女の子が見える」

千夏はそういうと、ふらふらと女の子に向かって歩き始める。


女の子は千夏に笑いかけるとくるりと後ろを向き、空に向かって飛び上がる。

結構上まであがったかとおもうと、急降下して笑いながら、千夏の周りをぐるぐると飛び回る。

「ねぇ、私のまわりぐるぐる回ってる?」

千夏がレオンとタマに質問する。

「はいでしゅ。ちーちゃんの周りをぐるぐる回ってるでしゅよ」

タマがそう答えると、果然やる気をだして千夏は飛び回る妖精に向かって手を伸ばす。


(妖精は触れん。無駄や。)

シルフィンがいうとおり、実際に水の妖精は千夏の腕をすり抜けていく。

それならせめてと千夏は妖精に向かって話しかける。

「私は千夏。あなたの名前は?」

(マリーよ。不思議な力の持ち主さん。あなた、世界樹の枝持ってる?)

くすくすと笑いながら妖精が空中でとまり千夏を見下ろす。


「ああ、これ?」

千夏は首からぶらさげた小さな枝を掲げ揚げる。

(無理やり盗んだものじゃないのね。世界樹があなたとシンクロしているわ。)

マリーは世界樹の杖をそっと触ると、千夏の頬にキスをする。

(あなたに水の加護がありますように。)

そう告げると、マリーは笑いながら海の中へ飛び込んでいった。


「くぅ・・・俺には見えん。何にも見えん」

悔しそうにアルフォンスががっくりと膝をつく。

(タマかレオンにくっついておったらぼやっとなら見えるかもしれんな。)

あまりにも悔しそうなアルフォンスにシルフィンが同情する。


「タマー!」

アルフォンスはタマに近寄るとぎゅっとタマを抱きしめる。

「アル、暑苦しいでしゅ」

タマが苦情を漏らす。

「で、妖精は今どこに?」

アルフォンスの耳にはタマの苦情は聞こえていないようだ。

「あそこにいるでしゅよ」

右側のほうをタマは指さす。


タマが指さす先にぼんやりとした水色の塊がなんとなく見える。

「あれが妖精なのか。ぼんやりした塊なら見えるんだが」

ふらふらとその水色の塊は左右に動くと、海の中へ飛び込んでいった。

妖精が海に消えた時点で、タマは力づくでアルフォンスの抱擁から抜け出す。


「タマ、私も見たいの。こっちに来てほしいの」

おいでおいでとセレナがタマを呼ぶ。

タマはセレナに駆け寄ると、セレナに大人しく抱っこされる。


「アルフォンスも無理やり抱きしめるんじゃなくて、抱っこだったらタマに嫌がられないのに」

千夏はしょうがないなぁと甲板の上で大の字で転がるアルフォンスを眺める。

コムギもアルフォンスが哀れだとおもったのか、ペロペロと顔をなめている。


「リルも見るか?僕が抱き上げてやろうか?」

少しうらやましそうにセレナを見ているリルにレオンが話しかける。

レオンには悪気はないのがわかるが、抱き上げるなどと言われてかっとリルは赤くなる。

「男が抱き上げられるのは恥ずかしいことなんだよ。タマみたいに小さいなら問題はないけどね」

「わかった。覚えておく」

レオンは素直にリルの言葉を聞く。


アルフォンスなら喜んで抱き上げてもらうかもしれないので、アルフォンスは別だと言っておいたほうがいいのだろうか。

リルは少し悩む。


「アルフォンス、レオンが抱き上げて妖精見せてくれるらしいけど、どうする?」

「頼む!」

やはりアルフォンスはアルフォンスだった。


(チナツ、さっき水の精霊に加護をもらったやろう。)

妖精見学ツアーが終わると、シルフォンが千夏に尋ねる。

「そういえば、そんなこと言ってたね」

千夏は頷く。

(少し水魔法が操りやすくなっとるはずや。)

「そうなの?じゃあ試してみる」

何度か練習したが、水操作の魔法をうまくつかえず、いまだに適温にお風呂が沸かせないのだ。


千夏はみんなが集まっている部屋の中に風呂おけを2個取り出すと、水操作の魔法を唱える。

じっとそれを見ていたレオンが「まだ熱すぎだな。手を入れたら火傷する」と水の状態を報告する。

もう少し低くとイメージして逆側のお風呂に水操作魔法を試す。

「いつもよりよりちょっと低いくらいか」

千夏は再度水に手をいれる。確かにレオンがいうとおり、この温度でも十分お風呂として使える。でも千夏の好みには少し低い。


レオンは水を蒸発させ、おけを空にする。

「水を操れるということはこうやって蒸発させたり、空気中の水をもとに戻したりすることができる。

水の上級魔法は絶対零度よりも低い冷気を発生させる魔法だ。これをマスターしないと使えないぞ」

レオンの言葉に頷き、千夏は再度水操作魔法を使う。


3度目の魔法を使うと、「できたな」とレオンが答える。

お湯を確認するといつものお湯の温度だった。

千夏はあと数回練習しお風呂の温度設定についてはマスターすることができた。


「付き合ってくれてありがとう」

千夏がお礼をいうとレオンは照れくさいのか顔をぷいっと背ける。

「母様の記憶を読んでいるんだ。これくらいできなくては困る」

「そうだよね。せめて上級魔法までマスターしないとね。船降りたら教えてくれる?」

船の中で練習しないのは魔法が暴発したときを考えてのことだ。


じっとレオンを見上げる千夏を見て、レオンは無理やり感情を押し殺す。

頼りにされて嬉しいと思っている自分の感情を暴かれるのが恥ずかしかった。

さりげない会話は慣れてきたのだが、こうやって面と向き合って会話するのはいまだになれない。

特に千夏のじっと見つめてくる視線が苦手だ。

竜のときに寂しいのだろうと言い当てられたからかもしれない。


「・・・お前が水の上級魔法を使えないとみんなが困るんだろう?仕方ないから教えてやる」

「うん。お願い」


2人の会話を聞いていたセレナがうらやましそうに眺める。

(私も早くあの技をマスターしたいの。)

リフレクションブレイクを覚えた後から別の技を練習しはじめたが、いまだにうまく使うことができない。

シルフォンは実体を伴わないので、口頭だけで伝えられる技の再現はなかなか難しい。

レオンのように目の前で誰かが実演してくれたら・・・と少し千夏がうらやましかった。


また少し不定期更新になります。

すみません。

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