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恋人たちよ、再び!4

 恋人たちよ、再び!4


 生徒会の役員の中でも書記というのは大変な重労働である。

 単に生徒会の会議の記録をとるのだけが仕事ではない。


 例えば体育大会や修学旅行などの学校行事。

 過去の事例を調べ、生徒の要望を調べてまとめ、スケジュールを組み、案をひねり出し、生徒会で決議したものを学校側に提出して生徒会長とともに折衝に当たる。それから学校側との協議の結果まとまったものを印刷に回し生徒に配布する。などなど。

 しかも、学校行事のようなイベント対策は書記のメインの仕事ではない。

 究極の裏方である書記にとってメインの仕事とは生徒の学校生活のより良い環境作りおよびその維持にある。生徒の学習やクラブ活動が円滑になるよう常に注意して情報を集め、必要な場合には生徒会を開きあるいは学校側の注意を喚起する。

 そういう訳で、書記にとって生徒の間の秩序を乱す輩あるいはその可能性のある輩は常に敵に相当する存在である。対処しなければならない仕事の対象であるのだ。


 親友の北堀川院昂から正門前でのマリアカリアの喫煙と暴言のことを聞いた崋山寺昇は、書記としての責務を果たすため積極的にマリアカリアに対して情報収集を試みた。

 だが、結果は。

 次の授業で上の空になるという生まれてこの方味わったことのない痛恨の敗北を喫してしまった。顔の赤みがまだ消えていない。しかも親友からの頼みであるマリアカリアの仲間であるらしいエリザベス・グラディウスという生徒の情報収集にも失敗してしまった。



「おい、メガネ。この学園の中で一番の昼食がとれる食堂を教えてくれないか。わたしは学園の事情に疎いのだ」

「……そんな事を尋ねる前に、君はまず僕に言うべきことがあるはずだ。

 そ、その破廉恥な振る舞いについてせ、生徒としての立場をわきまえてだな。 とにかく反省を要求する」


 夢想を破られた書記は強硬姿勢をとることにした。

 説教モードだ。この僕がこんなイカレた編入生にいいようにあしらわれてたまるか。放し飼いの野獣とも言うべきマリアカリアに生徒としての立場というものを分からせておとなしくさせてやるのだ。


 だが、その試みは失敗に終わる。


「そんなものは必要ないな。メガネ。

 君はわたしの性別を誤って失礼な態度を取った。この罪は重い。しかも、そのことについて君はまだ一言の陳謝もしていない」

 書記の肩のかけられたマリアカリアの手に力が入る。

「故国ではわたしは由緒正しき伯爵の娘だ。本来なら君の態度は万死に値する。

 だが、わたしは寛大だ。特に何も知らない少年に対してはな。

 君はしばらくわたしの奴隷をしろ。それでわたしは君を許そう」


「かはっ」

 鋭い肩の痛みにもめげずに書記はなおも言い募ろうとしたが、マリアカリアに耳に甘い吐息を吹きかけられて固まってしまった。


「わたしの気に入ることをすれば、いつでもご褒美をくれてやるぞ。坊や」

 目を細めたマリアカリアはおのが左手の爪を書記の首に這わせる。

「さっさとわたしに食堂の場所を教えるがいい。わたしは食事については気が短いんだ」


 

 これで、必要な情報を入手したマリアカリアは乙女ゲームであるかぎり必ずあると言われているイベント(食堂で特別な集団に属する生徒しか座ってはならないとされる席に着き、悪役令嬢に嫌味を言われるというもの)に一歩近づくことになった。


 なお、この日以降、白薔薇学園生徒会書記はその機能を急激に低下させることになる。

 周囲の噂だと恋煩いだそうだ。本人は絶対に認めていないが。





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