第十六話 武器
タイトルを、「無属性の魔法使い」に変えようか悩んでいます。
「どうしよっかな…………」
初めての依頼から一週間。
討伐数によって成果報酬が上がる依頼を主に受けてきて、金もいい感じにたまり、ランクも下級から中級に上がった。
「装備かぁ…………」
そんなわけで、今日は溜まった金で装備を買いにきたのだ。
当初は「俺の力なら武器とかいらないんじゃねwww」みたいに調子に乗っていた俺だが、その考えは登録してから三日目に情報伝達限界領域にポイすることになった。
ゴーレムを殴れば流石に痛いし、ゴブリンにナイフで斬りつけられれば、体に傷はつかなくても服がボロボロになる。
それに、下級の依頼では魔法を使ってくる敵はいなかったが、中級になれば魔法を使ってくる敵だっている。
例えば、ただの服で依頼に出かけて、炎の攻撃を避けきれずに全身に受けたら、どうなる?
服が燃えて、全裸になる。
「せめて下だけでも防具を整えないとな…………」
というわけで、現在冒険者ギルドに紹介された店に向かっている。
最初は姉御に選んでもらおうと思っていたんだが、極級冒険者御用達の超高級店に行こうとしたので、丁重にお断りさせていただいた。
ナイフ一本買っただけで金がなくなるっつーの。
「ここか…………」
そこまで大きくもない店だが、店内から漂ってくる「ロマン臭」は凄まじい物がある。
が、それと同時に、何かこの空間に立ち入ることを躊躇うようなオーラも放出されている。
それは例えるのなら、アニメイトやメイド喫茶のように。
違うか。
それにどっちも入ったことないしな。片方は県内に三店しかなかったし。あれ、そのうちの一店は去年閉店したんだっけか。
まあいい。入ろう。
「ちーっす…………」
ガチャンとドアを開け、中に入る。
「らっしゃい」
中にいたのは、いかにも頑固職人、って感じのおじさんだ。他の客はいない。
カウンターの奥で椅子に座っている。
もらったリストの中から一番近い店を選んだのだが、ここは武器屋だったらしく、武器しか置いていない。別に防具屋を探さなくては。
それにしても…………ロマンを掻き立てられるな。
長剣、短剣、ナイフ、大剣、細剣、刺突剣、槍、短槍、突撃槍、斧、手斧、斧槍、ハンマー、モーニングスター、ロングボウ、ショートボウ、鞭、投げナイフ、他にもいろいろ。
かんっぜんに時代考証無視ですね。節操のない。
そんな風にキョロキョロと店内を見渡していると、職人のおじさんから声をかけられた。
「おい、嬢ちゃん」
男です。っていうかもういいよこのネタ。
「ここは冒険者でもない女子供が来るとこじゃねえ。帰れ」
冒険者ですし。ていうか何このテンプレな職人さん。逆に素晴らしいよ。
「いや、俺は冒け――――」
「――――帰れ、っつてんだろ」
ヒュン、とナイフが飛んできてツカっと背後の壁に刺さる。
すげえ、何だ今の。防御力強化以外のことは何もできなかったぞ。何者だこのおじさん。
俺の様子を見たおじさんが、ほう、と感心したような表情で呟く。
「あれで眉一つ動かさないとは…………胆力はなかなかのモンだな、嬢ちゃん」
いや、驚いて何もできなかっただけですけど。あと男。そろそろイラついてきたぞ。
「だがな、胆力で剣は振れねーんだよ。俺も武器屋として二十年やってきた身だ。人を見ればそいつの力ぐらい見抜ける。嬢ちゃん、アンタにゃ無理だ。【無】属性で、魔法が無理なら戦士として、とでも思ったのかもしれねえが…………体つきから何から、嬢ちゃんはとても戦士には向いてねえ。家に帰って料理の練習でもしてな」
節穴ですね(笑)
とは言わない。確かに強化無しでは俺の身体能力は体力テストで女子のB並みの性能だし、これはあの神が定めた「設定」である以上、決して覆されるものじゃないのだろう。
だけど、ね?
