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赤毛の男 3

 

      赤毛の男 3



 私はエスターから渡された報告書を読んでいるうちに、一人の少女についての記載を見て当たりを引いた予感がした。



 レナードを逮捕したロジャー・パーシバルの妹にアイリーン・パーシバルという十五才の少女がいる。

 記載には写真まで添付されている。むろん白黒だが。


 豊かな金髪でちんまりとした鼻、ぽってりとした下唇、顎は少し短いように感じる。目は大人びている。総じてコケティッシュな感じのする顔だちだ。


 彼女は兄のロジャーの勧めで異世界人との親睦会であるレスター・クラブに入会している。


 当然、異世界人との交流が多い。

 独特の社交性があり、それなりに人気ものだそうだ。

 しかし、異世界人の男の子にとって非常に危険な人物である。とても十五才とは思えぬ媚態を時折見せつつ、フラフラと近づいてくる異世界人の男の子に対してまるでハエでも叩き潰すかのように肘鉄を食らわせるのだそうだ。


 その例外が、死んだオギワラ・ソウタだった。

 恋愛関係というのではなく、同い年のくせにアイリーンが一方的に弟のように可愛がっていたらしい。

 それでもクラブに来ている男の子からやっかみを受けるのでオギワラ少年は迷惑そうにしていたとのはなしだ。


 事件当日も、アイリーンが絡む。


 アイリーンとオギワラ少年とは同じ学校に通っているものの、クラスが異なる。

 にもかかわらず、彼女は当日2度、オギワラ少年のいるクラスに現れている。


 1度目は朝。

 彼女の方からわざわざオギワラ少年に挨拶をしにやってきている。その直後から、レナードは苛立ち始めオギワラ少年に対する虐めがいつになく荒れたものになった。


 2度目は事件直前。

 レナードたちは以前にもしたように窓から飛び降りるようオギワラ少年に拳骨をもって励ましていた。

 そこへ彼女が現れ、レナードの取巻きに向かって『そんなこと続けていると、あんたたちだけが手酷い報いを受けることになるわよ。誰かさんと違って後ろ盾がないんですもの』と言った。

 それを聞いて取巻きが一旦手を緩めると、レナードが激高し、『誰の手伝いも要らないよ。こんなカス、一人で十分だ』と叫んでオギワラ少年を窓の外に押し出した。

 オギワラ少年は転落して頭と全身を地面で強打して重傷を負う。


 これではまるでレナードに引き金を引かせたがっているかのようにしか見えない。



 アイリーンの交友・交際関係についての記載にも目を走らす。


 アンドレアス・アトウッドは当然として、改革派の中でも比較的穏健派で知られるサイモン・マクラウドとロバート・プラマーか。

 十五才の少女がなんでこんな胡散臭い輩と交際しているのか皆目見当もつかない。


 さらに目を通していくと、同じ年頃の小娘連中に混じって異質な奴が一人いた。

 シルヴィア・ローウェル。

 異世界人、それもかなり異色な奴。

 私は登録をしに来た奴をハッキリ覚えている。私は奴の目つきを見て、同じ臭いを感じ取り、奴も他人の血で自分の手を染めたことがあると確信したものだ。

 あの目は生きている人間を物と見ることができることを示していた。

 躊躇なく人に鉛の弾丸をたたき込める人間の目だった。

 鏡を見ているようで非常に不愉快になったことを覚えている。

 そんなシルヴィア・ローウェルとアイリーンの接点はなんだろうか。ますますアイリーンから嫌な臭いが感じられる。



 記載の最後に書かれている名前を見て私はため息をついた。

 そこには精霊の名前が載っていた。

 精霊には個別に得意分野がある。この精霊のは特殊なものだった。


 くそっ。エスターめ、ここまで調べがついているのなら何故手を打たないんだ。これで昨今の襲撃の謎が一度に解けてしまったわ。



 昼までにエスターからの報告書を読み終え、今度はエリザベス伍長の始末書を読んで私は頭を抱えた。

 精霊というのはアレか、ダークエルフとは違い、余計なことは一切言わない機械みたいな存在なのか。

 始末書には、取調べ室でレナードを殴りつけた際、偶然室内に時限爆弾が仕掛けられていたのに気づいてお得意の力で無効化しておいたことが書かれてあった。


 この無口な自前の爆破物処理班を連れていたおかげで私はまたも命拾いしていた訳だ。


 アンドレアスの戯言はブラフでなかったことになる。

 仕掛けたのは別人でアンドレアスはたまたま知っていただけ。奴を咎め立てしたいのは山々だが、奴には私の暗殺を止める義務も義理もない。しかも、忠告までした。これでは文句のつけようがない。つくづく嫌味な奴だ。



 私は誰も文句を言わないことをいいことにエリザベス伍長の謹慎を解き、私の従卒として呼び戻すことにした。



 昼過ぎ、私は一通の伝言を受け取る。

 ミネルヴァ・ヒースが私に会いたいという。ミネルヴァ・ヒースというのは馴染みの詐欺少女のことだ。

 彼女は王子と袂を分かち、今ではこの国の保守派の重鎮の一人に雇われている。名目は私設秘書というらしい。

 まったく似つかわしくない。どうせ働くなら劇場でコメディエンヌでもすればいいのに。



 私はエスターを呼び、歓迎の準備を頼んだ。そして、保安局の中でもよりすぐりの精鋭を呼集した。

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