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第一層2

 第一層2


 宴が終わった後、わたしは林青蛾を呼び出した。


 気分は体育館裏で待つワルの上級生だな。わたしも軍の幹部養成学校に通っていた頃、よくやられたものだ。すべて返り討ちにしてやったがな。

 いやいや。今回は格の順位を拳で決めようというのではなく、恋愛観の間違いの指摘の話しなのだ。

 間違うな、自分。


 だいたい酸いも甘いも噛み分けた大人の女が淋しいからといって美少年を誘惑していいものではないのだ。

 林青蛾のやろうとしたことは肉体的にも精神的にもか弱い少年を甘やかせて誑かし少年を自分に依存させて独占しようとするものだ。まるでペットかヌイグルミ扱いだ。

 これではリリスと同じだ。

 けしからん。チョット顔がいいからと自慢げにそういうことをされては、わたしがつらいではないか。

 と、まあこれは冗談だ。決して羨ましいとは思っていないぞ。


 女というものは個体でどんなに威張っていても心のどこかで異性に依存したいという願望が残されている。

 保護されたい。守って貰いたい。自分だけを見ていてほしい。

 それは自然のことだ。かく云うわたしにもそれがある。


 でもだなあ。林青蛾のように相手をペット扱いにして支配し自分だけを見つめ続けさせようとするのも如何なものか。姑息じゃないか。規模は違うがマルグリットのやった洗脳と変わらんぞ。

 そういう女にかぎって相手が思い通りにならないとすぐ癇癪を起こす。

 どうしてわたしのことが分かってくれないのか、と。

 相手を猫可愛がりに可愛がったかと思えば急に怒り出したりしてなにかと忙しい。傍で見ていると、いい加減それでは小さい女子と同じではないかと突っ込みを入れたくなる。

 もうちょっと大人の関係というものを考えてみてほしいものだ。難しいことだとは思うが。

 ああ。そういえば、まったく逆なタイプの女もいるな。それとは違うので注意してほしい。

 いわゆる賢い女というやつだ。相手の機嫌を損ねて嫌われないかと始終ビクビクしている人。内心では好きでたまらないくせに本当の自分を見せて嫌われるよりもつかず離れずの位置をキープしようと計算してしまうタイプだ。

 正直。このタイプは屈折しすぎている。相手に振り回されすぎて自分というものが失われすぎている。

 それでは、結局、相手の男を増長させていいように扱われてしまうだけのに。

 これはこれで、悲しい性だと思う。

 わたしなどは、そういうタイプの女は見ているだけで、ついイジイジしてしまう。もっと自分を出せよと言いたくなる。


 と、グダグダと取り止めの無いことを考えていると、奴がやって来た。


 ピカー ブルルンブルルン


 3個のサーチライトを点けた装甲兵員輸送車に乗って。


 これは何か。問答無用でその砲塔についた2A42 30mm機関砲かPKT7.62mm機関銃でわたしを撃ち殺す気か。それならこちらにも考えがあるぞ。

 エリザベス伍長はどこだ。今すぐわたしにRPG-32(最新式のロシア製携帯式対戦車兵器)かFGM-148ジャベリン(携帯式対戦車ミサイル)を渡してくれ。兵員輸送車ごとスクラップにしてくれる。


「ハーイ。カリアさん、カリアさん。見てください。どうです、これ。いいでしょう」

 運転手の座る位置からハッチを開けてエリザベス伍長が手を振る。

 ハッ。裏切りか?


「ロシア製最新版の装輪式水陸両用装甲兵員輸送車BTR-90でーす。見てください。この舟形底部のフォルム。可愛いでしょう。

 全長7.64メートル。幅3.20メートル。高さ2.98メートル。重さ23.1トン。

 最近の兵員輸送車に比べると重大高ですが、機動力は素晴らしいものがあります。悪路も傾斜もスイスイ。路上ではなんと最高時速100キロメートルも出せて、カー・チェイスなんかもできます。

