第三十六話 極上
お久しぶりです。一年半ぐらい?
まあ今回も色々と後出し設定とか都合のいい設定とか色々ありますが、それでも楽しんでいただけたら幸いです
「で、仁無。なんでお前がここにいるわけ?」
「私が知りたいわ」
目を覚ました俺が最初に見たのは、両手両脚を切断された俺を痛々しげに見るレイナと、前世で所属していた部活の副部長、仁無有名の姿だった。
どうやらここはレイナの実家、オプシディアン家のレイナの部屋らしい。
「女の子の部屋とか初めて入ったわ、感動」
「両手両脚ないのによくそんな馬鹿みたいなこと言えるわね。実際馬鹿だけど」
うるせえ。
「つーかゴッドキラー・プロトタイプMK-3あるじゃん。それ貸せよ、それ使えば両腕両脚なんてすぐ生えてくんぜ」
「弱体化してるみたいだから無理だと思うわよ」
何?弱体化だとそんな馬鹿な。
「マジだわ」
「でしょ?」
「あ、あのーお二人は何語を話してらっしゃるんでしょう……」
オロオロしていたレイナが会話に加わってきた。
俺はこの世界の言葉でレイナに返答する。
「日本って国の言葉だよ」
「聞いたことないんだけど……」
そりゃそうだ。
「で、なんで俺こんなすぐ目覚ましてんの?あんなにボロボロになったのに」
「オプシディアン家に代々伝わる魔道具を使ったんだよ」
「ほう」
【癒】の力が込められた血液を生成する魔道具らしい。
それでできた血液を俺の体に輸血し続けてくれたらしい。
「ありがとな。それにしても回復が早すぎるような気がするけど……」
「ねえ、なんて言ってるの?」
今度は仁無がレイナと何を話しているのか聞いてくる。ええい面倒くさい。
レイナに魔道具を使ってもらったことと、それにしても回復が早すぎるということを話した。
「そりゃ私が処置したんだもの。当然でしょ」
「お前ホント何でもできるな……」
まあそれも当然か……と、俺は一人つぶやく。
仁無有名。
ループ世界に囚われていた少女。
彼女はかつて、普通の高校一年生だった。
だが、高校二年生になる前日、彼女の人生は一変する。
高校一年生の入学式当日に時間が巻戻ってしまうという事態によって。
そして彼女は856回のループを繰り返した。
856回の一年間、彼女はありとあらゆることをした。
全ては新しい時を刻むために。
「その結果性格が捻じくれまくった超絶完璧超人が誕生しましたとさ。まる」
「私の悲哀に満ちた856年間をそんな風に言われるのはとても腹が立つのだけれど」
ちなみに856回のループから抜け出せたのはうちの部員達が協力した結果なのだが、それはまあ置いとこう。
「で、どうすればいいのかしら部長?」
「そうだな……とりあえずお前は元の世界に還らせる」
「そうね。こんな文明レベルが低そうなところにいたくはないわ。あなたの治療に必要な器具も全然足りなかったし」
「次に俺の両手足を何とかする」
「そうね。部長の手足なんかより私が帰る方が優先よね」
「お前のその性格なんとかなんねえの?」
「ならないわ」
「あっそう。まあお前を還らせるのは確定だ。それはいいな」
「ええ、一緒に還りましょ」
……ん?
「一緒に」?
「俺は還らねえよ」
「は?」
「だって俺もう死んだし。あっちに行こうもんならまたあの神に殺されかねん」
「そんなのぶっ殺せばいいでしょ」
「殺せるやつを完成させるまでに二年はかかる。それまでに何百回殺されるかわからん」
「……」
考え込む仁無。
「わかったわ、その神はぶっ殺しておくから、いつでも帰ってらっしゃい。せめてあなたがいつでも戻ってこれるように準備はしておくわ」
「お、マジで?了解」
む、だが待てよ。
「話聞いてる限りじゃ、この世界とそっちの世界、時間の流れ違わねーか?」
「え?」
「だって俺十数年間こっちで過ごしたのに、そっちじゃまだせいぜい十数分しか経ってないんだろ?」
「ってことは…こっちの一年イコールあっちの一分ってこと?」
「そうだな」
無言になる俺達二人。
「……絶対準備する間にあなた死ぬじゃない」
「せやな」
「死ぬな」
「無茶を言うな」
……まあ。
「その辺はお前が還れる手段ができてから考えようか。【時】属性なんてのもいるんだし、なんとかなるだろ」
「楽観的ねぇ」
さて。
「実を言うと、すでにお前が還れる方法はある」
「え、あるの?」
そう、ある。
ゴッドキラー・プロトタイプMK-3。
人の精神力を吸って強大化する石ころ。
その能力の一つに【平行線上】というのがある。
平行世界にいける能力。
「そいつをちょちょいと改造すれば一発だろ」
「聞いてなかったの?弱体化してるって」
「だったら強化すればいいだろ」
「は?……人の精神力吸い取らせるつもり?何百人必要だと思って…」
「何百人も必要ねえよ。十数人程度で十分だ」
「何を言って…」
「極上級冒険者ならそれなりの精神力は持ってるだろ。一人で何十人と賄えるぐらいには」
はっ、と仁無が顔をあげる。
「極上級冒険者達に会いに行く」




