第三十話 無双
二回戦。
の前の選手控室。
「おい、お前」
「はい何でしょうそこのガラの悪そうなお兄さん三名方。ていうかあんたら選手でもスタッフでもないですよね、なにこんなところに入ってきちゃってんの? バカなの? 死ぬの? ていうか死ねば? そんないい年して公のルールも守れないとか、自分の存在が恥ずかしいと思わないんですか?」
まあ、精神年齢的にはいい年なのにこんなとこで色々とはっちゃけて悦に浸ってる俺も大概ではあるが。
「て、メェ……いい気になってんじゃねえよ、いい武器持って調子にのってるだけのガキがよぉ!」
ガラの悪そうなお兄さんその一が、俺の腹に膝蹴りを入れた。
「がはっ」
一応転がっておく。
「はん、やっぱ雑魚じゃねえか。とりあえずその武器よこせよ」
え、マジかこいつら? いくらなんでもあれだけ大活躍した武器を奪ったら騒ぎになると思わねえの?
まあ、二回戦では使わないつもりだから最悪一時的にとられてもいいっちゃいいんだが……。
「だ、誰が渡すか……ぐぅ」
呻く俺。当然だが演技である。
「口答えすんな、お前らみたいな無能は素直に俺たちに従ってりゃいいんだよ、『火玉』」
チンピラその一が火の玉を放ち、俺にぶち当てる。
「グァッ! あづ……何しやがんだクソが……」
「おい、あんまり効いてねえぞ。もっと強いの使え。『電撃』」
「ギャァアアア!」
チンピラその二の電撃により、悲鳴を上げる俺。
無論、演技である。
「く、クソ……」
最後の抵抗、って感じに銃をチンピラたちに向ける。
「オラッ!」
「がっ!」
だが、銃を蹴り弾かれ、腹に爪先を入れられる。
「ナメやがって、このガキがっ! 運で勝てたのを、自分の力と勘違いしやがって! テメエは、雑魚で、無能で、役たたずなんだよっ! 自覚しろ、【無】属性が!」
「が、う、あ、ぎ、ぐぁっ!」
そのまま何発か連続で蹴りを入れられる。
ていうかスタッフー。選手控室でトラブルが起こってますよー、なんで気づかないんですかー。
「おい、そろそろ行こうぜ」
「ん、ああ、そうだな。おいガキ、コイツはもらっていくぞ。二回戦でせいぜい恥を晒すんだな。クハハハハ!」
…………。
……マジで持ってきやがった。
そしてスタッフは何をしているんだ。
パンパン、とホコリを払い立ち上がる。
「二回戦をアレなしで勝ち上がって、あのDQNどもを脅すっていうのもいいかもしれんが、アイツラが二回戦を見てるかどうかわからんからな。とっとと半殺しにしてこよう」
筋力強化でダッシュ。
……お、多分あそこの小窓からだな。わざわざあんなとこくぐってまで人様の物を奪おうとするかね?
小窓を出ると、狭く汚い薄暗い路地。
あたりを見渡し――――いた。
俺に気づいていないようなので、一気に近づき、先ほどのやり取りで一度も喋ってなかったチンピラその三の頭を蹴っ飛ばす。
文字通りに、蹴っ飛ばす。その三の頭が空へ飛んでいき、キラーンってなる。
唖然とするその一と、蹴っ飛んだ次の一瞬で俺に喉と目玉と股間を潰され、血を吐くその二。
「ひ、ひぃいいい!」
その一が見様見真似で魔銃を撃つ。
当然出てくるのは弱い魔法でしかない。弾丸を握りつぶし、その一の襟首を掴んでジャンプ。
「『物体強化』」
「うわぁあああああ!」
さらに空中で何十回かジャンプ。
標高一キロぐらいなう。
「じゃねー」
「ぎゃああぁぁ…………!」
ぶん投げた。
あなたの余命はあと数十秒。最初で最後のスカイダイビングを楽しむがいい。
…………こんな手合が出てくることは想像していたが、これほど早々にとは、中々に面倒だな。
まあ、これからも全員潰していけばいい話か。
※※※※※
バレないように処理して、二回戦開始。
無法地帯生活経験がある者としてはそこそこ当然のスキルである。
俺を見る者は多いが、それは侮蔑や嘲笑の視線ではなく、正体不明の危険人物を見る目である。
魔銃も魔剣も装備はしているが、使うつもりはない。
闘技場に立つのは四人。
当然ながらまず俺。上級冒険者、ゼロ。
次に、極級冒険者「善良なる水の聖杯」フレディリア・ソレムニティ。【氷】属性のスレンダーな美人魔術師。
この国の騎士団の重武装部隊、「旋熱の斧」団長、アルベルト・ヴァミリオン。【熱】属性のイケメン斧使い。
観客席のあちこちから女性の歓声が飛んでいる。念入りに顔を殴ることにしよう。
極級冒険者パーティ、「大いなる風の剣」リーダー、アンディグル・アーエール。【嵐】属性の長身な剣士。
どっかで見たと思ったら、前に町で『魔神』が来た時に極級たちを抑えていた人だ。
ニッと笑い、俺に語りかけてくる。
「やあ、久しぶりだね、ゼロちゃん」
「ちゃん」がちょっと引っかかるが、まあいい。