 装甲もバッチリ。20mm程度の機関砲ではビクともしませんよ。おまけに耐地雷性も高度。

 さらにさらにロシア製では珍しく8輪の車輪を左右反対方向に回転させて移動することなく車体の向きを変えることができる小回りの良さ(超信地旋回)。

 兵装は主砲に2A42 30mm機関砲一門。タンデム成形炸薬弾頭(HEAT弾)を装備レーザーで誘導でき見敵必殺。

 同軸にPKT7.62mm機関銃。ほかに6個のスモークグレネードティスチャージャー。スパンドレルATGミサイルランチャー。30mmグレネードランチャーが標準装備。

 あっ。内部も見てください。側面のハッチを開けると、そこは後部座席。6人背中合わせで乗車します。シートはブルー。折りたたみ式で着脱自由。

 砲手座席はレッドのシート。砲塔内は配線が剥きだしでスタイリッシュでなくて芋っぽい。さすがロシア製です。

 運転席を見てください。なんと操縦は大型トラックみたいな丸ハンドルを回します。タンクでなくて兵員輸送車であることの自己アピールですね。なんとも心憎いです」

「エリザベス伍長。もう満足したか?わたしは聞いてるだけで疲れてしまったんだが」

 新車のセールスマンみたいなエリザベス伍長が少々ウザい。


「はい。満足です。わたしのマニアぶりをアピールできて大変うれしいです」


「そうか。それはよかったな」

 棒読み口調で告げると、わたしは上部ハッチから上半身を出している林青蛾を睨んでやった。


「で。どうして林先輩がロシア製の兵員輸送車に乗っているんだ?そして、どうやって兵員輸送車を蓬莱山へ持ち込んで来られたんだ?あと、どうしてロシア製を選んだんだ?タンクを選ばなかった理由も一応聞いておこう」


「それはわたしが説明しよう」


 シルヴィアが側面のハッチから降りてきた。

「玉女神剣のチームから相談を受けたんだ。

 リリスのチームは騎兵に特化している。馬術が得意でないうえ馬も用意していない林先輩たちが野戦で戦うのは不利だ。大尉が呼び出したのもきっと覇王項羽への対策の相談だろう。わたしは不利を逆転するには現代兵器を使用するのが最適だと判断した。独断で悪いが、時間がないからエリザベスと一緒に古代ギリシャの神々の世界まで行って、そこで作製したコイツに(慣れさせるため玉女神剣チームを)乗せて試運転がてらそのまま帰って来たというわけだよ。(大尉との待ち合わせには)時間的に間にあったのだからいいだろう?

 ロシア製のコイツを選んだわけは、わたしがコイツの前の型(BTR-80)に慣れ親しんでいたからだよ。実戦で使っていた。

 しかし、随分と変わってしまったな。快適でより強力になっている。揺れも少なく走りもスムーズだ。

 あとタンクを選ばなかった理由は、ここにいる連中でタンクを操縦できる奴がいないからだ。最初から選択の対象外なんだ」

「……」


 まあいい。林青蛾への恋愛観批判は後回しで。せっかく向こうがわたしを有能な指揮官と誤解してくれているのだ。ボロは出さないでおこう。

 それよりも、だ。


「シルヴィア。乗車以外に玉女神剣チームになにを教えた。自動小銃や軽機関銃の操作方法は教えたか?最低それ以外にもグレネードランチャーやRPGの使い方も教えんとな。

 エリザベス伍長。ほかの現代兵器も作って持って来たんだろうな、当然」

「当然でありますよ。カリアさん」

 エリザベス伍長はにこりと答える。


 わたしも二ヤリと笑う。

 わたしは確信した。これで勝てる。


「というわけだ。玉女神剣のみなさん。夜明けまでまだ10時間はある。その間に現代兵器に慣れ親しんでもらおうか。思う存分に撃ちまくってな。」


「い、いや。申し出はありたいんだがの。ほら、もう夜だし。寝た方が疲れが取れていいと思うんだがの」(林青蛾発言)

「そ、それに睡眠不足はお肌に悪いと言いますし。ね」(魯雪華発言)

「……」(向蓮蓮)


 林先輩らは逃げ出したいそうな雰囲気だが、それを許すほどわたしは甘くはない。


「シャラーップ!

 覚えられるときには覚えられるだけ覚えておけ!これが生き残るための

鉄則だ。死ぬときに後悔するのはお前ら自身だぞ。

 いいか。お前たちはいまのままでは銃から一発の弾丸も放てない何もできないクズ以下の存在だ。

 だが安心しろ。くちばしの黄色いお前たちのけつについている卵の殻くらいはこのマリアカリアが取ってやるよ。手とり足とり教えてな。それもひどく優しく丁寧にな。

 これからわたしが何か命じたら『わかりました。大尉殿』と答えるんだ。

 おい。シルヴィア。こいつらを整列させて号令をかけろ」


 シルヴィアはわたしに向かって敬礼をすると、直ちにがなり始めた。

「こらあ、ボンクラども。さっさとその汚いけつをあげやがれ。

 そら。駆け足。駆け足だ。ダバイ!ダバイ!ダバイ!」


 わたしはこいつらをこれから戦場に出せるくらいには鍛えるつもりだ。優秀な素質があるんだ。きっと役に立つ兵士になれる。


 待ってろよ。覇王項羽。

 地獄に落としてやる。お前の殺した連中の待っているところへな。確実に。


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