第五話 逃走
無理だったよ。
即座に無言でワンテンポで家を飛び出して、村中を(村だった。町ではなかった)2,5歳児ではありえない速度で駆け回ったが、ダメだったよ。
そうだよね。
逃げることぐらい想定しているよね。
いくら俺が本当は元高校生で、逃走中の大ファンだからってねえ。
まず、家を出ると三男のクアトロ兄さん(七歳。属性【水】)が家の前に立っていた。
クアトロ兄さんは突如飛び出してきた俺に驚きながらも、捕まえてきようとしてきた。
そこで俺は、足に魔力を集中させ、筋力を強化――――この時一緒に防御力も強化しないと筋肉痛になる――――して、蹴りを放った。
どこに放ったか?
股間にだが、何か。
「ごふぁ!」
悶絶するクアトロ兄さんに心の中で謝りつつ、そのまま足に魔力を集中させたまま、ダッシュ。
慣れない町並み、いや村並みに動揺しつつも全力ダッシュして、広場に出た。
広場には、次男のドス兄さん(十一歳。属性【風】)がいた。
ボーっとしていたので、すぐ横を疾風のごとく駆け抜けた。
「ゼ、ゼロ! いつの間に! 風弾!」
直後ハッと気づいて、俺に風の弾丸を放ってくるドス兄さん。子供の魔法なので、当たってもちょっと痛い程度だ。
ちなみにこの世界、こういった属性の弾丸とか球とかを撃ち出すのは割と誰にでもできる。
いや、俺はできんが。
飛んできた弾丸を、防御力強化した背中で受ける。
ダメージはないが、ぶっ飛ばされた。
しかし気にせずそのままダッシュ。
中学の運動会の時、徒競走で相手の組にアクシデントで短パンを脱がされても走り続けた俺の根性を舐めるなよ。
そしてドス兄さんをみるみる引き離し、広場につながっていた通りを走っていくと、長男のウノ兄さん(十三歳。属性【氷】)が仁王立ちしていた。
俺とドス兄さんのやり取りを見ていたのか、躊躇いなく魔法を行使してきた。
「痛い目にあいたくなければそこで止まれ! 氷結面!」
メタルの錬金術師のように――――柏手こそ鳴らさないものの――――地面に手をつけ、魔法を発動させてくる。
バキバキバキ! と地面が音を立てて凍っていく。
五×五メートルは凍っただろうか。この氷で俺の足を滑らせて転ばせようという魂胆のようだ。
ふっ、甘い。
それを見た俺は、足に更なる魔力を集中。
そして、ジャンプ。
自分でも姿勢を制御できないぐらい飛んだ。
即席スケートリンクを飛び越し、空中で一回転。
うまいこと足裏がウノ兄さんのどてっぱらに命中し、図らずもドロップキックの形になる。
「グハ!」
ばたりと倒れるウノ兄さん。まあ俺は言っても2,5歳児なので、体重差的にあまりダメージは受けていないようだが。
起き上がる前に逃げる。
そして村外れに出て――――長女のトレス姉さん(十歳。属性【焔】)が待ち構えていた。
炎熱系属性の中における上位属性を持つ、一家の天才美少女。俺にはよくわからんが、髪の輝きが上位属性の魔力を放っているらしい。
十五歳になったら魔法使いとして働きに街に出るとかなんとか。
手強い相手だ。
だがしかし、2,5歳の弟にそんな高威力の魔法をぶちかますなんてことはあるまい。
「紅蓮大火」
とか思ってたら、視界一面覆うぐらいの炎が襲いかかってきた。
馬鹿かこの女。
一旦立ち止まり、防御全開。
最近普通に使える魔力――――勝手に基本魔力と呼んでいる――――が多くなってきて、なかなか使い切れない基本魔力を全力で消費。
炎に包まれそうになる寸前、基本魔力を使い切り、無理矢理引っ張り出す魔力――――潜在魔力――――も解放し、本気の強化をする。
炎が通り過ぎた。
俺にはヤケド一つなかった。髪も焦げてない。
上位属性といえど、子供の力ではこんなものらしい。
しかし相手はあんなでかい炎を出しても全くこらえてない風なのに、こっちはもう魔力がスッカラカンだ。
ああ、終わった。
その後、普通の2,5歳児の身体能力で兄弟四人から逃げ切れるわけもなく、俺は捕まり、その次の日村にやってきた奴隷商人に売られた。
ちなみに、(属性【焔】)とかってつけたのは、髪の色に出てくる、その人の持つ一番強い属性って意味なので、【焔】属性しか持ってないってわけじゃないです。
例えばトレス姉さんは、【焔】【熱】【砂】【風】の四つの属性を持っています。