第十九話 戦争
極級は確か十体。
極級冒険者パーティが三体を抑え、特上級冒険者二名が一体ずつ、特上級冒険者パーティ五組が五体を抑える。
目的は「抑える」ことであり、要は姉御が極上級を撃退するまでの時間稼ぎだ。
姉御は極上級の中でも四位。ただの極級など相手にもならないのだ。
まあ、けど、それでも「抑える」より「ぬっ殺す」の方が良いことは間違いないわけでありまして。
一組の特上級冒険者パーティの横を全力ダッシュでぶち抜く。
振り返って声をかける。
「皆さんはしばらく他の人の援護にまわってて下さい! こいつは俺が相手してますんでっ!」
そして、五メートルぐらいの雪男みたいな毛むくじゃらのモンスターにドロップキックをぶちかました。
ズザァアアアアと地面を滑る雪男。
俺はちょいちょいと手招きしつつ一言。
「Shall we dance?」
「ガァアアアアア!!!」
振り下ろされる巨腕。
――――知覚強化。
回避。
すでに抜いていた剣を構え、次の攻撃に備える。
「ガァッ!」
「『重撃化』!」
――――筋力強化、腕。
ガァン!
衝突。
大振りの剣を持った小さな少年が、五メートルを越す巨人と拮抗するという冗談のような光景。
「ガァアアアアア!」
「『最大重撃化』!」
さらに冗談のような光景。
少年の剣が、巨人の拳を弾き飛ばす。
――――筋力強化、脚。
ジャンプ。
空を飛ぶ魔法でも使ったかのように、空中に軽やかに舞い上がる。
「セイッ!」
剣が、跳ね上げた巨人の手を切断した。
「ガァアアアアアー!!」
先ほどとは違う、苦痛による悲鳴。
それは即座に憤怒による雄叫びへと変わる。
「ガ」
「ガーガーうるっせぇ! ■■■■■■■■■■ァ!」
叱咤激励殺。
衝撃波が同心円状に生物の鼓膜を破っていく。
お前の方がうるさい? そうですね。
なお、気絶範囲に人間がいないことは確認済みである。
流石は極級と言うべきか、一秒動きが止まっただけで、気絶はしていない。
だが、その一秒が致命的。
――――筋力強化、全身。
「超奥義――――」
もう一度ジャンプ。
今度は脳天へ。
「――――因果、応報断!」
血の噴水ができた。
剣を抜いて、巨人の額を蹴っ飛ばす。
血を吹きながらばったりと倒れる巨人。
「次ぃ!」
見え張ってちょっとトバし過ぎたので、今度はもっとゆっくりやろう。
※※※※※
「炎剣凍刀――――『冷砕熱』」
甲虫と大猿を足したような、ヒトガタの極上級モンスターに対し、『月影』ノワール・クロはその硬い外骨格を破壊するべく、冷鳥熱羽流の基本技を叩き込んだ。
冷鳥熱羽流『冷砕熱』。
その仕組みは、熱衝撃。
単純にいえば冷えた茶碗を急に熱すると割れるアレだ。
というわけで、彼女は右手の冷気を宿す刀「玉散氷刃」で敵の外骨格をキンッキンに冷やし、左手の熱を発する剣「電離高熱」で同じ箇所に攻撃を仕掛けた。
少しヒビが入っただけだった。
「――――ッ!」
彼女は思う。確かに、こいつはかなり強い。
「まずいな…………」
彼女は、出撃前の妹……弟分の言葉を思い出す。
だが。
「ラナ・オーネイト・ミスティルティンほどではない! 炎剣凍刀――――『爆蒸閃』!」
無詠唱で水を生み出し――――それを「電離高熱」で叩き斬る。
そして起こる、水蒸気爆発。
あたりが白く染まり、ヒトガタが吹っ飛ぶ。
ヒトガタが何事もなかったかのように受け身をとって立ち上がる。
「…………」
そうだよね。
ミスティルティンさんより強くないからって、別に私が強くなるわけじゃないよね。
彼女は、そんなことを考える自分の冷静な部分を山脈の反対側にぶっ飛ばし、情熱的な戦いを続ける。
だがしかし、彼女の冷静な部分は打算的な思考を続ける。
――――ゼロが極級を全部ぶっ飛ばして、私の所に来るのを待つしかないかもしれない…………。
※※※※※
「奥義――――ああ、もう、四字熟語思いつかん! 焼肉定食弾!」
骨のドラゴンを、ショルダータックルでぶっ壊す。
姉御が極上級を倒し終わる前に、半分の極級を倒してしまった。
遠くで極級と戦っている、冒険者パーティを見つつ、あれなら大丈夫だと思い、姉御の所に向かうことにする。
「姉御をあそこまで苦戦させるとは…………やっぱ強かったんだな、あのモンスター」
【熱】【氷】属性しか持っていないはずなのに、竜巻やら土煙やら白光やら、いろいろ巻き起こっている戦闘場所を見つつ、姉御のところへ走る。
「姉御!」
声をかける。
「ゼロ、その位置から相手に向かって面状の範囲攻撃!」
いや、無茶を言うな。
そう思ったが、できる限りご要望に答えるべく、剣を地面に引っ掛け、土砂を相手にぶっ飛ばした。
まあ、大体面状だろう。
姉御は何を考えたかその範囲攻撃の中に特攻した。
そして土煙の中戦闘音が響き、吹っ飛んできたのは猿とカブト虫を合体させたようなヒトガタだった。
「追撃!」
土煙の中から姉御の声。
「『最大重撃化』!」
ヒトガタをボールに見立て、剣をバットにぶん殴る。
重さ大きさの関係上、ホームランにはならなかったが、ゴロにはなった。
外骨格に、姉御がつけたのであろういくつかのヒビが俺の先ほどの一撃で大きさをまし、背中に大きなヒビが入って、そこからドロドロと体液なのだろう黒い液体が漏れ出した。
姉御が、いつの間にかそばに立って、肩で息をしていた。
「大丈夫ですか」
「ぶっちゃけキツイ」
正直な人だ。
「で、何モンですかアレ。姉御があそこまで苦戦するって極上級じゃないでしょう」
「ああ、あれは極上級じゃない。その更に上――――」
姉御は、マジ顔でこう言った。
「――――神級。通称『魔神』だ」




