第二十一話 王手
「物体強化」した空気の塊をぶっ飛ばし、地面から這い出てくる『魔神』。
それを見た俺は、姉御のとこに行って、声をかける。
「無理でした!」
「ちょおおおおおい!」
ぐん、と俺を穴に引きずり下ろし、小声で叫ぶ姉御。
「理論上はイケるって言ってたじゃん!」
「意外と効果範囲と重さが想定より足りなくって…………」
「じゃーどうすんの!? あれどうすんの!?」
「予想より魔力消費少なかったんで、二分前に二秒で思いついた方法で殺ります! ぶっちゃけその方法命中率激低なんでなんとかして動きを止めていただきたく存じます!」
「さっき潰れてる間にやりゃあよかったじゃん…………」
「空気の塊が邪魔になるんで…………」
姉御がはぁああああ、とため息を吐くが、それでも直後こう言う。
「わかった。いいだろう、私にも奥の手の百や二百ぐらいある」
「めっちゃありますね」
バーン、と穴を飛び出す俺と姉御。
それを見る『魔神』。突っ込む姉御。
ドガガガガガガ! と刀剣と装甲が戦いの歌を奏でる。
ようやくこの戦争の最終章、開始。
※※※※※
ダークエルフの民話に、「化け物」と呼ばれみんなに嫌われる小さな可愛い女の子が、そう呼ばれる所以となった化け物じみた力で、悪党をばったばったとなぎ倒し、みんなから認められていくという話がある。
教訓は、「強すぎる力は疎まれる」「力とは使い方次第である」といったところだろうか。
幼い頃、故あって亜人差別が強い町に住んでいた私は、その民話に感銘を受け、何度も何度も母手作りの絵本を読み返した。
そして思ったのだ。
ちっちゃくて、可愛くて、強い女の子になりたいと。
結局、でっかくて、どちらかといえば綺麗系で、無駄に強い女性になったが。
まあいい。
ある日、私は数年前から拠点にしている町の外れにいた。
なぜそんなところにいたかというと、ズバリ依頼だ。
ギルドはモンスター退治の依頼しか出さないが、極上級ともなると他の組織から名指しで依頼がくることもある。
そういった依頼の標的は、モンスターに限らない。
今回は、町の外れで行われている人さらい組織の撃滅だ。
博愛主義者以外でそんなことをして得をする人間がいるとは、商売とかそういうのに疎い私には思えなかったのだが、金払いはよかったのでやった。
で、その日。
ちっちゃくて可愛くて強い女の子と出会った。
まあ実は男の子だったのだが、その時の私には女の子だとしか思えなかった。
その女の子は、町外れのスラムにいる他の子供たちと違い、どこか清潔で、肉づきもよかった。
【無】属性で、なぜか手が血に濡れていたが、可愛いもの好きの私としてはそんなのはどうでもよかった。
しばらく見ていると、女の子が、いかにもヤクザな男二人にさらわれた。
極上級冒険者をして、あれ、この二人大道芸人やった方がよくね、と思えるほどの見事な手際であった。
唖然とする私を前に、女の子が馬車――――他にも何人か子供が乗っている――――に連れこまれ、馬車が走り出した。
慌てて追いかけるが、私の身体能力は魔法的強化も何もされていないので、基本ただの鍛えたダークエルフのそれでしかない。
ダークエルフはそこそこ身体能力の高い種なので、最初の方は追従できたものの、途中で息が切れてどんどん引き離されていく。
せめてあの子だけでも!
