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無属性魔術しか使えない魔術師  作者: 401
第二章 冒険編
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第十五話 依頼

「じゃあ俺全力ダッシュで行ってきますんで」

「え? いくら私でも、ゼロの全力にはついていけないぞ?」

「だから別行動しましょうって」

「やー! お姉ちゃんもゼロと一緒にいーくーのー!」

「たった一話でキャラ崩壊しないでください。読者がついていけないじゃないですか」

「一緒に行こうよぉ…………」


 何が何でも俺についてこようとする姉御。


「何でそんなについてきたがるんですか…………」

「だって心配じゃないか。もし盗賊に襲われたらどうする?」

「蹴散らします」

「ドラゴンがやってきたら?」

「殴ります」

「隕石が落ちてきたら?」

「壊します」

「…………ラナ・オーネイト・ミスティルティンと戦闘になったら?」

「…………新必殺技を使います」

「まだ完成していないんだろう?」

「まぁ、そうですけど」

「だったらやっぱり心配だ。私だったらゼロが逃げる時間ぐらいは稼げるからな。さ、一緒に行こう」

「別にいいですって」


 しばらく問答をしたあと、涙目で訴える姉御に強く押しきれず、結局一緒に行くことになった。




 顔を俯かせながら、ただひたすらに「ゴッドキラー・プロトタイプMK-1823」に思いを馳せる。


「ん、どうしたゼロ。顔が耳まで真っ赤だぞ? 大丈夫か?」

「なら手を離してください…………」

「や」


 いつの間にか、途中から手をつないで歩いていた。

 無理矢理振り払うぐらいできるし、実際さっきやったのだが、そしたら泣きそうな顔になったので繋がざるを得なくなっている。

 正直、めっちゃ恥ずいです。


「なんだ、ゼロは嬉しくないのか? こんな綺麗なお姉ちゃんと手をつなげて」

「よくもまあ自分でそんなこと言えますね…………それに俺は綺麗な姉より可愛い妹がほしいです」

「なんだ、つまらん」


 ぷくっと頬を膨らませる姉御。

 …………無表情でやるな。


「ほら、もう戦場跡につきますよ! いい加減離してくださいってば!」

「ちぇっ」


 ようやく開放される俺。


 目の前の戦場跡では何体もの動骸骨スケルトンが生前の装備を身につけ、仮初の命をもってゆらゆらと覚束ない足取りで、感じられる生命の波動だけを頼りに存在しない敵を求めてさまよっている。


「じゃあ行ってきます」

「危なくなったらすぐに戻ってくるんだぞ」


 姉御の声を背中で受けつつ、クラウチングスタートの構えを取り、ダッシュ。


 ちなみに、俺の現在の装備はこんなん。


頭:黒の野球帽(日除け)

体:青のTシャツ&背負い袋

腕:なし

脚:シンプルな作業用ズボン

足:ミスリル製の魔法付加鉄靴サバトン(姉御からのプレゼント。超高級)


 靴だけめっちゃ良いものだが、これは強化した筋力で走り回ってすぐに靴をダメにする俺を憂いた姉御がくれた物だ。


 それ以外は、もはや完全にピクニックスタイルである。


 姉御はちゃんと武器を装備しているが、防具はかなり軽装だ。


 ダッシュした俺に気づき、目の前に立ちはだかる動骸骨スケルトン――――


「セェイ!」


 ――――に、スピードを落とさないままエルボーをかまし、バラバラになった骨の中から胸骨を抜き取る。


 そのまま、直線上にいた八体の動骸骨スケルトンを破壊し、抜き取った胸骨を背中の背負い袋の中に放りこむ。


 この胸骨が、討伐したという証明になるのだ。


 一旦ストップして、今度は動骸骨スケルトンの集団に向かってダッシュ。


 ある程度近づいたらジャンプして。


「地球割り!」


 着地の瞬間、拳を地面に叩きつけ、小規模な地揺れを発生させる。

 倒れる動骸骨スケルトンたちの胸骨を殴りながら抜き取っていき、同様に背負い袋へ。


「ん?」


 遠くに、大きな骨の塊が見えた。


 骸骨百足メニーレッグボーン。無数に束ねられた人間の背骨から、これまた無数の白骨の足が出ている、胴の細い百足の骸骨のようなモンスターだ。

 胴の先にちょこんとついている人の頭蓋骨が不気味である。


 強いが、攻撃しない限り襲って来ないので、初心者パーティは手を出さないし、中堅パーティなら高威力魔法で遠距離から削っていく感じだ。


 まあ、あれぐらいなら十匹ぐらいまとめてふっ飛ばしたことあるし。


「ッシ!」


 先っちょの頭蓋骨をもぎ取り、ジャンプして背骨の中ほどに踵を落とす。

 ど真ん中から叩き折られ、バラバラと崩れていく骸骨百足メニーレッグボーン


 そんな風に、俺は無双を心ゆくまで楽しんだ。


※※※※※


「おーいゼロ! そろそろ弁当にしないかー!?」

「あ、はーい」


 最初は緊張した面持ちで見ていたが、途中から飽きてその辺の芝生で日向ごっこをしていた姉御が、昼時にふと思い出したように呼びかけてきた。


「弁当まで作ってくれてたんですね……ありがとうございます」

「気にするな」


 そばまで行って、芝生の上に座り込む。


「と、いっても…………ここの動骸骨スケルトンはほとんど駆逐し終えたんで、もう帰るだけなんですけどね」

「別にいいじゃないか。外で弁当を食うのも」


 いそいそと弁当を準備する姉御が、急に顔を上げて聞いてきた。


「今更聞くのもアレだが、嫌いなモノはあるか?」

「虫は食べたくないです」


 逆に言えば虫以外なら何でも食える。

 あの奴隷生活でも、この町にくる道程でも、草の根こそ食えど、虫だけは絶対に食わなかった。


「そうか。安心しろ虫は流石に入っていない」


 流石にってなんだオイ。

 まあ、言葉の綾だと思っておこう。俺の精神衛生的に。


 弁当が開かれる。

 おお……結構うまそうじゃないか。


「いただきます」


 一口食べる。


 …………。


「どうだ? 自分ではそこそこ良い出来だと思っているんだが…………」


 雰囲気にちょいちょい自信を滲ませつつ、聞いてくる姉御。


 …………どうしよう、非常に微妙だ。


 うまくもまずくもない。

 そこそこ高いフランス料理のレストランから、森の中の草の根まで、幅広く食してきた美食家グルメな俺であるが…………微妙すぎる。


 なんだこれ。どう表現すりゃいいんだ。


 …………。


「うわ、これ美味しいですね! すっげえうまいですよ!」

「ほ、本当か!?」


 女を殴れても、女を悲しませることはできない。これが残念すぎる俺クォリティ(巻き舌で)。


「本当ですよ! いやー姉御って強い上に料理もできるんですね! すごいです、尊敬します!」

「ありがとゼロっ! 大好きっ!」


 むぎゅ、っと、俺を抱きしめる姉御。

 …………Dカップ、か?


 興奮を全力で抑えつつ(あまり効果がないようだ)、この状態を維持しようとする本能を理性で押しのけ(両者は拮抗している)、姉御のけしからん胸(効果は抜群だ)から意識を逸し、姉御の体をひっぺがす。


「やややや、やめてください」

「えへへー」


 この上なし嬉しそうに笑う彼女の姿に結構な罪悪感を感じつつ、俺は微妙な弁当を堪能した。

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