第九話 尋問
あそこには手続き上、俺をドラゴンへの挑戦相手として登録したらしい。
あのコロシアムに奴隷が入った場合、ある程度の勝ちを収めれば奴隷から開放される。
これは犯罪者でも同様で、政府の満たした勝ち星を上げれば解放される。
ただし、それはとんでもないノルマが必要とされる。
で、俺の場合、あのドラゴンの五分の一ぐらいの大きさのモンスターを三体殺せばそれでよかったのだが(何つったって子供だしね)、陰謀によってあれと戦わされることになったそうだ。
で、あのドラゴン見た目通りとても強かったらしく。
あのドラゴン一匹分の勝ち星マイナス本来のノルマが、ゼロどころかプラスに転じてしまいました。
というわけで、その分の賞金が日本円にして五十万円(金貨五枚)ほど。
奴隷からも解放。犯罪歴も帳消し。
素晴らしいね。
ここから俺の新たなる異世界ライフが始まる――――
「さあ、あの時何をやった? 言え」
――――と思いきや。
「…………なんで俺尋問されてるんですか? 犯罪歴帳消しでしょ? 悪いことなんか何もしてないじゃないですか」
「違う。これは謎の力を持つ幼児の保護だ」
「ふっ。物は言いようですね…………」
「よくわかってるじゃないか、お嬢ちゃん」
「いや男です」
「何? この年頃の子供は男女の見分けがつかんな…………」
「髪切ってませんしね」
伸びっぱなしである。
前髪だけはこないだ適当にざっくり切ったんだが。
現在、この世界の警察にあたるのだろう組織に保護という名目で尋問され中だ。
尋問官は青? 紫? の髪のナイスガイ。首がハンマー投げの選手みたいにぶっとい。あと青の全身鎧を着ている。
「まあいい。それで君が今日使ったという…………『おぶつしょーどくけん』? その奥義について教えてほしい」
「あー、それ前に後輩から教えてもらった技に、俺が適当に名前つけただけです」
久々に前世のことを思い出した。
元気かな、部活のみんな。
未だに神殺しの研究を続けてるんだろうか。
技を教えてくれたあの子、今度黒帯にランクアップするって言ってたっけ。
頑張れ。
「後輩…………? 何らかの組織に所属していたのか?」
「ええ」
「なんという組織だ?」
「名前は言えません。加えて、名前を知っている人間もいません」
「名乗るほどの者ではない」、「不言実行を旨とせよ」…………部活の掟である。
まあ、学校の事務室に行ったら部活名書かれた書類が何枚もあるんだろうが。
「秘匿性の高い組織なのか?」
「まあね」
「ふむ。ではその組織は何をしていたんだ?」
「あれ、随分あっさり引きますね」
「私たちがやっているのは尋問でも拷問でもなく、保護だからな」
「だったらこの手錠外してください」
「そして危険人物の監視でもある」
「強情だなあ。こんなちびっ子相手に」
ちなみにこの手錠、魔法を封じる効果もあるらしい。
まあ、大して吸い取られてる気はしないんだが。いつだったか女の子の足の鉄輪を外してあげた時よりは吸われてるけど…………あれから俺の魔力も結構上がってるしな。
「何してたか言いますよ? 引かないでくださいね?」
「安心しろ。私はよっぽどのことがないと動じん」
「神殺しの研究です」
「…………お、おう。そうか。では次――――」
「思いっきりドン引いてんじゃねえか」
なんなんだこのおっさん。
「ところで、君の名前はなんというんだ?」
「実は尋問下手でしょ? それ最初に聞くべきじゃないですか?」
「まあ、尋問官など初めての経験だしな」
「じゃあなんで…………」
「いざという時、君を止められるのが私だから――――だよ」
ニヤリ、とニヒルに笑うおっさん。
なかなか絵になってるな。ワイルドだぜ。
「……はぁ。そっすか」
「そうだ。で、君の名前は?」
「ゼロです。名字はありません」
「出身は?」
「知りません。物心もない三歳の時に奴隷商人に売られたもんでね」
本当はバリバリ物心あったけどね。
「年はいくつだ?」
「六歳。多分」
「ませてるな」
「当たり前です」
「捻くれてる」
「どうも」
「生意気だ」
「そんな褒めないでくださいよ」
「…………」
いきなりどうしたんだ? 褒め殺しにして情報を出させようっていうのか?
「…………はぁ。もういい。また明日話を聞く。それまで君はそこで保護させてもらう」
「そこってザ・プリズンじゃないですか。保護じゃないよーバーカバーカ」
「ここ以上に安全な場所はない」
「ホント物は言いようだよなー。大人って汚い」
「なんとでも言え」
バタンとザ・プリズンの扉が閉められる。
…………。
金はある。
罪歴はない。
奴隷でもない。
多分この牢屋はぶち破れる。
そして、どうも俺は割と強いっぽい。
と、すれば?
「脱出しますか」