そう思い、馬車を丸ごと凍結させて足止めするべく、腰から「玉散氷刃」を抜き放った瞬間。
馬車が、爆発した。
えっ。
何が起こったのか、その時の私にはよくわからなかった。
わかったのは、爆発する馬車の中で、アッパーカットを決めた姿勢のまま佇む女の子の姿のみだった。
なんだろう、早めの思春期だろうか。
そんなわけはないのだが、混乱した私の頭はそんな間抜け過ぎる結論しか弾き出さなかった。
そして女の子は、馬車に繋がれていた馬に乗って逃げる男二人のうち一人をものすごいスピードで追いかけ滅殺し、もう一人を拘束して、そいつの目に柑橘系の果物の汁を延々と垂らしながら、そいつらのアジトを聞き出した。
そして、馬車に乗っていた他の子どもに果物の汁をかける役目を譲ると、奴らのアジトの方向に走っていった。
女の子の行う余りにも残酷な拷問方法に背筋が寒くなるものを感じつつ、アジトの方に走って向かう私。
アジトに到着した私が見たのは、手を真っ赤に染め、死体の山の前で高笑いを上げる美少女の姿だった。
そして私は思ったのだ。
この子、欲しい。
※※※※※
随分前のことを思い出していた気がする。
だが、今は今のことに集中しよう。
「一気に決める! 焦熱の平原!」
電離高熱から紅い光が放たれ、広範囲の大地を焼く。
ジュウウウウウウ、と地面の中の水分を熱が蒸発させていく。
が、これは範囲こそ広いが威力はそこまで高くないので、『魔神』にダメージを与え、動きを止めるには至らない。
だが、別にそれは期待していない。
それから数度の打ち合いの末、水蒸気爆発で相手を攻撃する技、「爆蒸閃」で『魔神』を空中に打ち上げる。
「氷結の天空!」
空中に冷気を放つ。
『魔神』に白い冷気が当たった瞬間、バァンと音がして、地面と水平に、大きな雪の結晶の形をした魔法陣が出来あがる。
空中の広域を冷却する魔法だ。
『魔神』が落ちてくる。
すぐさま受け身をとり、こちらに向かってくる。
純粋な魔法使いでもないのに、「上之下」クラスの大魔法を二発も行使してそろそろ魔力が限界だが、これだけは決めなくてはならない。
連撃、連撃、連撃。
相手はまるでダメージを受ける素振りを見せないが、こちらの生命はどんどん削られていく。
まだか。
まだなのか。
そして、頃合いを見て、私はおもむろに『魔神』に語りかける。
「なあ」
「 」
「私は先ほど、魔術でこのあたりの地面を広範囲で焼いただろ?」
「 『 』」
「その時、地面の水分が蒸発した」
「 」
「その後、私は空中を広域で冷却する魔術を放った」
「『 』」
「そうすると…………上空では何ができる?」
その瞬間、私は確かに『魔神』が視線をわずかに上に向けるのを確認した。
その先には、光を帯びる灰色の雲。
「雷雲だよ。ちょっとした積乱雲だ」
「 !」
「ところで…………どんな装甲でも、雷は防げないよなあ?」
「!!!!!」
目に見えて焦りだす『魔神』を無慈悲に眺めつつ。
くん、と私は「電離高熱」を天に向ける。
「大地が局地的に強く熱せられ、湿気を含んだ空気が上昇して雷雲が発達し生じる雷雨――――」
私は、「電離高熱」を使って天に技を放つ。
冷鳥熱羽流、「極熱蛇」。
「電離高熱」から蛇のように細い紐状の熱が放たれ、その形にそのまま電離した気体が生まれる。
そして、電離した気体――――電子が自由に移動する導電体――――が、『魔神』と雷雲との通り道を作り出す。
「――――人はそれを、『熱雷』と呼ぶ」
※※※※※
もうこれで止めでよくね? ってぐらい綺麗に姉御の必殺技が決まった。
轟音と共に雷が落ちる。
『魔神』の動きが止まった。
その瞬間、俺は今まで乗っていた「物体強化」で強化した空間から落ちる。
目指すは、『魔神』の脳天。
「残り五パー。全部使う」
「物体強化」は注いだ魔力に応じて効果が変わる。
魔力を注ぐことで、石ころをミスリルを貫く弾丸にできるし、錆びたナイフを名剣と同じ切れ味にすることだって可能だ。
だが。
名剣に魔力を注いだならば?
「重撃の魔剣――――『物体強化』」
ガァ! と魔剣が凶暴な白光を放つ。
「『超越重撃化』!」
『最大重撃化』よりも更に重く。
必殺奥義――――
「――――重厚、長大牙ァ!」
ゴシャア、と魔剣が『魔神』を叩き潰した。
科学的ツッコミはなしの方向でお願いします。
なぜなら、この描写は間違っていると断言できるからです。
正しい熱雷の知識を学んでください。