「んー、久しぶりっていうか、こっちは初めましてって感じなんですけどね。俺、ちゃんとあなたと挨拶してないし」
俺にとっちゃセリフ一つの名前も出てないモブだし。
「てか、とっとと棄権したらいかがですか? 俺に勝てないってぐらいわかるでしょ? 前のあれ見てたら」
「対モンスター戦と対人戦は違うんだよ」
さいですか。
観客席から『極級とも知り合いだぞ、あの女の子……』『一体、何者なんだ……』という声が混ざる中、二回戦スタート。
※※※※※
開始。
と、同時に以下の手順で行動。
①さっきの「大いなる風の剣」のリーダーさんに接近。
②顎に一発。
③ダウン。
一瞬歓声がぴたっと止まり、「何が起こったのかわからない」といった雰囲気が闘技場内に満ちる。
いや、だって怖いじゃない。あんな思わせぶりなこと言われたら。
斧使いのイケメンは後で徹底的にボコるつもりなので、次は美人魔術師の方へ。
「あ、『氷竜』『雪竜』、合成魔術『雪崩龍』!」
氷の竜と雪の竜が生み出され、混ざりあい、巨大な東洋龍が現れる。
「特之中」は下らない大魔術だ。
――――筋力強化。
「ッシ!」
俺の裏拳が龍の横っ面に命中し、パァン! と龍が弾け飛んだ。
闘技場内に雪が舞う。
今度は、さらに深い深い静寂が闘技場に満ちる。
「あ、あぁ……」
「うぉおおおお! 風火斧、『熱風刃』!」
女魔術師の顔が驚愕に染まっていく中、イケメンが斧を振るい、燃える風の刃を十発ほど放ってくる。
「効かん」
防御力強化、「物体強化」で、服すらも焦がさせない。
そこで。
「『氷結障壁』!」
女魔術師の声、彼女の周囲に氷のバリアが張られていく。
「合成魔術『雪崩龍』、『吹雪龍』…………」
先ほどの大魔術、そしてそれに匹敵するもう一つの大魔術を、二つ連続で短縮詠唱で構築していく。
そして、合体。
「高位合成魔術『極猛吹雪龍』!」
「長えよ」
一撃で大魔術をぶっ壊されたショックから回復した女魔術師が、更なる大魔術を放ってくるが、それすらも一撃でぶっ飛ばす。
それを見て、ニヤリと笑う魔術師。
「かかったわね!」
「え?」
だが、猛吹雪の龍を砕いた瞬間、龍の体を構成していた冷気が吹き荒れる。
闘技場内が白く染まり、視界が全く効かなくなる。
全てが凍っていく。
闘技場の床も、闘技場のバリアも、俺も、斧使いのイケメンも。
ついでに、気絶した「大いなる風の剣」のリーダーさんも。
全てが凍る中、女魔術師フレディリアは冷気攻撃を完全に防ぐ魔法、「氷結障壁」を解除する。
「はぁ、はぁ、はぁ…………やった!」
大きな魔術を一気に使い、息を切らすが、それでも彼女の顔には笑みが浮かんでいる。
しかし。
「炎拳流、『灼炎鎧』!」
斧使い、アルベルト・ヴァミリオンが、体全体に炎を纏って氷を溶かし、氷結から脱出した。
「嘘!」
「感謝するぜ、あの得体の知れない【無】属性の娘を倒してくれて」
ニヤリと笑うアルベルト。
闘技場の床の氷を、魔法で溶かしつつ、女魔術師フレディリアへ接近。
「『氷竜』!」
「おっと!」
フレディリアはとっさに氷の竜を放つが、赤熱した斧に弾かれ、軌道をそらされる。
「風火斧、『嵐炎剛転』!」
「く、『雪崩龍』ッ!」
凄まじい熱気で刃が白色に輝く斧と、氷雪の龍が激突する。
蒸気を周囲に撒き散らし、鎬を削る両者。
「奥義、汚物消毒拳!」
そこに割って入り、両者ともにぶっ飛ばす謎の影。
当然、俺である。
氷を砕くのに時間がかかったんだよね。今度からなんか対策手段を講じなきゃ。
「なっ、お前!」
「どうやってあの冷気から!?」
「超奥義、弱肉強食掌!」
ガン無視。
ダッシュして、床の氷で転びそうになるが震脚の力技で砕き、女魔術師に掌底を当てる。
即死回避がなかったら確実に死ぬ勢いで飛んでいった。
「次はあんただ、そこのナンパ野郎」
「く、何者だ、お前は!」
「【無】属性の魔術師だよっ!」
氷に乗ってギューンと滑る。
赤熱する斧が振り下ろされるが、人差し指と中指で挟んで止める。
我ながらナメたプレイだ。
「はっはっは、どうだ? 子供の指二本で自慢の斧が防がれる気分は?」
「クソ!」
驚いたことに斧を捨て、拳に炎を纏い直接俺に殴りかかるイケメン。
「炎拳流、爆炎一撃!」
「ほい」
パン、と拳を受け止める。
直後炎が爆ぜたが、ヤケド一つない。
「な、なん」
「よいしょ」
ドシャ!
何か言おうとしたようだが、その前に受け止めた拳を掴んで振り回し、地面に叩きつける。
拳の大きさが違うから持ちづらいな…………。
「よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ、あ、スッポ抜けた」
拳を離してしまい、闘技場の隅っこへ飛んでいった。
ま、いいか。
二回戦クリア。
次は決勝だ。
決勝の前に少し話をはさみます。




