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第二層6つづき6

 第二層6つづき6


 今日は5月10日。メーデー。そして摩天楼エンパイヤー・ステイトビルディングのオープンの日でもある。

 もっとも、シルヴィアが前者を祝う以外、われわれには関わりがない。


 わたしは時計を見る。10時5分だ。

 予定通りとある集合住宅の一階の入り口から栗毛の少女が大きな荷物を抱えて出てきた。

 少女はそのまま街中を北上する。

 ……

 ……

 少女の進行方向前方にカーキー色のビュイックが停車しているのが見える。

 少女はそのまま歩いてビュイックを追い越す。

 中で運転手が新聞紙を広げている。

 が、後部座席からソフトを目深にかぶった男が二人降りてきて少女を追尾しだす。


 追い越してから10メートルも歩かないうちに少女は何かに躓いたようにして盛大にこけ、持っていた荷物の中身を辺りにぶちまける。

 予定通りだ。


 少女は四つん這いになり零れた中身を拾い集めだす。

 後方にいたソフトの男たちは早足になり少女の背後に迫る。そして、少女から1メートルの地点で立ち止まり、懐に手を突っ込む。

 しかし、そこまでだ。男たちはそのまま固まらざるを得なくなる。

 予定通りわきの建物から男女のペアーが現れ、足音を忍ばせて男たちの背後をとってその背中に散弾銃を突き付けたのだから。


 ペアーの女性が少女に向かって声をかける。

「ナカムラ少年。こける演技が下手すぎる。場末の演芸ホールのコメディアンでもしないわざとらしさだ」

「シルヴィアさん。僕はただの雑役係です。これが一杯です」

 栗毛のかつらを被って女装したナカムラ少年が四つん這いのまま首を振った。


 と、様子を見ていたビュイックの運転手はあわててエンジンをかけようとしている。

 ここからは私の仕事だ。

 わたしはビュイックにおもむろに近寄り、黒の皮手袋のうえにナックルをはめた左手で窓越しに運転手を殴った。

 もちろんガラスの破片の散らばる車中で運転手は意識を失う。

 これも予定通りだ。



 ◆◇◆◇◆   ◆◇◆◇◆



 あれからわれわれは拉致した3人の殺し屋をボコり直接指示した人物の名を吐かせ、そいつの拠点を急襲し拉致してボコりさらに上の人物の名を吐かせ、そしてさらに上の人物の拠点を急襲し拉致し……。

 この急襲、拉致、ボコるのパターンをさらに2度繰り返すと、今回ジャンヌ抹殺の汚れ役を引き受けたのが誰であるかが分かった。


 われわれはそのことをマランツァーノに知らせるため遠征したニュージャージーからブルックリンへと戻る。お土産は血だらけのユダヤ人殺し屋の親玉だ。自分たちをマーダー・インクとか称するふざけた奴。


 17時45分。すでに日が暮れている。


 ……

 ……




 「カッート!」

 わたしがマランツァーノとの会談を終え席を立ちあがろうとした瞬間、頭の中にあの臭い仙人の声が響き視界が暗転した。


 気付いてみると、例の書斎の中、李鉄拐を前にわれわれ4名が突っ立っていた。


「あのねえ、困るんだがね」

 李鉄拐はなにやらイライラしたご様子で持っている杖でポンポンと肩を叩いている。

「なんで話がハードボイルドになっているのかな?これファンタジーだよね。自覚しているよね。

 それに君らのチームだけなんで選手全員勝手なことばかりするの?

 マリアカリア君はマフィアと自分との関わり合いだか何だか知らないけど過去の清算をしようとするし。

 シルヴィア君はシルヴィア君で造船所の労働者を集めて世界同時革命とかのわけの分からないアジ演説しはじめた挙句、司法省の役人(FBIの前身)に町中追い掛け回されて逃亡劇のヒロインを演じはじめるし。それも連続もののテレビ・ドラマじゃあるまいし、なんで関わりのある人毎ごとに濃いい人情劇やりたがるの?あなたは無実の妻殺しの容疑をかけられた逃亡者ですか?

 ナカムラ君はボーイのリカルド少年と組んでショー・ガールのお姉さま方に憧れて楽屋に入り浸ろうとするし。泣かせる青春劇でもはじめる気?プレゼントの資金集めとして店の酒くすねて売っぱらうの、それ二重の意味で犯罪行為だからね!やっていい行為じゃないからね!」


 ナカムラ少年はわたしに隠れてそんなことをしていたのか。ふーん。

 あとで話し合いをしておこう。こういうのは管理者責任を問われかねないからな。今後のためきっちりと話し合いをしておこう。もちろん肉体言語で。


 相変わらずの臭さに辟易しながら今後の予定を立てたわたしはシガレットに火をつけた。


「だからどうした?われわれは与えられた課題を遂行中だ。何の問題もない」


 わたしの回答に李鉄拐は疲れ切ったようにため息をつく。

「あのね。君たち以外のチームはもう第四層も第五層も突破してそろそろ二人目の大会運営者の手から離れようとしているわけね。

 そして今現在、君たちを含めて6チームしか残ってないわけね。ほか皆、もう脱落しちゃったわけ。もう決勝戦をする6チームが決まっちゃったわけね。それで、大会を観戦している神さまとかがしびれを切らしちゃって運営をせっつくのね。早く決勝戦はじめろって。でも、運営している方は「道」(タオ)を広めるために大会やってるわけで……」

「要するにわれわれに巻きで予選を突破しろというわけだな」


 わたしが長くなりそうな老人の話をまとめてやった。


「そっ。じゃ、君たちをつぎの運営管理者のところへ送るからいってらっしゃい」


「おい。待て。ジャンヌはどうなる?」

 慌ててシルヴィアが叫ぶ。わたしも気になる。

「後回し。第9層突破してから続きになるね。当分、君たちに気疲れさせらずに済むと思うとホッとする」


 それはお互い様だ。わたしもお前の臭いから離れられてホッとする。

 しかし、なんというご都合主義だ。主人公にとってのご都合主義ではない点で呆れ返る。かなり前から気づいていたことだが、この物語は並みのファンタジーではないな。


「おうおう。最後まで臭いについての愚痴かね。わたしとしてはもう戻ってきて欲しくないんだがね」


 再びわたしの視界が暗転した。


 

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