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無属性魔術しか使えない魔術師  作者: 401
第三章 魔術編
36/43

 間話 部室

 右も左も上も下も前も後も真っ白な、目の痛くなりそうな場所。

 炎が舞い水が飛び風が翔け土が揺れる、ありとあらゆる現象が起こる空間。


 その二つを区切る、あまりにも真っ直ぐな境界線。


 その境界の片方ずつに、二つの存在が立っている。


「…………ん。おひさー、ムーちゃん」

「時間軸が曖昧な世界で久しいとか言われてもな」


 白い空間の方には後光を背負った茶髪の美青年。

 現象の起こる空間の方には神々しいオーラを纏う輝く虹色の髪をした美少女。


「曖昧なだけでちゃんとあるじゃない、時間軸」

「まあ、それはそうだが」

「で、何しにきたの?」

「こっちの住人がそっちに連れ去られた」

「へ? え、ちょちょっと待って…………。うわマジだ」

「返せ。可及的速やかに返せ。持ち込まれたアイテムも一緒にな」

「もしかしてこのアイテムって、あのイレギュラーくんの?」

「そうだよ、あの神殺し一歩手前まで到達しかけたヤツ。えーと……」

「転生後は『ゼロ』って呼ばれてるよ」

「そう。そのゼロ(イレギュラー)の作った物体だ」

「あんなもんがそばにそばにあったら返すのかなりキツいんですけどー…………連れ去られた女の子だけじゃダメ?」

「お前にあの石が壊せるってんならいいぞ」

「無☆理」

「だろうな」

「けど論理的に無理だよ、あの娘を力技で石と一緒に帰すなんて」

「力技でなくてもいいだろう。搦手を使え搦手を」

「んー、やるとしたら召喚陣の反転起動だけどー、【還】属性がついてないとなると、石まで一緒に帰すのは無理っぽいからー、聖教会を利用して…………うん、ちょっと時間がかかると思」「ダメだ。すぐ返せ」

「ええ…………なんでさ」

「あの女の子の存在強度が大きすぎる。あんまり時間かけ過ぎるとバランス崩れてそっちとこっちのゲートが開きまくるぞ」

「うそぉ、フカしすぎでしょ」

「具体的に言うとそっちで言う極上級冒険者レベルだ」

「うぇ……けど無理なもんは無理だよ」

「じゃあそっちから同じぐらいの存在強度のヤツを一体よこせ。時間稼ぎはできる」

「ん、うーん……一位から十位は全員空いてないし、騎士団長とかじゃ強度が足りないし、候補としては『黒灰白武装集団モノクローム』幹部……けど、これも今外すのはなー」

「テメエの問題なんざどうでもいいからとっとと寄越せ」

「なんだよー! あのイレギュラーくんを受け入れてやった恩を忘れたか? んん?」

「あれは運営で正式に取り決められたことだろうに……それに、お前のところが選ばれたのは、お前の世界の発展レベルが神殺しとか研究できるレベルじゃないほど低かったからであって――――」