未だ立ち去らない俺に苛立ちを覚えたのか、椅子から立ち上がり、叫ぼうとするおじさん。
「もうわかったろう! とっとと帰――――」
「えい」
強化した右腕で、おじさんのいる方向にパンチを放つ。
ブワッ! と風が巻き起こり、おじさんの前髪を上げ、服をはためかす。
風はそれにとどまらず、店内を縦横無尽に駆け回り、軽い――――とはいえど三〇〇グラムは下らない――――武器をガタガタと揺らす。
風が収まった時、店内にあったのは、唖然とした顔で俺を見つめるおじさんと、パンチを放った右拳をおじさんにドヤ顔で見せつける俺の図だった。
そして俺は右腕を下ろし、ドヤ顔のまま一言。
「節穴ですね(笑)」
「〜〜〜〜〜っ!」
悔しそうに歯を食いしばるおじさんに、続けて言い放つ。
「これでも私は戦士には向いていませんか?」
女と勘違いさせといた方がおじさんの屈辱も増すと思うので、一人称をあえて「私」にする。
別にいいだろこんぐらい。
「ぐ…………。…………す、すまねえ。お、俺が悪かった」
おや、あっさり謝るな。自分の間違いを素直に認める大人には好感を持つ子ですよ俺。
まあ、まだ俺のおじさんへの好感度ゲージはマイナスだがな。
「えっとぉ、私、武器とか持つの初めてなんで、店員さんとかに聞いて選ぼっかなあとか思ってたんですけどー、いやあ実は今知り合いの高ランク冒険者に選んでもらおうか迷ってるんですよねぇ。どうしましょう、おじさん、いい武器選んでくれる自信ありますかあ?(↑)」
ふはは! どうだ! ウザかろう! これでも逆ギレしないのならば、好感度のマイナスを帳消しにしてやってもいいぞ?
「いや、本当に悪かった…………。今度は責任もってしっかり見るから、俺に嬢ちゃんの武器を選ばせてくんねえか?」
真摯な対応により、好感度ゲージ現在+10。
「いいですよ」
邪気をなくした顔で、ニッコリ笑って俺はそう言った。
※※※※※
「【無】属性の肉体強化か…………」
「あれ、知ってたんですか?」
現在、武器選び中。
これは俺も結構後に気づいたのだが、【無】属性の肉体強化は、知ってる人が全くいない。
「魔法のつかいかた」でも、注釈にちっこく書いてあっただけで、「火球」みたいな呪文名もなくただ「肉体強化」とだけ呼ばれ、魔法使いでも知ってる人はあんまりいない。
【無】属性は、一般的には魔法の使えない人間なのだ。
「ああ、昔近所に忌み属性の子供を多く集めた孤児院があってな? そこの院長が【無】属性で、肉体強化の使い手だった。ただ、院長はもともとかなりムキムキだったし、嬢ちゃんほど並外れた強化はしてなかったんだがな…………」
「へぇー」
そんな人もいるのか。仲間としてちょっと嬉しい。
「それで、結局どんな武器が? あ、お……私、あのモーニングスター使ってみたいです」
棒の先っちょに、トゲ鉄球が取り付けられた形の鈍器を指差す。
「嬢ちゃんの力じゃ、トゲがすぐに折れちまうっての。あれそこまで重くもねえしな」
「えー」
「この大剣とかどうだ? 【重】魔法付加してあるから、見た目よりも重いぞ? まあ、付加したせいで誰も持てなくなって邪魔なんだがな」
「残念な武器ですね。ていうかケイオスさん【重】属性なんて持ってるんですか」
ケイオス。この素直な頑固職人の名前である。
「おう、【付】【鋼】【錬】【重】の四つだ。魔剣は得意じゃねえが、質の良さはなかなかのモンだと自負してる。それなのに最近の奴らは派手な魔法効果がある武器ばかり求めやがって…………」
そのまま、「それは使い手の腕が〜」「そもそも武器とは〜」とグダグダおっしゃりやがるケイオスさん。
