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舞踏会、武道会2

舞踏会、武道会2



 崋山寺昇が目を覚ますと、ベットのそばで兄が心配そうに見つめていた。


「気づいたかい。昇。

 学校でなにか辛いことがあるなら兄さんにいつでも相談しておくれ。兄さんは病弱で世間知らずだけれど、お前の味方だよ。

 いや。今すく話せというんじゃない。ゆっくりでいい。お前が落ち着いて話してもいいと思えた時に話しておくれ。兄さんは待っているから」

 そこまで言うと兄は言葉を一旦切り、とても辛そうにした。

「ただ、母さんの目の前だけでは以前の昇のように振舞っておくれ。

 母さんはおまえがベロベロに酔っ払った上に赤絨毯にくるまって帰ってきた様子を見てしまってから、泣いてばかりなんだ。自分の育て方が間違ったせいで昇が不良になってしまったって、ご自分を責めてね」

「いや。兄さん」

 昇はハッとした。夕べ、マリアカリアが乾杯の音頭をとった頃から記憶が一切ないのだ。

「記憶が全くないんだ。兄さん。僕はどんな様子で家に帰ってきたの?」

 兄は困ったような顔をする。

「無理に思い出す必要はないよ。あれは恥ずかしいから」

「兄さん!」

「う、うん。夕べ、土岐さん(崋山寺家の家政婦)がインターホンが鳴ったのに誰もいる様子がないので念のため確認をしに外へ出てみたら、おまえが半裸の状態の上猿轡まで噛まされて門の脇に放置されていたのを発見してね。おまえの体からは強いアルコールの香りがするわ、色っぽいうわごとを言うわ、大変だったんだよ。幸いにもどこかの親切な人が半裸のお前を不憫に思ってか、赤絨毯を巻きつけておいてくれたおかげでそんなに世間様に恥を晒さずに済んだんだよ」

「かはっ」

「昇!大丈夫か。しっかりしろ」

「ハアハア。奴の仕業だ。マリアカリアの仕業だ」

「マリアカリア?名前の響きからすると女の子のようだけど」

「確かに女の子ではあるんだけど。実体は絶対に異世界から来た悪魔かなんかだ。おや、兄さんどうしたんだい?様子が変だよ」

「ハハハハ。弟に大人の階段を先に登られてしまったのかい、僕は。僕はもうダメだ」

「いや、兄さん。大人の階段て、どういう意味?そんなことしてないから僕。信じてよ、兄さん!」

「黙れ。不良!不純異性交友常習者!不潔だ!」

「兄さん!兄さん!」



 これを切欠に生じた崋山寺家兄弟間の不和は相当な間続いたそうな。

 その後、事情を知ったエリザベス伍長がマリアカリアの二虎共食の計は見事当たったと感心したとかなんとか。

 意味ないでしょ、それ!というナカムラ少年のツッコミがあったのはいうまでもない。

 ちょっとしたいたずらで乙女ゲームの設定すらも狂わせるマリアカリアにナカムラ少年はあらためて戦慄を覚えたのであった。



 朝、授業前。


 教室で本を読んでいるマリアカリアの前に憤怒の形相の生徒会書記が現れた。


「マリアカリア!夕べ、僕の身体に何をした!おかげで兄さんとの間がこじれてしまったぞ。どうしてくれるんだ!」


 本から視線を外したマリアカリアが呆れた調子で忠告する。

「朝から破廉恥な話題を堂々と。大声でするのは君自身のためにならんと思うのだがね。どうやら君はTPOというものを弁えておらんようだな。周囲の反応を見てみろ。空気の読めないメガネ君」

 可哀想な書記の耳に教室内のざわめきが聞こえてくる。

「ハッ!いや、違うから、みんな!僕の身体は清いままだから!」

「フッ。小僧め。ますます墓穴を掘ったようだな」

 高まる教室のざわめきにマリアカリアが失笑を漏らす。


「あっ!違うから!信じてくれ、みんな!もう嫌だー」



 午前の休憩時間。


 担任の教官室で堂々と紫煙をくゆらせるマリアカリアに対して葛野貴子が訊く。

「どうだ?マリアカリア君、学校に慣れたか?(喫煙している様子をチラ見して)いや、この問い掛けはお前には無意味だったな。忘れてくれ。

 えーと、そうだ。この学園の生徒は全員何らかのクラブ活動に従事することになっているが、お前はもうどの部に所属するかを決めたのか?

 前もって言っておくが、この学園には喫煙愛好部とかいうふざけた部活はないからな」

「部活でありますか?教官殿。

 ふむ。わたしはフェンシングや射撃、乗馬などのスポーツが得意ですから、希望としてはフェンシング部か乗馬部に入りたいであります」

「そうか。しかし、あいにくフェンシング部は半年前に廃部になった。校長が西洋剣術は気の使い方がなっていないと存続に反対してな。乗馬部の方も以前は国内では知られた強豪ぞろいだったのだが、校長が自分の愛馬を厩舎に入れるようになってから他の馬が萎縮するようになってな、練習もままならない状態が続いているのだ。いずれにしてもあまりお勧めはできないな」

「……そうでありますか」

「活動しているクラブのリストを渡そう。ゆっくり見学して決めていいぞ」


 渡されたリストを見たマリアカリアはひとつのクラブ名に注目した。


 「白薔薇学園交流部」

 学園の高等部の女子が朗読をしたり演奏をしたりして初等科の生徒たちの世話をするクラブである。


 ふむ。これは使える。


 この学園のOG・OBが露骨に絡んで縦のつながりがありそうなクラブに自分の顔を売ることは、自分の学園支配に役に立つ。マリアカリアはそう踏んで、ニヤリとした。


 マリアカリアのクラブ見学でこの学園の次世代を担う少年・少女たちはどうなってしまうのだろうか。初等科のいたいげな少年・少女たちに危機が迫る。



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