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第一層3

 第一層3


 大会予選がはじまった。

 覇王項羽は予想通り周りの選手を不意打ちで斬りつけてフライングをした。

 なぜ不用意に覇王の側にいるんだ?斬られた選手たちよ。昨夜の惨劇を見て何も感じなかったのか。少しは予想しろよ。


 われわれはBTR-90に乗り込み、予定通り覇王たちから250メートルの間を取って追尾する。

 しばらくすると、覇王たちが九層の大塔の100メートル手前付近で石像群につかまり速度を落とす。

 チャンスだ。


「よし、シルヴィア。やれぃ。主砲でなくAGS30mm自動擲弾発射機(グレネードランチャー)を使え」


 わたしは用意していたFGM-148ジャベリン(対戦車ミサイル)を手にとりながら指示を出す。


「兵士林たちはAK-74を構えて側面の銃眼から周りを警戒しろ。邪魔してくる奴がいれば容赦なく銃弾を叩きこめ。

 ナカムラ少年。お前は何もしなくてよろしい。合図したらわたしにダネルMGL(回転式チャンバーのグレネードランチャー)を渡せ」


 パッパッパッパッ


 サーモバリック弾(気化爆弾)が軽快な音を立てて発射されていく。

 ペリスコープで着弾を確認し、わたしは上部ハッチを押し開けジャベリンを構える。

 覇王を確認し赤外線追尾でロックし直線攻撃ではなく上辺攻撃を選択。


 ファイアー。


 発射された対戦車ミサイルはいったん上空へ上がり曲線を描いて覇王目がけて落ちていく。


 戦場ではわたしは容赦しない。任務を完遂するだけだ。

 戦場での兵士の態様は3つに分れる。人殺しを楽しむ奴。割り切る奴。泣きながら銃を撃つ奴。

 わたしは戦場にいる間は何も考えない。


「シルヴィア。主砲での攻撃に切り替えろ。ナカムラ少年。ダネルMGLを渡せ」


 ジャベリンはダメ押しである。30mmグレネードが身近で爆発しているんだ。全滅しているに違いない。


 ジャベリンも着弾し爆発。


 が、噴煙が晴れ、そこに見えたものは黒焦げの死体ではなく、美女を抱えた法道仙人であった。仙人が覇王たちをどこかへ移して攻撃を避けさせたのだ。

 仙人の見せた幻影に翻弄されて、われわれの攻撃は結局、石像群を粉砕しただけで終わった。


 エロ仙人め。なんてことしやがる。


「シルヴィア。(攻撃をやめて)警戒しながら覇王を探せ。エリザベス伍長。車を大塔の入口へ突入させろ!」


 どんなに辺りを見回しても覇王たちを見出せない。わたしは焦るが、指示を出せないままBTR-90が走行を続ける。

 ついに大塔まえの石の階段を登り切ってしまう。


 われわれは覇王たちを見つけ出せないまま、BTR-90ごと大塔の入口を潜った。


 ……


 ……


 入口を潜った瞬間、われわれ全員気を失ったようだ。


 気がつくと、わたしは中国風の書斎の中にいた。

 周りには、なぜか白馬が一頭と赤いストッキングを穿き緑の上衣を着て小姓姿になったナカムラ少年。それと、白銀の鎧を纏ったシルヴィアがいた。


 なにそれ?


「あー。わしは李鉄拐ね。この大塔の第一層から第3層まで管理している大会運営者の一人。

 君らは2番目に入って来たチームで、これからジャンヌ・ダルクとその一行となってオルレアンという町の解放をしてもらう。イギリス軍を撃退してオルレアンを解放することが第一層のクリア条件だから頑張ってね。

 チームの誰か一人でも死んだらその時点で予選落ちだから気をつけてね。

 なにか質問はあるかな?」


 正面にいた汚い格好の老人に淡々と告げられる。

 われわれが二番目だとすると、一番目はきっと覇王のチームだろう。三番目はわれわれと分離された玉女神剣チームか。

 大塔に入って来たチームはそれぞれに課題を授けられるのか?

 とんでもない予選だな。


 それにしても目の前の老人は臭い。着ているものはボロボロだし、はだけた胸と顔は垢だらけで真っ黒だ。

 仙人なんだからもっと身ぎれいにしろよな。


「おうおう。それはすまなんだな。

 わしにも(汚い乞食の姿をしている)事情があるんじゃ。

 質問がないならオルレアンへ転送するよ。あとがつかえているんでな」

「待ってください。

 まず、わたしと大尉のどちらがジャンヌ・ダルクの役をするんですか?」

 シルヴィアが真剣な表情で質問する。


「おう、そうじゃな。どちらでも好きに決めてくれたらええよ。

 ただし、ジャンヌを選ばなかった方は男の役をしてもらう。史実には女の護衛はいないからな」


「ニエット」「断固拒否だ」

 わたしとシルヴィアが一斉に抗議の声を上げた。普段から男と間違われることの多いわれわれになんという嫌がらせだ。


「ふたりともジャンヌ・ダルクにしてもらう。それ以外一切受け付けない」

 わたしは腕を組んで鉄拐仙人を睨みつけてやった。

「そうだ。姉妹という設定にすればいい」

 シルヴィアが提案する。


 押し問答の末、鉄拐仙人はしぶしぶ頷いた。当然だろう。

 まっ。あいつ(シルヴィア)と姉妹とは内心あまりありがたくはないが、これも一種の緊急避難だ。


 ジャンヌ役はシルヴィアに押し付けた。

 必然的にわたしはシルヴィアの姉さんだ。だって、わたしはジャンヌ・ダルクなんて女を知らないからな。違う世界の人間に無茶振りしてもらっても困るのだ。要配慮。


 それはそうとしてエリザベス伍長はどこだ?


「ヒヒーン。大尉殿。わたし(エリザベス伍長)、お馬さんになっちゃいました」


 はあ!

 わたしの従卒は人間(の形)をやめてしまった。

 わたしはわたしで耳の長さが短くなっている。


 これからわれわれは一体どうなるんだ?先行きが大変不安だ。



 

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