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脱線6つづき1

 脱線6つづき1


 

 わたしは今奴隷商人の店へ行くためシガレットを咥えながら通りを歩いている。


 今日で王都スコッティについてちょうど1か月経った。

 万事順調だと言いたいところだが、ひとつ困ったことがある。それは、わたしの文化的芸術的衝動が日に日に強まっているということだ。

 もう自分では抑えきれそうにない。

 現在公演している古典的な「サウンド・オブ・ミュージック」などのミュージカルももちろん偉大な作品でわたしはこころからリスペクトしている。

 しかし、だ。

 わたしは物足りないのだ。

 わたしは現代のハイソなミュージックが欲しい。

 もっと言うなれば、わたしは現代的な歌を歌いたいのだ。

 クリスティーナ・アギレラとなって「Show Me How You Burlesque」を歌いたいのだ!

 そのためには。そのためには。

 この世界にブラック・ミュージックを移植しなければならない!

 ジャズもロックも乗り越えてRandBをこの世界に受け入れさせなければならないのだ。

 楽器もドラムやボンゴでは足りない。エレキギター、キーボード、シンセサイザーが必要なのだ。


 そして、もちろん女性ボーカルも足りない。

 そのために今日、わたしは奴隷商人のところへ行く。

 決して逆ハーレム要員をお持ち帰りするためではない。当然だろう。この物語ではそんなお手軽で生々しい話しは出てこないのだ。だって15Rですらないのであるからな。フン。

 この物語ではファンタジーはキュートでスタイリッシュでグレートでなければいけないのだ。

 自分自身なにを言っているのかサッパリ分からないけれどもな。

 とにかくそういうことになっている。例外は許さん!


 ところで、店に行く前にこの世界の奴隷についてザッと説明しておこう。

 そもそも奴隷制度とは労働力が第一次産業に偏りのある産業の発達していない社会特有の制度だ。

 大量生産する工業労働力の要らない社会。中間層が消費をすることで経済のパイをふくらます必要のない社会。そういう社会特有の制度だ。

 まさに中世ヨーロッパもどきの異世界があてはまる。

 この世界の奴隷の種類は一種類しかいない。借金奴隷。それしかいない。 犯罪者奴隷がいそうなものだが、犯罪者の大半は捕まれば縛り首、よくて国外追放なので存在しようがない。


 前に言ったようにわたしは冒険者たちに転職を勧め精霊の能力を使ってその道のプロに仕立て上げたが、その際、短期で仕事の成果を見せることを条件に開業資金の貸し出しを行った。技術があっても資金がないと職業として成り立ちえないからな。文化の底上げにもならない。

 大半の人間は借りた金を開業資金に使い成功を収めた。この世界はなんといっても希土類と魔物にあふれた資源大国で、現在膨大な貿易黒字を計上していて好景気に沸いており、金持ちを量産している。そして金持ち連中は嗜好品に飢えているからな。転職した連中もその需要のおかげで成功しているわけだ。

 が、しかしだ。

 せっかく借りた金を開業資金に回さずに消費してしまった馬鹿者たちもいた。

 ここまで言えばお分かりだろう。

 そう。こいつらが借金奴隷に身を沈めた。

 そして、その中に女神エリエールもいた。

 奴は借りた金で高級バックやハイセンスな服を買いまくったそうだ。

 まったく何を考えているのやら。そんなに欲しければ自分でつくればいいだろうに。女神なんだからさあ。



 うん?そうこうしているうちに奴隷商人の店のまえにたどり着いたな。


「これはようこそ。シニョリーナ・ボスコーノ。お待ちしておりました」

 店の前で待機していた身綺麗な恰好の男が丁寧なお辞儀をしてわたしを店に招き入れる。

 

 応接間にはすでにくさりつきの首輪をはめたエリエールが床に片ひざついた状態で侍っていた。


「おまえなあ。その恰好、女神として失格だろうが」

「ビィエェェーン。た、たすけて。お願い」


「ああ。もとよりそのつもりだよ。

 だが、条件がある。おまえはこれからショービジネスの世界へ転身するのだ。そして、男を惹きつけるその無駄にでかい胸を有効活用するのだ。

 偉大なマリリン・モンローとマドンナの融合体としてな」

 マドンナは現代の偉大な芸術家だ。活躍する現代の女性ボーカリストはみんな彼女をリスペクトしている。ブルガリアのアンドレアなんてそっくりさんではないか!もちろんクリスティーナ・アギレラだってリスペクトしている。

 しかし、初期にマドンナの人気に火をつけたのは自身の過剰なまでのお色気の演出だった。彼女の芸術の真価とは関わりないと言っても、やはりお色気のないマドンナはマドンナではありえない。

 この世界にマドンナの芸術を理解させるには、眼前にいるメス豚のデカい胸がどうしても必要なのだ。だからわたしはこのメス豚を買い取る。博愛精神からではない。

 ちなみに過剰な博愛精神が社会に混乱をもたらし害悪を産むことは歴史が証明している。ツルゲーネフの小説を読みロシア皇帝は農奴に深い憐みを覚えて農奴解放令にサインしたが、結果は賃金を払えない小地主たちによる解雇といままで以上に苦しい小作人への転落しか産まなかった。解放する前に社会の工業化を図らなければならなかったのである。アメリカの南北戦争もしかり。結果は黒人の大半が南部の貧しい小作人として残留し南部白人の憎悪と白人社会からの無視しか生まなかった。移民社会のアメリカでは北部工業地帯の労働力は1920年代まで移民によって賄われたからだ。


 わたしは女神の首輪つきくさりを引っ張って囁いてやった。

「女神よ。これからは芸術とわたしに奉仕するだけの人生を歩むのだ。生きている限りはな。アハハハ」


 芸術の振興には犠牲はつきものだ。奴隷女神もきっと満ち足りた気分になるにちがいない。


 さあ。これから帰って次回公演の稽古だ。

 文芸座なみの舞台監督の罵声をきかせてやるぞ!



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