「あー、聞こえないなー、何のことかなー。てーかそっちも発展レベル大して高くないじゃん。前はあのイレギュラー放置してたのに、なんで今更になって?」

「あー……実はウチの転生システムは自動化されてるんだ」

「知ってる。楽できていいよねー」

「プログラム組むのにどんだけかかってると思ってんだゴラ。まあ、それはともかく、自動だから件のイレギュラーもその中にまんまぶち込んでたわけなんだが…………」

「だが?」

「おかげで他の魂が汚染された。特殊な異能を持つ突然変異体が大量に発生したよ」

「あー」

「宇宙人と超能力者のハーフの陰陽術師の分身体とかよくわからんのも生まれたりした。連れ去られた女の子も影響を受けた一人だ」

「けどそれは…………」

「こっちだって取り返しのつかないことになる前に対処しようとしたさ。けど、類は友を呼ぶっていうか……汚染された者同士が一箇所に集まってきちまったんだよ」

「それで、突然変異体同士が力を一つに合わせた結果、ああなった、と。とんでもないの受け入れちゃったね私。クーリングオフは……」

「ない。死ぬたびに可能な限り弱い設定にして、記憶持ち越したまま何度も異世界転生させる予定だよ。徐々に弱体化させるんだ」

「面倒臭いことするねえ」

「大人の事情だ」

「弱体化させた割にはゼロくんめっちゃ強いよね」

「あれでも俺んとこにいた時の万倍弱い」

「パネェ」

「結局どうすんだよ、今返せないなら釣り合うのよこせやさっさと」

「えー……あー、んー、まだ初期化前の、存在強度たっぷりつまった死後の魂ならあるけど」

「カラダがなきゃどうしようもねえだろ」

「そっちで用意できない?」

「そんな強いリソースなんてねえよ」

「いや、あるよ。時系列的に考えれば」

「あん?」

「リソースの加工はやるからさ、貸してよ」


※※※※※


 一年部員、春夏秋冬ひととせひとつ。通称ひーくんは、一、二年合同の集会を華麗にサボタージュし、部室へと向かった。


 が、その途中、擬音にするならまさに「ルンルン」といった感じで部室に向かう副部長を見て、足を止めた。


 ここで自分が部室に向かったら、部長と副部長が二人っきりになる邪魔をすることになる。

 邪魔をすればどうなるか。


 殺される。


 彼はくるりと振り返り、コーラでも飲むかと自販機のおいてある食堂の足を向けた。


 コーラを三本ほど買って、一本途中で飲み干して帰ってくると、どこかからうめき声が彼の耳に響く。


「って、部室からじゃん」


 様子を見に行こうとするが、迷う。

 下手をしたら殺される。

 単純に部長が副部長に踏まれて呻いているだけという可能性が一番高い。


 どうするか。

 彼がそう思っていると、部室内から青色の光が溢れ出した。


「は?」


 今度は迷わない。

 バァンと「引」のプレートがついた扉を押し開ける。


 部長が倒れている。

 副部長がいない。

 慌てて部長に駆け寄る。何か背中に踏まれた跡があったが、これは別に気にしなくてもよかろう。


 呼吸、してない。脈、ない。瞳孔、開いてる。体温、ない。


「死んでる…………!」


 これはもうダメだ。冷たすぎる。


 外傷がないか探す。

 何か体中がまさぐられたかのように着衣が乱れていたが、気にする必要はないと判断し、制服を脱がす。

 外傷はなかった。


「クッ……」


 落ち着け、冷静になるんだ。

 彼は自分にそう言い聞かせながら、二本あるコーラの一本を空け、飲み干す。

 ついでにもう一本も空け、飲み干す。

 なお、全て五〇〇ミリリットルである。この高校生の血糖値は大丈夫なのだろうか。成長期が過ぎても今の平均的な体型を維持していられるのだろうか。


「……ふぅ」


 落ち着く彼。


 よし。

 まずやることは警察への連絡、副部長の捜索、といったところか。


 とりあえず誰かに知らせようと、彼が部室の扉を引こうとした瞬間――――


 ――――カッ! と部長の死体が光り輝いた。


「うお!」


 なんだ?

 何が起こった?


 光は一、二秒で止んだ。


 そこにあったのは――――


「……ん? どこ、ここ? とうぎじょう、じゃない?」


 灰色の髪に、紅色の目をした美少女だった。


「ひーくんー。なんで集会参加しないのさぁー。すごいんだよ、校長先生ったらカツラ高速回転――――」


 そこにあったのは、灰色の髪に紅色の目をした美少女だった。


「……あれ? わたしのふくは?」


 ただし、全裸の。


 彼、神宮高校一年男子、春夏秋冬ひととせひとつと、集会を終えて部室に入ってきた神宮高校一年女子、瀬戸せと織姫歌おめかの目があった。


「…………」

「…………」

「ねえ、きみたちだれ?」


 灰色の髪の美少女が、二人の間に流れる空気を感じ取れず、舌っ足らずな口調で声をかける。


 やがて、高校生にして柔道剣道合気道合わせて十段の、迫撃最強の女子高生こと、瀬戸せと織姫歌おめかが口を開く。


「……集会サボって何やってんだテメエ」

「誤解だ。話せば分かる。今ここにあるのはラッキースケべでもエロコメでも何でもない。ただただ唯なる――――」

「死ねッ! 汚物消毒拳!」

「聞けよ! スプラッシュブレイカー!」


 拳でコンクリートを砕いたり、足から青いビームを出したりして戦う高校生たちを、未だ理解の追いつかないぼんやりとした状態で見つめつつ、灰色の髪の少女――ルート・アッシュはポツリとつぶやく。


「…………ゼロくんは?」

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