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続攻撃3

 続攻撃3


 先達の静聴尼が床に目をくれながら淡々と尋ねる。


「して、静月は何を斬った?」

「何も。強いていうなれば奴と今現在との紐帯を斬りました」

 

 マルグリットの首と左腕が床に転がっている。血の跡はない。まるで片付けで零れ落ちたマネキンの一部のようだ。目には光がなく何も映し出されていなかった。


 人の力では精霊は斬れない。が、静寂尼は剣仙である。なんの造作も要らない。静聴尼の命ずるままに不可視の刃を振いマルグリットの身体を切断していた。


「静寂は何故に(マルグリットを)滅しなかった?」

「限界を知らしめ傲慢の鼻をへし折りさえすれば(反省し自らの仏性に気付くのに)足りるかと考えました」


「甘いのう。じゃが」

 静聴尼は二コリとする。

「求道の障害たる外道にも慈悲をたれ悟りの道を示すか。まさに釈尊の形じゃ。善哉善哉」


 静聴尼は説く。

 やはり大乗(仏教)は正しいのだ。

 悟りの行は自利のみにあらず。自利と他利の両面を願うもの(ただ我ら清涼寺派(禅門)は自ら悟りを開いていないにもかかわらず衆生に道を説くほど増長慢ではない。)。

 釈尊もまた結局は自らの悟りに安住することなく、悟りを求める人々を指導したのだ。

 衆生(外道も含む。)救済を心掛けることは正しい行いといえる。静月、静寂の先に示したこと(外道にも慈悲を与えたこと)は正しい。

 また、わたしは仏弟子だからといってなにも荘子の説く世界(「道」)を否定するつもりはない。

 (万物の)価値に違いがないということはその通りであろう。

 仙境に安住し人を避け鳥獣を友として万物斉同の世界に遊ぶ。それはそれで結構。

 しかし、それでは万物の存在を静的にとらえているのにすぎない。

 因果律によってすべては流転しているのだ。どうして固定化した見方から刻々と変化する万物をとらえて因果律を越えていくことが出来ようぞ。

 本来無常であるものを常ととらえるから苦が生じるのだ。

 諸行無常。これを認識してはじめて苦から逃れ涅槃の境地に達することができる。

 道家と仏弟子とではやはり考え方が違う。

 静月や。静寂や。その違いをお前たちはよく弁えているのか。弁えているならば、まだともに求道の道を歩む余地がある。

 しかし、違いが判らぬというのであれば、今生ではここで別れじゃ。

 致し方なし。致し方なし。


 静聴尼が威儀を正す。

 静月尼、静寂尼もハッとしてともども合掌して拝跪する。


「糞袋どもよ。未だ菩提心(求道する気持ち)はあると見える。破門はせん。破門はせん。ともに衆生利益、衆生安楽の誓願を果たそうぞ。なむからたんのー、とらやーやー……」

「「なむからたんのー、とらやーやー……(千手千眼観自在菩薩廣大円満無礙大悲心陀羅尼)」」


 静聴尼たちは衆生救済すべく座禅道を広めるためさらなる異世界へと目指す。大悲心陀羅尼を唱えながら食堂から退出しようとする尼僧たちの背には後光がさす。


 おお、御仏のお力は偉大なり。偉大なり。


 「「ありがたや。ありがたや。極楽浄土間違いなしじゃ。ありがたや。ありがたや」」

 凡愚四(張益徳)と凡愚五(ナカムラ少年)は感涙しながら手を合わして三人の尼僧の後ろ姿を拝んでいる。

 西方浄土に住まわれる釈迦如来様も蓮の花を手にされながらソッと微笑まれているにちがいない。


 ……

 ……


「めでたし、めでたし。完。……じゃねえよ。なにイイ話にして終わっちゃってるわけ?作者の頭に虫が湧いてることは知ってるけど、コレ酷すぎるんじゃね。張りまくった伏線何ひとつ回収せずに物語終わり?物語で嘘ばっか書いてるし。

 もうダメだ。オワタ。せめて俺を仙狐にしてから終わってくれよ。頼むよ」

「ケダモノさん。ケダモノさん。あとで自称主人公の女が殴りに行きますから大丈夫ですよ。安心して」

 凡俗三(小野少年)も腹を立てている。解呪もふたりの女たちとの関係の清算もしないまま終わられてはたまったものではないのだ。


 凡俗一「ところで、ケダモノってなに?」

 狐がジト目で見る。

 凡俗三「……(ハッ。しまった。)。名前も教えてくれないしお狐様呼ばわりを嫌うし。じゃあ適当に日頃から思っていたことをあだ名としてつけちゃえって。てへへ」

 凡俗一「……男にテヘぺロされてもウザいだけなんだよ。バーカ」


 我に返った凡俗五はマルグリットの身体にすがりつき泣いている。

「死んでは嫌だ。死んでは嫌だ。アンタが死んだら誰があの暴力女を制御するんだよ。怖い怖い怖い。暴力が怖い。殴っては治され殴っては治されの無限ループが怖い。あの女が怖い。ウワァーン」


 凡俗四もつぶやく。

「わしの出番まだー?」



 ―とある舞台裏―


 あまり聴きたくない肉体を痛めつける鈍い音の合間合間から若い女の怒声が切れ切れに漏れてくる。


「終わらせようなどという蛮行を働いたのは、話が広がりすぎて自分ではもう物語に手をつけられなくなったからだな。違うのか?情けない奴め!プロットを丁寧に練らないから物語が崩壊するんだろうが。諸先輩方があれほどネット上で注意してくださっているのに守れないとは、貴様の頭はザル以下だろう。エッ、なんだと。練ると凝り性だから複雑な構成になって読者を置いてけぼりにするのが怖かったって?タワケが。今でも十分すぎるほど読者を無視しておるだろが。愚か者め!」

 ズガッ

「リアルで萎えることを見聞してストレスを溜めただと。根性はどうした、根性は。貴様はコアラか飼いウサギか?」

 バスッ

「オマエ。前にわたしに黄金ルール破っても話を大会予選当日に進めるため登場人物多数で詰め込んで3回に巻くと言わせたろうが。だが、実際はどうだ。あれから5話もしているのにまだ大会予選2日前のまんまじゃないか。わたしに恥をかかせていてそのままで済むと思っているのか。アンポンタンめ。書き切ってから読者の皆様に謝って死ね!」

 ドガッ

 


 反省したかどうか定かでないが、作者がボロボロになりながらも再び筆を執ったのでこの謎の物語はまだまだ続く。


 ◆◇◆◇◆   ◆◇◆◇◆   ◆◇◆◇◆



 マルグリットは老尼の大喝を聞いた瞬間、意識を飛ばされた。

 まるで巡航ミサイルにでも乗せられたかのように広大な記憶の海をいくつも越えて幼いころの自分の記憶へと真っすぐに飛んでいく。

 まだ精霊になっていなかった頃。近所に住んでいたリリスと毎日遊んでいた日々。ああ懐かしい。本当に懐かしい……。

 

 


 

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