…………うぜえ。
「ま、この剣はそんな俺が唯一作った魔剣だ。『付加魔法解放』で更に重くすることもできる。軽くはならんが」
「急に重くなったら扱いづらいんじゃないですか?」
「そこで、当店自慢のこだわりだ。付加魔法の解放度に応じて、徐々に重心がズレるよう調整してある。これでかなり振りやすくなる。そりゃあ多少の違和感は残るが、その辺はすぐに慣れれるさ」
「へー。いいっすね」
右手を強化し、ヒョイっと持ち上げる。
その様子を見たケイオスさんが思わず、という風に苦笑する。
「片手で持つか…………とんでもねえな」
「いや、流石にこれを片手で持つのはキツいっすよ。魔力をもっと入れりゃー余裕でしょうけど」
両手で持ち直し、ブンと軽く振る。
「素人にしてはいいじゃねえか。武器を持ったことはないって言ってたくせに、剣の訓練はやったことあるのか?」
「たまに、ですけどね。最近は全然やってませんよ」
姉御との訓練の成果は一応出ていたようだ。
「これ以上重くなったら、体が剣に持ってかれそうになる気がしますが、重心が変わるなら大丈夫ですかね」
「実際にやってみろよ。解放方法は、『重撃化』と念じるもしくは唱えるだ」
『重撃化』――――
――――そして、筋力強化。
「っと。結構きますね」
だが、取り落としたりはしない。
そのまま最大まで重くするが、振ることができた。
「よし」
「買います。いくらですか?」
「金貨一枚。だが、今日は出会い頭に悪いこと言った詫びに、三割引にしとくよ」
「ありがとうございます」
※※※※※
次は、防具屋。
「せっかく武器を専門店で買ったんだから、防具も専門店で買いたいな…………」
リストを見る。
『アモネス武器』『ロナーク武器屋』『鋼の装備』…………『ロン防具&ジニー道具店』。ネーミングセンスは微妙だが、ここにしとくか。
隣町との境にある店だったので、ちょっと遠かった。
店は二階建てで、一階が防具屋、二階が道具屋という形だった。
当然だが、まず一階に入る。
今度の店主は職人というよりは商人という感じだった。小売店なのかもしれない。
「すいませーん。何かオススメありますか?」
店主がビシュンバシュンシュパンと見とれる程に華麗にして勇猛な機動でこちらに接近してくる。
なんでこの人防具屋の店主やってんだ。雑技団いけよ。
「ようこそ、麗しきお嬢さん」
「う、えぇ……はぁ、どうも」
なんか反応できなかった。仕方がないことだと思う。
「えっと……靴以外で、全身の防具を見繕って欲しいんです。特に下半身の防御は固めに。いや、卑猥な意味ではなく」
「なるほど。靴以外の全身の防具。特に下半身の防御を重点的に。ただし卑猥な意味ではなく」
そうつぶやき、しばし悩んだあと、店主が懐から青い布を取り出し、それをくるくると回し、シュッと手の中にしまう。
「ではまず下半身から。このトンレットなどいかがでしょうか」
布はどこかに消え、店主の手には、スカート型の鎧が乗っていた。
マジシャンやれよ。
「う、えぇ……スカート型は、いやです」
思わず素直な気持ちを言ってしまった。仕方がないことだと思う。
「ふむ……では、このズボンなどはどうでしょう。鉄板がしこまれており、また、魔法付加によって耐熱性、通気性があります」
今度は赤い布を取り出して消し、暗い緑色のズボンを現れさせる店主。
…………これは、どういう商法なのだろうか。
「えっと……じゃあそれで」
「かしこまりました」
その後、鎖帷子と鎧下、サーコートとしての安い黒のジャケットを買った。
その後、二階の道具屋にもついでに行ってみた。




