第二十話 魔神・新技・魔術
結論だけ言おう。
現在、俺と姉御、赤ゲージ。
『魔神』、もうちょいで黄色の緑ゲージ。
なお、俺と姉御のゲージを合わせても黄色にはならない感じだ。
「…………初撃で全開にして決めとくべきでしたね。アレ、防御さえ抜けばあと紙装甲なパターンっすよ」
「グッ、ウゥ…………っつ、そんなこと言って、もし倒しきれなかったらどうする?」
「そう言った結果がこれです」
「…………ねえ、どうしたのゼロ? お姉ちゃん何かゼロのこと怒らせちゃった?」
「いえ全然。最後の最後に漢のロマンに徹しきれなかった自分を悔やんでいるだけですよ」
赤ゲージっつったが、俺は無傷で姉御はボロボロである。
これは別に、俺が男のくせに美人のお姉さんを盾にして戦う、などという外道的所業をしたのではなく、俺の傷は回復力強化であっちゅーまに回復するからである。
むしろバンバン弾除けになりましたよ。
俺の魔力総量からすれば、回復するための魔力はそこまで多くないし、それより怪我した状態で治癒不可なレベルの攻撃を負うことの方が致命的である。
要は、俺のHPはイコールMPということである。
まあ、それは微妙に語弊があるが。
とりあえず、前回姉御がマジ顔で「通称『魔神』だ」と言ったシーンから、今までにわかったことをおさらいしよう。
『魔神』とは、かつてこの世の全ての存在が神となるために競争し、その競争の間、神となるための手段として悪しきものを取り込んでしまい、その結果モンスターに墜ちてしまった邪悪なる未完成の神たちの総称である。
彼らは眷属を率いたり率いなかったりして、各地を荒らしまくった。
目の前の『魔神』もその一体。『魔神』はかつて【全】属性とかフザケた属性を持つチート野郎によって全て各地に封印されたのだが、その封印がなぜか解かれてしまったのではないか…………とのことである。
『魔神』の話はお伽話として聞いた人もそこそこいるらしいのだが、それが実在するものだと知るのは極わずかな人間のみである。
なお、この『魔神』は「アンビルック」。本来なら「虫と鎧を司る神」になる予定だったのだとか。
ちなみに、こいつが翅を出すときは衝撃波による全体攻撃の合図なので、緊急回避をしなくてはならない(できるか)。
あとなぜか砂のブレスを吐く。
極上級三人で神級相当になる心算らしい。
おさらい終了、本編へどうぞ。
「…………前に、新必殺技完成してないって言いましたよね」
「ああ、言ってたね」
「こないだ完成しました」
「えっ」
「完成しました」
「…………」
「…………」
「…………なんで最初っから使わなかったのよ、ゼロのおバカー!」
俺の襟首を掴み、ブンブン振り回す姉御。
「い、や。完成、した、っつって、も、理論的には、なんで
す。つーか離して!」
「ええ? じゃあできないの?」
「いや、理論上はできます。魔力をバカ食いするんで温存しといたんです」
「…………あいつ、倒せるの?」
「理論上は」
「…………Go sister」
「誰がシスターか」
なぜかわざわざエルフ語(英語に似ている)で出撃を促す姉御。
ていうか、姉御ダークエルフだけどエルフ語使うんですね。
「終わったら多分魔力ゼロになるんで、っつーかするんで、安全なとこまで運んでいただけたら幸いです」
「了解」
今まで隠れていた即席の穴から脱出し、『魔神』に相対する。
「残り魔力十パー、ってとこかね」
「 『 』 」
俺を見つけた瞬間、即座に声なき声と共に砂のブレスを放ってくる『魔神』。
相手もとっとと俺たちのことを潰したいと思っているようだ。
おそらく、盾もなく喰らえば、今の防御力強化なら即死するであろう攻撃。
防御方法は、今ある全ての魔力を使って防御力強化をするか、またさっきの穴に引っ込むか。
俺はそのどちらの方法も取らず――――
右手のみを突き出し。
―――砂のブレスに直撃した。
※※※※※
魔法使いと呼ばれる者達がいる。
数多ある神の名を抱く「属性」の魔力を持ち、其の神々の定めし法に則って魔力を行使し、神の片鱗たる奇跡を現世に表す者たち。
その中において。
神々の定めし法に則ることなく。
魔力を行使し、神の叡智が介在することなき奇跡を操る者達。
神の法に依らずして、魔の術を創造し、師となりてそれを世界に伝える者達。
人は彼らを、魔術師と呼ぶ。
※※※※※
砂のブレスが過ぎ去ったあとも、俺はその場に立っていた。
防御力強化――――ではない。
地面は、俺の手前で、見えざる壁にぶつかったかのように、綺麗な直線で抉れるのを止めているのだから。
「残り九パー。今から本気出す」
その辺の石をコン、と上に蹴っ飛ばし、手のひらでキャッチ。
その瞬間、パア、と石が白く輝く。
「無属性魔術――――」
言葉と共に、石を投げる。
『魔神』は、迷った。
見てわかるほどに狼狽した。
避けれない速度ではない。ならばこの謎の魔力が篭った石を避けるべきか自分の装甲を信じるべきか――――
そして予想通り――――後者を選ぶ。
「バカだな」
そしてただの石が――――聖銀に匹敵する硬度を持つ『魔神』の装甲に。
突き刺さった。
「 !?」
声なき悲鳴と困惑を上げる『魔神』。
石がこぼれ落ち、どろりと黒い体液が漏れる。
驚いてるスキに、接近。
「 『 』 !!」
近づかせまいと、再度砂のブレスを放ってくる。
それを俺は、跳んで避ける。
だが、まだブレスの効果範囲。
だから、空中でもう一度跳ぶ。
更に跳ぶ、跳ぶ、跳ぶ。
そして、『魔神』の頭上へ。
先ほどの石ころから学んだのか、俺からすぐに離れようとする『魔神』。
「だが、まだ効果範囲だ。落ちろ」
そして、『魔神』が、透明な何かに押しつぶされる。
これこそ、俺独自開発「無属性魔術『物体強化』」。
この魔術は、ありとあらゆるモノを強化する。
それは空間然り。
それは石ころ然り。
それは空気の塊然り。
周囲の全てを武器とし、防具とし、道具とし、罠とする魔術。
魔力には、属性という色がある。
火属性とは「火となる魔力の色」だし、水属性とは「水となる魔力の色」だ。
このことは、ある程度魔法を知識として嗜んだことのあるものなら、誰でも知っている事実だ。
ならば、無属性とは何色なのか?
最初は、「肉体を強化する魔力の色」だと思った。
だが、違う。
無属性とは、「触れたものを強化する魔力の色」なのだ。
ならば、放出してやればいい。
そして、物体を強化する。
これが、「物体強化」。
世界初の、無属性魔術だ。




