第六話 奴隷
奴隷商人の馬車の荷台に乗せられた。
ガタガタ揺れて不快だ。
逃げれないように、っていうので鎖と鉄輪で足を繋がれた。
「おい、お前、【無】属性か?」
「そうですよ?」
「目も白だな……」
「銀と言ってください」
「お前には魔法が使えなくなる輪は使わなくていいな。普通ので十分だ」
馬鹿め。明日魔力が全快したら引きちぎれないか試してやる。
まあ、無理だろうがな。
荷台には俺より二、三歳上の子どもが四人ほど乗っていた。三歳で売られるっていうのはなかなかないようだ。
……暇だ。
『ゴッドキラー・プロトタイプMK-129』について考えていたが、それも飽きた。
気を紛らわすためにドナドナを歌ってみる。
歌詞をこの世界の言語にアレンジしたものだ。
「ドナドナドーナードーナー…………」
「……ひぐ、うぐ、えっぐ」
「やだよー! おとうさーん! おかあさーん!」
「うぇーん!」
「うるっせぇぞ、ガキ共!」
なんか歌ってたら子供たちが泣き出してしまった。
御者台に座っている男に怒鳴られる。
泣き声がピタリと止まる。
しばし無言。
…………。
「……売られてゆーくーのーがー」
「「「うぇーん!」」」
「うるっせぇっつってんだろ!」
そんな風に遊んでいたのだが、一人だけ泣いていない女の子がいるのに気づいた。
なぜか他の三人からも距離を取られている。
達観したような目で、天井を眺めていた。
少なくとも四、五歳の女の子がしていい眼ではない。
近づいてみた。
声をかける。
「ちっす」
「……死ね」
オウ。
こいつぁなかなかの大物だな。
女の子は体育座りで顔を伏せていて、髪の色は灰色だった。
灰色? 何属性だろ。聞いたことないな。
特殊属性か忌み属性のどっちかだな。家族は俺が忌み属性だってんで、他の【闇】【死】についてあんまり教えてくれなかったから。
そのままそばにいると、顔を上げて小首を傾げられた。
目は赤色だった。【火】かな?
んー、顔は可愛いのかもしれんが、俺の好みじゃないな。
つーかそもそも四、五歳の女の子が俺の好みじゃないしな。
俺はロリコンじゃないんだ。
「……なんで、はなれないの?」
「はい?」
「私のちかくにいると、死ぬよ?」
…………。
何言ってんだコイツ。中二病か?
「なんで死ぬんだよ」
「私のかみ、はいいろだから……」
んー?
あー、はいはいはい。
灰色は【死】属性なのか。
多分、そうだな。それであたりだ。
「どうして死ぬんだ?」
「……まりょくをうごかしたら、からだからでていって、それがあたって……」
「じゃあ出さなきゃいいじゃん」
「…………」
少女は、え? みたいな顔でこちらを見ている。
魔力って別に何もしなかったら漏れたりしないからな。
「お前が魔力を漏らさなきゃいい話なんだろ?」
「そう、だけど……」
「大体今俺ら魔法使えねーじゃん。その輪っかのせいで。バカなの?」
「ばかっていうな……」
女の子が黙る。
どうした。頑張れ幼女。
「……ねえ」
「うん?」
なんか話しかけられた。
「さっきの歌、何ていうの?」
「ドナドナ」
「教えて」
やっぱ大物だな、コイツ。
そんな風にして女の子にドナドナを教えつつ、周りの子供たちを泣かせつつ、馬車は進んでいった。
※※※※※
「「ドナドナドーナードーナー」」
「もうやだよぉ……グス」
「おうちに帰りたい……」
「えぐ……えぐ……」
ドナドナが周囲の子供たちのトラウマになったことは、もはや間違いないようだ。
馬車が止まり、石造りの建物に入れられ、その中の牢屋にぶちこまれる。
鎖は切られたが、魔法を封じる輪はつけられたまんまだ。
まあ、俺のはただの鉄輪なんだが。
牢屋が閉められる。扉は鉄で、随分と硬そうだ。
周りの壁は石。上の方に採光窓がついているが、いかんせん暗い。
中には二十人近い子供がいた。牢屋はそこまで広いものではないので、狭い。
そして臭い。汗や糞尿の臭いがする。
入って五秒ぐらいでもう出たくなった。
鉄の扉ならともかく、石の壁なら一斉に魔法を撃ち込めば破れそうなもんだが、魔法封じのせいでできないようだ。
肉体強化で破れないか試してみたいところだが、今は魔力がない。
とっとと寝るか。
寝た。
※※※※※
起きた。
真っ暗だ。夜中みたいだ。まあかなり早めに寝たからな。
起きてるやつは……いないか。
魔力は全快。いける。
まず目に魔力を集中。
視覚が強化され、周囲が真昼のようにとまではいかないが、見えるようになる。
右手に魔力を込める。
どうせ破れないだろうから、手を傷めないように防御力を重点的に。
全魔力の十パーセントぐらいの魔力を込めただろうか。
「……はっ!」
小声で気合を入れ、壁を殴った。
ばかん!
綺麗に穴が開いた。
…………。
壁の外に落ちていった壁の一部を、穴から手を伸ばして拾い、もう一度壁に嵌め直す。
なかなか難しい作業だったが、なんとか嵌め直せた。
…………見てないよな? 誰も見てないよな?
こそこそと音を立てないように横になり、『ゴッドキラー・プロトタイプMK-130』を設計しつつ、夜が明けるのを待った。