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無属性魔術しか使えない魔術師  作者: 401
第三章 魔術編
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第三十九話 黒色 ★

遅れました。

「お姉さん、あーんしてあーん」

「いいわよー。はい、ゼロ君、あーん」

「うめー」


 灰髪の女性に餌付けされる俺。うーん美味い。


「……で、本当かよゼロ」

「お姉さんと俺の至福の時間を邪魔すんじゃねえよハゲブラック」

「そうですよハゲックさん」

「殴っていい?」


 はぁ、とため息をつくブラック。


「で、本当なのか――『ブランク』を引き受けるってのは」

「マジだよ」


 俺は口の中の物を嚥下し、ブラックに返答する。


「てっきり断ると思ってたんだがな」

「なんで? メリットはあるけど、デメリットがないんだから、引き受けるのは当然でしょ」


 そう、俺は黒灰白武装集団モノクロームの幹部、『ブランク』となることを決意した。

 ここにいれば傷の治療もしてもらえるし、お姉さんにあーんしてもらえるし、給料も少なくない額をもらえる。しかも、というかこれが一番大きいが、仁無の面倒や、極上級冒険者に会いに行く手伝いもしてくれるという話だ。断るはずがない。

 ちなみに仁無は今迎えに行っているらしい。


「デメリットはあるだろ……こんな犯罪者集団まがいのところにいたら狙われるぞ?」

「誰に? 騎士団? 軍隊? どっちが来たって俺なら仁無を連れて逃げるぐらい楽勝だけど」


 まあ、黒灰白武装集団モノクロームの他のメンバーは死ぬなり捕縛されるなりするだろうが、そんなのは知ったことじゃない。


「……戦力になってほしいからお前を呼んだんだが」

「そりゃもちろん給料分の働きはするさ。けど命には代えられない。そうだろ?」

「……まあいいさ、期待してるぜ、ブランク」

「あいよ」


 食事を再開して、スープを飲み終わったあたりで、部屋の扉がガチャリと開いた。


「おっ、仁無、元気だったか?」

「ええ元気よ。一日会ってないだけだけどね。それで部長は何をしてるのかしら?」


 仁無が黒灰白武装集団モノクロームのアジトにやってきた。

 仁無はいつもの無表情をさらに無表情にしながら、足音を立てつつ俺に近寄る。


「……怒ってる?」

「別に怒ってないわよ、急にいなくなって私に町じゅうを駆け回らせる面倒かけた挙句に何をしているのかと思えばお姉さんの膝にのってパンをあーんさせてもらってることを怒ったりするほど私の器は狭くないわ」

「ごめん」

「怒ってないから謝らなくてもいいわよ」

「いや怒って」

「怒ってないわ」

「怒っ」

「怒ってないわ」

「はい」


 明らかに怒っているが、本人が怒っていないというのならそうなのだろう。


「ふむ、君が異世界から来たという、ヒトナシさんかね」


 コレルアが仁無が入ってきたドアから続けて入ってくる。


「なるほど……異世界から来たというのは本当のようだ。君からは魔力がほとんど感じられない。その上、君の立ち姿はまるで何百年も生きたハイエルフのような雰囲気を感じさせる」

「だってこいつ八百七十三歳だし」

「黙りなさい、誰が何と言おうと私はまだ十七よ」


 はい。


「ところでヒトナシさん、君が元の世界へ還るために極上級冒険者に会いに行くという話だが――」

「ボス」


 ブラックが唐突にコレルアに声をかけた。


「なんだブラック、今は話の最中――」

「誰かがここに直進してきてる」

「何?」

「強さは極上級クラス。かなりのスピードだ。おそらく十九位か十位、もしくは二位だな」

「ふむ……『探知世々(ワールドワーチ)』」


 ヴン、という音がして、コレルアの周囲に球体型の魔方陣が展開される。

 コレルアの前に一枚の半透明の青色に光る板が現れ、それに刻まれた文字や記号を操作するコレルア。

 そして板に、杖にのって森の中を進む少女の姿が映し出された。


「十九位か」

「あら、この子あったことあるわよ私。極上級冒険者だったのね」


 話を聞くと、仁無が俺が気絶した後に戦った相手らしい。


「ローゼ・カラドボルグ。私ほどではないが、数多くの属性を持った、魔術師の名家であるカラドボルグ家の次女だ。私では勝てんだろうな。魔力量が違い過ぎる」

「私一回勝ったから大丈夫よ。すぐに撃退して――」

「君が還るためには彼女を生け捕りにしなければならないだろう? 撃退では困る」

「そんなこと言ったって、あなたは勝てないって言うし、部長はこんなんだし、どうすれば――」

「ブラック。頼めるか?」


 唐突にブラックの名前が出たことに、驚く俺と仁無。

 それを見たブラックはにやり、と笑う。


「ええ、任せといてください。この城はまだ十九位の魔術の射程外でしょう? なら楽勝だ」

「だ、大丈夫なのか? 闇属性は暗殺や呪術にしか使えないはずじゃあ――」

「それはお前だって一緒だろ。わかってるだろ? モノは使いようなんだよ」


 すう、とブラックは息を吸い、決め顔でこう言い放った。


魔族ファントム公爵家がかつて擁した、最強の闇属性部隊――晦冥騎士団元団長、ダクネス・クロウの実力、見せてやるよ」


挿絵(By みてみん)

↑はノワールの姉御のイメージ図です(ちょっと頭でかかったかも)。持ってるのは高熱電離と玉散氷刃。にやにやしてますけど普段はあんま笑いません。ゼロが甘えてきたときぐらいですかね

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